アルマロスinゼロの使い魔
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第十話 亡国と堕天使
前書き
亡国の前夜。
なぜウェールズが、空賊を装っていたのか。
簡潔にまとめると…。
反乱軍への補給を絶つため。だが堂々と旗を立てるわけにはいかないから。らしい。
「いやあ、大使殿には誠に失礼を致した。しかしながら、君達が王党派ということが中々信じられなくってね。」
ウェールズは試すようなマネをしてすまなかったと、謝罪した。
そこまで言ってもルイズはまだ口をポカンとさせていた。
急に目的の皇太子が目の前に現れたのだ。心の準備ができていない。
「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました。」
代わりにワルドが優雅に頭を下げて言った。
「ふむ姫殿下とな。君は?」
「トリスティン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。そしてこちらが姫殿下より大使の退任を仰せつかったラ・ヴァリエール嬢と、その使い魔でございます。殿下。」
「なるほど! 君のような立派な貴族が私の親衛隊に十人ばかりいたら、このような惨めな今日を迎えることもなかったろうに。して、その密書とやらは?」
言われてルイズは、慌てて手紙を取り出した。
そして恭しくウェールズに近づこうとして途中で止まった。
「あ、あの…。」
「なんだね?」
「その、失礼ですが、本当に皇太子さま?」
それを聞いたウェールズは笑った。
「まあ、さっきまでの顔を見れば、無理もない。僕は、ウェールズだよ。なんならその証拠をお見せしよう。」
そう言ってウェールズは、ルイズの右手の指にある水のルビーを見ながら言った。
するとウェールズは、自分の右手の指輪を外し、ルイズの手を取り、水のルビーに近づけた。
すると二つの石は共鳴し合い、虹色の光を振りまいた。
「この指輪は、アルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。君のはめているのはアンリエッタがはめていた水のルビーだ。そうだね?」
ルイズは頷いた。
「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ。」
「大変、失礼をばいたしました。」
ルイズは、一礼して手紙をウェールズに渡した。
ウェールズは、手紙を開き、読み始めた。
やがて顔を上げ。
「姫は結婚するのか? あの愛らしいアンリエッタが。私の可愛い…、従弟が…。」
そう呟くウェールズに、ワルドが頭を下げて肯定した。
「了解した。姫は、あの手紙を返してほしいとこの私に告げている。何より大切な、姫から貰った手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう。しかしながら今は手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。多少面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい。」
こうしてニューカッスルの城へ向かおう事になった。
しかし真っ直ぐにはいかない。
ジグザグに進み、やがて雲の中から巨大な船が現れた。
その船がかつて、ロイヤル・ソルヴリンと呼ばれた船だったが、今では貴族派に奪われ、レキシントン号と呼ばれていると説明された。
それからはまさに空賊のように見事な指示で、空を飛び、敵が知らない秘密の港に船を置いた。
そこは鍾乳洞で、コケが光っている。
ウェールズに促されて、ルイズ達は船を降りた。
それからウェールズとルイズ達を出迎えた老メイジが、ウェールズからマリー・ガラント号に積まれていたのが硫黄だと説明をうけると、それはそれは喜んだ。
彼らは言った。
これで王家の誇りと名誉を、示しつつ、敗北できると。
彼らはすでに敗北することを心に決めたうえで、戦って散ろうとしているのだ。
アルマロスは、ここにいる者達を見渡し、それを感じ取り、拳を強く握った。
ルイズも顔色を悪くしている。若い彼女にとって敗北による死はおそらく夢のまた夢のような話だっただろう。
ルイズ達は、パリーというその老メイジに歓迎され、最後の戦いに向けた最後の祝宴に招かれることになった。
***
ニューカッスル城へ案内されたルイズ達は、ウェールズの部屋へ案内された。
そこに問題の手紙があるらしい。
その部屋は、皇子の部屋とは思えないほど簡素だった。
ウェールズは、机から宝石が散りばめられた小箱を出し、その箱の鍵を開けた。箱の内側には、アンリエッタの肖像画が描かれている。そこに一通の手紙が入っていた。
何度も読み返したのだろう。手紙はボロボロで、ウェールズは、愛おしそうに手紙に口づけ、手紙を読み返した。
それから手紙を丁寧にたたみ、封筒に入れると、ルイズに渡した。
「このとおり、確かに返却したぞ。」
「ありがとうございます。」
ルイズは、深々と頭を下げた。
それからウェールズは、明日イーグル号が非戦闘員を乗せて出航するから、それに乗ってトリスティンに帰るようにと言った。
ルイズは、躊躇いがちに、聞いた。
王党派に勝ち目はないのかと。
ウェールズは、首を振った。
ウェールズ達は、300。敵は5万。とてもじゃないが万に一にも勝ち目がないのだと。
本当にギリギリだったのだと、アルマロスは思った。
あと少し遅かったらウェールズは、死んでいた。手紙も敵の手に渡っていただろう。
ルイズは、聞こうとした。
ウェールズとアンリエッタは、恋仲だったのじゃないかと。
ウェールズは、微笑んだ。
手紙の内容が恋文であること。アンリエッタが永久の愛をウェールズに誓っていることを。
それはそれは、愛おしそうに。切なそうに。
「殿下、亡命なさいませ!」
ルイズが叫んだ。
しかしウェールズは、首を横に振った。
それでもルイズは懇願した。亡命してくれと。生きてくれと。
アルマロスは、そんなルイズを見て、辛そうに目をそらした。
「君は正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。正直で、真っ直ぐで、良い目をしている。忠告しよう。そのような正直では大使は務まらぬよ。しっかりしなさい。」
ウェールズは、微笑んで、ルイズの肩を叩いた。
「そろそろパーティーの時間だ。君達は我らが王国が迎える最後の客だ。是非とも出席してほしい。」
ルイズとアルマロスは、退室し、ワルドは居残って、一礼した。
「まだ何か御用かな? 子爵殿。」
「恐れながら殿下にお願いしたい議がございます。」
「なんなりと伺おう。」
ワルドは、ウェールズに自分の願いを語った。
「なんともめでたい話じゃないか。喜んでお役目を引き受けよう。」
ウェールズは、にっこりと笑った。
***
明日滅びるというのに、華やかなパーティーだった。
ルイズとアルマロスは、会場の隅で、パーティーを見ていた。
「明日でお終いなのに…、随分と派手なものね…。」
「フォオン…。」
「終わりだからこそ、ああも明るく振る舞っているのだ。」
ワルドが来て、そう言った。
すると貴婦人達の歓声があがった。ウェールズが登場したのだ。
あれだけ凛々しい男が現れたら、どこでも人気があるだろう。
それからは、誰も暗いことを一言も言わず、笑い、歌い、飲み、食い、華やかなパーティーとなった。
アルビオン万歳っと叫ぶ彼らの声。
ルイズは、この場の空気に耐えられなくなったのか、外へ行ってしまった。
アルマロスは、すぐにその後を追おうとした。
するとワルドがアルマロスの肩を叩いた。
「明日、僕はルイズとここで結婚式をあげる。」
「フォォン?」
「是非とも、僕たちの婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕たちは式を挙げる。」
「……。」
アルマロスは何も言わなかったし、何も言えなかった。彼は声を持たない。
「君も出席してくれるかい?」
「フォオン…。」
自分はルイズと共にあるのだと、いうふうに、ワルドを見て、アルマロスは声を出した。
「そうか。頼もしい使い魔だね。君は。」
その一声で何が言いたのか察したワルドは、笑った。
そしてアルマロスは、ルイズを追って去った。
***
暗い廊下を小走りで進んでいくと、ルイズを見つけた。
「フォオオン。」
「アルマロス…。」
ルイズがハッとしてアルマロスを見た。
ルイズは、泣いていた。
ルイズは、ふらふらとアルマロスに近づき、ポスッとアルマロスに抱き付いた。
「嫌だわ…、あの人達…。どうして死を選ぶの…?」
アルマロスは、ルイズを見おろした。
「ねえ、アルマロス…、あなたはどう思う? 人間のために人間が死ぬの…、誇りだとか、名誉だとかのために、死ぬの。貴族だとか王族だとか、そんなもののために死んでいくの…。私だって口じゃヴァリエール家のためだとか、名誉だとか言ってても、怖いわ…。なのにあの人達は…。」
アルマロスの腰に手を回しているルイズの手に力がこもる。
「あなたの世界の人間はどうだったの? あなた達堕天使のために命を捧げたりしたの? アルビオンの王党派のあの人達のように死んでいった人達もいたんでしょう? それでもあなた達は堕天してよかったって思ってたの? ねえ、……答えてよ。」
「フォオオン…。」
言葉を失っているアルマロスは、ルイズの頭を撫でた。
自らの死の意味を選べることも、また可能性の一つなのだと、そう言いたかった。
でも、言えなかった。
「トリスティンに帰りたい…。この国嫌い。あの皇子様もよ…、残される人達のことなんて考えてないんだわ。」
アルマロスに顔を押し付けて、泣きながら呟き続けるルイズの頭を、アルマロスは撫で続けた。
「アルマロス…、アルマロスぅ…。」
「フォオン…。」
確かめるように名前を呼んでくるルイズに、アルマロスは返事を返した。
明日、ウェールズ達は死ぬ。
人間の儚さに触れ、アルマロスの目から、一筋の涙が零れた。
ルイズは、そのことに気付かなかった。
後書き
原作主人公サイトより、懐いてるルイズです。
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