レーヴァティン
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第八十話 繁栄の中でその二
「ここは宿を決めてだ」
「そして、でござるな」
「それから手分けをしてだ」
「この街での情報収集を行う」
「そうする」
こう智に話した。
「いいな」
「わかったでござる、では」
「まずは宿を決めよう」
江戸での拠点となるそこをというのだ、こう話してだった。
一行は日本橋という場所のすぐ近くに宿を見付けてそこに入ってからだった、二人か三人ずつに分かれてだった。
情報収集にあたった、その途中にだ。
英雄は蕎麦屋に入りざるそばを食いつつ共にいる峰夫に言った。二人で組んでそうして情報収集にあたっているのだ。
「江戸の侠客にだな」
「強い女がいると聞いていますが」
峰夫もざるそばを食べている、二人共おろし大根の汁に醤油を入れたそれのつよには関西のものとは違うと思いつつもそこに漬けて食べている。
少しつけて喉越しで噛まずに飲む、周りのその食い方は真似せずに結構つけてから噛んでいる、そうしつつ食って言うのだった。
「その女がでありますな」
「おそらくそうだな」
「外の世界から来たとも聞いているであります」
「ならだ」
それならとだ、英雄はさらに言った。
「その女がだ」
「十一人目でありますな」
「ほぼ間違いなくな」
「では」
「女は銀座にいるという」
そちらの方にというのだ。
「ならこの足でだ」
「今からでありますな」
「蕎麦を食ってからな」
まさにそれからというのだ。
「行くぞ」
「わかったであります」
「そうする、しかしな」
「それでもでありますか」
「一つ思うことがある」
「若しかして」
「この蕎麦のことだ」
今食べているそれのこともだ、英雄は言うのだった。
「コシと風味はいいがな」
「それに薬味も」
葱と山葵、この二つがある。
「いいでありますな」
「そうだな、しかしな」
それでもとだ、蕎麦を噛みその味も味わいつつ言うのだった。
「このつゆがな」
「おろし大根の汁と醤油のこれは」
「どうもな」
「関西のそばつゆと違うであります」
「そうだ、全く違う」
まさにというのだ。
「食ってみてわかる」
「それもよく」
「つゆが全く違うとな」
「ここまで違うでありますか」
「関西のものとな」
「あの」
峰夫も蕎麦を噛みつつ自分の向かい側に座る英雄に言った。
「周りの通りにであります」
「少しつけてか」
つゆ、それにだ。
「そしてか」
「はい、そうして」
そのうえでというのだ。
「噛まずにです」
「飲む、か」
「そうして食べるものでは」
「蕎麦は噛まずに飲む」
即ち喉越しで味わうということだ。
「聞いてはいたがな」
「江戸の食い方であります」
「実際にしているとはな」
「東京でそうしてお蕎麦を食べたことは」
「なかった」
一度もという返事だった。
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