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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第6章:束の間の期間
  第178話「魅了の傷跡」

 
前書き
魅了に気づく事なく、しかし心を歪められたままか、魅了が解かれ、それまで歪められていた感情を自覚するのと、どっちの方がつらいのか……。
当人からすれば、気づいていない方が精神的に楽ですが、周りから見れば仮初の感情に踊らされている事になりますしね……。
 

 





       =司side=





 魅了を解いた人たちがいた部屋に辿り着く。
 すると、早速騒ぎ声が聞こえてきた。

「放して!人の心を弄んだのよ!こんなの許されないわ!」

「だからって、ほっとけないですよ!そんな暴走したように先走っても良いことなんてないんですから!」

「っ……!」

 神夜君の所へ行こうとする女性局員の人たちと、それを止めるアリシアちゃんたち。
 それを遠巻きに眺めるように、傷心を癒しているフェイトちゃんたち。
 そんな光景がそこにはあった。

「くそっ……!邪魔すんな!」

「お、落ち着いて……!」

「ああもう!力強いわね!」

 暴走しているのは神夜君によく関わっていた局員と、血の気が多めな人達。
 ヴィータちゃんもその一人で、アリサちゃんとすずかちゃんが必死に止めていた。
 なのはちゃんも他の人達を止めているけど、突破されかけていた。

「あ!司!お願い止めて!」

「ま、魔力も霊力もそんな余裕ないんだけど……」

「私が……!」

「私も協力するわよ」

 アリシアちゃんが私たちに気づき、止めるように言ってくる。
 でも、私は魔法も霊術も使う余裕がないため、直接止めるしかない。
 代わりに奏ちゃんと鈴さんが霊術で止めるのに協力してくれた。

「俺は―――」

 帝君も続けてバインドを使おうとしたけど……。

「っ―――!」

「ッ!?……いや、俺は席を外した方が良さそうだ……」

 何人もの視線が帝君へと集中する。
 それも、若干殺意や憎悪が混じったものだった。
 帝君はそれに晒され、すぐさま席を外した。

「(今のは……どういうこと?)」

 でも、同時に疑問が浮かんだ。
 なぜ、帝君が睨まれたのかという、疑問が。

『司、どうやら魅了の傷跡は大きいらしい。多分だが、同じ男子ってだけで俺も憎悪の対象になっているんだろう』

「『なるほど……じゃあ、帝君はどうするの?』」

『仕方ないから、俺は少しでも人手不足解消のためにクロノの方を手伝ってくる。織崎を拘束している宝具を解除する必要があるなら念話で言ってくれ』

「『了解』」

 その疑問は視線を向けられた帝君が念話で伝えてくれた。
 この場にいるだけで憎悪を向けられるのなら、クロノ君の方を手伝った方が無難だ。
 実際、こっちよりもクロノ君たちに人手を向けた方がいいからね。

「とにかく、一旦落ち着いて……ください!」

「っぁ!?」

 体術を以って、押し通ろうとする人たちの体勢を崩す。
 優輝君に体術の類は一通り教えてもらってあるから、足止めくらいは容易い。





「はぁ……ふぅ……」

「……司、少し休んだ方が……」

「うん……ちょっと、そうさせてもらうよ……」

 何とか先走った人達を止め、私は息を切らしてその場に座り込む。
 魔力も霊力もほとんどないから、疲労が大きくなっていたみたいだ。

「……なんで……止めんだよ……!」

「ヴィータちゃん……」

 バインドできっちり止められたヴィータちゃんが、絞り出すようにそう言う。

「全部あいつのせいで!人の心を弄んだんだぞ!?なんで止めるんだよ!!」

 ヴィータちゃんの怒りは尤もだ。
 私だって、同じ立場であれば自分の状態も顧みずに報復に向かおうとしただろう。
 そして、そう言った想いにより共感できるのはアリシアちゃん達だ。

「だからって、そのまま皆を放置したら殺す勢いで報復するでしょ?それはダメだよ」

 より共感できるからこそ、アリシアちゃん達は皆を止めて説得していた。
 この場において、私はあまり出番がないだろう。
 同じく、鈴さんも。魅了をされた事がない私たちでは、皆を止める事は出来ない。

「それに、神夜に直接報復した所で、何も変わらないわ。精々憂さ晴らしになるだけ。……根本的な部分の解決にはならないわ」

 奏ちゃんがアリシアちゃんの言葉に続けて言う。
 ……少し心配だったけど、皆を止めている内に落ち着きを取り戻したみたいだ。

「……根本的な、部分……?」

「何となく察してる人もいると思うけど、神夜の魅了は無自覚なものよ。本人すら掛けている事に気付かないわ。……周りの人は気づいていたようだけど」

 話の流れからして、神夜君の背後に存在する黒幕の事も話すみたいだ。
 まだ私たちも推測しかできないから、“いる”って事だけしか言えないけど。

「……無自覚だったら、許されるのかよ……!」

「ううん。そうは言わないよ」

 その言葉を別方向で捉えたのか、怒りを込めて絞り出すようにヴィータちゃんは言う。
 でも、それは違う。怒りを感じるのは当然だけど、そういう問題じゃない。

「言ったよね?“無自覚な魅了”だって。本人すら、魅了の力を持っている事を知らなかった。……もちろん、生まれながらにしてそんな力が存在する訳がない」

「そうなの?レアスキルの可能性は……」

「それこそあり得ないよ。夜天の書の守護すら貫通する魅了なんて、それこそロストロギア級の力。……特異体質で済ませられるものじゃないよ」

 転生特典を知らない人からすれば、レアスキルと思うのも仕方がない。
 でも、その効果が働く力が強すぎる。
 はやてちゃんは夜天の書による力で精神的な部分においても守護されている。
 言ってしまえば生半可な力では干渉できないのだ。
 なのに、魅了はそれを貫通した。例えそれが夜天の書が覚醒する前の事だとしても、一切精神干渉に気付かせる事がなかった。
 ……そんなのが、レアスキルの枠に収まるはずがない。

「じゃあ、なんだってんだよ……!」

「……先に言ってしまえば、神夜君も被害者の一人に過ぎないかもしれないんだよ」

「どういう、事なの……?」

 ヴィータちゃんだけでなく、アリシアちゃんも疑問に思って私に尋ねてくる。
 奏ちゃんにアイコンタクトを送り、とりあえず知っている事は伝える事にする。

「帝君曰く、神夜君に魅了の力の事を問い質したらしいけど、返ってきた答えは“知らない”の一点張り。無自覚だった事もあって、誰かにその力を与えられた可能性があるの」

「……誰か、って……」

「そもそも、魅了の事を抜きにしても神夜君は悪人の性格をしていると思う?皆を騙して善人の振りをしていると思える?……性質としては、質が悪いとはいえ善人だよ、神夜君は」

 私の言葉に、怒りが抑えられたかのように口籠るヴィータちゃん。
 他の人達も、そういえばと思い当たったみたいだ。

「じゃあ、司達は神夜を操ってる黒幕がいると思っているの?」

「思う……と言うか、ほぼ確実にいるよ。これは推測だけど、以前に現れた攻撃が通じない男や、今回の事件を引き起こしたロストロギアとも関係があると思ってる」

「根拠は……?」

 少し震えた声で、アリシアちゃんがさらに尋ねてくる。
 正体が不明な存在二つと関わってくるのだから、気になるのだろう。

「関係していると思うのは雰囲気やその“謎っぽさ”からだから根拠とは言えないよ。でも、背後に何かいるのは確信してるよ」

「確信……」

 断言した私を見て、アリシアちゃんは目を見開く。
 自信を持って言ったから、それだけの根拠があるのだと驚いたのだろう。

「アリサちゃんとすずかちゃんは知っているよね?優輝君の以前は持っていた力」

「えっと……確か、人の力を数値に表すゲームのステータスみたいなものよね?」

「その通り。今は失われて使えない力だけど、当時のステータスはデータに残していたんだよ。それが、これだよ」

 シュラインにデータを提示するように操作する。
 提示するのはステータスの称号の部分。
 他にも情報はあるけど、今は必要な部分だけでいい。

「傀、儡……これって……」

「これが根拠。間違いなく、神夜君は利用されている。それこそ、ただの駒のように」

 同時に、私たちが恐れている理由でもある。
 人一人に干渉し、利用するのであれば、相応の事はなんでもできるという事。
 いざとなれば、今ここで私たちに何か仕掛けてくるかもしれないと考えられる。

「別に神夜君を許せ、とは言わないよ。無自覚とはいえ魅了した罪と責任は消えない。……でも、心に留めておいて。背後には黒幕がいる事を」

「っ………!」

 とんでもないことを知ってしまったとばかりに、皆は驚愕の表情を浮かべていた。
 そして、奏ちゃんと同じく何かを体に宿しているかもしれないなのはちゃんは……。



「………」

 ……奏ちゃんと同じように、“殺意”が感じられた。

「なのは?」

「ふえっ!?ど、どうしたの?」

「いや、何か凄い顔してたから」

「そ、そうなの?」

「自覚なかったんだ……」

 アリサちゃんとすずかちゃんが話しかけた事で、その殺意は霧散する。
 でも、これで確信出来てしまった。

「(二人に宿っているだろう“天使”が、あの“■■(不明)”の存在を敵視してる)」

 だからそれが影響して、二人とも殺意を抱いていたのだろう。

「(幸い、なのはちゃんの場合は自覚してなかった。……そういえば、ここの所なのはちゃんと奏ちゃんは今までと違って大きく成長し続けるような……)」

「司?どうしたの?」

「あっ、いや、ちょっと考え事してただけだよ」

 ちょっと思考に没頭していたらしく、アリシアちゃんに声を掛けられる。
 とりあえず目の前の事に集中するとしよう。

「………」

「……納得できない事とか、驚く事ばかりだろうけど、とりあえず落ち着いて頭の中を整理した方がいいよ。……今の感情に流されてたら、何か大事な事を見落とすだろうから」

 怒りも憎しみも理解できる。
 でも、それらの感情に流されて行動するのはダメだ。
 私の時も似たようなものだったから、余計にそう思う。

「(……考えてみれば、奏ちゃんはともかくなのはちゃんの成長速度は異常だ。それこそ、今までなぜそれが活かせなかったと言わんばかりの才能があるほどに)」

 皆は沈黙して、まず暴走する事はなくなった。
 後は時間を掛けて頭の中を整理するだろう。
 その間に、私はさっき思い浮かんだ事に考えを巡らせる。

「(……御神流は、そう簡単に習得できるものじゃない。恭也さんだって小さい頃から修練を続けてあそこまでに至ったんだから。今までやってなかったなのはちゃんだったら、一年かそこらで基礎を習得できるかも怪しいはず。だと言うのに……)」

 なのはちゃんは、それをあっさりと実戦に使えるレベルにまで習得していた。
 それはもはや天才と言うしかない。
 そして、そんな才能に士郎さんや恭也さんが気づかないはずがない。

「(魔法が使えるようになって運動音痴が改善されたのはわかる。魔法での戦いも体を動かすのだから、そのついでで改善されてもおかしくない。……でも、御神流の習得は……)」

 そこまで考えて、その思考を振り払うように頭を振る。
 今この場で考えても仕方がない。そう結論付けたからだ。

「(今は目の前の事。奏ちゃんも強くなっているのを考えれば、件の“天使”が関わっているだろうし考えても無駄だしね)」

 何より、まだわかっていない事が多すぎる。
 このまま深入りした所で、藪蛇でしかない。
 それなら、意識しないように今は気にしない方がいい。

「……これ以上無理に考えない方がいいわよ。今はただでさえ幽世の大門の件で忙しくなってるから、これ以上はダメよ」

「……分かってる。私もこれ以上の混乱は避けたいからね」

 考え事をしていたのを見抜いてか、鈴さんが肩を叩いてそう言ってきた。
 そう。気になるとは言えその事ばかりに構っていられない。
 今最も重要なのは、今回の事件の後始末だからね。

「(さて、それじゃあ、これからどうしようかな……)」

 まだ落ち着きを取り戻しきれていない皆を放置するのは論外だ。
 でも、いい加減人手を戻さないとクロノ君の方がまずい。
 幸いにも、はやてちゃんは落ち着きを取り戻しているし……。

「(……帝君だけじゃ、まだ足りないしだろうから……)」

 戦闘担当の私たちが抜けている分はまだ何とかなる。
 でも、ここにいるいつもの皆以外の女性局員のほとんどが事務担当だ。
 その人達が抜けたままなのは、事後処理に支障を来す。
 というか、多分もう支障が出てると思う。

「(だからと言って、今すぐ戻すのはさすがにまずい。……私たちで何とかするしかないよね……)」

 戦闘担当な私たちではあまり足しにはならないけど、ないよりはマシだと思う。
 それに、悠長にはしてられないからね。

「(他に行けるのは……)」

 魅了が掛かっていた人達は論外だ。それならば、他の人達を。
 そう思って、行けそうな人達を選ぶ。

「アリシアちゃん、ユーノ君、リインちゃん」

「どうしたの司」

「皆が心配だろうけど、そろそろクロノ君の方が……」

 三人に声を掛ける。三人とも、事務処理関連の事は得意な方だ。
 なのはちゃんは苦手だし、アリサちゃんとすずかちゃんはまだ出来る方だろうけど、アースラの設備にまだ慣れきっていない。
 ザフィーラは分からないけど、はやてちゃん達についてもらった方がいい。
 そう考えて、三人を選ぶ。

「あー、そろそろまずいね」

「時間を掛け過ぎていたからね」

「リインははやてちゃん達と一緒にいたいです……」

 アリシアちゃんとユーノ君はすぐに理解して切り替えてくれた。
 でも、リインちゃんははやてちゃん達が心配らしい。

「大丈夫。ザフィーラもいるし、なのはちゃん達もついてるから」

「うぅ……分かったですぅ……」

 しぶしぶだったけど、了承してくれた。
 人手はまだまだ足りないけど、これで少しはマシになるだろう。

「奏ちゃんはどうする?」

「……私も手伝うわ」

「そう?それじゃあ……」

 なのはちゃん達にも一言声を掛けて、部屋を出る。
 ……っと、その前に……。

「鈴さん、こっちの事頼めるかな?」

「ええ。いいわよ。事情聴取の類は終わらせてるし、何なら他の式姫にも来てもらえば、こっちの人手は十分よ」

「ありがとう。じゃあ、行くよ」

 鈴さんに後の事を頼み、私たちはクロノ君がいる場所へと向かう。
 念話でどこにいるかも聞いておいたし、入れ違いにはならない。











       =out side=





「それにしても、傀儡……ね」

 司達がクロノの手伝いに向かった後、アリサが思い出したかのように呟く。

「操られてる……って感じじゃないよね?本人も気づいていないような……」

「でも、傀儡なぐらいだから、いつでも操れてしまうのでしょうね……」

 考えるのは、神夜の背後にいるであろう存在の強大さ。
 魅了の力を与えられる程の存在だからこそ、つい考えてしまう。

「ホント、驚きの連続よ……」

「フェイトちゃん、もう大丈夫……?」

「……何とか……」

 アリサは溜息を吐き、なのははフェイトを心配して声を掛ける。
 フェイトはずっとアリシアやなのはが傍にいた事で、だいぶ落ち着いていた。

「……まだ思う所はあるけど、今は驚きの方が大きいから……」

「まぁ……まさかさらにやばい存在がいるなんて思わないものね……」

 魅了を扱う者が元凶かと思えば、その神夜すら傀儡として扱う黒幕がいた。
 幽世の大門の事が落ち着いていない時に、その事実は頭で処理しきれない。

「それにしても、はやては落ち着いてるわね」

「あー、私も驚いてはいるよ?信じられんかったし、目覚めたばかりは混乱しとったよ?……でも、まぁ……そやなぁ……」

「……どうしたの?」

 歯切れが悪いはやてに、すずかが聞き返す。

「いやぁ、あまりに現実味がない事が起きてるからなぁ、実感が湧かへんねん」

「そりゃあ……魔法とかある時点で、今更じゃない?」

「せやけど、それでも実感がなぁ……」

 腕を組み、“うーん”と唸るはやて。
 司達が言っていた事は、抽象的な事もあったため、余計に実感が分かりにくかった。

「……まぁ、どの道このままやとあかんな。立ち直るのもあるけど、今回の戦いで私たちの力不足が浮き彫りになったしなぁ」

「一応、あんた達は一般の管理局員と比べて相当優秀なんだけどね」

「いや、まぁ、うん。そうやけど……あの戦いを経験したらなぁ……」

 なのは達は管理局でも有名になる程才能を持っている。
 それなのに力不足と言われたら、他の戦闘部隊の立つ瀬がない。
 それでもなお、はやては力不足を感じていた。

「まぁ、力不足は同感ね。あたし達の場合は初の実戦ってのもあるけど」

「むしろあれ程強い相手に戦おうとする度胸がある時点で凄いわ」

「戦うと言っても援護だけよ。……アリシアは、確かに凄かったけど」

「私たちの力を上乗せしたとはいえ、守護者の結界に入っていったからね……」

 なのはやはやても戦いを知らない状態でいきなり実戦に入っていた。
 だが、二人の場合は敵がそこまで強くなかったり、心強い味方がいた。
 対し、今回の場合はその心強い味方が負ける程の強さの敵。
 それを相手に戦えたのは確かに度胸があると言えるだろう。

「……おーし、とりあえず今回の事がひと段落着いたら皆で特訓や!」

「私も御神流をもっと扱えるようにならなきゃ……フェイトちゃんはどうする?」

「……私も、やる。なのは達が頑張ってるのに、何もしないのは嫌だからね……」

 まだ元気を取り戻していないフェイトだが、なのはの言葉には同意した。
 二人が奮い立っているのも若干効果があるのだろう。

「あたし達も……って言いたいけど……」

「私達の場合、師事する人が……」

「二人とアリシアちゃんは霊術だから、確か……あ……」

 対し、アリサとすずかは歯切れが悪そうにしていた。
 なのはも途中で、その理由に気付いて言葉を途切らしてしまう。

「……どうしたんや?霊術って言ったら式姫のあの二人やろ?」

「……言っても、いいのかな……?」

「……いずれは判明する事だし、変わりないわよ」

 事実を知っている三人は言いづらそうにしていたが、意を決して伝える事にする。

「……まさか……」

「……椿さんと葵さんは、もう……」

 はやてが三人の様子から悟ると同時に、すずかが絞り出すように言う。
 実の所、司や奏から経緯を聞いていないため、三人は椿と葵が死んだ事しか知らない。
 だとしても、死んだことは事実なため、断言する程気概を持てなかった。

     カランカラン!

「……ぇ……?」

 その会話が聞いていたのか、鈴は手に持っていた飲み物を落とす。
 幸いにも中身は飲み干した後だったため、惨事にはならなかった。
 ……が、その驚愕っぷりは一瞬我を失う程だったようだ。

「(ど、どういうこと!?椿と葵……式姫の二人って事は、あのかやのひめと薔薇姫の名前よね?……っ、そう言えば、あの時以来見ていない……!)」

「え、す、鈴さん?どうしはったん?」

「い、いえ、ちょっと手を滑らしただけよ……。戦い疲れで気が抜けてたみたい」

 咄嗟に誤魔化してコップを拾う鈴。
 しかし、内心は動揺しまくっていた。

「(……そう。そうよね……むしろ、あの二人の犠牲だけで済んだ方が奇跡に近いのよね……。妖の勢力に対し、私たちの戦力は少なすぎた……その結果が、二人の死……)」

 鈴にとって、椿と葵は前世で自分を解放してくれた恩人の一人だ。
 その恩人が死んだのであれば、ショックが大きいのも当然だった。

「それにしても……そうかぁ……あの二人が……」

「詳しい事は聞いてないんだけどね……司さんと奏ならわかるかも」

「………」

 一気に暗い雰囲気になる。
 魅了に関してはどちらかと言えば困惑した雰囲気だったが、こちらは知っている人……それも親しい人が死んでしまったため、ショックも大きい。

「……優輝さんが姿を見せないのも、それが関係してるんか?」

「……そうね。椿さんと葵さんは、優輝さんにとって精神的支柱だったらしいわ。だから、いなくなって限界を迎えて……」

「……今は、倒れて安静にしているみたいなの」

「そう、なんか……」

 いつも弱い所を見せる事のなかった優輝。
 それは魅了をされていた事を踏まえてもはやては覚えていた。
 そのため、倒れる程ショックだった事が良く理解できた。

「っ……!」

 暗い雰囲気になり、会話が途切れる。
 その空気を断つためか、アリサが気を切り替えるように両頬を叩く。

「いつまでも暗くなってられないわ!あの二人ならこんなの望んでいないはずよ!」

「……そうだね。椿さんと葵さんなら、そんなの望まないよね……!」

 アリサの言葉に、すずかがそう返す。
 未だにショックは消えないものの、二人は気持ちを切り替えて立ち直った。

「……強いなぁ、二人とも。ショックな事でもすぐ立ち直るなんてなぁ」

「はやてだって、魅了の事で混乱してたはずなのにもう落ち着いてるじゃない。同じよ。……落ち込んでいる暇があったら、出来る事をやればいいのよ」

「出来る事……そうだね。そうだよ……うん……!」

 はやてが感心し、続けてなのはがアリサの言葉につられて自分を奮い立たせる。
 いつまでもショックで立ち止まってる場合ではないと、そう言わんばかりに。

「皆、凄いね……私は……」

「……フェイトちゃん」

 しかし、フェイトだけはまだ立ち直れていなかった。
 ずっと頼りにしていた人物が、自分の心を歪めていた事がショックだったのだ。

「今までの私は、偽りだった……。ずっと、本当の自分じゃなかった……」

「フェイト……」

「フェイトちゃん……」

 落ち込むフェイトに、アリサとすずかは掛ける言葉が見つからない。
 二人にとって、ジュエルシード事件は概要しか知っていない。
 そのために、適格な言葉を見つけられなかったのだ。
 そんなフェイトに声を掛けられるなら、それは姉のアリシアか……。





「フェイトちゃん」

「なの、は……?」

 ……親友であり、かつての魔法のライバルである、なのはだけだった。

「だったら、今から本当の自分を始めようよ」

「え……?」

「まだ終わってないし、まだやり直せるよ。だから、ここからまた始めよう?」

 優しく掛けられたその言葉は、染み込むようにフェイトの心にすとんと落ちる。

「……そうね。まだあたし達は子供なんだし、まだまだやり直せるわね」

「なのはちゃんの言う通りだよ」

 アリサとすずかもなのはの言葉に賛同し、フェイトを励ます。

「なのはちゃんがこんないい事言うなんてなぁ。国語の成績上がったんとちゃう?」

「はやてちゃん!もう……!」

 そこではやてが横槍を入れるように茶化す。
 なのははそれに呆れるように怒る。

「……ふふ……」

 それを見て、フェイトは少し笑う。

「ふふ……ごめんね、いつも通りなのが、ちょっとおかしくて……」

「……ようやく(わろ)うてくれたね」

「そうだね」

 笑ってくれた事に、はやてとすずかが安心したように微笑む。

「……うん。いつも通りでいいんだよね……」

「その通りや。こういうのはあまり深く考えへん方が楽やで?」

 徐々にフェイトは元気を取り戻していく。
 完全に立ち直るまでそんなに時間は掛からないだろう。
 そんな雰囲気が、五人の間には出ていた。

「……皆、ありがとう。もう、大丈夫だよ」

 友人たちの優しさを感じ、涙を流しながらもフェイトは微笑んだ。











 
 

 
後書き
とりあえず原作三人娘(+二人)完全復活。
優輝が倒れてる間に原作キャラに強化パッチを当てていかないと……。 
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