ダンジョン飯で、IF 長編版
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短編集編
IFのIF だ~れだ
前書き
※カブルー達不遇。
※ライオス・ドラゴンキメラを倒してしまい、迷宮の主となっていたファリンに報復される話。
だ~れだ、だ~れだ
××××を殺したのは、だ~れだ
その女性の歌声を聞いた者達は、必ず、死ぬ。
「って…、噂を聞いたな。」
「ちょっとミック。怖いこと言わないでよ。」
「その××××(ちょめちょめ)の部分はなんだ?」
「さあ? だいたい聞いたら確実に死ぬって話だし、全部聞いた奴なんて誰もいないんじゃないのか?」
「……それより…。」
「ああ…。」
カブルー達は、話を止めて、問題のブツ(?)の方を見た。
人間の上半身と、鳥とドラゴンを合せたような巨体。
確かライオスという名前の人間がキメラとなった姿だっただろうか。
そいつを、自分達は、仕留めてしまった。
だって、襲ってきたのだから仕方ない。
以前、人畜無害とされていた彼に襲われ、リンに至っては腕を食われた経験がある。
さらに近頃、迷宮の変動も激しい。それも関係しているのだろうか?
「どうすんのさ、コレ?」
「どうするって……。」
「確か冒険者宿に、コイツの懸賞金の紙が貼ってあったな。」
「えっ? 持って帰るの?」
「全身は無理だが、身体の一部なら持ち帰れる。いつもの賞金首の持ち帰りと同じさ。」
「えっ…、ってことは、首を持って帰るの?」
「首と、羽根と、爪を持って帰ろう。それで十分証明できるさ。」
そう言ってカブルーは、死んで倒れているライオス・ドラゴンキメラの首に向かって剣を振り下ろそうとした。
だ~れだ
「? ミックか?」
「僕じゃないよ。」
「リンな…わけないしな。」
だ~れだ、だ~れだ
「…聞いたか?」
「う、うん。」
「嘘でしょ…?」
「みんな、気をつけろ。」
そう言って周りを警戒して構えたときだった。
「兄さんを殺したのは、だ~れだ。」
すぐそこで、女性の声が、直に聞こえた。
バッと見ると、そこには、回復役に見える魔法使いがライオス・ドラゴンキメラに手を置いて立っていた。
その顔には、見覚えがあった。
「ファリン…さん?」
「もう、兄さんってば、ドジなんだから。」
ファリン(?)は、カブルーの僅かに戸惑った声を聞かず、ライオス・ドラゴンキメラの傍にしゃがみ込んだ。
「お腹すいてたなら、私を食べれば良いのに……。」
「まさか、近頃の迷宮の変動は、あなたが?」
「兄さん、ちょっと待っててね。」
立ち上がったファリンは、カブルー達の方に振り返った。
その顔は笑っていた。実に素敵な笑顔だ。
ライオスによく似た顔立ちの金色の目がカブルー達を映している。
その金色の目や表情からは、彼女が何を考えているのかさっぱり分からない。
思わず、数歩後ろに下がるカブルー達を、ファリンは、ニコニコ笑ってみている。
なんだ、この得体の知れない圧迫感というかなんというか……。
コイツを殺せば、迷宮を封印できるのにと頭では分かっていても、身体が動かない。
これが、迷宮の主となった者の末路なのか。っと、カブルーが思ったとき、チュンッと音がしてカブルーの右頬が僅かに切れた。
そして、何かが倒れる音がした。見ると、ダイアの首と胴体が離ればなれになって倒れていた。
「兄さんにトドメを刺したのは…、あなた…。次に。」
ファリンが杖を持っていない方の手を出すと、その手にどこからともなく現れた魔術書が降ってきて勝手にパラパラとページが開かれた。
「兄さんの首を取ろうとしたのは……。」
「っ!!」
「あなた。」
すると、周囲にあるタイルや床が蠢きだし、数体のゴーレムとなった。
「ただ潰さないで。足を潰して、手を潰して、最後に心臓を。」
ニコニコとそれはそれは、素敵な笑顔でファリンが笑い、歌うように命じる。
うなり声を上げながら即席のゴーレムが襲いかかってきた。
即席とは言え、ダンジョンの魔力を大量に使用されたゴーレムは、三階のゴーレムよりも圧倒的に凶暴だった。
間一髪でカブルーは、その拳を避け、逃げ回る。ゴーレム達は、カブルーを攻撃するよう命じられているのか、カブルーのみを狙ってくる。
リンが稲妻の魔法を唱え、ゴーレムの一体を破壊した。しかしすぐに元通りになる。
「首の根元! 赤い何かが埋まってた!」
ミックがゴーレムの核を見つけ、クロがゴーレムの背に飛びついて、首の根元に埋まっている赤いモノを掘り起こした。
するとゴーレムは、倒れ、崩れた。それを繰り返し、なんとかゴーレム達を全滅させた。
「へ~。」
ゴーレムが倒れてもファリンは、ニコニコ。
「じゃあ、次は……。」
すると、ライオス・ドラゴンキメラの血だまりから、小さなドラゴンのようなモノが大量に出現した。
「食べられちゃえ。」
ブワッと小さなドラゴン達が、襲いかかってきた。
「リン!」
「分かってる! キャッ!」
凄まじいスピードで飛んできた小さなドラゴンに、リンの首を大きく切られた。
「あ、ああ……。」
噴水のような勢いで噴き出す血を手で押さえるも、意味は無く、リンは、膝をつき、そして倒れた。
「うふふふふ。」
ファリンは、子供のように無邪気に笑う。
襲いかかってくる小さなドラゴン達に傷つけられながら、カブルーは、ファリンを睨む。
ファリンは、カブルーの睨みなどまったく気にすることなく、杖の先を向けてきた。
次の瞬間、チュンッと、また音がして、しゃがんで頭を抱えていたホルムの首を手ごと切り裂いて落とした。
「これで、もう回復できないね。」
「…悪趣味め……。」
「あなた達を逃がさない。」
カブルーの悪態など気にもとめずファリンは、笑う。しかし、さっきの笑い方と違って、今度は目が笑ってない。
ガツガツと、小さなドラゴン達がいつの間にかクロとミックに群がって食い漁っていた。
「う…うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
カブルーは、絶叫を上げ、ファリンに斬りかかっていった。
眼前に迫ったとき、ファリンの姿が霞のように消えた。
「なっ…!?」
「兄さんに手を出す奴は、みんな死んじゃえ。」
ドスッと、衝撃が走り、下を見ると、胸からファリンの手が生えてて、カブルーの心臓を掴んでいた。
そしてカブルーの後ろに回っていたファリンが、カブルーの身体から心臓を引き抜いた。
大量の血を吐いて倒れたカブルーを無視して、心臓を掴んだままファリンは、倒れて死んでいるライオス・ドラゴンキメラに近寄った。
そして、魔術書を片手に心臓からポタポタ滴る血をライオス・ドラゴンキメラにかけた。
血が染みこみ、やがて消える。
そして、ライオス・ドラゴンキメラがピクッと反応した。
「兄さん。もう大丈夫だよ。」
起き上がるライオス・ドラゴンキメラの身体に、ファリンは、心臓を捨ててから抱きついたのだった。
後書き
ファリン、ブラコンに迷宮の主としての狂気が相まって大変なことに……。
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