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永遠の謎

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4部分:前奏曲その四


前奏曲その四

「だがそれ以上のものをだ。あの方は残されるような気がする」
「おいおい、まだ生まれられたばかりなのにかい」
「何もされていないというのにか」
「そうだ、感じる」
 これははっきりと言うのであった。
「あの方はだ。必ず何かをされる」
「ううん、そうなのか」
「そうした運命なのか」
 この時ワーグナーはまだ広く認められるところまではいっていなかった。彼の音楽はその斬新さ故に認められないことも多かった。彼はまだ借金に追われるしがない人物だった。
 しかしだ。ワーグナーは確かに言ったのであった。この王孫には運命があるとだ。
 そしてである。やがて彼に弟が生まれた。
 名前はオットーと名付けられた。彼の誕生もまたバイエルンの祝福に包まれた。
 このことをだ。中年の男も喜んだ。
 彼もまた王族だった。名前をルイトポルドという。太子の二番目の弟である。温和な表情をしておりそのうえでだ。こう甥に対して話すのだった。
「ルートヴィヒ、おめでとう」
「おじさん、僕に弟が生まれたんですね」
「うん、そうだよ」
 その穏やかな顔で彼に話したのだった。
「おめでとう、卿は兄になったんだ」
「はい、有り難うございます」
 まだ子供でありならわしにより少女のドレスを着させられている。だがその顔立ちは幼いながらも非常に整った。男性的なものがある。
 その顔でだ。叔父に対して答えるのだった。62
「僕はこれからオットーと共に」
「生きていくというんだね」
「そうあるべきですね」
「そう、その通りだ」
 自分を見上げる甥の顔を優しく見続けている。
「そうするんだ、絶対に」
「わかりました」
「このヴィテルスバッハの者の務めは」
 ここでこんなことも話す彼だった。
「愛することだ」
「愛することですか」
「そう、愛することだ」
 それだとだ。甥に話すのである。
「それが務めなのだ」
「愛することがですね」
「臣民を、バイエルンを」
 まずはこの二つだった。
「そして。かけがえのない相手をだ」
「かけがえのない相手」
「それはやがてわかる」
 今はあえて言わないことにしたのだ。まだ幼い甥にはわからないだろうと思ってダ。そしてそれはその通りであった。
「だがその相手を知り見つけた時は」
「その時は」
「愛することだ」
 そうせよというのだった。
「いいな、愛することだ」
「何があってもでしょうか」
「勿論。その通りだ」
 あえて言葉をだ。強く告げたのだ。
「愛することだ」
「そしてそれがですか」
「ヴィテルスバッハ家の者の務めだ」
 そうであるとだ。話すのだった。
「わかってくれるか」
「わかりました」
 甥は叔父にこう返した。そしてだった。叔父にこうも言うのだった。
「そして叔父上」
「うん」
「私は叔父上とずっと共にいていいでしょうか」
 こう言ってきたのであった。
「叔父上と共に」
「私とか」
「はい、叔父上は私のことが好きですね」
「勿論だ」
 心からの言葉だった。彼にとっては甥である。それで肉親としての愛情を持たない筈がなかった。それでこう答えたのであった。
 
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