戦国異伝供書
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第十七話 大返しの苦労その五
「あの黄金の髑髏は」
「左道なのは間違いないのう」
「誰がどの様な左道を使ったか」
「わからぬな」
「それがわかりませぬ」
「面妖なことじゃ、猿夜叉も浅井家の家臣達も気付かなかった」
久政が左道で操られていたことにだ。
「わしもあの様なものは見たことがない」
「さて、供養にああしたことはしても」
仏門の徒である雪斎も言ってきた。
「しかしです」
「ああした呪術はじゃな」
「相当に邪だとは思いまするが」
「お主も知らぬか」
「はい、申し訳ありませぬが」
「謝ることはない、とかくじゃ」
あの黄金の髑髏はと言うのだった。
「邪に過ぎる。それはわかるからな」
「そのことは」
「何かしら碌でもない者が動いておった」
「そのことは間違いありませぬな」
「天下を統一したら探すか」
「あの術を使った者達を」
「そうして成敗する、左道で世を惑わすなら」
それならばと言うのだった。
「許せぬからな」
「では」
「探そう、しかしじゃ」
「今はですな」
「天下布武の為にじゃ」
まさに今はというのだ。
「戦おうぞ」
「わかり申した」
「その様にな」
こう言うのだった。
信長は実際に備前に軍勢を進めても宇喜多直家は何もしなかった、それどころか宇喜多はというと。
信長達を歓待するが茶等を勧める等これまでの彼のことを知る者が警戒する様なことは一切しなかった、それを見てだ。
織田家の者達はまさにと言ってだ、こう言ったのだった。
「最初からか」
「自分が警戒されていることがわかってか」
「怪しまれることはせぬか」
「最初から」
「しかもですな」
ここで明智が言ってきた。
「殿に何度も備前一国の安堵をです」
「言っておるが」
丹羽がその明智に応えて述べた。
「あれはな」
「はい、怪しまれぬ様な」
「そうした処世か」
「あれはおそらく秦の始皇帝のです」
まさにというのだ。
「王翦です」
「始皇帝が秦王だった時の将だったな」
「はい、あの者はやたらを功への褒美を秦王だった頃の始皇帝に確認してです」
「謀反の心がない様に言っておったな」
「実際に王翦にそのつもりはありませんでした」
「しかし秦王は疑いの心が強かったという」
「そのことをわかっていたので」
王翦にしてもだ。
「それで自らの安全の為にです」
「王にいつも言っていたな」
「出陣している間は」
「そういうことでしょう」
宇喜多が信長に備前の安堵をしきりに頼んでいることはというのだ。
「そしてそれは実はです」
「実は?」
「実はというと」
「どうだというのじゃ」
「はい、それがし達に言っておるのでしょう」
信長に言っているがその実はというのだ。
「あの御仁は」
「ううむ、となると」
「我等が疑っておるからか」
「あ奴のこれまでのことから」
「謀反、殿を害するのではと」
「そう思っておることをわかってか」
「そうなのでしょう、早速ご子息を殿に差し出されましたし」
嫡子である秀家をだ、まだ若いがその彼を人質に差し出したのだ。
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