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前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話

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すくもの

『この世の万物は全て元素という小さな粒からできている。
その粒の種類は100程であるが、それらの組み合わせによってその性質を変化させる。
例を一つあげるならば、木炭とディアマンタイトは同じ種類の元素で作られている物である』

「書き出しはこれでいいかな」

ベルは自分の部屋の机で羊皮紙に万年筆を走らせていた。

明日はリヴェリアが決めた休息日なのだ。

「えーと…つぎは…」

外は既に暗く、月明かりと魔石灯の灯りがベルの手元を照らす。

カリカリとペンを走らせる音だけが、部屋に響いていた。









そうして一夜が明けた。

「くぅ…くぅ…」

途中で力尽きたベルは、机で眠っている。

コンコン、とドアがノックされた。

「ベルー。メシだぞー。ベル?」

ドアを叩いたベートは、ベルからの返事が無いことを不審に思った。

「………入るぞ」

机に突っ伏したベルを見たベートは血相を変え、レベル6のスピードを以てして駆け寄った。

「ベル!…………寝てるだけ……だよな」

ベートはベルが眠っている事を確認して安堵した。

そしてベルの手元を見た。

「あぁん?」

『水を酸素と水素に分解した上で着火してはいけない。
量にもよるが、大爆発を起こす』

『酸と塩基は中和し塩と水を作る』

「なんだこれ…?」

ベートは一通り読んでみたがさっぱりだった。

「まぁ…いいか…」

ベートがベルの体を揺する。

「うみゅ………みゅぅ…?」

「ベル、起きたか?」

「ゅ? ベートさん?」

「メシだメシ」

「あー…。ごはん…」

ボーッとしていたベルが、フラフラと立ち上がって部屋を出ていく。

「大丈夫かアレ…?」










「ねぇ兎君。私の胸に飛び込んで来るなんてそういうアピールかな?」

「やめなさいってティオナ」

「ゅー………」

「案の定かよ…」

ベートがベルを追って見たのは、廊下でティオナに抱き付かれているベルだった。

ティオナの隣には困り顔のティオネ。

「おい。ティオナ。ベルを離してやれ」

「えー…兎君が自分から抱きついて着たんだよ。ねぇ?」

「ゅー………?」

「ほら、兎君もそう言ってる」

「絶対違うだろうが」

「ほらー。ベートは先に食堂行っときなよー。
私は兎君と少し運動してからイクからさぁ」

「ベルの貞操に興味はないが、まぁ、死ぬなよティオナ」

「え? なんで?」

ベートがヒュリテ姉妹の後ろを指差す。

「警告はしたぞバカゾネス」

「あ、なーるほど。ベートってば兎君を取られて妬いてるんだぁ~。
ふふん。いいでしょー。私はこれから兎君としっぽりスルんだから!」

「ほう? 何をするんだ?」

「なにってそりゃもちろんナニよ」

ティオナが親指を人差し指と中指の間に入れ、卑猥なサインを作る。

「「「「…………………………」」」」

「ゅ?」

「「!?」」

ヒュリテ姉妹がハッと振り向く。

「私のベルと、一体ナニをスルって?」

そこには鬼の表情を浮かべたリヴェリアが立っていた。

「ベート、ティオネ、ベルを食堂に連れていけ。
ティオナ。ちょっとこっちに来い」

ティオネは妹からベルを奪い取り、ベートと一緒に食堂へ駆け込んだ。

ティオナがいったいどうなったかは…語る必要はあるまい。









ひみゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

「ふぇ!?」

黄昏の館に響き渡ったティオナの悲鳴で、ベルの意識は覚醒した。

「…………ぅゆ? 食堂?」

ベルがキョロキョロと左右を見渡すと食堂で、目の前にはプレートが置かれている。

「なんだ、やっと起きたのか」

「あれ? ベートさん、なんで僕食堂に居るんですか?」

こてん、とベルが首を傾げる。

「お前の部屋に起こしに行ったら寝ぼけたままここまで歩いて来たんだよ」

「そうなんですか?」

「そうよ」

ベートの反対側、ベルの左から肯定の声が聞こえた。

「あ、おはようですティオネさん……あれ?ティオナさんは?」

「ああ、気にするなベル」

とベートが言った。

「でもいつもティオネさんと一緒に…」

「「気にするな」」

「あっはい」

と、そこでベルの正面にアイズが座る。

「おはよう、ベル」

「おはようございますアイズさん」

ベルは口元をかくし、欠伸をする。

「ベル、眠いの?」

「はい…昨日は遅くまでリヴェリアさんに渡すテキストを書いていたので…」

「テキスト? リヴェリアの宿題?」

アイズの問への返答は否だった。

「いえ、リヴェリアさんが読むテキストです。僕の前世の知識を書いてる物です」

「ふぅーん………まるでリヴェリアが生徒みたいね」

「リヴェリアさんが冗談めかして言ってましたよ」

「へぇ…リヴェリアがねぇ…」

とティオネが一人ごちる。

「私がどうかしたか?」

「あー、リヴェリアさんおはようございます」

「おはようベル」

リヴェリアに頭をわしゃわしゃと撫でられるとベルは気持ち良さそうに目を細めた。

「んゆぅ♪」

リヴェリアがベルの髪を手櫛で透く。

「ベル、食事が終わったら私の部屋に来い」

「はい、わかりました」









ベルがリヴェリアの部屋のドアをノックすると、直ぐに部屋の主が出迎えた。

「よし。ではそこの鏡の前に座ってくれ」

ベルは言われた通り、鏡の前の椅子に座った。

「背面鏡……そうか鏡はあるのか……」

ベルの目の前の鏡は棚に備え付けられており、楕円形をしている。

その周囲は装飾こそ無いが錆一つない銀色の縁でおおわれていた。

「なにするんですか?」

「少しお前の髪を整えようかとな。ああ、切る訳じゃないんだ。少し結び方を教えようと思ってな」

リヴェリアは棚に置いていた櫛を取り、スッスッ…とベルの髪をすき始めた。

「キレイな髪だな」

「お爺ちゃんが髪は男の命でもあるって言ってました。
手入れを教えてくれたのもお爺ちゃんなんです」

「ふふ…お前のお爺様はさぞモテたことだろうな」

「はい。周一で知らない女の人が来てましたよ」

「………………」

「リヴェリアさん?」

「いや、なんでもないぞ」

「?」

会話をしながら、リヴェリアは手際よくベルの髪をリボンで結んだ。

「どうだ?」

ベルの長い髪は青いリボンで結ばれ、ポニーテールになっていた。

「へー…これがポニーテールですか……」

「結んだ事は無いのか?」

「中途半端なサイドテールになるのであまり…」

「そうか…」

「それに散らしとかないと重いんですよ」

「切らないのか?」

「ずっと伸ばしてたので今さら切る気にもなれないんです」

ベルの髪は腰ほどまであり、白いマントを羽織っているようにも見える。

「それに、この髪型はお爺ちゃんが似合ってるって言ってくれた物ですから…」

「っ…すまない」

「あ、いえ…大丈夫です」

唐突に、リヴェリアがベルを後ろからだきしめた。

「ベル、寂しくはないか?」

「大丈夫ですもう『慣れました』から」

「っ…」

リヴェリアがその美しい顔を歪める。

「ベル、寂しいならば私やアイズに甘えていいんだぞ?」

「大丈夫です。問題ありません」

ベルとしては、女性に甘えられる事はあっても甘えてはいけないと考えていた。

『強い』男に、なるのだと。

「そうか、なら甘えなくていい。私達が、勝手に構うだけだ」

リヴェリアの指がベルの頤を撫でた。

「んぅっ……くすぐったいですリヴェリアさん」

「少し大人しくしていろ」

その後、ベルはネコのように弄られ続けた。











ぷに…ぷに…

「んぅ……」

ふに…ふに…

「んゅぅ……」

リヴェリアは部屋のベッドにベルを寝かせ、頬をつついて遊んでいた。

ふと、リヴェリアが自分の指先を見つめる。

「不思議だ…何の嫌悪感も感じない」

エルフは基本的に潔癖症だ。

他者に触れる事すら躊躇う。

だというのに…

「これが魔弾の王か……。恐ろしい、本当に恐ろしいスキルだ。
ベル一人を巡って戦争が起きかねん…」

「んぅ…………」

「守らないと………な……」

 
 

 
後書き
タイトルを漢字で書くと『好く者』となります。 
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