戦国異伝供書
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第二十話 東の戦その三
「四国の方もでした」
「そちらもじゃな」
「はい、それがし土佐から出まして」
兵を率いてだ。
「三好殿達と共に一向一揆と戦いましたが」
「確かにでした」
「あの者達は鉄砲を多く持ち武具もよかったです」
「しかも具足もよかったです」
三好家の三人衆も信長に述べた、彼等も信長に降ってからは織田家の家臣として忠実に仕えて四国の方を主に任されているのだ。
「旗は闇の色でしたし」
「あれを思いますと」
「やはり普通ではありませんでした」
「無論戦の仕方は我等の方が上であったし竹千代もじゃ」
その家康もというのだ。
「一揆を鎮圧したがな」
「それでもですな」
「妙に武具のいい一向一揆でしたな」
「徳川殿の方も」
「左様でしたな」
「あれだけ鉄砲を多く持っている百姓がおるか」
信長はそこから言った。
「そうした者達がおるか」
「そのことですな」
「何でも倭寇と呼ばれる明や朝鮮を荒らしている海賊共は刀は強く鉄砲も持っているそうですが」
「しかしその倭寇もあそこまで持っているか」
「合わせて万は下りませんでした」
信長が倒した一向一揆の者達が持っていた鉄砲の数を合わせるとだ、普通にそこまでのものになっていたというのだ。
「当家ならともかくです」
「本願寺でもそこまで持てるか」
「そして顕如殿はご存知ない」
「あの方は本願寺のことを隅から隅までご承知ですが」
「そうして掌握されていますが」
「その顕如殿が」
そこまでの人物がというのだ。
「ご存知ない」
「何十万もの門徒達が織田家と激しく争い」
「しかも万もの鉄砲を持っていて他の武具もいい」
「しかも具足もいいとなると」
「そうしたことを一切ご承知ないなぞ」
「有り得ぬのう、伊勢長島でも近江でも紀伊でも越前や加賀でも苦労したが」
信長はこれまでの一向一揆達との戦も思い出して述べた。
「しかしな」
「それでもですな」
「顕如殿がご存知ないとなると」
「あの門徒達は何者か」
「わかりませぬな」
「門徒達だったのか」
こう言ったのは明智だった。
「今となっては」
「それすらもじゃな」
「はい、疑問です」
「わしもそう思っておる」
信長も明智に述べた。
「どうもな」
「門徒とはですな」
「思えぬ、しかもあの者達は念仏を唱えたか」
信長のこの言葉にだ、そこにいた家臣達は誰もがはっとなった。そうしてお互いに顔を見合わせて驚きの顔で言い合った。
「そういえばですな」
「うむ、あの者達は念仏は唱えておりません」
「誰一人として」
「灰色の旗の者達はともかく」
「闇の旗の門徒達は」
「一人も念仏を唱えていませんぞ」
「ただの一度も」
こう話すのだった。
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