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永遠の謎

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149部分:第十話 心の波その七


第十話 心の波その七

「そうしてだ。変わるものだ」
「時の流れは一定ではないのですか」
「時計は常に同じ動きをしますが」
「それでもなのですか」
「時計の動きと時の流れは別だ」
 そうだというのである、
「流れは変わるものなのだ」
 意識でというのだ。そういうことだった。
「今は。とてつもなく遅い」
「遅いのですか」
「そうだというのですか」
「今は」
「ワーグナーとはじめて会う時もだった」
 その時についてもだと述べるのだった。
「あの時も遅かった」
「そして今もですか」
「明日の夕刻か」
 オペラの上演は夕刻にはじまり夜に終わる。王にとってはそれもなのだった。
「夕刻まで私は何をするべきだろうか」
「乗馬をされてはどうでしょうか」
 一人がこう言ってきた。
「そうされては」
「馬か」
「はい、馬です」
 それをだというのだ。
「それでどうでしょうか」
「そうだな。それに乗るか」
 王もその彼の言葉を受けて言う。
「何もしないというのはな」
「はい、どうかと思いますし」
「その通りだ。それではだ」
「明日の昼はそれですね」
「それと詩だ」
 それもだというのだ。王は音楽だけではない。詩も愛している。それも美しい詩をだ。彼の嗜好はここでもまずは美なのであった。
「その二つで過ごしたい」
「そのうえで待たれるのですね」
「上演を」
「そうするとしよう。しかしだ」 
 それでもだというのである。
「それでも。時の流れはだ」
「遅いですか」
「それはどうしてもですか」
「避けられないだろう」
 王はいつものあの遠くを見る、何処か達観した目で述べた。
「それはな」
「ですが陛下」
 一人の青年が言ってきた。
「それでも時は流れます」
「時はか」
「はい、ですからそこまで憂いを感じられることもありません」
 彼はこう王に話すのだった。
「待たれればいいのですから」
「それはわかっている」
 王は実際にその顔に憂いを見せていた。
「そのことはな」
「左様ですか」
「しかしそれでもだ」
 王はだ。また言った。
「私は待ち遠しい」
「初演のその時が」
「しかしだ。これは幸せなのか」
 こんなことも言う王だった。
「こうして。待ち遠しいと思われることも」
「おそらくは」
「そうかと」
 周りはだ。王のその言葉にこう答えた。
「陛下は今どう思われていますか」
「憂いは感じられてもです」
 それでもだというのだ。
「しかし。幸福を感じられているのでは」
「それを待たれているのでは」
「そうだな。確かにな」
 そして王自身もだ。そのことを認めた。
 
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