魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第6章:束の間の期間
第180話「魅了の封印」
前書き
魅了を無効化する回。
ようやく優輝の出番が復活……。
=out side=
「……う……っ……」
アースラの一室で、神夜が目を覚ます。
「ここは……どこかの部屋か?」
体に走る痛みに堪えながら、神夜は部屋を見渡す。
「くっ……!くそ、拘束か……!」
そんな神夜を、動けないように鎖などが体に巻き付いている。
帝が用意した、拘束系の宝具だ。
「(簡単には、抜け出せない……!)」
完全に手が使えないように拘束されているため、神夜の持つ“騎士は徒手にて死せず”を使う事もできないようになっている。
そして、持ち前の力でもその拘束を破る事は出来ない。
神夜は、完全に無力化されていた。
「確か、俺は……」
すぐに抜け出すのは不可能だと判断した神夜は、とりあえずどうしてこんな状態になっているのかと、自身の記憶を辿る。
「そうだ……!俺は、あの騎士に……!」
サーラにやられた事を思い出し、すぐさま手持ちの物を確認できる範囲で確認する。
「(っ……アロンダイトがない……!)」
そして、アロンダイトが手元にないことに気づく。
「(くそっ!とにかく、念話で誰かに……!)」
このままでは身動きが取れない。
そのために、神夜は念話で誰かに助けてもらおうと考える。
『よう、目が覚めたみたいだな?』
「っ!?『お前……!』」
だが、一足先に帝から念話が届けられる。
神夜を拘束している宝具の他に、サーチャーによって監視もされていたのだ。
そのため、目が覚めた事がすぐさま帝に伝わり、念話が掛かってきた。
これには、神夜が魅了が解けた人に念話をして、変に話がこじれるのを避けるための帝による配慮だった。
「『俺のアロンダイトはどこだ!?』」
『それなら俺が預かっている。……と言っても、暴れたお前に返すのはダメだとクロノも言っていたから返さないがな』
アロンダイトを返すつもりはないと、帝はきっぱりと言う。
もちろん、神夜がそんな程度の言葉で納得するはずもなく……。
「『ふざけるな!俺から奪っておきながら……!』」
いいから返せとばかりに、神夜は吠える。
だが、帝は取り合わない。
『第一、アロンダイトはお前を拒絶した。返した所でお前に応える事はない』
「『っ……!そうだ、あの騎士は……あの騎士はどうした!?』」
『答える必要はない。……というか、俺も知らん』
神夜にとって、まるで訳が分からなかった。
信じたくない真実を突き付けられ、愛機であったはずのアロンダイトに拒絶される。
明らかに人間不信になりそうなほど、神夜からしてみれば裏切られたのだ。
『いいから落ち着いて頭でも冷やしとけ。錯乱するのは分かるが、いつまでもそうしてられるとまともに会話もできねぇだろうが』
「『っ………』」
帝のその言葉に、神夜は言葉を詰まらせる。
わかっていた……と言うよりは、その言葉で自覚させられたからだ。
「俺……は……」
『……確かめたい事があるから、じっとしとけ。着いたら拘束を外してやるから、ちゃんと大人しくしろよ?』
帝はそう念を入れて、念話を切った。
残された神夜は、帝が来るまで信じたくなかった真実と向き合う事となった。
「………」
ふと、静かに優輝は目を覚ます。
起き上がり、辺りを見回す。
「お、起きたか」
「父さん。……母さんは……寝たんだ」
「まぁ、ずっと様子を見ていたからな」
ベッドの傍で優香が眠っており、光輝は椅子に座って本を読んでいた。
優輝が眠っている間、優香はずっと見守っていた事もあって、途中で眠っていた。
光輝はそんな優香を支えるように時折交代したり、食堂から食事を持ってきていた。
「食欲はあるか?」
「一応は。空腹にもなってる」
「そうか。それなら、そこにあるお粥でも食っておけ。魔法で保温状態にしておいたから、まだ暖かいはずだ」
「ありがとう、父さん」
ベッドのすぐ横の棚の上に、お粥が置かれていた。
優香が優輝のために作ったもので、まだ魔法の効果で暖かった。
「ご馳走様」
「……もう、大丈夫そうだな」
「うん。ありがとう。傍にいててくれて」
「気にすんな。お前に家の事とかずっと任せっきりだったからな」
お粥を食べ終わり、優輝は感謝の言葉を述べる。
光輝は照れ笑いをしながら、少々乱暴に優輝の頭を撫でた。
「……もう行くのか?」
「多分、司や奏に心配をかけたから。起きた事を伝えておかないとね」
「……まぁ、そうだな。母さんには俺から伝えておく」
「任せたよ父さん」
優輝はそのまま部屋を出ていく。
残された光輝は、本を机に置いて優輝が寝ている間の事を思い出す。
「転生……神……それに、感情を代償、か……確かに、そうだな……」
それは、優輝のデバイスであるリヒトから聞いた内容。
まだ光輝が知らない優輝の事情と、ある推察。
光輝は、それらを聞いて一考する必要があると思わざるを得なかった。
―――マスターは、私から見ても“異常”です。
―――人智を超えた“何か”があるかもしれません。
「……優輝には、何か秘密がある……」
異常な程に、無茶をしてもそこから回復をする。
リヒト曰く、それは導王時代から続いているとのことだった。
王としての才は大してないのにも関わらず、発展と維持を続ける事が困難だったのにも関わらず、優輝……ムートは王として在り続けていた。
そして、今も。どんな絶体絶命な状況でも諦めず、挽回した。
……それは、よく考えなくとも“異常”なのだ。
「……いつまでも、目を逸らしてばかりではいられないな」
溜息を吐いて、光輝はそう呟いた。
親として、優輝の特異性には何となく気づいていた。
それでも、気にするほどではないと、直面しないようにしていたのだ。
だが、それももう出来ないと、事情を聞いた光輝は思った。
「優輝。お前は何があろうと、俺たちの息子である事は変わらん。……だから、お前も自分の秘密と向き合った時、自分を見失わないでほしい」
それは、親としての願い。
子を心配する親の、至極当然の想いだった。
「……お?」
「あっ」
廊下を優輝が歩いていく途中、帝と出会う。
帝の方には、同じく手が空いたのか、司と奏もいた。
「優輝さん……!?」
「優輝君、もう出歩いて大丈夫なの!?」
すぐさま司と奏が心配して駆け寄ってくる。
「ああ。ゆっくり休んだからもう大丈夫だ。心配を掛けたみたいだな」
「そりゃあ、目の前で倒られたんだ。心配するだろうよ」
「それもそうだな」
帝の言葉に納得するように優輝は頷く。
「(……やっぱり……)」
その際、言葉に抑揚があるように聞こえたが、司達はそれが演技だとすぐに分かった。
「(まぁ、そんな簡単に戻る訳ないよね)」
心の中で、司は落胆した。
だが、それを優輝に見せる訳もなく、いつも通りを装う。
「三人はどこへ?」
「ちょっとあいつ……織崎の様子を見にな。って、お前は俺たちが何をやってたか知らなかったな。あー、司、奏、任せた」
「まぁ、言い出しっぺは私達だからね。えっと、実は優輝君が倒れた後―――」
一緒に歩きながら、司と奏で優輝が倒れた後の話を簡単に説明する。
そして、今は神夜の様子を見に行こうとしている事も伝える。
「……それなら、僕は行かない方がいいんじゃ?」
「そこは私達が何とかするよ」
自分がいたら神夜と会話もままならないだろうと優輝は考える。
神夜は優輝が元凶だと思い込んでいる事もあって、そう考えるのも無理はない。
「起きた所わりぃが、お前の意見も聞いておきたいんだ。そのためにも、あいつとの会話に参加してくれると助かる」
「情報の照らし合わせもやっておきたいからね」
「それなら……まぁ……」
帝、司がついてきてほしい旨を伝え、それならと優輝もついて行く事にする。
「起きたばかりで悪いね、優輝君」
「……いや、構わないよ」
軽いやり取りを経て、四人で神夜のいるところへと向かう。
「そんじゃ、いきなりだが……転生する時、相手はどんな神だったんだ?」
「本当にいきなりだな。女神の姉妹だが?」
「俺と同じか……」
「あぁ、あの二人が言ってたのはお前だったのか」
早速帝は転生させた神について聞き、優輝はそれに答えた。
結果として帝と同じだったため、大した情報にはならなかったが、それでも今まで微妙になかった繋がりが繋がった。
「うげ、あの二人が俺の事言ってたのか……うわぁ、そういやあの時は調子乗ってたからなぁ……今となっちゃ黒歴史だ……」
「それを聞くって事は……あぁ、魅了の力を与えた神、か」
「相変わらず理解が早いな」
「さっき説明を聞いたばかりだからな」
そう言って、優輝は少しばかり考え込む。
魅了の力を与えた神について、少し憶測を並べようとしたのだ。
「……織崎を転生させた神は聞いたか?」
「いや……一応、今から聞きに行くが……」
「あいつを転生させたのも、僕らと同じ女神姉妹だ。そして、あいつの魅了に掛かっていた」
「なっ!?」
転生する際の記憶から、神夜を転生させたのも同じ女神姉妹だと優輝は言う。
そして、続けられた内容に帝は驚愕した。
「神にも通用すんのか!?あの魅了は!?」
「神にも……と言うよりは、何かしらの対策がなければ絶対に通じると考えるべきだろう。実際、対策や耐性を持っている司やリインには通用していない」
「奏ちゃんや椿ちゃん達も私や優輝君の魔法で防いでるもんね」
対処法があれば防げるが、なければ絶対に通用してしまう。
それが、神夜の持つ魅了の効果だった。
「って事は、あの姉妹は耐性がなかったのか……それ、神としてどうなんだ?」
「まぁ、神としては失態だな。さすがに他の神もいるだろうから、既に対処はされているだろうし、今はそこまで気にする必要はないだろう」
「……それもそうか」
奏の話から既に他にも神がいる事が分かっている。
その事から、女神姉妹については気にする事はないと優輝は断言した。
「よし、ここだ。入るぞ」
「優輝君がいて大人しくしてくれるといいんだけど……」
神夜のいる部屋に着き、帝その扉を開ける。
部屋の中では、神夜が拘束された状態で入って来た帝の方を見ていた。
「とりあえず、拘束は外すぞ」
そう言って帝は拘束系の宝具を消し、神夜を解放する。
「………」
「……完全に意気消沈してるな」
「こちらとしては都合がいいんだけどね」
しばらく考える時間があった分、神夜はこれまでの事を振り返っていた。
突き付けられた真実を事実として受け入れるとまでは行かないものの、それがまるっきり嘘ではない事は理解したため、こうして意気消沈していた。
「……さて、いつもみたいにこいつを敵視する程気力がない所悪いが……」
「確認したい事、答えてもらうよ」
そんな様子の神夜を少し気の毒そうにする帝だが、すぐに用事を済ませる事にする。
「確認したい事……?そういや、言っていたな……」
「ああ。……お前は、転生する時、女神姉妹の前に誰かにあったか?もしくは、生前に奇妙な出会いや出来事はなかったか?」
「……どういうことだ……?」
「魅了の力を与えた存在。……私達は、それを警戒しているわ」
とりあえず神夜は記憶を探る。
……しかし、思い当たる節はないようで……。
「……ない、はずだ」
「……収穫なしか。……確認するが、生前から他の人より女性に親しまれていた事はないよな?それなら生まれつきの異能の可能性が……」
「……それもない。女友達なんて数える程しかいなかった」
“魅了”の力。
散々指摘されてきたソレを、さすがに神夜も自覚した。
そのため、前世と色々と違う事が浮き彫りになった。
前世では“魅了”の力はなかった事がわかるのも、それの一つだ。
「女友達はいたのか……じゃなくて、つまり“魅了”については心当たりがないんだな?まぁ、自覚してなかった事から大体予測済みだが」
「……ああ。そうだ……未だに、信じたくないけどな……!」
若干羨ましいと思った思考を振り払いつつ、念を入れて確認する。
神夜はまだ信じたくないようだが、それを肯定する。
「……となると、本当にいつの間にか押し付けられたって事だね……」
「っ……おい、しつこいようだけど、本当に何の心当たりもないよな?……些細な事でもいい、何かないのか?」
「ッ……ないって言ってるだろ!」
帝が詰め寄ってさらに問い質そうとする。
しかし、さすがにしつこいようで神夜は拒絶の意を示した。
「俺は知らない……!こんな力があった事も、誰かに与えられたかどうかも、俺は知らない……!知らないんだ……!」
「……嘘は言ってない。織崎は本当に何も知らないみたいだ」
〈これだけ精神を追い詰められていれば、嘘をつく余裕などありませんからね。私も優輝様と同意見です。視線、呼吸、表情。その他の要素を取っても嘘ではありません〉
「お前嘘も見破れるのかよ……まぁ今はいいや」
頭を抱えて喚く神夜。
その神夜の言葉は嘘ではないと、優輝とエアが断言する。
「チッ……ガチで手駒として利用されているだけか……」
「さすがにすぐ正体がわかるとは思ってなかったけど……収穫なしだね……」
「いや、こいつも被害者とわかっただけマシだ。やってしまった事は取り返せないし、罪も償わなきゃならん。だが、これ以上こいつが優輝に対して突っかかる事もなくなるだろう」
“魅了”の力自体はまだなくなっていない。
だが、神夜が自覚した今なら、これ以上の被害者は減るだろう。
「……どういう、事なんだ……?」
「簡潔に言えば、お前は神に匹敵する“何か”に利用されている。その“魅了”の力を押し付けてな。転生する際に会った女神もいるだろ?そいつらもその力で魅了されていた」
「は……?」
「思い込みの強い偽善的な思考。それがちょうどよかったんだろうね。見事なまでに道化として踊ってくれた。……利用した存在にとっては、そう思われているだろうね」
どういう事なのか尋ねた神夜に、帝と司が答える。
当然のように信じられない内容に、神夜は困惑する。
「なん、だよ……それ……」
「……分からないから、聞きに来たのよ。少しでも情報を増やすために。……でも、あまり知らなかったみたいね」
「情報は期待してなかったけどな。確かめたい事が分かればそれでよかった」
そう言って、用は済んだとばかりに詰め寄っていた分の距離を離す帝。
「……利用されていたから、せめて忠告はしとく。……気をつけろ。お前を利用した存在は、また何かしてくる」
「ッ……!」
それだけ言って、帝は部屋を出ようとする。
司、奏、優輝もこれ以上言う事はないため、それに続いて出ようとする。
「ま、待ってくれ!」
そこへ、神夜が待ったを掛ける。
帝は足を止め、一応話に耳を傾けようと振り向く。
「……この“魅了”の力は、どうにか出来ないのか……?」
自覚したからこそ、どうにかしたい。
神夜はそう考え、何かできないか尋ねた。
「……俺が特典で願ったニコポ・ナデポと違って、その力は封印する方法がわからん。俺のは同じ特典の一つであるエアがいたおかげで、法則性が分かったからこそできた封印だ。……その力は、どんな存在が、どんな力で押し付けたのかわからない」
「防ぐのしか、私達もできないからね……。封印は分からないよ」
「そう……か……」
封印して完全に無効化する事が出来ない。
その事実に神夜は落ち込む。
「……でも、それはお前が協力的じゃなかったからだ。今なら、お前さえ協力してくれれば封印する事も可能かもしれない」
「え……?」
だが、そこへ優輝が声を掛けた。
「そうなのか?」
「ああ。椿が作ったお守りと、魂に干渉した事で掴んだ感覚。その二つのデータから、力の法則を分析。それに加え、お前から発せられる魅了の力を直接分析すれば、対処法が分かる。……防御が可能ならば、封印くらいは可能だろう」
帝の聞き返しに、優輝は方法を含めて答える。
「でも、それって椿ちゃんがいないと……」
「神降しと憑依。この二つのおかげで漠然とだけど僕にもわかるようになっている。……後は直接調べればそれで充分だ」
「……凄いわ……」
奏があっさりと対策できると断言した優輝を見て感心する。
優輝としても、ここで対処できるならしたかったのだろう。
「……尤も、保証は出来ない。帝も言った通り、その力を押し付けた存在は未知だ。……僕らの封印では封じれない可能性もある。それでもいいか?」
「……封印できる可能性があるなら、やらない選択肢はない」
「わかった。起きたばかりだが……まぁ、魔力も回復しているから大丈夫だろう」
神夜はまだ優輝を信用しきっていない。
だが、それを上回る程に、魅了を何とかしたいと思っていた。
だから、優輝に封印が出来るか試してもらう事にした。
「………」
「………」
優輝は神夜の頭に触れ、解析魔法を試みる。
頭に触れたのは、魅了の効果が目線を合わせた際に発動していたため、目や脳に近い場所から解析しようと思ったからだ。
「……なんだ、あっけないな」
「ど、どうだったの……?」
「ごり押しの封印でどうとでもなる。その場合は何かの弾みで封印が破られるかもしれないが、それが出来るぐらいの代物だ」
「……大した事がないのかそうでないのかわからねぇな……」
「例えるなら、抵抗力は暴走したジュエルシードよりも弱い」
「それは……簡単だね。でも、なんか……」
大したものではないと、優輝は言う。
だが、曖昧な言い方をした事に司は引っかかったようだ。
〈能力の封印は大きく分けて二種類あります。袋で丸ごと覆うような封印か、能力の要所を確実に止めて機能させなくする封印です。ごり押しで手っ取り早いのは前者ですね。ちなみに、マスターの能力は後者です〉
「後者の方が破られにくいが、そっちとなると少し厳しいものがある」
「そうなの?」
「……感覚としては、以前のあの男や、パンドラの箱のようなものだ。未知の感覚があって全容が掴みづらい」
端的に言えば、それは確実な封印は難しいという事。
それを理解した司達は、どうしようかと少し思案顔になる。
「とりあえずは、通常の封印を掛けておく。これで少なくとも戦闘や、何かしらの干渉を受けない限りは大丈夫だろう」
「確実に止める事は出来ないのか?」
「今この場でやるのは難しいな。僕も万全ではないし、魔力も足りない」
「そうか……」
“確実ではない”。その事に神夜は落胆する。
それでも、応急措置としての封印は出来るため、そこまで落ち込んでいなかった。
「………よし、これで大丈夫だろう。リヒト、シャル。今回の解析をデータとして残せるか?」
〈未知の法則性を持っていますから、そのまま記録するのは難しいかもしれません〉
「構わない。それでもわかる事はあるだろうしな」
〈分かりました。出来る限り解析しやすいようにいくつかの側面から記録します〉
封印を終わらせた優輝は、リヒトとシャルに解析結果を記録させる。
魔法や霊術などとは法則性が違うモノなため、写真を撮るかのようにいくつかの側面から書き写すかのように記録する。
「ひとまずはこれで凌ぐ。後の問題は自分でどうにかするんだな」
「後の問題……」
「魅了されていた人達や、未だに魅了されたままの人達の事だね」
「あ………」
こればかりは司達にはどうしようもない。
神夜が誠心誠意向き合わなければならないことだ。
「でも、俺は……!」
「自分からやってた訳ではなかった。……というのは、言い訳に過ぎないよ。実際に魅了されていた人たちのほとんどが心を傷つけられている」
「憎悪の対象にもなっているわよ」
「っ……!」
“自分のせいじゃない”。そう主張しようとする神夜。
しかし、司と奏がそれを遮るように事実を突きつける。
「……でも、飽くまで“ほとんど”だよ。はやてちゃんとか、ちゃんと話すことで分かってくれる人もいる。……って、慰めにもならないね」
「どの道、きちんと向き合わなければならないわ。覚悟しておいて」
そういって、司と奏は用が済んだために退室する。
優輝もこれ以上は特にやることがないため、退室した。
「……なぁ、織崎」
「………」
残った帝は、項垂れている神夜に声をかける。
「今までの関係が、自分の無自覚で歪められた事……ってのは、到底信じられないだろうし、後悔してもしきれない事だとは思う。傍から見ている俺ですらそう思うんだから、当人であるお前はそれ以上だろう」
「………」
帝の言葉を、まるで聞き流すように、項垂れたまま聞く神夜。
その様子を気にせず、帝は言葉を紡ぎ続ける。
「……俺には理解できない程、複雑な思いがお前ん中にあるだろう。多分、人間不信になるほど、追い詰められてるとも思う」
「…………」
未だに沈黙し続ける神夜に、帝は近づく。
項垂れ、俯く神夜の頭を掴み、帝は目線を合わせる。
「色々思う事があるだろ?そのぶつけどころがなくて困ってんだろ?……だったら、その鬱憤はお前に力を押し付けた元凶にぶつけてやれ。ごちゃごちゃ悩むぐらいなら単純にそう思っておけ。そうすりゃ、少しはマシになんだろ」
「王、牙……」
変に悩むぐらいなら、それらの悩み事の元凶にぶつけろ。
そういって、帝は遠回しに神夜を励ます。
「お前だって被害者だ。誠意見せて謝れば、分かってくれる奴だっている。……まぁ、その際に色々詫びなきゃならんだろうが、そこは頑張れ」
「……そう、だな……」
「後は……“これ”だと思って何でも決めつけるのはやめとけ。ちゃんと視野を広く持って、決めつける前に一度考え直せ。そうすりゃ、お前次第で何とかなる」
それだけ言って、帝も退室した。
「……っ……」
励まされた神夜は、静かに嗚咽を漏らした。
これまでの反省と、これからの決意を固めながら……。
「……らしくねぇ事言ったな」
〈そうですね〉
退室した帝は、ついそう呟いた。
エアも即答するかのように肯定する。
「ああやって塞ぎ込むのなんて俺は見たくねぇんだよ」
〈貴方にそんな殊勝な心があるとは〉
帝にとっては、まるで前世の自分を見ているようで。
自分とは出来事の規模が違うとはいえ、塞ぎ込むのは見ていられなかった。
「俺を何だと思っているんだお前は……」
〈思春期のヘタレ男子〉
「ひでぇ!?つーかなんでそのチョイス!?」
〈優奈様とのやり取りを思い出してください〉
「うぐぅ……言い返せねぇ……」
エアと軽口を交わしつつ、優輝たちと合流する。
なお、会話を少し聞かれていたようで、司や奏に若干からかわれていた。
後書き
次回からようやく展開を動かせそうです……。
魅了関連に結構話数を使った事に結構驚いています……。
予定では第6章は第2章以下の話数にする予定なのに……。
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