相談役毒蛙の日常
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三十五日目
「そう言えば、灯俊君の浮いた話を聞いてみたいな」
キリトとの出会いを語った彼女らは、葵達へ尋ねた。
「「「「……………………」」」」
が、葵、慧奈、林檎、蜜柑は黙り込んでしまう。
「あ、あれ? 私なにかまずい事聞いちゃった?」
アスナがあたふたとする。
「マズイ事っていうか…」
「灯俊の恋愛遍歴ねぇ…」
葵と慧奈は顔を見合わせる。
「うーん…アイツに昔恋人がいた『らしい』っていうのはしってるんだ…。
慧奈は?」
「それは私も知ってる。ALOが始まった頃には居たらしいから……二年くらい前……。
灯俊が中学一年か二年の頃よね…」
二人のひどく曖昧な答えに、キリトハーレムが疑問を浮かべる。
「葵ちゃんでも解らないの?」
「ああ…あの頃は…まぁ、色々あってな…。兎に角あんまり灯俊と一緒に居なかった時期で…」
「うーん…灯俊がテルキスに自慢してたのを聞いた事はあるんだけど…」
「オレもそれとなく聞いたがはぐらかされたし……」
二人はうーんと声を合わせる。
「兄様の元カノは歌の上手い人なの」
「隊長が言ってたの」
と林檎と蜜柑から思わぬヒントが出された。
「「歌の上手い奴」」
二人が考え込む。
「プーカのプレイヤーか…?」
と葵が呟く。
「歌ねぇ…。相談役の事だしボカロとかじゃないのー?」
「リズさん…それは流石にないですよ…」
「えー? そうー?」
リズベットがニヤニヤしながら葵に尋ねた。
「ねぇ、その彼女の事見たことないの?」
葵はそう問われて、考え込む。
「………ある」
「どんな奴!?」
「よく覚えてねぇなぁ…でも、オレたちと対して背が変わらなかったような……本当に街中で一回見かけただけだし……アレが灯俊の彼女ともかぎらねぇし……うーん…」
と考え込む葵。
その後ろにそっと忍び寄るリズベット。
「それっ!」
「あひゃぅっ!?」
唐突に、リズベットが葵の胸を後ろから鷲掴みにした。
「何しやがるこのやろっ!」
そこからは早かった。
葵がリズベットの腕をつかみ、プールへ投げ飛ばした。
ざっぱぁんっ! と水柱を上げてリズベットがプールに落ちた。
「ぷはっ! 何すんのよカトラスっ!」
プールから顔を出したリズベットが抗議する。
「十割お前が悪いだろうがリズベット!」
「なーによぉ! こんな美少女とくんずほぐれつ出来るなら喜びなさいよ! アンタ中身は男なんでしょ!」
「例えテメェが美少女でも中身オッサンならお断りだ!」
文句をいいながらプールから上がるリズベット。
葵はソレを警戒し続けていた。
「いや、そんな警戒しなくてももうしないわよ」
「性犯罪者はみんなそう言うらしいぜ」
「せいっ…!」
強姦魔扱いされたリズベットが絶句する。
「葵ちゃん、リズ、そこら辺にしとこうね?」
そういいながら、アスナが林檎と蜜柑を指差す。
「たしかに、教育にわるいな」
「「?」」
氷見姉妹は揃ってこてんと首をかしげるのだった。
カァカァとカラスが鳴く。
「ああ…もうこんな時間か」
「チッ…結局プールは無しか」
「あんまりぼやくなよ相談役」
「あーん? この面倒な公務員のせいで貴重な休日がつぶれたんだぜ?
文句だって言うさ」
「はは、すまないねぇ二人とも。事情徴収は終わりだ。もう帰っていいよ」
「そうかよ」
灯俊は中指を立てる。
和人と灯俊が部屋を出る寸前。
「THA SEEDというプログラムに心当たりはあるかい?」
「あん? VR世界の基本フォーマットだろ」
「それがどうかしたんですか菊岡さん」
「あれを広めた人、知らない?」
「知りません」
「知らんな」
「そうか…。呼び止めてすまなかった。
またALOで会おう」
菊岡のセリフを聞き終える前に、二人は退室した。
「キリト」
「相談役」
部屋から出た二人は顔を見合せ頷きあった。
「帰るか、キリト」
「そうだな」
二人が校舎を出て、プールに向かうと既に全員が着替え終わり、待っていた。
「すまん。菊岡のバカの話が長くてな」
灯俊がおどけたように言った。
直ぐにすっとしゃがんで、林檎と蜜柑の肩に手を置いた。
「林檎、蜜柑。プールは楽しかったか?」
「「うん! 楽しかったの!」」
「それは良かった」
灯俊は座ったまま慧奈を見上げた。
「お疲れ様、慧奈」
「あんた悪い物でも食べたの?」
「うわ、ひでぇ」
スッと立ち上がった灯俊は、葵、慧奈、林檎、蜜柑を見て言った。
「うっし! 帰るか!」
後書き
次回か次々回からオリジナルエピソードです。
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