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世界に痛みを(嘘) ー修正中ー

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生贄の祭壇

 剣呑と化したルフィ達の目の前に独特的な挨拶を行う集団が姿を現した。
 精練されたポーズを行い、集団のリーダと思しき男性が此方に歩を進める。

「お取り組み中、失礼。私はホワイトベレーの部隊隊長、マッキンリーと申します」
『へそ!』

 マッキンリーの部下達が独特的な挨拶と共に敬礼を行う。

「へそ。ホワイトベレーの皆さん、業務お疲れ様です」

 コニスさんも笑顔で挨拶を行う。
 ルフィ達も戦闘態勢をとき、ナミ達の下へ向かう。
 アキトも宙より大地へと降り立ち、ナミとビビの傍でホワイトベレーと向かい合った。

「本日、この場へと足を運んだのは他でもありません。つい先程、空島へと新たな青海人の入国があったと聞き、この場へと出向いた次第です」

 ホワイトベレーの意図が理解出来ないルフィ達は怪訝な顔を浮かべる。
 コニスさん達も同様だ。

「早速、本題に入ります。昨今、青海人達の不法入国が幾度も起きていることはご存知で?」
「ええ、まあ……」

 それが何の関係が、と言わんばかりにコニスさんは首を傾げる。

「つまり、貴方達の傍にいる青海人達の素性の精査の為にこの場に赴いた次第です」

 マッキンリーの視線が此方を射抜く。
 思い返せば入国の手続きの場に居合わせたのは婆さん一人であった。
 それを考慮した上での正式な入国検査であるのかと、アキトは考える。

 目の前ではマッキンリーが写真を手に持ち、作業に取り掛かっていた。



「うむ、"映像貝(ビジョンダイアル)"による写真と一致していますね。失礼、どうやら此方の取り越し苦労だったようだ」
「まあ、あれだけ入国の検査がザルだったら仕方ねぇよ」

 サンジの意見に全面同意する。

「ご理解いただきありがとうございます。それでは我々はこれで」

 敬礼を行い、彼らは颯爽とこの場から去っていく。
 帰り際に密かにコニスさんに耳打ちを行って……

「……」

 アキトはそんな彼を訝しげに見ていた。
 何か良からぬ不安を胸に抱いて……







 その予感は的中する。

「全能なる神は全てを見ているのです。神に背き、掟を破った者は罰せられます」

 パガヤさんが弱々し気な様子で項垂れ、懺悔するが如く顔を掌で覆う。
 "スカイピア"に存在する神の存在、掟を破った者は例外なく裁きにかけられる。

 これが意味することは──



 刑が執行された。



「……ッ!?ナミちゃんにビビちゃん、何で……!?」
「どうした、サンジ!?」

 望遠鏡にてメリー号を遠視していたサンジが悲嘆の声を上げ、涙を流す。


「何で水着じゃないのォォオオ……!」
「手前ェはもう黙れ!」

 ウソップのツッコミが炸裂した瞬間、アキトが脇目を振ることなくテラスから飛び出した。
 宙を踏み締め、大気を突き抜け、"超特急エビ"に連れ去られるメリー号へと突貫する。

 此方に向かうアキトの姿をチョッパー達が歓喜の叫びを上げる。

 メリー号を追従する形で大型の空魚達が口を開け、追撃している。
 船からの脱出も封じ、"生贄"を確実に"生贄の祭壇"へと誘う寸法、実に用意周到な事だ。

 刹那の思考を終えたアキトが眼下を見下ろし、拳を握り締め、能力を発動させる。
 力強く握りしめた拳に重点的に能力を発動させ、一点に斥力の力を集束させる。

 そして純粋に眼下の空魚へと突き出す。
 ただそれだけ
 


 アキトの研鑽された正拳突きと能力が重なり、集束された衝撃波という名の空拳が生じる。
 その視認不可能な空拳は瞬く間に空魚達を軒並み殲滅させた。

 歓喜の余り抱き付いてくるチョッパーをアキトは抱え、メリー号へと降り立つ。

「空魚達はこれで殲滅されたわ!次はメリー号を何とか止めないと!」
「いや、無理だな。この速度で進むメリー号を止めてしまった場合、メリー号は放り出されてしまう」
「それにメリー号を抱えている生物の両腕が船に食い込み、穴が開いているわね」

 空魚達の殲滅、その奮闘虚しくメリー号は"生贄の祭壇"へと誘われていった。
 それはルフィ達の空島での新たな冒険の始まりを意味していた。







▽▲▽▲







 生贄の祭壇

 罪人達を裁断し、神の供物として奉納する祭壇
 裁断にはメリー号が静かに鎮座している。

「……特に無いんですか?」

 悲惨な過去など特に存在しない。
 両親が赤子の時に蒸発したとか、孤島に置き去りにされたとか、育ての親を海賊に殺されたとか、そういった残酷な過去を背負っているわけではない。

「本当に無いんですか?」

 ビビが再度アキトに尋ねる。

うん、特に何もない

「いや、"うん"?ア、アキトさん……?」
「アキト……?何か口調変じゃないか?」

 チョッパーがアキトの口調の変化に戸惑いの声を上げる。
 生贄の祭壇にて暇を持て余していたビビはアキトの過去について尋ねていた。
 
 だが、ビビの方が余程過酷な人生を歩んでいることは間違いない。
 一国の王女として国を背負い、敵の組織に侵入する、誰もが出来ることではない。
 祖国を一心に愛し、愛する母国の為にに献身するビビを心より尊敬する。
 そんなビビのことを自分はとても素晴らしい女性だと思っている。

 アキトは自身の本心を言葉を飾ることなくビビに伝える。
 自分は少しばかり絶海の孤島で寂しかった程度の過去なのだから、余り詮索はして欲しくはない。

「あ、ありがとうございます……」

 何だかビビの様子がおかしい。
 寝そべった姿勢ではビビの顔を見ることは出来ないが、照れているのだろうか。
 此方から顔を背け、両手を頬に当てている。

「……それでアキトは何故、寝転がっているのかしら?」
「いや、何と言うか……」

 ナミの迫力に少し圧されながらも、アキトはメリー号の甲板の上に寝転がる。
 身体を大の字に広げ、完全にリラックスした状態だ。

「「「……?」」」
 
 アラバスタ王国でのクロコダイルとの騒動も終わり、空島にも無事到着



端的に言うと疲れた



 今のアキトを支配するのは達成感と気の緩み
 その様は普段のアキトから大きく乖離し、声にも覇気が全くと言って無かった。



「生贄の祭壇より外に出ていくのも正直面倒だし、もう怠けても良いかなって……」

 呆然と空を見上げ、アキトは甲板と一体化しそうな勢いで全身の力を抜いていく。

「「「……」」」

 ゾロとロビンの2人は既に生贄の祭壇より外に脱出している。
 ナミも外に出ていく予定であったが、ビビがメリー号に残ると言った途端、ナミもこの場に残ることを決めていた。

「別にナミがメリー号に残る必要はないぞ?」
「いえ、私がいなければ危ないわ」
「戦力的には大丈夫だと思うが……」
「そういう意味じゃないわよ……!」

 それではどういう意味であろうか。
 依然として謎である。
 


「おい、貴様ら一体いつまでこの俺を無視しているつもりだ?」

 そんな和気あいあいとしたと様子のメリー号の上空から響く声
 空島(スカイピア)に君臨する四神官の一人、シュラが巨大な鳥に跨り此方を見下ろしていた。 

「チョッパー、頼んだ」
「俺……!?」
「お医者さんの出番だ(神の神官、(ゴッド)、犠牲、犠牲無くして人は生きれない、試練、つまりそれは……?)」
「それは……?」
「(間違いなく精神的な疾患を抱えている)」
「うェ……!?(それは本当か!?)」
「ああ、間違いない(何というか聞いていてかなり辛い)」
「俺が救ってやらないと……(精神的な疾患ってことか……)」

 普段のアキトらしからぬふざけた物言いだが正直、人の身でありながら"神"だの、"神官"だのと宣う輩は見ていて気持ちの良いものではない。
 即刻、その口を物理的に潰したくなってくる。

「おい、貴様ら誰が精神疾患者だ」

 小声で話しているにも関わらず、此方の会話を聞き取る聴力、間違いなく覇気に近しい力を持っている。
 アキトはだらけ切った態度でも油断はしない。

「決めたぞ、小僧。先ずは舐め腐った態度の貴様から犠牲という名の下、断罪してやる」


いや、そういう断罪の押し売りは間に合ってます


「アキトが戦わなくて誰が戦うのよ……!」
「いや、此処はチョッパーで……」
「無理無理!」

 青ざめたチョッパーの涙ながらの懇願
 貯まるシュラのフラストレーション


まあ、別に少しばかりならば相手をしてやっても構わんよ?


「いや、どの姿勢で言っているんですか、アキトさん……」

 今なお甲板上でやる気が皆無の状態のアキトの態度にビビが呆れた様子を見せる。
 一向にアキトはその場から動く気配はない。

「直ぐにその場に立ち上がれ、小僧」
「あの、ちょっと待ってくれないか?アキトは少しばかり怪我しているんだ」
「私も手伝うわ、チョッパー君」
「……」

 チョッパーの指示に従い、ビビがアキトの額の血痕を拭き取っていく。
 シュラは前代未聞の生贄達の態度に怒りを隠せない。

「……おい、まだか?」
「もう少しだ」

 ナミも手伝いアキトの上半身の血痕を拭き取る。

「終わったか?」
「まだよ、少しは待つことを覚えたらどうなの?」

 ナミの呆れながらの叱責
 アキトが傍にいる余裕か、ナミの飾らない口撃がシュラに炸裂した。

「せっかちな男は嫌われるわよ」

 シュラはアキトを殺した後はこの女を殺すことを決める。

「よしこれで治療は完了だ」
「此処は何とかお願い、アキト……!」
「お願いします、アキトさん……!」

 闘志皆無のアキトを全員で立ち上がらせ、ナミ達はシュラと対面する。
 アキトは相変わらず酷く面倒で仕方ないとばかりの態度でシュラを見据えていた。

「ここまでふざけた態度の生贄は初めてだ。"神官"として貴様を此処で……」
「そういう話は至極どうでもいいから、かかってこい」

 宙に浮かび上がり、アキトは相手にするのも面倒な様子で挑発を行う。
 右腕を前に突き出し、シュラを手招きをしていた。

 所詮は断罪という名の一方的な処刑
 "神"という絶対者に逆らう反逆者を断罪し、排除するシステム


 議論を交わす余地もない。


「あァ、腹立たしき愚か者への怒りの求道思い知れ!!」

 遂にシュラの怒りが頂点に達し、アキトへと突貫する。



「"紐の試練"!!!」

 生存率3%『紐の試練』
 
 神官の試練がアキトに牙をむいた。







▽▲▽▲







 時は加速する。

 執行される神の裁断
 生贄の祭壇へと誘われたナミ達


 良心の呵責に苛まれ、国民の義務を放棄したコニス
 泣き崩れ、ルフィ達に謝り、逃げる様に叫ぶ。

「馬鹿野郎が……!」
「義務だったんだろ?仕方のないことだったんだろうが!」
「こんな会って間もない俺達よりも自分の命を優先しろよ!」

 空から落雷が降り注ぎ、天の裁きが執行される。
 大地を抉り、住民達を吹き飛ばす。


 過去、空島にて神として君臨していたガン・フォールによりコニスは救済される。
 コニスは九死に一生を得る。

「早く帰ってきてください、神様……!」


 時を同じくして生贄の祭壇にて一人の神官が刑を執行しようとしていた。
 チョッパーが誤って吹いたホイッスルを聞き、ガン・フォールは空へと飛翔していく。







▽▲▽▲







「貴様には俺様の試練を馳走してやる、小僧!」

 シュラが宙に佇むアキトに突貫し、手に持つ炎槍を振りかざす。
 アキトは焦ることなくその炎槍を右手で掴み取り、シュラを投げ飛ばした。
 見ればアキトの右腕が燃え上がり、服の袖が焼失している。

 三丈鳥であるフザが翼を羽ばたかせ、主人の下へと向かう。
 それと同時に口を大きく開け、アキトに向け炎を吐き出した。 


炎を吐き出す鳥……?


 危うげなく回避したアキトの背後に佇む大樹が燃え上がる。
 途轍もない火力で大樹を燃え上がらせていく。

 炎を吐き出す鳥
 どういう原理か知らないが、面白い。

 アキトは手首の炎を能力で弾き飛ばし、シュラへと再び相対する。
 大気が震え、宙を駆け抜け、両者が激突した。

 炎槍を素手で弾き、時には炎槍を回避する。
 フザの火炎放射を弾き、時にメリー号をその放火範囲から守り切る。



「この槍には"炎貝(フレイムダイアル)"が仕込まれている」

 突き刺さった炎槍から大樹が燃え上がる。



「多種多様な性能を持つ(ダイアル)、貴様ら青海人には珍しい代物だろう」

 炎鳥フザがメリー号に向け、放たれた炎を掻き消す。


「例えば、炎を吐く鳥を生み出すことも可能だ!」

 明かされる火の鳥フザの全貌



「俺は貴様らを排除し、"神官"としての役目を全うする!」

 全ては邪魔者を排除するため、生贄を断罪する。


「そのためにはやはり俺自らが貴様らを殺すことが手っ取り早いようだな!」

 フザの放った炎がアキトの傍を通り過ぎ、空へと消えていく。

 幾度の攻防の末、アキトが大樹の幹に降り立った。
 能力で大樹の幹に大地と並行する形で身体を固定し、シュラを見据える。

 対するシュラは息を切らしながらも炎鳥フザに跨り、何処か余裕を感じさせる笑みを浮かべている。
 まるで何かを待っているかのように







「この期に及んで"生贄"とやらがそこまで大事か?」

 心底理解出来ないとばかりにアキトは問いを投げ掛ける。


「全能なる神、"(ゴッド)・エネル"は全てを視ている!」


「それらには全て崇高なる目的が存在している!」


「貴様らの命を"(ゴッド)"に差し出せ!!!」

 主人であるシュラの叫びに応え、フザが業火を放出する。
 攻撃範囲、威力、先程までとは一線を画す火力だ。

 アキトは大樹の幹を踏み砕き、粉砕された大樹の欠片を能力と共に蹴り飛ばす。
 凄まじい速度で飛んだ木片が視界を覆いつくす程の炎と衝突した。



 大気が振動し、衝撃波が辺り一帯に吹き荒れる。
 大樹が揺れ、神の島(アッパーヤード)全土にその衝撃が響き渡った。
 メリー号が大きく揺れ、生贄の祭壇自体を振動させる。



 生存率3%『紐の試練』

 刻一刻とアキトの身体を極細の雲糸が絡めとっていく。
 ガン・フォールがこの場に駆け付けるまで後残り僅か
 
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