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永遠の謎

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256部分:第十八話 遠く過ぎ去った過去その六


第十八話 遠く過ぎ去った過去その六

「その二つを私は見た」
「では陛下は」
「エルザの目で見ているのだ」
 ローエングリンを。そうだというのだ。
「あの彼を。おかしなことだ」
「おかしいのですか」
「私は男なのだ」
「はい、それは」
「男なのだ。それなのにだ」 
 どうかというのだ。彼は。
「私はエルザの目から彼を見てしまうのだ」
「それがおわかりになりませんか」
「どうしてもだ。わからない」
 戸惑いと共にだ。王は話すのだった。
「私はエルザではない。間違っても」
「はい、むしろ陛下は」
「ハインリヒ王だ」
 その王だというのだ。ドイツ王だというのだ。
「若しくは。ローエングリンだ」
「あくまで男性ですね」
「間違ってもエルザではないのだ。女性ではないのだ」
 この言葉は自分自身に言い聞かせていた。気付かないうちに。
「男なのだ。その私がエルザの目から彼を見るのは」
「何故でしょうか、それは」
「わからない」
 またこの言葉を出す王だった。自然に出てしまう言葉だった。
「だが。私は」
「陛下は」
「必ず。その美をドイツに実現させる」
「はい、では鏡の間は」
「無論だ。あの部屋もだ」
 王は強い言葉に戻った。そのうえでだった。
「私はドイツに描き出そう」
「ワーグナー氏の美と共に」
「彼の美も自然の美も」
 そのどれもがだというのだ。
「私は一つにして。ドイツに描き出そう」
「はい、それでは」
 こんな話をしてだった。王は鏡の間も王の間も巡るのだった。そしてだ。
 庭も見る。ベルサイユの緑の庭を。
 幾何学の模様が描かれ左右対称である。その庭も見てホルニヒに話す。
「この庭はだ」
「どう思われますか」
「私が考えているのは城と宮殿を一つにしてだ」
「その二つをですか」
「そして自然の中にあり自然と一つになっている」
「ではこの庭は」
「庭よりも自然だ」
 それだというのだ。
「自然の美を大事にしたい」
「では陛下」
 ホルニヒは王の話を聞いてだ。頭の中に白い城、そして緑の世界を描いてだ。そのうえで王に対してだ。静かに話をするのだった。
「庭はないのですか」
「城によるがやはり自然だ」
「自然の中にその城がある」
「そういうものを築きたい」
 こうだ。王は話す。
 その庭を見つつだ。王はまた話した。
「やはり緑はいい」
「陛下は緑もお好きなのですね」
「青も好きだ。そして緑もだ」
 どちらもだというのだ。王は愛しているというのだ。
「心を安らげさせてくれる」
「不思議ですね。色によって人の心は変わるのですね」
「青はバイエルンの色だ」
 他ならぬだ。彼の国の色だというのだ。
「その色に生まれた頃から包まれていた」
「青に」
「ワーグナーの色も。おそらくはだ」
「青ですか」
「そづあ。おそらくはだが」
 そう前置きしてからだ。王はワーグナーと青について話をしていく。
 
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