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永遠の謎

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429部分:第二十六話 このうえもない信頼その二十二


第二十六話 このうえもない信頼その二十二

 そのこともだ。ナポレオン三世も知っていてだ。それで話すのだった。
「朕自身もじゃ」
「ドイツにですか」
「隙があればですね」
「介入を考えておられましたか」
「左様でしたか」
「あくまで時と場合に応じてじゃが」
 それでもだ。考えていたことは。
「考えておった」
「しかしそれは適わないことですね」
「今のプロイセンには」
「左様ですか」
「そうだ。強い」
 またこのことを言うのだった。
「フランスでは適わないまでにだ」
「しかし戦争は避けられない」
「最早ですね」
「そして敗北もだ」
 ナポレオン三世にはだ。そのことはわかっていた。
 だがそれでもだった。彼は皇帝である。
 その誇りとしてだ。彼は話した。
「だが。最後の最後で避けるべきものはだ」
「それですね」
「それは」
「犠牲を多くすることだ」
 それだった。避けるべきものというのは。
「最低限に抑えたい」
「皇帝としてですね」
「この国の」
「私とてわかっているつもりだ」
 これまでの策士、権力主義者としての顔はなかった。
 彼は今国家元首としてだ。純粋に言うのである。
「国家元首として為さねばならないことはだ」
「敗れるならばその血を少しでも抑える」
「流れる血をですね」
「それを」
「そうだ。それを少しでも抑える為に」
 まさにだ。その為にだった。
「私はフランスの為に最後の仕事をしよう」
「何か。残念な仕事ですね」
「敗戦の処理ですか」
「それが陛下の最後の仕事ですか」
「フランス皇帝としての」
「私としても不本意だ」
 彼もそのことは否定しなかった。憮然とした顔でだ。
 そのうえでだ。こう周囲に話す。
「だが。やらなければならない」
「フランス皇帝としてですね」
「それはどうしても」
「私にしかできないことだ」
 国家元首であるからだ。それが何よりもそう決めていることだった。
「戦争を早期に終わらせることはな」
「では戦いがはじまりです」
「すぐにでもですね」
「フランスはすぐに敗れ続ける」
 最初からだ。そうなるというのだ。
「タイミングも大事だ」
「開戦してすぐに停戦はできませんね」
「それは」
 これは言わずもがなだった。はじまりすぐに結果がわかるか。ましてや一発の銃弾を放っていないのに。そんな筈がないことだった。
 だからだ。状況が大事だというのだ。
「ある程度敗れてからですね」
「停戦になる」
「そうなりますね」
「そうだ。犠牲はだ」
 それはだ。どうしても避けられなかった。
 それもわかっているからだ。ナポレオン三世の顔は苦い。
 その苦い顔でだ。王はさらに話す。
「しかし。最低限で抑えなければならない」
「どうしてもですね」
「血は少しでも少ないに限る」
「だからこそ」
「朕は少なくともだ」
 自分はどうかと。こう話す。
 
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