ダンジョン飯で、IF 長編版
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第二十七話 コカトリスの塩漬けとドライアドのザワークラウト
前書き
コカトリス編。
このネタにおける、ファリンとシュローの関係は……。
「お腹いっぱいになったおかげで、少し魔力が戻ったわ。センシ。治療してあげる。」
「む…。」
レッドドラゴンに踏み潰されたときの傷がまだ癒えていないセンシの治療をファリンが買って出た。
「横になって。」
センシは、嫌々ながら従った。
その一方でマルシルは、ドライアドの枝で杖を修復していた。
「やれやれ…、ファリンに治療してもらいたかったぜ。」
「悪かったわね。下手で。」
ゆっくりと、回復痛もなく治療をしているファリンを見てチルチャックが愚痴り、マルシルがムッとして言った。
「……なあ、ファリン。」
「ん? なに?」
「……前にシュローと大げんかしてたろ。」
「…なに?」
「っ、いや、ちょっと興味本位で聞いただけだって。怒るなよ。」
「別に、怒ってない。」
ファリンは、プイッとそっぷを向いた。
実は、レッドドラゴンと戦い全滅直前に追い詰められる前。
ファリンとシュローがとんでもない大げんかをしたのだ。
大げんかと言っても、ファリンがかなり一方的にシュローに言葉を投げ、シュローは、どちらかというとファリンを落ち着かせようとしていた。
喧嘩の内容については、パーティーメンバーが離れていたことや、二人が黙秘したため謎となっている。
食料を失っていて空腹も手伝っていたのもあって、ファリンの怒りは中々収まらずしばらくはシュローの顔すら見ていなかった始末だ。もしかしたら全滅寸前になった原因の一つにもなったかもしれない。
シュローが離れた今となっては、ファリンに直接聞くより他ないのである。
シュローがファリンに、好意を寄せていたことは、なんとなく察してはいたが、あの様子ではシュローはふられたかファリンの怒りを買う何かをしたと考えられる。
……だが単にふられただけなら、あそこまで喧嘩になるのはおかしい。
ずっと気になっていたので、興味本位で聞いてしまったため、ファリンの機嫌を損ねてしまった。
「ファリン。おまえさ、シュローのこともそうだが、人を見る目を養えよな。」
「……なに?」
「友達は選べって事だ。知ってれば黒魔術の片棒を担がされたりすることもなかった。」
「マルシルのせいじゃない。私は知っててやってもらった。責任は私にあるわ。」
「はあ? なにか? じゃあ、おまえ黒魔術に手を付けた奴がどうなるか分かっててやったってことか、知らないよりたち悪いぞ?」
「チルチャック、ファリン。」
センシが言った。
「今回のことは、目をつむる。そう決めたのではないか?」
「そのおかげで狂乱の魔術師に目えつけられちゃ、命がいくつあっても足りねーよ。」
「……もしかしたら、彼が現れたのは、私のせいかもしれないわね。」
「っというと?」
「ライオスには…、もう自分で回復する力が無かったわ。そこで私は、迷宮の一部を書き換えて、“この肉体は、迷宮の一部”だということにした。もちろん一瞬だけね。その一瞬の影響を感じ取ったのかも。」
その時、ズンッと地響きがした。
「また地鳴りだわ。」
「見てみよう。」
窓から外を見ると、今まさに壁が動いているのが見えた。
「うっ……。」
「ファリン? どうしたの?」
「ごめん…、センシの治療に魔力を使いすぎたかもしれない。」
「じゃあ、休んでて。私達で見てくるわ。」
「うん。」
マルシル達は、部屋を出て行った。
残されたファリンは、椅子に座り込んだ。
「……シュローなんて、大っ嫌い。」
誰も居ないことを良いことに、そう呟いたのだった。
***
しばらくボーッとしていると、マルシル達が戻ってきた。
ただし……、マルシルがコカトリスに噛まれて帰ってきた…。
「大変! コカトリスに噛まれたときの対処法をしないと!」
「そんなのあるの?」
「今から教えるから!」
まず、下履きを脱ぐ。下着はそのまま。
できるだけ肌を合わせるように床に座る。
脇を締め、指で耳を覆う。口も閉じる。
「うん…、よし! これでいつ石化してもだいじょうぶ!」
「石化しないための対処法じゃないんかい!!」
ツッコミのために動いた瞬間、マルシルは石化した。
「あー! すごく危うい姿勢で固まっちゃった!」
「早く石化を解く魔法を使えよ。」
「ごめん…。魔力が…。」
「どうするんだよ! 魔力が回復するまで待つってか?」
「石化を解く方法はいくつかあるわ。」
石化とは、毒と言うよりも呪いの一種らしい。
そのため、魔術抵抗力の高いエルフなら他の人種より回復は早いと思われる。
二つ目の方法は、石化を解く薬草。これは、ローストバジリスクを作ったときに使ってしまった。
あるいは、回復手段を持つ冒険者を探す。
最後は…。
「私の魔力が回復するのを待つ。」
「自然治癒ってどのくらいかかる?」
「トールマンなら、半年か十年。」
「で、魔力の回復の方は?」
「……。」
「コカトリスを取ってくる。」
倒したコカトリスをセンシが取りに行った。
他の案も期待しつつ、この場にとどまることになった。
「なんか、傾いてて危ないな……。」
なにせツッコミ体勢のまま固まってしまったのだ。体は斜め、倒れれば確実に腕は折れるだろう。
「尻になにか噛ませてるとかしたほうがよくないか?」
「そうだね。」
「わしに考えがある!」
センシが言った。
まず鍋の底にドライアドの蕾の千切りと調味料を混ぜた物を敷き。上に石化したマルシルを置く。
コカトリスの肉を塩水に浸けたら、マルシルの膝の上に乗せて……、安置する。
「……えっと…、安定感は、出たかな?」
「これなら倒れることもないだろう。」
「邪教の偶像みたいだ。」
***
それからファリン達は頑張った。
チルチャックは、薬草探しをし、センシは、英気を養うために料理をした。
ファリンは、中々回復しない魔力に歯がみした。
「焦っても魔力は戻らねぇから、焦るな。」
「分かってるけど…。」
「ほら、出来たぞ。しっかり食べて休め。」
「うん…。」
ファリンは、少し涙ぐんだ。
そして、四日が過ぎた…。
チルチャックが見つけてきた謎の薬草を貼り付けたりして、マルシルは変なことになっていたが、いまだ石化は解けていない。
ファリンは、マルシルの頬に触れた。
そして息を吸って、吐いて、詠唱を始めた。
ゆっくりと確実に、これで失敗したら魔力の消費損になってしまう。焦ってはダメだ。
やがて詠唱が終わり…。
「? ……ファリン?」
「マルシル!」
「えっ? なに、なに? なんで野菜の輪切り? なんで鍋!?」
「どれどれ。」
センシがマルシルをどかし、鍋の中の物の味を見た。
「こちらも成功じゃ!」
「やったー!」
「なんなの!?」
そして調理が始まった。
まず塩漬けにしたコカトリスの肉を茹で、薄切りにする。
その横に発酵させたドライアドの蕾の千切りを置き、さらに、石化消し草も焼く。
「完成じゃ!」
コカトリスのアイスバイン風。
ドライアドの蕾のザワークラウト風。
付け合わせの石化消し草グリル。
そして実食。
その間に、これまでのことを話した。
「え、そんなに経ったの? 噛まれてすぐ抵抗呪文を唱えたのに……。押し負けたか…。」
「結局何が一番効いたんだろう?」
「色々試しすぎてわからんな。」
「やっぱり私の呪文?」
「いーや、薬草の鮮度がよかったと見るね。」
「調理されたコカトリスの肉が呪いを中和したのでは?」
「みんな、ごめ……。」
マルシルは、言いかけて、一瞬止まった。
謝る前に、まず言うべきことがある。
そして…。
「人を…、漬物石に使うな。」
っと、怒った顔で言ったのだった。
後書き
ファリンとシュローが大げんかした理由については、後々。
このネタでは、シュローを少し捏造しています。
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