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永遠の謎

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435部分:第二十七話 愛を呪うその五


第二十七話 愛を呪うその五

「あの方は今も次第に昼に倦まれておられている」
「だからですか」
「それが機になり」
「そうして」
「ご婚姻の破綻がさらに」
「決定付ける。それを止められる者はバイエルンにはいない」
 このこともまただった。
「ワーグナー氏は醜聞を生み出す立場でしかもだ」
「はい、最近はです」
「どうも関係に支障が出ているようです」
「色々と」
 このことはベルリンにまで届いていた。既に。
「ビューロー夫人のこともですが」
「歌劇場を置く場所、それに歌手のことで」
「御二人は衝突されておられるようです」
「どうやら」
「その様だな」
 このこともだ。ビスマルクは聞いていた。
 それでだ。こう言うのだった。
「あの方は芸術家なのだから」
「芸術家は妥協しない」
「そうだというのですね」
「そうだ。あの方もまた芸術家だから」
 だからだ。その芸術に対してだというのだ。
「ワーグナー氏が相手でも引かない」
「しかしそれは」
「あの方をまたしても」
「だからまずいのだ」
 王の側に立ちだ。ビスマルクは考え言っていた。
「ワーグナー氏はあの方を理解しているが止められはしない」
「むしろ助長してしまう」
「そうなのですね」
「そうだ」
 ワーグナーはだ。そうなってしまうというのだ。
「だからバイエルンにはいないのだ」
「唯一の理解者がかえって傷つけてしまう」
「それがバイエルンですか」
「私は残念に思う」
 心から思いだ。ビスマルクは言った。
「あの方の理解者があの国にいないことを」
「しかし宰相はです」
「あの方を理解しておられます」
「ですから」
「無論できることはする」
 このことはだ。確かに言えた。
 だが、だ。確約できるのはだった。
 彼もここまででだ。それで言ったのだった。
「しかし私はバイエルンにはいない」
「あの方を最後まではですか」
「御護りできませんか」
「それが無念だ」
 残念だとは言わずにだ。今度はこう言うのである。
「あの方はドイツの宝だというのに」
「しかしその方を最後まではですか」
「御護りできないからですか」
「あの方を理解することは難しい」
 それはだ。殆んどの者がだった。
 しかしその理解できる僅かな者の一人であるビスマルクは。
 苦い声でだ。ベルリンにいてだった。
「何もできない」
「そうですね。どうしても」
「それは」
「そうだ。理解できる者がいないからこそだ」
「せめて一人でもですね」
「あの国にいれば」
「バイエルンに」
 王は救われるかも知れないのだった。しかしだった。
 それがどうしてもならないままだ。今は。
 婚礼も破綻に向かいだ。そのうえでだ。
 王は孤独の中に陥ろうとしていた。その彼にだ。
 かろうじてホルニヒだけが傍にいてだ。王に尋ねるのだった。
 
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