アルマロスinゼロの使い魔
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第十六話 痛み
前書き
アルマロスに異変。
三つ目の神の叡智を手に入れる。
アルマロスがいない。
たったそれだけのことで、ルイズは、不安定になった。
「大丈夫かね?」
「はい…、なんとか…。」
心配したオスマンがルイズのもとを訪ねた。
「顔色が悪いが大丈夫かね?」
「大丈夫です…。」
「…詔の方は?」
「…はい、申し訳ありません。」
「まだ式まで2週間ほどある、ゆっくり考えるがよい。大切な友達の結婚式じゃ、念入りに言葉を選び、祝福してあげなさい。」
「…はい。」
「ところでアルマロス殿はどうしたのかね?」
「……出かけてます。」
「もしや、ミス・ヴァリエールの気分が優れないのは、そのせいじゃないのかね?」
「いえ…そんなことは…。」
「いやいや、間違いなくそうじゃろう? 今すぐアルマロス殿に戻ってきてもらわねばならんじゃろう?」
「でもどこにいるか分かりません…。」
ルイズの目からポロポロと涙が零れた。
オスマンは青ざめ、こりゃ重傷じゃっと焦った。
すぐにオスマンは、アルマロスを連れ戻すため御触れを出した。
***
タルブ村の古い寺院。
そこに神の矢が奉じられていると聞き、来てみた。
「!」
アルマロスが想像した通り、それは、間違いなく神の叡智・ガーレだった。
「なにこれ、輪っか?」
薄黒いそれをキュルケが興味なさげに指して言った。
「フォオン。」
「えっ? これをどこで? えっと…、私のひいおじいさんが、黒い天使様から貰ったって言い伝えられているんですけど…。」
黒い天使?
それを聞いてアルマロスは、眉間を寄せた。
黒い天使と聞いて思い出すのは、ルシフェルのことだ。
自分を冥界へ落ちたイーノックを救うよう諭し、そして冥界に置き去りにした大天使長。
ああ、彼に対してはいい思い出が全くない…。っというか怖い。
「アルマロスさん…?」
ハッとしたアルマロスは、なんでもないと身振り手振りで伝えた。
「しかしこんな薄汚れた輪っかが、神の矢だって? やっぱり地図は偽物だったんじゃないか。」
ギーシュが心底がっかりしたと言わんばかりに言った。
「フォオン。」
するとアルマロスがガーレを掴んだ。
「アルマロスさん?」
「ダーリン、何をする気?」
彼女らが言うよりも早く、アルマロスは、ガーレを撫でるように触れた。
すると光り輝き、白く輝きだしたガーレ。
「こ、これって!」
「もしかして今までダーリンが使ってた武器と同じ?」
「フォオン。」
アルマロスは、そうだと返事を返した。
その時。
ズキッとアルマロスの右胸に痛みが走った。
あまりの痛みに右胸を押え、へたり込んだ。
「ダーリン!?」
「大変! アルマロスさん、大丈夫ですか!」
「…フォオン。」
アルマロスは、やや冷や汗をかきながら大丈夫だと身振り手振りをした。
ガーレを寺院に置いておき、アルマロスを休ませるため、シエスタの家に行った。
シエスタは、八人兄弟の長女だった。
シエスタの弟や妹達は、シエスタからの手紙でアルマロスのことを知っていたのでアルマロスのところに集まってきて興味津々にしてた。
シエスタの父母は、アルマロスを怪訝そうな顔で見たが、シエスタから説明を受け、いつまでも滞在していてくれていいと言ってくれた。
しばらく休んだアルマロスは、シエスタが言っていた草原を見てみたいと言い(筆談)、シエスタに案内されて草原に行った。
草原は広く、ところどころに花が咲いていて、シエスタの言う通り綺麗な草原だった。
吹き抜ける風も気持ちよく、アルマロスは、眩しそうに目を細めた。
「綺麗でしょう? これが見せたかったんです。」
「フォォン。」
「…私のひいおじいさんの話を、誰も信じなかったそうです。」
シエスタは語りだした。
黒い天使にガーレを託されたことを、シエスタの村の人々は信じなかったそうだ。
天使が黒いというのだって信じられない話だっただろうし、天使の存在が実在するのかどうかすら怪しかったのだ。
最初こそ村を襲うオーク鬼や狂暴な幻獣を一撃で倒すほどの威力を発揮していた神の矢も、すぐに使い物にならなくなり、寺院に奉じられるのだそうだ。
「でもアルマロスさんが触ると、光り輝きましたよね? 天使様からもらったっていうのは本当なのかなぁ?」
「……フォオン。」
今自分は堕天使なのでなんとも言えない。
「あのよかったら、あれ…、神の矢を持って行ってください。ひいおじいさんの遺言であれの光を取り戻せる者が現れたら、渡す様にって言われているんです。」
「フォォン?」
いいのかっとアルマロスは、聞いた。
「いいんです。今ではたまにお年寄りの方がお参りをするだけで、村では邪魔になってたんです。」
そうか、ならもらおうっとアルマロスは頷いた。
「ダーリーーーン!」
キュルケが走ってきた。
「学院からすぐ帰って来いってフクロウから伝書が届いたの。ルイズが大変ですって。」
「フォオン!」
「私達もサボりまくったから先生達カンカンよ。大変~。」
こうしてアルマロス達の宝探しは終わった。
***
「アルマロスのバカ---!」
「フォーン!?」
帰って来るなり、そんな第一声が飛んできた。
「ほんとに、ほんとに行くことないじゃないの!」
いや…そう言われても…っと、アルマロスが思っていると、ルイズがポロポロと涙をこぼしだした。
「もう、嫌い、大っ嫌い!」
「フォオン…。」
「バカ、嫌い……。嘘よ…ごめんなさい…。」
なんだかとっても情緒不安定な様子である。
「おお、やっと戻ってきたかね。」
オスマンが出迎えた。
「もう大変じゃったんじゃよ? これからはできる限りミス・ヴァリエールから離れんでいてくれんかね?」
「フォオン。」
なんだから自分がいない間、ルイズは大変だったらしいことが分かった。
「うう~。」
ルイズを落ち着かせるため、ルイズを抱きしめると、抱きしめ返された。
ポンポンと背中を叩き、頭を撫でる。
アルマロスの胸に顔を押し付けグスグスと泣いていたルイズはやがて落ち着いた。
「別に…心配してたわけじゃないんだからね?」
「フォォン。」
「ところで何か収穫はあったわけ? 宝探しに行ってたんでしょ?」
「フォ。」
アルマロスは、ガーレを見せた。
「何それ? もしかして、それがガーレ?」
そうだとアルマロスは頷いた。
「ええ、やっぱりあったんだ。」
やはりこの世界には、アルマロスがもといた世界の技術が流出している。理由は分からない。
すると風が吹いた。
冷たい風だった。
「また…。」
ルイズが眉間を寄せた。
アルマロスは、空を見上げた。
雲がかかって少し灰色がかった空から、僅かな雪がちらついた。
雪とは…、こんなに嫌なものだっただろうか?
なんだか嫌な感じがする冷たい風と、雪にアルマロスも眉間を寄せた。
ズキリッ
「フォ…!」
「アルマロス? アルマロス!」
急に痛み出した右胸を押え、アルマロスは膝をついた。
アルマロスは、そのまま倒れた。
ルイズの悲鳴と心配する顔が、アルマロスが最後に聞いて見たものだった。
***
『イーノックだけでも助かってよかったよ。おまえも嬉しいだろう?』
ああ、自分は許されないのだ。
黒い彼に冥界に置き去りにされ、ベリアルの闇に飲まれた。
次に意識を取り戻した時、再びイーノックと対峙していた。自分はもうネザー体に変化していて自分が自分なのか分からない状態だった。
早く。早く。自分を止めてくれと願った。自分を倒してくれとイーノックに向けて願った。
そして崩れいく体。闇の瘴気が溢れ出る中、声の出ない口を動かし、お礼の言葉を言った。
ありがとうっと。
そして、すべてが闇に染まり、気が付くと、自分は……。
アルマロスは、そこで目を覚ました。
ふと横を見ると、ベットの端に顔を伏せているルイズの頭があった。
ここは、保健室だろうか、ベットの上に寝かされていた。
「フォオン…。」
「あ…、アルマロス?」
ルイズが顔を上げた。彼女の目に涙が浮かぶ。
「バカ…、バカバカバカバカ! 心配させないでよ!」
ルイズがアルマロスの体に抱き付いた。
グスグスッと泣くルイズの頭を撫でた。
心配させてごめんっと。
「急にどうしたのよ?」
「フォオオン。」
ルイズの手に字を書いた。
急に胸が痛んだと書いた。
「大丈夫なの?」
もう大丈夫だと伝えた。
ルイズの手がアルマロスの右胸を撫でた。
「これが原因?」
それは分からない。
けれど右胸が痛んだのだ。
原因について考えられるのは、やはり右胸のルーンくらいだ。
「ねえ、アルマロス…、死んじゃったりなんて…しないわよね?」
ルイズをおいて死ぬわけにはわけにはいかない。
けれど…、もし…もしものことがあったら…。自分は…。
「アルマロス。ダメよ。絶対ダメだから! もし何かっても命を無駄にしないで!」
アルマロスの考えを呼んだのかそんなタイミングでルイズが叫んだ。
アルマロスは、苦笑し、ルイズの頭を撫でる。
ダメと言われても、自分は……きっと…。
冥界に攫われた少女を助けるために躊躇いもなく冥界に飛び込んでいったイーノックのように、躊躇いはしないだろう。
ふと窓を見ると、また雪が降っていた。
なぜだろう。
あの雪を見ていると、とても不吉な気持ちになる。
その不吉は、間もなく現実となる。
アルビオン共和国、レコン・キスタがトリスティンに侵攻してきたのである。
後書き
次回、タルブ戦。
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