八条学園騒動記
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第四百八十六話 双子の閃きその十
「わからない」
「そうなのね」
「壁画にもなっているが」
メトロポリタン歌劇場のものだ、この時代の数えきれないだけ改築されている中でも受け継がれているのだ。
「あれもな」
「わからないのね」
「正直に言うとな」
アルフレドはあえてこう言った。
「落書きにな」
「見えるのね」
「そう見えるが」
「それ言ったらね」
「終わりか」
「私もわからないけれど」
それでもというのだ。
「落書きって言ったらね」
「それで終わりか」
「芸術はそうでしょ」
落書きだのと言ってしまえばというのだ。
「終わりよ」
「そんなものか」
「そう、もうね」
それこそというのだ。
「芸術はね、人それぞれの感性で」
「それ次第でか」
「変わるものだし」
「俺がシャガールを落書きと思っていてもか」
「別の人から見るとね」
そうすればというのだ。
「芸術だから」
「そうなるか」
「もう芸術はね」
「人それぞれか」
「それで変わるものだから」
それ故にというのだ。
「もうね」
「一概に言えないか」
「だから難しいんでしょ」
「そうなのか」
「そう、芸術はね」
そうしたことはというのだ。
「何かとね」
「難しいものなんだな」
「ええ、だから兄さんがね」
「シャガールを理解出来ないことはか」
「そう、それも当然よ」
「悪いことじゃないか」
「私がわからない芸術もあるし」
そうしたものもというのだ。
「やっぱりね」
「誰でもそうしたものがあるのか」
「私はムンクがわからないから」
この画家の作品がというのだ。
「どうしてもね」
「叫びか」
「他にも色々描いてるけれど」
「あの絵も癖が強いからな」
「あの叫びって絵は本当に感じるわ」
叫んでいる様にというのだ、声は出していないがそこには確かに叫びがある凄まじい表現力の絵である。
「けれどね」
「それでもか」
「何がいいかね。あとゴヤも」
「十九世紀のスペインの画家だな」
「好きじゃないの」
この画家の作品はそうだというのだ。
「怖いから」
「そういえば人を食う絵があったな」
ゴヤの有名な絵の一つをだ、アルフレドは思い出した。
「我が子を喰うとか何とかだったな」
「あれよね、ギリシア神話の場面だったわね」
「クロノスが子供を飲み込む場面だったな」
「あれ確か一口で飲みこんでいたのよ」
我が子が自身の玉座を脅かすと言われそうして妻との間に生まれた子を次々と飲み込んでいったのだ。
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