アルマロスinゼロの使い魔
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第四話 喋る剣
前書き
デルフリンガーとの出会い。
翌日、予定通りルイズは、アルマロスを連れて城下町へ行くことにした。
「アルマロス。馬乗れる?」
聞くと、アルマロスは頷いた。
馬の首を撫でながらアルマロスは、軽々と馬に乗って見せた。
質素な僧侶服のような格好だが、なぜか様になる。
いらぬ心配だったとルイズは肩を落とし、自分も馬に乗った。
学院から馬で約3時間走ったところに城下町がある。
馬を駅に置き、二人は歩き出した。
やはりというか予想通りというか、アルマロスは目立った。
隠しきれない人ならざるオーラもあるのだろうが、質素な服を身に着けていても目立った。立ちゆく人たちが必ずと言っていいほどアルマロスを見るのである。
一方でアルマロスは、キョロキョロと楽しそうに街を見回していた。その様は、子供のようである。
声を出したいのを必死に抑えているのか、時々口を押えている。
アルマロスを街に連れてきて正解だったのか、不正解だったのか、ルイズは悩んだがアルマロスが楽しそうなので良しとすべきかと思った。
しかし、ふいにアルマロスが立ち止まった。
「どうしたの?」
ルイズが声をかけたがアルマロスは、宙を見上げているだけで反応しない。
すると、突然アルマロスが路地裏に入って行った。
「アルマロス!」
ルイズは慌てて後を追った。
何かに導かれるように動くアルマロスの後ろを必死に追いかけた。
「アルマロスってば! ブッ!」
しばらく歩いて急に立ち止まったのでその背中に思いっきりぶつかってしまった。
「ちょっと、急に止まらないでよ!」
「? フォン。」
今気付いたと言う風にアルマロスが振り向いて声を漏らした。
「どうしたのよ、急に。」
ルイズが聞くと、アルマロスは困ったように頬を指でかいた。
「? 本当にどうしたの?」
アルマロスは、ルイズの手を取り、手のひらに『よく分からない』っと書いた。
ルイズは、はあっ?っと声を出した。
アルマロスは、キョロキョロと周りを見回して、すぐ横にある店を見た。
「ここは、武器屋ね。でも武器なんていらないんじゃないの?」
ギーシュの青銅のゴーレムを素手で破壊するほどなのだ、正直武器なんていらないだろうとルイズは思った。
「フォォン。」
それはどうだろうと言いたげに、アルマロスが声を漏らした。
「武器、ほしい?」
聞くと、アルマロスは頷いた。
「じゃあ、買ってあげる。でもあんまり高いのは買えないわ。それでもいい?」
更に聞くとアルマロスは、うんうんと頷いた。
二人は武器屋に入った。
「らっしゃい。」
店主の男が奥にいた。
「武器を見せてくれる?」
「奥様、貴族の奥様、うちはまっとうな商売をしてまさあ。お上に目を付けられるようなことなんか、これっぽっちもありまんせや。」
「客よ。」
「こりゃ、おったまげた、貴族が剣を! おったまげた!」
っと店主はわざとらしいくらい驚いていた。
アルマロスは、キョロキョロと店に飾られた武器や、束で置かれた武器を見ていた。
『ジロジロ見てんじゃねぇぜ!』
剣の束を見ていたら、突然店主の声じゃない男の声が聞こえてきて、アルマロスもルイズも驚いた。
「誰よ?」
「やい、デル公! 黙ってろ!」
「でるこう?」
アルマロスは、声がした方を探して、乱雑に置かれた剣の束の中を探った。
『あ、こら! さわんじゃねぇよ!』
「フォ。」
アルマロスは、その中から一本の長剣を手にした。
剣は錆びれており、お世辞にも見栄えが良くない。
しかしデル公と呼ばれたその剣は、アルマロスに柄を掴まれると急に黙った。
「?」
アルマロスは、その剣をジッと見つめた。
『おめぇ……、いや…おかしいな…。なあ、おめぇ、左手見せてくれるか?』
言われて、アルマロスは、左手を見せた。
『そっちじゃねぇ。手の甲だ。』
言われて手の甲を見せた。そこには、ガンダールヴのルーンが刻まれている。
すると剣は、今度はブツブツと何かつぶやきだした。
『んなはずねぇ……、使い手のはずなのにこれは…、どうしたこった?』
「フォン?」
『なあ、おめえ、俺を買わねぇか?』
「何言ってんのよ。」
ルイズが言った。
『娘っ子、おめぇにゃ聞いてねぇ。なあ、買えよ。おめぇ、一応は使い手みたいだからよぉ。』
「?」
アルマロスは、使い手と言われても分からず首を傾げた。
自分を買えと言って来る剣に、アルマロスは、しばし考え、剣を持って店主の所に行った。
「それでいいの?」
アルマロスは、頷いた。
「これ、いくら?」
「百で結構でさ。」
「あら、安いわね。」
「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ。」
ルイズは、お金を払い、アルマロスは一緒に渡された鞘と一緒に喋る剣を受け取った。
『デルフリンガーってんだ。よろしくな。』
「フォン。」
『なんでぇ、おめぇ、喋れねぇのか?』
「…フォォン。」
デルフリンガーに言われ、アルマロスは、少し悲しそうに声を出した。
「デルフリンガー…、デルフって呼ぶわね。」
ルイズがそう言った。
デルフことデルフリンガーを手に入れたアルマロスとルイズは、店を後にした。
その後、二人と入れ替わりに、キュルケが店に入店し、店一番の剣を格安で手に入れ、店主がやけ酒を飲むということがあったのは別の話である。
***
「どういうことよ!」
学院に帰ってから、ルイズが大声で叫んだ。
「だ・か・ら、ダーリンにプレゼントよ。」
キュルケが、綺麗な装飾の剣をアルマロスに差し出している。
アルマロスは、ポカーンっとしていた。
「ダーリンって、ちょっと誰のこと言ってんの! まさかアルマロスのことじゃないわよね!?」
「他に誰がいるのよ? ねえ、ダーリン、どうせ剣を使うならこっちの方がいいんじゃない?」
「フォ…。」
剣を持ってすり寄って来るキュルケに、アルマロスはどう対応したらいいか分からずたじろいた。
『ダメだダメだ。そんな見てくればっかの剣なんざダメだぞ、相棒。』
「あら、その剣インテリジェンスソードだったの?」
『オイ、赤い娘っ子、こいつにゃ俺がいるんだからそれ持ってさっさとどっか行きな。』
「私が何をしようと勝手でしょ? ねえ、ダーリン、ダンス、素敵だったわ。」
「フォン。」
踊りをしてたのを見られていたのかと、この時やっとアルマロスは知った。
「ダーリンが夕日の中、水のような衣装を着て踊る姿…、この世のものと思えないほど素敵だったわ。あたしね、痺れちゃったのよ。痺れたのよ! 情熱! ああ、情熱だわ!」
キュルケは熱弁する。
「あたしの二つ名の微熱はつまり情熱なのよ! その日からあたしはぼんやりとしてマドリガルを綴ったわ。マドリガル。恋歌よ。あなたの所為なのよ。アルマロス。あなたがあの日からあたしの夢に出てくるものだから、フレイムを使って様子を探ったり……。ほんとにあたしってばみっともない女だわ。そう思うでしょ? でも全部あなたの所為なのよ。」
「フ、フォォォン…。」
そ、そうなの?っと言う風に、アルマロスが声を出した。困っている様子である。
そしてチラリッとアルマロスは、ルイズを見た。
ルイズは、キュルケの熱弁に呆気に取られていたが、アルマロスからの視線を助けてほしいという意味ととらえるや否や、キュルケとアルマロスの間に割って入った。
「ちょっと、ヴァリエール。」
「アルマロスが困ってるでしょうが、この色ボケツェルプストー!」
「困ってないわよ、ねえ、ダーリン。」
「……。」
『いや、明らか困ってるだろ。』
デルフリンガーがツッコミを入れた。
それを聞いたキュルケは、少しショックを受けた様子であったが、すぐに目を潤ませて上目遣いでアルマロスを見上げた。
「あたし…、迷惑だったかしら…。でもこの情熱を抑えられないの…、恋と炎はフォン・ツェルプストー宿命なの。身を焦が宿命。恋の業火で焼かれるなら、あたしの家系は本望なの。でもダーリンが迷惑なら、今この一時は身を引くわ。でも忘れないで、あたしはあなたを想っているということを。」
キュルケは、目潤ませながら、剣を持ってサッササーと去っていった。
残されたルイズとアルマロスは、しばらく放心していた。
「…だ、大丈夫? アルマロス。」
「フォォン…。」
先に我に返ったルイズがアルマロスを見上げて聞くと、アルマロスはルイズを見おろして頷いた。
「キュルケの言ったことは忘れなさいね。いつもの手なの…。」
『モテる男は辛いねー。』
デルフリンガーが茶々入れてきたが、うけなかった。
『あ? なんだこの微妙な空気はよぉ。』
微妙にもなる。
だって、アルマロスは、無性だからだ。
「ねえ、アルマロス。念のため聞くけど、あなたの性別って……、無性なの?」
念のためルイズは確認した。
するとアルマロスは、頷いた。
分かったところで、これはこれで困ったものである。
キュルケは、完全にアルマロスを普通に男だと思っているようであるし、アルマロス自身、そういうことに興味がないようなのでただただキュルケからの情愛にどう対応したらいいか分からず困っているだけなのである。
「ああ、困ったわねぇ。」
よりにもよってキュルケに目を付けられてしまったことに、ルイズは頭を抱えた。
キュルケがちょっと断ったくらいで諦めるような質じゃないことは分かっている。分かっているから厄介なのだ。
「ねえ、アルマロス。嫌ならしっかり断るのよ。いいわね?」
「フォ…。」
「いい!? しっかり断りなさいよ! 何度来ても断りなさいよ!」
「フォーン!?」
ルイズが念を押して言って来たので、アルマロスは、わけが分からずオロオロとした。
デルフリンガーがひっそりと。
『モテる男は、辛いねー。』
っと呟いていた。
***
夕方、アルマロスは、広場でデルフリンガーを握って立っていた。
そして構えて、デルフリンガーを振るった。
しかし何度か振るったところで、首を傾げてやめてしまった。
『やっぱしっくりこねぇか?』
「フォォン。」
『おっかしいねぇ。使い手のはずなのによぉ。』
「フォオン?」
『あっ? 使い手が何かって? 使い手ってのはよぉ…、やべぇ忘れた。』
デルフリンガーの言葉に、アルマロスはずっこけた。
『まあとにかくどんな武器でも使えんだよ。そのはずなんだけどよぉ…。しっくりこないんだろ?」
「フォ…。」
『左手のルーンが光ってねぇしな…。どういうこった?』
言われてアルマロスは、自分の左手を見た。確かにルーンは光っていない。
『でもまあ、相棒はもともと武術の達人みたいだしよぉ、なんとかるとは思うけど、俺としては使いの手の印が使い物にならないってのは気がかりだ。』
デルフリンガーは、頭の隅に置いておけと言う。
アルマロスは、右胸のルーンを指でなぞった。
「フォォォン。」
『ん? 右胸のルーンがなんだって? そいつは…、やべぇ忘れた。』
またも忘れたと言うデルフリンガーに、またアルマロスはずっこけた。
「アルマロスー。ご飯食べに行こう。」
「フォォン。」
ルイズが呼びに来たので、アルマロスはデルフリンガーを納め、ルイズのところへ行った。
後書き
アルマロスは、ガンダールヴもリーヴスラシルも使えません。ある理由で。
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