永遠の謎
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157部分:第十話 心の波その十五
第十話 心の波その十五
「あのマイスタージンガーを早く観たい」
「芸術は既に陛下の手中にあります」
「では後はですか」
「その芸術をその御目で、ですか」
「観るだけだ」
王はまた言った。
「しかしだ。観ることが最もできない」
「それはですか」
「そのことは」
「現実は待ち遠しい」
怨む言葉だった。その現実そのものを。
「夢ならば幾らでも観られるというのに」
「現実はですか」
「待ち遠しいものですか」
「そうなのですか」
「思うようにならない。誰にもだ」
王である彼にもだ。現実はどうしようもなかった。彼はそのことにだ。少し、今は少しだがわずらわしさを感じていた。そうなりだしていた。
「思うことと逆になることもだ」
「あると」
「そうだというのですね」
「そうだ。思うようにはならない」
王はまた言ったのだった。
「何もかもがだ」6
「現実とはそうしたものです」
侍従の一人が述べた。
「様々なものが入り組んでいるのですから」
「国自体がそうだな」
王としての言葉だった。国を預かる者として言ったのだった。
「それは」
「はい、ですがそれに負けることなくです」
「国を治めていくのが王かと」
「私もそう思います」
「私もです」
他の者達も続く。王を励ましていた。
王も彼等のその言葉を聞いてだ。いささか気を取り直した。しかしである。気を取り直してもだ。王はこうしたことも言葉として出したのだった。
「しかしだ」
「しかし」
「何かおありですか」
「私は。国を治めるのにだ」
その場合にだとだ。こう話すのだった。
「芸術が必要だ」
「ワーグナー氏のですか」
「彼の芸術が」
「彼自身もだ」
それを生み出すワーグナー自身もだというのだった。
「必要だ。このミュンヘンにだ」
「そうであればですか」
「王として治められますか」
「このバイエルンを」
「この国を」
「それだけでいいのだ」
また言う王だった。
「彼とその芸術の二つが傍にあるだけで」
「ではどちらがなくなってもですか」
「陛下は」
「そう仰るのですか」
「そうだ。私はそうなのだ」
自分でわかっていた。それもよくだ。
それで今言う。その願いをだ。
「だからだ。彼を私から離さないで欲しいのだ」
「ですがどうやら」
「首相が」
「男爵もです」
「そして警視総監もだな」
王から言った。彼は既にわかっていたのだ。
三人の名前が出てだ。王はまた言ったのだった。
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