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永遠の謎

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187部分:第十二話 朝まだきにその十三


第十二話 朝まだきにその十三

「タンホイザーもだ」
「あの騎士の世界もですね」
「ワルトブルグの城。そして歌合戦」
 タンホイザーの世界だ。まずはその聖なるものを語る。
「それにヴェーヌスベルグだ」
「それもですか」
「エリザベートとヴェーヌスは違う存在でないのだ」
「同じなのですか?彼女達は」
「そうだ、同じ存在なのだ」92
 王はだ。こう話すのだった。
「だからこそタンホイザーを愛した」
「ヴェーヌスのあの世界は」
「愛なのだ」
 それだというのであった。ヴェーヌスベルグはだ。
「あの世界もまた。実現されなければならない」
「ワルトブルグと共にですか」
「タンホイザーはその二つが合わさってこそだ」
 芸術論もだ。ここで展開される。
「完全なのだから」
「それでなのですか」
「その通りだ。だからこそ私はあの世界もだ」
 こう話していく。恍惚とした顔で。
「実現させたい」
「醜いこの世界に」
「現実は。残酷なものだ」
 よく言われる言葉だ。王はその言葉もまた口にした。
「美を否定することもある」
「美もですか」
「ワーグナーはミュンヘンから去った。去らざるを得なかった」
 このことが忘れられなかった。どうしてもだ。そしてそのことがだ。王を今も苦しめ。その心に深い傷を与え続けているのであった。
「悲しい話だ」
「しかし陛下、今は」
「わかっている。帰らなくてはならないな」
「御言葉ですが」
「あの街に」
 王の顔に悲しいものが宿った。またしても。
「ワーグナーを追い出したあの街に」
「ですが陛下」
「だからわかっている」
 仕方ないといった顔だった。
「それはな。だから戻ろう」
「これ以上、都を空けられては」
「間も無く戦争がはじまるからな」
 それはだ。もうわかっていることだった。王にはだ。
「私は。それに対してだ」
「指揮は執られないのですね」
 タクシスもまたこのことを言った。
「オーストリア軍の」
「むしろそうしない方がいいだろう」
 王はここでだ。思わぬことを言った。
 そしてだ。あの遠い目でだ。湖の果てを見ながら述べた。
「バイエルンにとっては」
「そうなのですか?」
「そうだ、そうしない方がいい」
 王はまた言った。
「それもあってだ。私はだ」
「総司令官にはなられないのですか」
「避けなければならないことは」
 バイエルン王になっていた。完全に。
「バイエルンがプロイセンの属国に成り下がることだ」
「そのことですか」
「例えプロイセンがドイツを統一しようとも」
 そのことも頭の中にあった。プロイセンがどれだけ強力なのかもだ。
 それも頭にあってだ。王は話すのだった。
「属国にだけはなってはならない」
「プロイセンに対して」
「卑屈になってはならない」
 王はこうも言った。
「王は何か。国は何か」
「王とは。国とはですか」
「我がバイエルンは基本的に臣下だった」
 そのことは歴史にある通りだ。ヴィッテルスバッハ家は神聖ローマ帝国の中にあった。皇帝になったことはあるがだ。王である方が長かったのだ。
 
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