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戦国異伝供書

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第十二話 苦闘の中でその九

「今もその癖が出るとな」
「その時は」
「武田信玄は百戦錬磨の者」
 そこまで強い者だからだというのだ。
「それでじゃ」
「危うい戦になることもですか」
「有り得るからのう」
「では」
「忠告しておくか。しかしな」
 信長はこうも言った、
「自分でわかっていても人はじゃ」
「時として」
「動いてしまうものじゃ」
 頭でわかっていてもというのだ。
「それが癖というものじゃ」
「それでは」
「このことはじゃ」
 まさにというのだ。
「つい出るであろう、そして相手は武田信玄じゃ」
「あの御仁ならば」
「普通に竹千代を怒らせてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「自身が望む場にあ奴と三河者達を誘い出してな」
「そうして」
「完膚なきまで叩き潰しも出来る」
 信玄の軍略ならばというのだ。
「そこまでの者じゃ」
「では殿」
 佐久間がその話を聞いて信長に言った。
「軍勢をです」
「竹千代にじゃな」
「援軍として送りますか」
「それが出来るか」
「そう言われますと」
「当家には無理じゃな」
「まだ一向一揆への抑えが必要で」
 それにとだ、佐久間も信長に述べた。
「武田は強いですからな」
「武田が五万出すとな」
「こちらは十五万は用意したいです」
 武田の兵何よりも将帥達の質を思えばとだ、佐久間は信長に冷静な声で答えた。
「さすれば」
「それではな」
「はい、徳川殿への援軍は」
「ほぼ送れぬ」
 それが今の織田家の状況だというのだ。
「残念ながらな」
「それでは徳川殿は」
「精々一万の軍勢でな」
「武田の大軍とあたりますか」
「武田家は二百四十万石です」
 この石高を言ったのは松井だった。
「そして六万の軍勢を出せます」
「一万を領国に置いてな」
「五万で攻めるとなると」
「武田の強さでな」
 その数ではというのだ。
「竹千代は一万で向かうとなると」
「籠城ならともかく外で戦うとなると」
「負ける」
 間違いなくとだ、信長は佐久間に話した。
「そうなるわ」
「そして徳川殿も」
「下手をすると死ぬ」
「そうなりますな」
「だからわしも出来ればな」
「援軍をですか」
「送りたいが」
 しかしと言うのだった。
「それが出来ぬ」
「では」
「うむ、飛騨者達を送る」
 これが信長の断だった。
「せめてな」
「武田家の家臣にはあの真田幸村がおりまする」
 蜂須賀は警戒する顔で述べた。 
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