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空の黒騎士

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第一章

               空の黒騎士
 ドイツ本土への爆撃を行っているアメリカ軍の爆撃体そして彼等を護る護衛戦闘機のパイロット及び搭乗員達の中である噂が流れていた、それは彼等にとっては聞き捨てならない噂だった。
「あのカール=ドライゼがこっちに来るのか?」
「東部戦線で二六〇機撃墜したっていう」
「あのエースがこっちに来るのか」
「ドイツ本土防衛の方に」
 彼等はそのカール=ドライセのことを知っていた、ドイツ軍とソ連軍が戦っている東部戦線において噂通り二百六十機を撃墜しているドイツ軍のエースの一人だ。
 その彼がドイツ本土防衛に回されたと聞いてだ、彼等は恐怖を覚えた。それでこう言うのだった。
「あいつがこっちに来て欲しくないな」
「撃墜されるのがこっちになるな」
「出来れば夜に回って欲しいな」
「夜間爆撃の迎撃にな」
 こちらに行って欲しいと言う者すらいた、夜間爆撃はイギリス軍の担当なのでアメリカ軍にとってはドライセがそちらに行くことを望んでの言葉だ。
 しかしだ、すぐにこうした意見が出た。
「あいつはフォッケウルフに乗っているからな」
「ああ、フォッケウルフか」
「あれは昼に戦うからな
「じゃあ俺達の方に来るか」
「アメリカ軍に」
「そうなるな、あいつの機体は黒く塗られているそうだからな」
 ドライセが乗るフォッケウルフはこのカラーリングだというのだ。
「だからな」
「黒いフォッケウルフを見たら弾幕張るか」
「集団でな」
 爆撃機乗り達はそうしようと考えた、彼等が乗っているB-17は多くの機銃で武装していて百機を超える数で編隊を組みその多くの機銃の斉射で自分達を守っているのだ。
 そしてだ、護衛の戦闘機のパイロット達P-47やP-51に乗る彼等もこう話した。
「一機や二機で向かう相手じゃないな」
「四機、小隊単位で向かうか」
「出来れば十機位でな」
「それ位で向かった方がいいな」
 彼等の利点である数で向かおうと考えた、そうしてだった。
 アメリカ軍の爆撃機や戦闘機に乗る者達はドライセのことを警戒しつつイギリスからドイツに爆撃と護衛に向かった。するとすぐにだった。
 迎撃に来たドイツ軍の戦闘機達の中に黒いフォッケウルフを確認した、既にレーダーで敵が来ることを確認していて彼等も警戒して戦闘用の編隊を組んでいたが。
 目で彼の機体を見てだ、すぐにだった。
 警戒を強めた、爆撃機達は出来るだけ密集し戦闘機は十六機編成の中隊を彼一機に向けようとした。その中で。
 彼等は戦闘に入った、アメリカ軍は数を活かして迎撃にあたったがそれでもだった。一機のB-17が彼の攻撃を受けた。
 幸い怪我をした者はいなかった、だが銃手の一人リチャード=ボンズは苦い顔で自分と同じ銃手のフランクリン=バーンに話した。
「おい、まずいぞ」
「エンジンが二つやられてか」
「自動消火装置もやられたぞ」
 こちらもというのだ。
「これじゃあな」
「後は墜ちるしかないか」
「そうなるぞ、これは」
 青い目と薄い眉の顔で灰色の大きな目と薄い唇の同僚に話した。
「もうな」
「どうすべきか」
「ああ、今は幸いフランス上空だ」
 ここで機長のルイ=フランクが言ってきた、三十過ぎで口髭がうっすらと生えている。
「それじゃあな」
「これからですか」
「胴体着陸に入りますか」
「幸い爆撃も済ませた」
 それで不時着の際爆発する心配も薄いからだというのだ。 
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