ダグラス君
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第九章
「それで来たが」
「どうでしょうか」
「面白いな」
「そうですよね、今大人気ですよ」
「イベントでもか」
「そうなんです、可愛いって」
「私が可愛いか」
そう聞いてだ、銅像は思わず微妙な顔になってしまった。
「そう言われたこともな」
「ないですか」
「記憶にない」
それこそとだ、彼は勝手に言った。
「それなりに長く生きたつもりだが」
「そういえば二次大戦の時も」
「本来なら退役していた」
そうした年齢だったというのだ。
「軍人としては相当に高齢だった」
「そうでしたね」
「その長い人生の中でだ」
まさにというのだ。
「私はな」
「可愛いと言われたことはですね」
「なかった、ただしだ」
ここでこうも言う銅像だった。
「恰好いいと言われたことはな」
「そこで生前の自慢ですか」
「そう思ってくれていい」
傲岸不遜と言われているその性格を見せての言葉だった。
「私のな」
「じゃあそう思わせて頂きますね」
勝手も銅像の性格は把握しているのでこう返した。
「その様に」
「ではな、しかしな」
「可愛いとはですね」
「本当に言われたことはなかった」
その長い人生の中でというのだ。
「一度もな、だからここでこう言われることはな」
「心外でしたか」
「まことにな、日本人のセンスは凄いな」
「というか貴方随分日本人の研究してましたね」
「そうだった」
「戦争してましたからね」
「敵のことは徹底的に研究するものだ」
銅像は真面目に話した。
「それで日本人の研究をしたが」
「それでもそう言われます?」
「私が研究したのは当時の日本人だからな」
「今の日本人じゃないですか」
「当時ゆるキャラなぞなかった」
銅像が戦った当時の日本にはというのだ。
「こうした発想もな」
「まあ時代によって文化も変わりますしね」
「そのことを実感している」
正真正銘にという返事だった。
「そして私自身がこうなるか」
「考えてみれば凄いですね」
「全くだ、だが面白い」
銅像はまた余裕を見せた、それも心の中から。
「これからもこうしてだ」
「ゆるキャラはですか」
「使ってくれ、私自身楽しませてもらう」
「それ基地司令とキャラ考えた人に言うともっと感動しますよ」
「そうか、では言っておこう」
銅像は咥えているパイプに手を当てて述べた、このゆるキャラは厚木の象徴にさえなって基地に来訪する日本人達の人気者であり続けている。銅像本人もこのことを楽しんで今も見続けているという。
ダグラス君 完
2018・11・26
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