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永遠の謎

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457部分:第二十八話 逃れられない苦しみその一


第二十八話 逃れられない苦しみその一

              第二十八話  逃れられない苦しみ 
 ニュルンベルグのマイスタージンガー。その初演は。
 バイエルンで行われた。当然ながら王も観劇した。
 だがロイヤルボックスにいるのは。王だけだった。
 それを見てだ。周囲はまた眉を顰めさせて噂を囁くのだった。
「やはりなのだろうか」
「陛下はゾフィー様とはもう」
「結婚されないのか?」
「まさか」
 こうだ。婚礼のことを囁き合うのだった。
「しかしそんなことができるのだろうか」
「御婚礼はもう決まっているのだ」
「王には王妃が必要だ」
「それで御婚礼を破棄されるというのは」
「有り得ないのではないのか?」
 常識、この世のそれから話される。しかしだ。
 彼等はここでだ。王について話してだ。その常識を自分達から覆さざるを得なかった。
「だが陛下は」
「非常に浮世離れしておられる」
「それでは。それもだ」
「あるのではないのか」
「まさかとは思うが」
 このことがだ。まことしやかに囁かれだした。しかしだ。
 舞台を観ている王はだ。こう周囲に話すのだった。
「よい作品ですね」
「マイスタージンガーがですか」
「今の作品がですね」
「はい、いい作品です」 
 その言葉は満足しているものだった。
「今回は実在の詩人を扱っていますが」
「ハンス=ザックスですね」
「彼はワーグナーなのです」
 そうだというのだ。歌劇の中に出て来る彼がそうだというのだ。
「他ならぬ」
「ではあの方がですか」
「歌劇の中に出ておられる」
「御自身の作品の」
「はい、そうです」
 まさにその通りだというのだ。
「彼はドイツ芸術の偉大さを主張しているのです」
「我等の国ドイツの」
「その芸術をですか」
「高らかに謳っておられるのですか」
「そうです。彼はそれをこの作品で果たしているのです」
 こうだ。王は言うのである。
「そして既存の作品を打倒し」
「新しい芸術をですか」
「それを生み出そうともされているのですね」
「ワーグナーの音楽は何か」
 それは何なのかも。王はわかっていた。
 それでだ。こう言ったのだった。
「革命です」
「革命ですか」
「ドイツの芸術における」
「革命だというのですか」
「そう。世俗の革命には無駄な血が流れます」
 世俗の革命、フランス革命に代表されるそれの本質は何か。王は把握していた。
 それでだ。その革命についてはだ。王は顔を曇らせる。
 そのうえでだ。また話すのだった。
「フランスでは王がギロチンにかけられましたね」
「はい、ルイ十六世」
「あの方が首を刎ねられました」
「マリー=アントワネットも」
「革命は王を殺すものです」
 確かに言った。王がだ。
「清教徒革命でもですね」
「そうでしたね。イギリスのあの革命でも」
「王は殺されました」
「ではドイツでも革命が起これば」
「やはり」
「そうなってもおかしくはありません」
 その王だからだ。より一層だった。
 
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