アルマロスinゼロの使い魔
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第八話 疾風のワルド
前書き
アルビオンへ出発。
ワルドと初遭遇。
朝もやの中、ルイズとアルマロス、そしてギーシュは、馬の準備をしていた。
ルイズは、乗馬用の靴を履いている。かなりの遠乗りになるようである。
「すまないが…、僕の使い魔を連れて行っていいかい?」
「使い魔? どこにいるのよ?」
「ここさ。」
ギーシュは、地面を指さした。
するとギーシュは、足で地面をたたいた。
すると、モコモコと地面が盛り上がり、顔を出したのは、大きなモグラだった。
「ヴェルダンデ! ああ、僕の可愛いヴェルダンデ!」
ギーシュは、愛おしそうにそのモグラを抱きしめた。
「あんたの使い魔、ジャイアントモールだったの?」
「そうだ。ああ、ヴェルダンデ、君はいつも見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい? そうか、それはよかった!」
嬉しそうに鼻をひくつかせるヴェルダンデを、ギーシュは、また抱きしめてスリスリと頬ずりをした。
アルマロスは、よっぽどこのモグラのことが好きなんだなっと、ギーシュとヴェルダンデを見ていた。
「ねえ、ギーシュ、ダメよ。その生き物、地面の中を進んでいくんでしょ? 私達はこれからアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れて行くなんて、ダメよ。」
アルマロスは、それを聞いて、はてっ?と思った。地面を掘り進んでいけないなんて、アルビオンとはどんなところなんだろうと思った。
ギーシュは、地面に膝をつき。
「そんな…、お別れなんて辛い。辛すぎるよ…。」
っと、泣きそうな声でブツブツと言っている。
すると、ヴェルダンデは、鼻をクンクンとさせて、ルイズにすり寄って行った。
「な、なによ、このモグラ…。キャっ!」
突然ヴェルダンデは、ルイズを押し倒して鼻で体をまさぐりだした。
「や! このモグラ、どこ触ってるのよ! 助けてアルマロス!」
「フォオオオン!」
アルマロスはヴェルダンデの首根っこを掴んでルイズから引き離した。
しかしヴェルダンデは、ジタバタと暴れ、アルマロスの手から逃れると、またルイズにすり寄った。
ヴェルダンデは、ルイズの右手、彼女の薬指にある水のルビーにクンクンと鼻を寄せた。
「なるほど、指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね。」
「フォオオン!」
「怒らないでくれたまえ。ヴェルダンデは僕のために貴重な宝石や鉱石を僕のために見つけてきてくれるんだ。土の系統のメイジの僕にとって、この上もない素敵な協力者なのさ。」
その時、一陣の風がヴェルダンデを吹き飛ばした。
「ヴェルダンデ! 誰だ!」
ギーシュが激昂した。
見ると、そこには羽帽子の男が立っていた。
あの羽帽子には見覚えがあった。
「僕のヴェルダンデに…。」
ギーシュが薔薇の杖を掲げた。
しかしそれよりも早く、羽帽子の男が杖を引き抜き薔薇の杖を吹き飛ばした。
「僕は敵じゃない。姫殿下より、君達に同行することを命じられてね。しかし、しかしお忍びの任務であるゆえ、一部隊をつけるわけにわいかぬ。そこで僕が指名されたわけだ。」
男は、羽帽子を外し、一礼した。
「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。」
ギーシュは、それを聞いて目を見開き、そして項垂れた。
魔法衛士は、全貴族の憧れであるからだ。ギーシュも例外ではない。
「すまない。婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬふりはできなくてね。」
「ワルド様…。」
アルマロスは、ワルドという男と、ルイズを交互に見た。
ああ、なるほどっと、ポンッと手を叩いた。
だからルイズは、彼に見惚れていたのか。婚約者だったのなら致し方ないっと思った。
「久しぶりだな、僕のルイズ。」
しかも僕のルイズときたものだ。ワルドは、ルイズを抱きかかえた。
「相変わらず軽いね、まるで羽のようだ。」
「…お恥ずかしいですわ。」
ルイズは、頬を染めた。
そんなルイズは、アルマロスは、ニコニコ笑って見ていた。
こんな素敵な男が婚約者にいたなんて、すごいじゃないかと純粋に思っているのだ。
それからルイズは、ワルドに促されて、アルマロスとギーシュを紹介した。
「使い魔が人とは思わなかったな。」
「えっと…あの…。」
「だがただの人間ではないね…。」
ワルドが目を細めた。
アルマロスは、普通の服を身に着けており、ウォッチャースーツは着ていない。しかし滲み出る人ならざるオーラは隠しきれていないのだ。
ルイズは、ドキリッとした。
堕天使だなんて言えない。だがいずれはバレる。今この場で言えばいいのかどうするか、ルイズは悩んだ。
アルマロスは、ルイズの手を取り、話してもいいよっと書いた。
「? 彼は喋れないのかい?」
「はい…。」
「フォォォオオン。」
「!」
「……こんな声しか出せないんです。」
「驚いた…。急に聞いたらびっくりするよ。」
「そうですよね…。」
だがルイズは、アルマロスが堕天使だとは言えなかった。
アルマロスは、そのことを気にかけたが、ルイズが言いたくないのなら仕方ないと思った。
「では、諸君。出撃だ!」
ワルドは、ルイズを抱えたままグリフォンに乗り、出発の合図をした。
アルマロスも、ギーシュも馬に乗り、グリフォンの後に続いた。
***
出発してみると……。
まあしんどいのなんのって…。
グリフォンに乗ったワルドが全然止まってくれないのである。
アルマロスは大丈夫だが、ギーシュが大変だ。
途中の駅で、何度か馬を乗り換えたほどだ。すでにギーシュは、馬の背にぐったりと乗っている状態だ。どう見ても限界そうだ。
「フォオオオオン!」
アルマロスが大声を上げて前を進むグリフォンに訴えた。
「ねえ、ワルド。ペースが速すぎるわ。ギーシュがへばってる。限界よ。」
「ラ・ローシェルの港町まで、止まらずに行きたいんだが…。」
「無理よ、普通は馬で二日かかる距離なのよ?」
「へばったら置いていけばいい。」
「そういうわけにはいかないわ!」
「どうして?」
「だって仲間じゃない…。それに使い魔を置いていくなんて、メイジのすることじゃないわ。」
「やけにあの二人の肩を持つね。どちらかが君の恋人かい?」
「恋人なんかじゃないわ!」
ルイズはすぐ否定した。
「そうかならいいんだ。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうよ。」
そう言いながらワルドは笑っていた。
「フオオオオン!」
更にアルマロスが訴える声を上げた。
「ねえ、本当に休みましょうよ。」
「頑張ってくれってエールを送ってやってくれ。」
「うう……、アルマロス、ごめん! ギーシュがんばって!」
どうしても止まってくれそうにないワルドに、ルイズは申し訳ない気持ちで一杯になり、後ろにいる二人に向かってそう叫ぶしかできなかった。
それを聞いたアルマロスは、ギーシュを心配しながら馬を走らせ続けた。
***
馬を何度も乗り換え、月ももう空に浮かんだ夜。辿り着いたのは、山道だった。
「?」
確か港町に行くと言っていたはずだが、港がある場所じゃない。水の匂いがしない。かといって潮の匂いもしない。
「君はアルビオンを知らないのかい?」
「フォォン。」
ギーシュの言葉にアルマロスは頷いた。
その時、アルマロスは、嫌な気配にハッとした。
横の崖から松明が何本も飛んできて、道を照らした。
いきなり飛んできた松明の炎に、馬が驚いて、アルマロスとギーシュを放り出した。
そこへ矢が飛んでくる。
アルマロスは瞬時にベイルを出すと、ギーシュの上に降り注ごうとした矢を防いだ。
「すまない!」
「フオオン!」
いいから逃げろという風にアルマロスは叫んだ。
さらに降り注ぐ矢の雨。
すると小さな竜巻が起こり、それを防いだ。
「大丈夫かね!」
「大丈夫です!」
グリフォンに乗って駆けつけてきたワルドに、ギーシュが答えた。
「まさかアルビオンの貴族の仕業?」
「いいや、貴族なら弓矢は使わないさ。」
疑問を飛ばすルイズに、ワルドがそう言った。
すると、バサバサという大きな羽音が聞こえてきた。
崖の上にいる者達が慌てる声が聞こえた。
彼らは、攻撃対象を竜に向けたが、風が起こり彼らは崖から落ちて来た。
しこたま背中を打ち付けた彼らは、呻き動けなくなった。
「あれは…、風竜! タバサなの!?」
ルイズが叫んだ。
すると風竜から飛び降りて来る人間がいた。キュルケだった。
「おまたせ!」
「おまたせじゃないわよ! なにしに来たのよ!?」
「朝方窓から見たらあなた達が馬に乗って出かけようとしてたのを見たのよ。それで急いでタバサを叩き起こして後をつけてきたの。もうダーリンがいるからびっくりしちゃって居ても立っても居られなかったのぉ。」
「フォォン…。」
すり寄って来るキュルケに、アルマロスは、困った顔をした。
ルイズは慌ててグリフォンから降り、アルマロスを掴んでキュルケから引き離した。
「これはお忍びなの! あんた達はお呼びじゃないのよ!」
「それならそうと言いなさいよ。助けてあげたんだから感謝してよね。」
「誰が…。」
「あんたを助けたんじゃないわ。ダーリンを助けに来たの。それと…。」
キュルケはワルドを見た。
「おひげが素敵。あなた、情熱はご存知?」
「助けは嬉しいが、これ以上近寄らないでくれたまえ。」
「なんで? どうして?」
「婚約者が誤解するといけないからね。」
「なあに? あんたの婚約者だったの?」
つまらなさそうに言いながらキュルケがルイズを見た。
ルイズは、アルマロスの斜め後ろで恥かしそうにもじもじとしだした。
「あ、違うのよ。ダーリン。あたしってばついつい…。一番は、あなたよ?」
「フォォン…。」
そんなことを言われても信用ならない。キュルケの移り気は相当なものだというのをこの短期間で十分知ったつもりだ。
サリエルだったなら、あらゆる女性の一面を受け入れたうえで愛するのだろうが…。
ああ、今思えばサリエルってすごかったんだなぁ…っと、アルマロスはもの思いにふけていた。
それから襲って来た者達に尋問したギーシュが、彼らがただの物取りだと主張しているのを聞きだし、ワルドが捨て置こうと言って、一行はラ・ローシェルの街へ入った。
街に入ってみて、やっぱり船がないなぁ…っと、アルマロスは、街を見回して思った。
***
ラ・ローシェルの一番の宿を借り、一階の酒場でくつろぐ一行。
「アルビオンへの船は、明後日にならないと出ないそうだ。」
「急ぎの用なのに…。」
ルイズは、唇を尖らせた。
「ねえ、ダーリン。酔っちゃたわ~。」
そう言ってアルマロスの腕にしなだれかかって来るキュルケ。
「アルマロス! 嫌ならちゃんと断るのよ!」
「フォォオン…。」
「やだ、ダーリンったら、ちょっとくらい腕貸してくれてもいいでしょう?」
そう言われると断りづらくなる。
別に嫌いでないから困るのだ。
「アルマロスってば!」
「まあまあ、ルイズ。」
「ダメ! ダメよ! きちんと断らなきゃずっと付きまとわれるわ! そんなんでいいの!?」
「! フォオオン!」
「きゃっ! だ、ダーリン…。」
少し強引にアルマロスは、キュルケを引き離し、立ち上がった。
キュルケは、戸惑い目を潤ませた。
その目に罪悪感が湧くが、ここで強く出ないと本当にずっと付きまとわれてしまうだろうからアルマロスは我慢した。
「ごめなさい…、ダーリン。もうしないから許して?」
「フォオン?」
本当かというふうにアルマロスが声を出した。
「本当よ? 許してくれる?」
「フォオン。」
「よかった!」
キュルケは、喜び、笑顔でアルマロスに抱き付いた。
「この色ぼけキュルケ! 何してんのよ!」
キーッと怒ったルイズが、キュルケとアルマロスを引き離そうとして、間に入ろうとした。
「やれやれ…、使い魔君はずいぶんと好かれているんだね?」
「フォオン…。」
呆れて言うワルドの言葉に、困ったアルマロスが声を漏らした。
「さて、そろそろお開きにして、部屋で休もう。」
そう言ってワルドは、鍵束を机に置いた。
「タバサとキュルケは、相部屋。ギーシュとアルマロスは相部屋。そして、僕とルイズは相部屋だ。」
それを聞いてルイズは、慌ててワルドを見上げた。
「だ、ダメよ! 私達まだ結婚もしてないのに…。」
「大事な話があるんだ。二人きりで。」
ワルドはそう言った。
「えー、私ダーリンと一緒がいいわぁ…。」
「危険。」
「冗談よ。」
タバサに手を掴まれ、キュルケはそう返した。それを聞いて、アルマロスは内心ホッとした。
ルイズは、アルマロスを見た。
「?」
何か言いたげなルイズに、アルマロスは、キョトンっとした。
だが結局ルイズは何も言わず、ワルドと共に自分達の部屋へ行ってしまった。
***
翌朝、ギーシュとアルマロスの相部屋に、ワルドが訪れた。
「やあ、使い魔君。おはよう。」
「フォオン?」
「君は、伝説の使い魔ガンダールヴなんだろう?」
言われてアルマロスは、自分の左手を見た。
たしかこれがガンダールヴというルーンだったはずだ。
「フーケを捕えるのに君は大きく貢献したと聞いている。それで興味を持ったんだ。それで調べてみたらガンダールヴに行き着いた。僕は、君の腕に興味がある。どうだろう? ひとつ手合わせを願えないかい?」
「フォオン!?」
つまり戦えということかと、驚いたアルマロスは、両手をあげて首を横に振った。
「君は人間ではないのだろう? そんなに気を使わなくていいんだ。」
「!」
「それに君の立ち姿、佇まいといい、素人じゃない。かなりの達人と見ている。僕も魔法衛士隊長として腕に自信はある方だが、どうかね? 使い魔とは、主人を守る者だ。婚約者の使い魔が弱くては困るのだよ。」
「……フォォオン。」
アルマロスは、ワルドをまっすぐ見据えて、本当にいいのかというふうに声を出した。
「もちろんだとも。戦ってくれるね?」
ワルドが聞くと、アルマロスは、頷いた。
ワルドは、微笑み、戦う場所へアルマロスを案内した。
場所は、昔錬兵場だった所だ。
そこになぜかルイズがいた。
「ワルド…、来てっていうから来てみたけど、これはどういうことなの?」
「彼と手合わせをしようと思ってね。君には介添え人になってもらいたい。」
「なっ…!」
ルイズは大きく目を見開いた。
「だ、ダメよ! ワルド、ダメよ! アルマロスもなんで了承してんのよ!」
「彼を責めないでやってくれ、こうなるよう仕向けたのは僕なんだ。」
「とにかくダメよ! 風を操るギトー先生でも手も足も出なかったのよ!? いくらワルドが疾風の二つ名を持ってるからって…。」
「ほう、そうなのかい? それはますます興味が湧いたよ。ぜひとも戦いたい。」
「フォオオン。」
「アルマロス、ダメ!」
「では、介添え人も来たことだし、初めよう。」
ルイズは、あわあわと二人を交互に見た。
アルマロスは普通の衣服のまま構えた。
「おや? 武器を使わないのかね?」
「フォ?」
「ガンダールヴは、あらゆる武器を操ったと聞く。剣を持っているのなら武器を使ってほしいのだが…。」
『仕方ねぇな。相棒、俺を使え。』
アルマロスは、しぶしぶデルフリンガーを抜いた。
しかしガンダールヴのルーンは反応しない。
それを見たワルドは、眉を寄せた。
アルマロスが動いた。
ワルドは、ハッとしてすぐに杖を抜いてアルマロスからの一撃を受け止めた。
「くっ、重いな…。」
「フォオオオン!」
「だが君はどうやら武器は得意じゃなさそうだね。嗜みはあるようだが。」
「フォオオオオン!」
ワルドの杖と、アルマロスが振るうデルフリンガーがぶつかり合う。
それは殺し合いではなく、試合だった。
お互いに急所は狙わず、互いの腕を確かめ合うそれだ。
だが身体能力の差からワルドが若干押されていた。
「そこまで! もうやめて!」
「……やめよう。」
「フォォオン…。」
ワルドとアルマロスは、互いの武器を納めた。
「分かったでしょ、ワルド! アルマロスは強いのよ! だってアルマロスは…。」
「人間じゃないか…。」
「っ…!」
ずばり言われ、ルイズはぎくりっとした。
「君は一体何者なんだい?」
「フォォン…。」
アルマロスは、ワルドの手を取り、そこに指で字を書いた。
自分は堕天使だと。
「だ、堕天使!」
「アルマロス! その…ワルド…。」
ルイズは、焦った。
「驚いたね…。だが本当に堕天使なのかい? そんなふうには全く見えないよ…。嘘じゃないかい?」
ワルドが疑うと、アルマロスは、ブンブンと首を振った。
「しかし身体能力は人間のソレを遥かに超えているようだし…、本当なんだろうね。だがあまり触れて回らない方がいいだろう。このことは黙っておくよ。」
「ワルド…。」
ルイズは、ホッとした。
アルマロスが堕天使だということが広まって、もしアカデミーにでも知られたら……。
ルイズは、アルマロスを見上げた。それに気づいたアルマロスもルイズを見た。
「アルマロス…、自分の正体のことはあまり人に言わないで。ね?」
「フォオン…。」
でも…っと言いたげにアルマロスが声を漏らした。
「あなたに何かあったら私…。」
俯くルイズの頭に、アルマロスは手を置いて撫でた。
その優しい手つきが、大丈夫だ、問題ないと言っているようで、ルイズは、涙が込み上げてくるのを感じて我慢した。
そんな二人を、ワルドは見ていた。
後書き
ワルドに、正体を明かしたアルマロス。
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