アルマロスinゼロの使い魔
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第二十話 堕天使vs堕天使
前書き
オリジナル展開。
オリジナルの堕天使登場。
その日。
初夏のトリスティンに、雪が降った。
ちらちらではない、大雪だ。
これは、不吉な予兆だと、誰もが思い、家を閉め切った。
アルマロスは、窓の外を眺めながら、眉を寄せた。
この雪は、あの時、タルブの空でアルマロスの右胸を貫いた氷を放ってきた、ハルケゲニアの堕天使の仕業であろうか。
あの堕天使の目的は分からない。だがアルマロスに対して敵対意思はあるようだ。
「寒い…。」
ルイズが、毛布にくるまって寒さに震えていた。
アルマロスは、ルイズを温めてやりたかったが、自分の体に体温がないことから触ることすら躊躇われた。
「初夏に雪が降るなんて、普通じゃないわ。」
その通りだ。
しかしおかしいと思っても、現実に雪は降っていて、積もりだしている。
初夏の緑に、雪の白。美しいが、このままでは植物も寒さでやられてしまうだろう。それこそ農家などは大打撃だ。
なんとかしてあげたくても、堕天使の居場所が分からないし、この雪が堕天使の仕業だという確証もない。
数時間して、雪はやんだ。
すっかり積もった雪に、男子生徒達が中心に、雪だるまを作ったり、雪合戦を始めた。
「こんな不吉な雪でもはしゃいじゃうのね…。」
冬服を引っ張り出してモコモコになったルイズが、そう呟いた。
「あああ~、寒い! ダーリンあっためて~!」
「フォオオン。」
走ってきたキュルケを、アルマロスは、やんわりと止めた。
ハッキリ言って自分の体は、雪のように冷たいのだ。抱き付かれたら余計に寒い想いをするのは目に見えている。
「アルマロスに近づくんじゃないわよ、キュルケ!」
「ああん、いいじゃないのぉ。ダーリン、寒くないの?」
「フォオン。」
アルマロスは首を振った。
普通に服を着ているが、ちっとも寒くなかった。
「アルマロスさん。」
そこへシエスタがやってきた。
手に何か持っている。
「あの…、これよかったら…。」
「なによそれ?」
「マフラーです。」
「フォ?」
「あの…えっと…、私の村のために駆けつけて戦ってくださった、せめてものお礼をと思って…。」
シエスタは、モジモジと恥ずかしそうにしながら、アルマロスにマフラーを差し出した。
「あら、これ、手編み?」
「はい。」
アルマロスは、シエスタからマフラーを受け取り、首に巻いた。
「わあ、お似合いですね。よかった。」
アルマロスは、手に字を書いて、「ありがとう」と伝えた。
ルイズは、そんな二人の様子を、複雑そうに見ていた。
「あらあら、焼きもち?」
「ち、違うわよ。」
「分かってるわよ、ルイズ。あなただってセーター(?)を編んでるじゃないの。」
「あ…あああ、あれは…。」
とてもじゃないが、アルマロスにあげられるような代物じゃないことは、作ったルイズ本人がよく分かっていた。
っと、その時。悲鳴が聞こえた。
「な、なに!?」
「あれは!」
見ると、誰かが作ったであろう雪だるまが、生徒達に襲い掛かっていた。
アルマロスは、すぐにベイルを装備すると、雪だるまを打ち砕いた。
「ありがとうございます! アルマロス先生!」
「フォオオン。」
「ダーリン、後ろ!」
キュルケが叫んだ時、アルマロスの背後で、雪がモコモコとひとりでに盛り上がり、雪のモンスターが現れた。
しかし襲い掛かって来るよりも早く、アルマロスが振り返ることなく、裏拳でモンスターを打ち砕いた。
すると周りからモコモコと次から次に雪のモンスターが現れた。
アルマロスは、周りを見回し、体を大きく回転させ、水のエネルギーを放ち、すべてのモンスターを溶かし、砕いた。
「さすがダーリン!」
「相変わらずすごいわね。」
すべてのモンスターがいなくなり、キュルケはうっとりとし、ルイズは感心した。
『ククク…、その程度の力か。』
「こ…、この声…。」
『相棒、気を付けろ!』
風で雪が舞った。
すると竜巻が起こり、雪が一か所に集まった。
雪は黒く染まり、ボロボロの翼となり、さらに人の形を作った。
この世の者とは思えぬ、美しい顔であったが、髪はボロボロに長く、着ている服も黒くてボロボロだった。
アルマロスは、突然現れたその相手を睨んだ。
『久しいな。とはいえ、こうして顔を合わせるのは初めてであったな。』
「フォ!」
『我は、この世界にて、おまえと同じ堕天使よ。だが名はない。憎き、この世界の神に奪われたのだ。笑うがいい。』
そう自虐的に笑う堕天使。
見ためこそみすぼらしいが、その圧倒的な、そして邪悪なオーラに、その場にいた全員が背筋が震えた。
『しかし、見れば見るほどに旨そうな子らよ。魔を操りし血筋の若き血がこれだけ集まっているのも珍しい。ぜひにとも手に入れたいものだ。』
「フォオオン。」
『させないだと? おまえにできるのか?』
不敵に笑う堕天使に、アルマロスは、ベイルを構えた。
その時、堕天使の背後につららのような氷が現れ浮遊した。
アルマロスは、同じ数だけ水のエネルギーを発生させ背後に浮かせた。
『我が氷。おまえは、水。クク…、結構かぶってる。』
堕天使は、つららを飛ばした。
アルマロスも同時に水のエネルギーを飛ばした。氷と水が衝突し、宙で弾けた。
霧のように弾ける氷と水の中、アルマロスが走り、ベイルの先を堕天使に振りかぶった。
堕天使は、細い腕に氷を纏い、ベイルを受け止めた。
『異界の叡智か…。これはまともに喰らっては、我もただではすまんな。だが…。』
堕天使は、細腕からは想像もできない力でアルマロスを弾き飛ばした。アルマロスは、地面に着地した。
『扱う者が不完全では真の力を発揮できまい。』
「フォオオオン!」
アルマロスは、アーチに持ち替え、斬りかかった。
堕天使は、氷の剣を出した。
『遊んでやろう。』
「フォォォォン!」
アルマロスのアーチと、堕天使の氷の剣がぶつかった。
するとアーチがあっという間に黒ずんだ。
「!」
『ククク…、どうした?』
慌てて、離れたアルマロスは、アーチを浄化した。
『ほう? いちいちそうやって闇を浄化するのか? 面倒なことだ…。』
「っ…。」
アルマロスは、冷や汗をかいた。
アーチが一瞬にして穢れるほどの闇を、あの堕天使は持つのか。そう考えると、自分との格がまるで違うと思った。
果たして今の自分の力で、この堕天使に勝てるのか?
いや勝つ勝てないの問題じゃない。ここで立ち向かわなければ…。
アルマロスは、ちらりと、ルイズや他の生徒達を見た。
彼女らを守れない!
そう決意したアルマロスは、強く堕天使を睨んでアーチを構えた。
そんなアルマロスを見て、堕天使は、クククっと笑い。
『今回は、ここまでにしてやる。次回はもっと遊んでやろう。それまでおまえの命が持てばな。』
そう言って、雪と氷となって消えた。
堕天使が消えた後、少し間をおいてアルマロスは、片膝をついた。
「アルマロス!」
ルイズが駆け寄った。
「だいじょうぶ!?」
「フォォォン…。」
アルマロスは、額ににじんだ汗を拭いながら立ち上がり、ルイズの頭を撫でた。
しかしアルマロスは、ふらつき、再び膝をついた。
「アルマロス!」
「フォ…ォォン…。」
アルマロスは、強烈な脱力感と、右胸の痛みに耐えられず、ついに倒れた。
ルイズの悲鳴と、生徒達が騒ぐ声が遠い。アルマロスの意識は闇に堕ちた。
***
アルマロスは、闇の中で、誰かと向き合っていた。
『頼む…。助けてくれ…。』
その声は聞き覚えがあった。
『アンリエッタが危ない…。助けてくれ。今の私ではどうすることもできない。どうか…私を…。…止めてくれ。』
ウェールズ!
アルマロスは、そう叫ぼうとしたが声が出ず、伸ばした手もウェールズには届かなかった。
「アルマロス!」
「っ……フォ…。」
目を覚ましたアルマロスは、ベットで寝たまま手を伸ばしていた。
「嫌な夢を見たの?」
ベットの傍で椅子を置いて看病していたルイズが心配そうに言った。
アルマロスは、起き上がり、ベットから降りた。
「ちょっと、どこへ行くの?」
「フォォォン。」
手に字を書いた。
『アンリエッタが危ない』っと。
「姫殿下が? どうして?」
「フォォォオン。」
「待って、アルマロス!」
ルイズを無視してアルマロスは、部屋から出て行った。ルイズは、慌てて後を追った。
夜の闇の中。
トリスティン城では、アンリエッタが誘拐されたために、大騒ぎとなっていた。
後書き
次回、屍のウェールズ編。
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