| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

永遠の謎

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

338部分:第二十二話 その日の訪れその九


第二十二話 その日の訪れその九

「エルザ姫は結ばれなかった」
「あの方もでしょうか」
「そうなるのではないのか」
 ワーグナーの心に危惧が宿る。
「そんな気がしてきたのだ」
「考え過ぎではないでしょうか」
 コジマは少し考える顔になってからだ。ワーグナー、今では実質的におっとになっている彼に対してだ。こう述べた。彼女はそこまで気付いてはいなかった。
「流石にそれは」
「そうであればいいのだがな」
「確かにあの方は無垢な方です」
 コジマはこのことは指摘した。
「まるでパルジファルの様に」
「パルジファルか」
「あの方はそうでもありますね」
「そうだな。パルジファルだな」
 ワーグナーもその言葉には頷いた。王の無垢を見てだ。
「あの方はそうでもある」
「王であられますし」
 パルジファルが聖杯城の主、王だからだ。それで話すのだった。
「ですから」
「そうだな。そういえばだ」
「そういえば?」
「あの城はこの世の城ではない」
 またこの話になった。
「人の立ち寄れぬ清らかな世界にある城だ」
「その城の主であられるのですね」
「この世はあの方がおられるには穢れ過ぎているのか」
「あの方の無垢には」
「私とてだ」
 自分のことも話すワーグナーだった。自覚しているのだ。
「穢れている」
「この世にあるものは全て」
「あの方がおられるにはあまりにも穢れている」
 穢れていないものはない。この世にはあらゆるものがあるからだ。しかしその穢れこそがだというのだ。王にとってはだというのだ。
「あの方は穢れを嫌われる」
「この世で最もですね」
「それから目を逸らし逃れられようとする」
「逃れられるのでしょうか」
「逃れられはしない」
 無理だと。ワーグナーは断言した。
「この世に常にあるものだからだ」
「穢れは」
「それでどうして逃れられるか」
 王のことを考えだ。ワーグナーは眉を曇らせる。
 そうしてだった。彼は話していく。
「決して逃れられないのだ」
「何があろうともですね」
「あの方はまさにあの城の主なのだ」
 聖杯城のだというのだ。
「女性の心を持ちながら」
「女性の」
「パルジファルは男だ」
 このことは紛れもない。その者は男だ。
 しかしだ。ワーグナーは同時にこうも話した。
「だが愛により先の王アムフォルタスを救う」
「それができるのは」
「女性だ。愛は女性的なものによって救済されるものになるからだ」
「ではあの方は」
「女性だからこそ。あの城の主になれるのだ」
 そうした意味でもだというのだ。
「パルジファルにだ」
「女性だからですか」
「そうだ。女性だからだ」
 身体は男性でもなのだ。心はだった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧