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永遠の謎

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322部分:第二十一話 これが恐れその十二


第二十一話 これが恐れその十二

「我が姪はよい娘です。それなのに愛されない」
「あの、ですが陛下はです」
「愛していると仰っていますが」
「歌劇場でもです」
 その歌劇場でロイヤルボックスで共にいたことについても話が為される。
「共におられましたし」
「歌劇を共に楽しんでおられました」
「それでもなのですか」
「陛下はゾフィー様を愛しておられない」
「そうだと仰るのですか」
「あの方は」
 我が子であるだ。王はどうかというのだ。
「この世にいる人を愛せないのかも知れません」
「まさか。そんなことはありません」
「あの方もこの世におられるのです」
「それでどうしてこの世にいる方を愛せないのですか」
「そんな筈がありません」
「あの方が愛されているのは」
 それはだというのだ。王が愛しているその対象は。
「おそらく歌劇の中にいます」
「歌劇ですか」
「その中にだというのですか」
「いつもあの騎士のことを考えておられるのでは」
 太后もまた言った。
「まさかと思いますが」
「あの騎士といいますと」
「タクシス殿ではないのですか」
「そしてホルニヒ殿でもないですね」
「あの方々とは」
「違います。おそらく」
 太后ははっきりとはわからない。しかしおおよそで話すのだった。
「白銀の騎士です」
「あのですか」
「ワーグナー氏の」
「陛下はいつもあの歌劇のことを話されています」
 そうした意味でローエングリン、その歌劇はまさに王の意中の作品であった。十六歳の時に観てからだ。王は魅了され続けているのだ。
「ですから」
「あの騎士だというのですか」
「歌劇の中の騎士だと」
「そう思えるのです」
 王のことを考えながら話す。
「どうにもですが」
「そういえばあの方は本当にですね」
「あの歌劇のことをよくお話されます」
「ワーグナー氏の音楽は常にですが」
「その中でも」
「幼い頃にあの騎士を御覧になられ」
 絵画である。王は既にそれで彼に会っていた。そしてそこからだったのだ。
「十六であの歌劇を御覧になられてです」
「そこからですか」
「ああなられたのですか」
「そう。心を奪われ」
 そしてだというのだ。
「王になられて最初に仰ったことは覚えていますね」
「ワーグナー氏をミュンヘンに呼ぶ」
「そう仰いました」
 そして実際にワーグナーをミュンヘンにまで呼んだ。王にとってはそれがまずしなければならないことだったのだ。彼を救う騎士として。
「まさかワーグナー氏にでしょうか」
「あの方は想いを」
「それはないでしょう」
 太后はそれはないとした。
「陛下が好まれるのは騎士ですから」
「美しく整った青年ですね」
「そうした方ですね」
「はい、ワーグナー氏は初老です」
 同性愛の王でもだ。好みはあるというのだ。
 
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