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永遠の謎

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494部分:第二十九話 人も羨む剣その十六


第二十九話 人も羨む剣その十六

「彼は。しかしそれはできなかった」
「それが為にもミュンヘンを最早」
「その通りだ。ワーグナーのことを悪く言い彼を追い出したあの町は」
「最早陛下の町ではないですね」
「そう思いつつある。そしてワーグナーは彼の劇場をミュンヘンには置かない」
 全てはワーグナーからだった。それが為にミュンヘンもだった。
「その町にはもうだ」
「いたくもないと」
「それはそのまま私のワーグナーへの想いでもある」
 自分でだ。このことを話すのだった。
「それが為か」
「そしてワーグナー氏もです」
 騎士は今度はワーグナーのことを話した。王の次は彼のことだった。
「あの方もです。決してです」
「私とは離れられないか」
「陛下あってのワーグナー氏です」
 彼という絶対のパトロンがいてこそだ。もっとも王はそのことについて特にこれといって言うことはない。己の権勢や財力を出すことは王の嫌うところだからだ。
 しかしだ。それ以上にだというのだ。ワーグナーは。
「あの方は陛下の理解者の一人ですから」
「そうであってくれる彼だからか」
「はい、ですから決して」
 それでだというのだ。
「あの方もまた離れません」
「御互いにそうだからこそか」
「離れることはありません」 
 そうだとだ。王に話していく騎士だった。
「そのことは御安心下さい」
「ワルキューレについても」
「そうです。むしろあの作品の初演を導かれることは芸術にとっての花の一つになりますので」
「だからいいのか」
「私個人としましても」
 端整な笑みでだ。騎士は述べてきた。
「陛下があの作品を上演されることを楽しみにしています」
「卿もあの作品を観たいのか」
「是非」
 まさにそうだというのだ。
「陛下と共に観たいです」
「そうか。そう言ってくれるか」
「そして。パルジファルまでの作品も」
「全てだな」
「共に観ましょう」
 またそうだとだ。騎士は話す。
「彼の全ての作品を」
「そうしていくか」
「私もまた」
「わかった。ではワルキューレはこのまま進める」
 上演させる。そうだというのだ。
「そして二人で観よう」
「ワーグナー氏の芸術はここでまた一つの大きな花を咲かせます」
「彼自身が望んでいなくてもだな」
「はい、そうなります」
 まさにそうなるというのだ。
「これは彼が望む、望まないに関わらずです」
「運命か」
「はい、運命です」
「私がそうさせる運命か」
「陛下の為されることは陛下だけのことではないのです」
 騎士の言葉はさらに神秘的なものになった。その神秘的なことをだ。
 騎士はさらにだ。こう述べた。
「為されることは全てこの世に多くのものを残されることなのです」
「私にはわからない」
 王にとっては自分の為にしていることなのだ。そうした意味で王は自己中心的である。しかしその自己中心的なものがだというのだ。
「それは」
「やがておわかりになります」
「やがてか」
「はい。陛下がその世界に来られる時にです」
「卿の世界にか」
 王は騎士の言葉を聞いてすぐにわかった。
 それでだ。こう言ったのだった。
「そこに来ればか」
「そうです。その時をお待ちしていますので」
「私の行く世界は天界なのだろうか」
「天界ではありません」
「では地獄か」
「そこでもありません」
 騎士はそのどちらの世界も否定する。そのうえでまずは地獄について話した。
 
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