アルマロスinゼロの使い魔
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第十八話 アルマロスの眠り
前書き
アルマロスに異変。その2。
後半、惚れ薬。
アルビオンの大軍は、それより少ないトリスティン軍に負けた。
ルイズが放ったエクスプロージョンの魔法によりレコン・キスタが誇っていた艦隊は壊滅。竜騎兵もアルマロスが全滅させた。
この戦いにより、アンリエッタは、先陣を切って戦った功績により聖女として崇められ、女王として即位することになり、ゲルマニアの皇帝との婚姻も破棄となった。
「アルマロスー、また寝てるの?」
アルマロスは、最近よく寝るようになった。
疲れているからなのだろうか、それとも右胸を貫かれた傷によるものなのかは分からない。
戦とは無縁の学院は、いつも通りであった。
ちょっとオスマンから勝利を祝う言葉があったくらいで、それ以外は普通であった。
アルマロスは、そのことにホッとしたのか、帰って来るなり倒れるように眠ってしまった。それでルイズがワーワー泣いた。
息があると分かると、ルイズもホッとして、エクスプロージョンを使った疲れもあってその場に倒れ込みちょっとした騒ぎになった。
先に起きたルイズだったが、アルマロスは中々起きなかった。だが呼吸はあった。
心配で医者に見せようかとも思ったが、堕天使であるアルマロスを見せたところで分かるわけがない。それにアカデミーに知られるわけにはいかないので見せるのは無しだった。
「アルマロスさんのお世話は私に任せてください。」
「お願いね。」
最近じゃアルマロスが授業にも中々出られないこともあり、ルイズが授業に出ている間はシエスタがアルマロスの看病をすることになった。他に仕事があるシエスタだが、ルイズがシエスタを指名したことで他の仕事を免除してアルマロスの看病を仕事をすることになっていた。
当然だが、ダンスの講師もできるわけもなく、アルマロスの不調について心配する声が多数寄せられ、お見舞いの品を持ってくる生徒もいた。
授業が終わり戻ってみると、アルマロスは、まだ眠っていた。
「今日は、丸一日か…。」
「寝る時間が伸びてる気がしますね…。」
シエスタも心配そうに寝ているアルマロスを見ていた。
眠りっぱなしではいずれ体がもたなくなるだろう。飲食が必要だ。
すると部屋のドアがノックされた。
「はい。」
「ミス・ヴァリエール。おるかのう。」
「オールド・オスマン!」
オスマンだった。
「アルマロス殿は、まだ眠っておるのか…。」
部屋に入ったオスマンは、ベットで眠ったままのアルマロスを見て言った。
「今日はほぼ一日です。」
「そんなにか…。うーむ…。」
オスマンは少し唸り、やはりかっと呟いた。
「やはり、とは?」
「いや、こっちの話じゃよ。じゃがこのままではアルマロス殿の体がもたん。なんとかしてやらんとな。」
「はい…ですが…。」
「そこでじゃ。これは、わしの知人から聞いたことなんじゃが…。」
「な、なんですか?」
「……もしかしたらアルマロス殿がこうなることを見越して教えてくれたのかもしれん。」
「その方法とは!?」
ルイズは、ずずいっとオスマンに詰め寄った。
「宝物庫に来るんじゃ。」
「はい!」
ルイズは、オスマンに連れられて学院の宝物庫に行った。
宝物庫の中で、特に古さびれた宝箱があった。
「これを開けてみなさい。君なら開けられるじゃろう。」
「えっ?」
「君は彼のパートナーじゃ。きっと応えてくれるじゃろう。」
「はい…。」
ルイズは、不思議に思いながら、宝箱に触れた。
すると宝箱がひとりでに開き、中から光り輝く球体が出てきた。
「これは祝福の光。本来ならこの世界の神ではない、異界の神がもたらす光じゃ。」
「なぜそんなものが…。」
「これは、わしの古い知人……、黒い天使から受け取った物じゃよ。」
「くろいてんし?」
「外見はまったく天使に見えんのじゃが、強大な力持つ天使じゃった。自由に世界を行き来する力を持つほどのな。もしかしたらアルマロス殿がこちらに来ることを見越して、これをわしに預けたのかもしれん。」
「その天使って…。」
「恐らく、アルマロス殿と因縁があるじゃろうな。じゃが彼はここにはいない。確かめようもない。さあ、これをアルマロス殿に。」
「はい!」
ルイズは、光の球体を持って宝物庫から出て行った。
「……果たして神は、アルマロス殿をお許しになるのかのう? のう、黒い天使殿?」
オスマンは、ここにはいない黒い天使に向かって呟いた。
部屋に走って戻ってきたルイズは、眠っているアルマロスに、光の球体・祝福の光をかざした。
すると光が強まり、吸い込まれるようにアルマロスの体に取り込まれていった。
「……フォ?」
「あ…、アルマロス?」
「?」
アルマロスの目が開き、ぱちぱちと瞬きをして、ルイズを見た。
ルイズは震え、アルマロスに抱き付いた。
「フォオン?」
「バカ、もうバカ! いつまで寝てるのよ!」
「……。」
「…アルマロス?」
なんだから様子が変だと思ったルイズが顔を上げようとした時、アルマロスがルイズを引き離した。
「フォオオン?」
「えっ? えっ? どうしたの?」
「アルマロスさん?」
シエスタもアルマロスの様子がおかしいことに首を傾げた。
アルマロスは、自分の手に字を書いた。
『君は、だれ?』っと。
「!!??」
ルイズは愕然とし、アルマロスの顔を見た。
アルマロスは、首を傾げた。
本当に覚えていないらしい。
ルイズは、ふらっとした。それをシエスタが慌てて支えた。
「ミス・ヴァリエール! しっかり! アルマロスさんどうしたんですか!」
しかしアルマロスは、困った顔をしているだけだった。
「ダーリン、あたしを忘れちゃったの!?」
「フォオン?」
「あー、これは完全に忘れてるね。」
アルマロスの困り顔を見てギーシュが言った。
アルマロスの記憶喪失の話題は、すぐに広まった。
アルマロスを先生と慕っていた生徒達は、ルイズにどういうことだと詰め寄り、ルイズは、アルマロスの記憶喪失のショックが抜けず呆然としたままで使い物にならず、学院が軽くパニックだった。
「オールド・オスマン…。」
「わしにも原因が分からん…。」
「あれが原因なんじゃ…。」
「うーむ…。」
オスマンは唸った。
使い魔の記憶喪失。ルーンは残っている。
一時的なものと思いたいが、もしずっとだとしたら…。
「大変です! アルマロス殿がまた倒れました!」
「アルマロス!」
学院長室からルイズは飛び出していった。
駆けつけると倒れているアルマロスが生徒達に囲まれていた。
「アルマロス! アルマロスぅ!」
「…フォオオン?」
やがてアルマロスが目を覚ました。
アルマロスは、ゴシゴシと目をこすり、ルイズを見た。
そして自分の手に、『どうしたの?』っと書いた。
ルイズは、震えた。
「あ、アルマロス…あなた…、記憶が…。」
「?」
アルマロスは、どういうことだというふうに首を傾げた。
それを見たルイズは確信した。
思い出していると。
「バカーーーーーーーー!!」
「フォーン!?」
泣きだしたルイズに、アルマロスは殴られた。
アルマロスの記憶喪失は、本当に一時的なもので終わった。
***
アルマロスは、周りに謝って回った。
ルイズには土下座して謝った。
「土下座なんてしないでよ…。」
「フォオオン…。」
でもこうでもしないと気が治まらない。
一時的とはいえルイズを傷つけてしまったのだ。
「記憶喪失はあなたの責任じゃないわ。体の方だってまだ本調子じゃないんだからムチャしちゃダメよ。」
「フォォン…。」
『相棒。気持ちは分かるが、落ち着けって。ほれ、深呼吸深呼吸。』
デルフリンガーに促され、アルマロスは深呼吸した。
「もう……、忘れないでよ?」
「フォン。」
アルマロスは頷いた。
『できねー約束はすんじゃねぇぞ? また忘れるかもしれねーからな。』
「フォオン!」
『おいおい、怒るなって。本当のことだろ? おまえさんの体は、何が起こるか分かったもんじゃないんだからな。』
デルフリンガーの言葉に、アルマロスは口をつぐんだ。
確かに、この世界に来てから、調子がいいとは…、お世辞にもいえなかった。
アルビオンでワルドを倒しきれなかったのがいい例だ。
いつまた何が起こるか分かったものじゃない。デルフリンガーの言う通りだ。
「アルマロス。」
ルイズが呼んだ。
「…ショックだったわ。」
「フォ…。」
「あなたが私を見て、誰なのか分からないって顔をしたのが…。すごく、怖かった…。」
「……。」
「嘘でもいいから約束して。もう忘れないって…。」
「フォォン。」
アルマロスは、ルイズの手を取り、『約束する』と書いた。
『なあ、相棒。おめぇは、間違いなくこの世界の天使じゃねぇ。だからだろうな。もしかしたら記憶がなくなったのも拒絶反応が出たとかかもしれねぇぜ? おまえさんが、このまま娘っ子の使い魔でいられるとは、思えねえんだ。』
「デルフ!」
『娘っ子も思うだろ? いつまでもこの状態が続くって思えねぇだろ?』
「っ…。」
図星を突かれ、ルイズは言葉が出なかった。
確かにこのままでは、いずれアルマロスは……。
しかしそう思っても、方法が分からない。どうすればアルマロスをこの世界に留めておけるのかなんて。
「あっ。」
そこでルイズは、唯一アルマロスについて知識がある人物の顔が浮かんだ。
学院長室にて。
「すまんのう。わしもそれ以上のことは知らんのじゃ…。」
「そうですか…。」
縋る気持ちで尋ねたが、結局何も得られなかった。
「せめて黒い天使さんに会えれば…。」
「フォッ!」
「アルマロス?」
黒い天使と聞いて、アルマロスは過剰に反応した。
アルマロスは、冷や汗をかいて首を振った。
あまりこの話題はしてほしくなさそうだった。
「やはり何か関係があるのかね…“彼”と…。」
「フォオン…。」
アルマロスは、とてもじゃないが話す気になれなかった。
「あまり触れてほしくなさそうじゃな。この話題は終わりにしよう。」
そう言ったオスマンに、アルマロスはお礼を伝えた。
「ともかく、無理はするんじゃないぞ?」
「フォン。」
アルマロスは頷いた。
***
無理をするなと言われたが、アルマロスは、今までの遅れを取り戻すようにダンスと格闘技(体育)の講師をした。
アルマロスの復活を喜ぶ声があがる一方で、心配する声もあがった。
また倒れるのではないか。また記憶を失うのではないかと。
アルマロスは、心配するな、もう大丈夫だと説明した。
しかしそれでも不安はぬぐえない。
アルマロスの授業は前の半分に抑えられ、アルマロスはその分暇を見て余すことになった。やるべきことは、筆談で教師達に伝えた。
『まあ、そう気を落とすなよ、相棒。みんなおまえさんのことを想ってそうしてんだからよぉ。』
「フォオン…。」
『暇なら踊るか?』
「フォン…。」
『見られたら注意されるって? 難儀だね~。慕われるってのも。』
するとアルマロスは立ち上がった。
もう我慢できんと言わんばかりにウォッチャースーツから、踊り子の衣装に変わった。
『お、相棒、踊るのか?』
「アルマロス…。」
「!」
後ろを見るとルイズがいた。
恐い顔をしていた。
「ムチャしちゃダメって言ったわよね?」
「フ…、フォオン…。」
「じゃあなんなのその恰好は? 今から踊ろうとしてたでしょ?」
「……。」
アルマロスは、逃げた。
「待ちなさーーーーい!」
ルイズが追いかけた。
ルイズは早かった。アルマロスは、手加減して走っていた。本気で走ればルイズを巻くなど簡単だがそうはしなかった。
体を動かしたい。その一心だったのだから。なんでもよかったのだ。
っというわけでルイズとの追いかけっこに興じた。ルイズだけは知らない。
散々に走り、アルマロスは、気が付けばルイズが後ろにいないことに気付いた。
どうやら巻いてしまったらしい。仕方ないのでルイズを探すことにした。
寮の廊下を歩いていると、なんだか騒がしい。
するとルイズが部屋の一つから突き飛ばされて出て来た。
「フォン!」
「あ…。」
ルイズがアルマロスを見た。
すると、ルイズの顔が見る見るうちに赤面した。
「?」
「バカバカ! ムチャしちゃダメって言ったでしょ! なのに、なのに!」
ルイズは立ち上がり、アルマロスの胸をポカポカと叩いた。
「……アルマロス。立派な腹筋ね…。」
「フォオン?」
なんだか様子が変だ。
すると部屋の扉から恐る恐るといった様子で、巻き毛の金髪の少女がこちらを見ていた。
「ああ…、なんてことなの…。」
この世の終わりという感じで少女が呟いた。
「モンモランシー?」
するとギーシュの声が部屋の中から聞こえた。
「アルマロス…、ああ、もう素敵なんだから!」
「フォーン!?」
急にルイズが、スリスリとアルマロスの体に抱き付いて頬ずりをしだした。
「なんであなたってば素敵なの! ねえ、どうして? どうして?」
「フォ…フォォン?」
どういうことだと巻き毛の少女を見ると、少女は目をそらした。
「もしやモンモランシー…、ワインに何か仕込んだのかい?」
「……そうよ。ええ、そうよ! あなたがいけないよの、ギーシュ!」
モンモランシーという少女がまくしたてた。
「あなたがあんな一年に手を出すから私…私……。」
「いったい何を仕込んだんだい?」
「……惚れ薬。」
モンモランシーは、ぽつりっと言った。
惚れ薬…。まあ読んで字のごとくであろう。
ルイズは、アルマロスに、素敵、大好き!っといまだ頬ずりをしてきている。
なるほど、理由は不明だが、ルイズは誤って惚れ薬を飲み、アルマロスを見て惚れてしまったのだ。
厄介なことになったと、アルマロスは、額を押さえた。
『モテる男はつらいねー。』
などと囃し立てて来るデルフリンガーを、アルマロスは、べちんっと叩いた。
後書き
次回、水の精霊との……。
ページ上へ戻る