八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百八十三話 カナダという国その六
「かなりのレベルじゃないと」
「推薦してもらえないでしょうね」
「難しいでしょうね」
「残念ですが」
「早百合は大丈夫でしょ」
裕子さんは早百合さんのピアノの技量にかなりのものを見ているのが今の言葉でわかった、早百合さんを認めていることが。
「ウィーンに行けるでしょ」
「いえ、私なんてとても」
「そこまでの実力ないっていうの」
「はい」
その通りという返事だった。
「そこまでは」
「けれど自信はあるでしょ」
「ウィ―ンですから」
音楽の最高峰の街だからというのだ、音楽の都とさえ言われている。
「留学出来るまでには」
「ないの」
「はい、どうしても」
「私は大丈夫だと思うけれど。そもそもね」
「そもそも?」
「日本のクラシックレベル低い?」
裕子さんは早百合さんにかなり真剣に問うた、先程よりも真剣だった。
「そう思う?」
「いえ、それは」
「かなりレベル上がったわよね」
「私もそう思います」
「声楽だってピアノだってね」
「他の楽器も。そしてオーケストラも」
つまりクラシック全般がというのだ。
「かなりのレベルになっています」
「聴く人のレベルなんか相当よね」
「欧州にも負けていません」
「それじゃあよ」
「ウィーンにもですね」
「行くのが狭き門とか」
そういうことはというのだ。
「ないでしょ」
「それを言われると貴女も」
「自信がないのはっていうの」
「そうなるかと」
「私は駄目よ」
裕子さんは早百合さんの問いに即座に返した。
「絶対にね」
「そうですか」
「ええ、そんなね」
とてもという返事だった。
「ないわよ」
「そうですか」
「とてもね、イタリアでもね」
「普通の学校にですか」
「留学させてもらったら」
随分と自信のないことがわかる返事だった。
「嬉しい位よ」
「謙遜だと思いますが」
「謙遜じゃないわよ、正当な評価よ」
自分自身へのそれだというのだ。
「紛れもなくね」
「そうですか」
「だからね」
「ウィーンは」
「そう、夢よ」
裕子さんにとってはというのだ。
「あそこへの留学はね、けれどね」
「その夢はですね」
「最初の夢でね」
「そこから先がありますね」
「声で生きていきたいわね」
声楽でというのだ。
「これをお仕事にしたいわ」
「では歌手に」
「なれたらいいけれどなれなかったら」
その場合のこともだ、裕子さんは話した。
「先生になりたいわ」
「音楽の先生ですか」
「そちらにね」
「そうですか」
「早百合もでしょ」
「ピアニストになりたいですが」
「それで生計を立てられないとしたら」
「先生になって」
そうしてというのだ。
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