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ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)

作者:蜜柑ブタ
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第十五話  体調管理は慎重に

 
前書き
最初、グロです。注意。

椎堂ツムグは、頭を失っても再生します。ほぼ不老不死で、死ねない身体。 

 
 MOGERAマーク5は、日本に持ってこられて早々に壊れた。
 壊れた原因の半分以上は、ツムグのせいだ。
 ツムグに無理やり威力を底上げされたメーサーキャノンを撃たされたからだった。
 あの後ツムグは、MOGERAを壊した罰として、頭部を爆破飛散させられた。
 頭からの再生は、とてもじゃないがお見せできない状況になる。他の部位の再生もお見せできないが、これが一番えぐい。
 なにがえぐいって、再生のため心臓が肋骨と胸を破って肥大化することだ。
 一時的ではあるが体より巨大化するのでマッド系以外はとてもじゃないが見ていられないおぞましい光景である。
 頭が再生すると、溶けるように萎むのでこの再生の構造は謎である。人間の遺伝子に依存しているため、人間の体の容量で怪獣並みの再生力を実現するとなると心臓を巨大化せるしかないのでは?っという見方がある。
 ちなみに心臓を破壊した場合は、大量出血は一瞬あるがすぐに再生が始まるため身体的な変化はほとんどない。
 頭部と心臓の同時破壊の場合、再生にびっくりするほど時間がかかるためナノマシンを使い再生を遅らせれば死亡すると計算されている。だから体内に爆弾の他、ナノマシンを仕込まれたのだ。
 頭を壊されるのが一番嫌だとツムグは、ぼやいている。麻酔無しで腹を裂かれても手足を失っても平気なくせにである。
 記憶が無くなるかららしい。ちょっとしたきっかけで戻るので支障が出たことはないらしいが、記憶が無くなっている間が気持ち悪いそうだ。

「それで? なぜMOGERAを壊した?」
 頭を再生させた後、ツムグはMOGERAに手を出した理由を尋問された。
「壊すつもりはなかったよ。ゴジラさんを飛ばすのにエネルギーを絞ったら…。」
「壊れたと? 馬鹿か!?」
「ごめん。」
「謝ってすむなら警察はいらん! おまえのおかげで機龍フィアの凍結の解除が決まった! まさかそれが狙いだったのか!?」
「違うよ。あのままじゃMOGERAが負けるのは目に見えてたし、あそこでMOGERAを全壊させるわけにはいかないじゃん? おれがやるしかなかったんだよ。」
「ちょっと待て、負けるのが目に見えていたとは心外だぞ?」
「35年前のゴジラさんになら勝てただろうけど…、今のゴジラさんは無理だよ。」
「謝れぇ! 命がけで亡命した黒木達に謝れぇ!」
 MOGERAマーク5は、海外に亡命した黒木という人物とその仲間達が製作した新型の対ゴジラ兵器であった。
 セカンドインパクト後に地球防衛軍が一度解体されてから黒木が仲間を連れて海外に亡命した際にMOGERAの設計図も持って行っていたため、マーク5までが作られたのである。
 亡命した理由は、ゼーレからの暗殺を逃れるためだったのだが、そのことを知るのはごく一部である。
 結局黒木自身は戻ることはなかったがMOGERAだけが地球防衛軍に戻ることになった。
 波川がやっと連れて帰ることができたと言ったのもはこのためだ。
「あと5回ぐらい頭吹っ飛ばす?」
「…っ。やったところでおまえに効き目薄いからこれ以上の厳罰はなしだ。」
「その代り、ゴジラさん来たら思う存分ヤるからさ。」
「おお、そうしろそうしろ。おまえにはそれしかない。」
「ゴジラさんが死んだらお役御免だね。」
「ぜひそうなってほしいものだがな。」
「そーだね。」
 吐き捨てるように言われ、ツムグはフフッっと笑った。

 ツムグは、それから、何か悪戯でも思いついたみたいにニヤッてしていて周りから不気味がられたのだった。





***





 どこか分からない暗い空間。
 ゼーレは、いつも通り集まっていたはずだった。

『……。』
『どうした? なぜ黙っている?』
『何か騒々しい音がするが…。』
 “04”と記されている奴のところから、何かドタバタ騒々しい音が聞こえてきていた。
 他の者達が
『………あっ! 繋がってたのか!』
『気が付かなかったのか?』
「何があったのだ?」
『ぎちょ…、申し訳ありません! 以後気を付けます!』
『何もないのならよいのだが。』
『さてこれから、ウホヒョォ!?』
『なんだ! 変な声を出して!?』
 “02”が急に変な声を出した。
『せ、背中! せなか! ぬるってした、ぬるぅううって!』
『ぬるって何がだ!? 何が起こったのだ!?』
『ブフゥ!』
『今度なんだ!?』
『こ、紅茶……、千枚漬けが……ウグゥ。』
『せんまいづけってなんだ!?』
『ギャーーー!』
『どうした!?』
『アーーー!』
『ギョエーーー!』
『何が起こっているーーー!?』
「ええーい、鎮まれ!」
 ホログラムと一人のサイボーグしかいない空間なのに大騒ぎになっていた場を、サイボーグことキールが一喝した。
 混乱していた空間に、微かなうめき声とすすり泣く声が木霊した。
「…まったく、このような時に取り乱しおって、そんなことでは神への道は開けぬぞ。」
『ハッ! 申し訳ありません!』
 たぶんであるが、ホログラムの向こう側にいる11名のゼーレの面々が敬礼していると思われる。そんな声色だった。
「それで尾崎真一についてのちょう…さ。」
 キールが言いかけて言葉を止めた。
 聞こえたのだ。耳元で。
 他のモノリス達も黙った。
 カサカサカサっと……。実に不快な音、というか存在自体が不快なソレ。妙に静かな空間であるせいか異様に小さいその音が響いた。
 キールは、手元にある書類の束をクルクルと巻いた。

 その日のゼーレの会議は、会議どころじゃなくなった。
 主に殺虫効果のある煙を炊くので忙しくって。

 その後。
 『秘密結社って言っても、ゴキには敏感なんだね? 意外。』っという一通のメール(出所不明)が届き、ゼーレは、会議そっちのけで少しの間犯人探しに奔走したが、犯人は見つかることはなかったという。





***






 ゲンドウは、書類の束を前にして不機嫌丸出しの顔をしていた。
 書類に記されているのは、尾崎に関する情報である。
 自分の部下に収集された情報であるが、まあ、なんというか…ゲンドウには腹の立つ内容でこんな顔になっているのである。
 一言で言い現わすと、『リア充』。
 友達多いし、更に彼女までいるときたものだ。
 周りから好かれる優男なのだから彼女がいても不思議ないのだろうが、いざ分かると腹が立つものである。ましてや、一方的に、ゲンドウが敵視しているのであるから尚更である。
 これで相手の女が美人だったりしたら血管が切れるかも…っと少し思ったりしながら、尾崎の彼女らしき女の写真を見た。
 そして吹いた。血管も切れて机に思いっきり額を打った。
 科学者らしき清潔な白衣の下に自己主張をするような赤い服、邪魔にならないよう上でまとめられた髪の毛、強気な気性が見て取れる瞳と表情、整った目鼻立ちはモデルにいても不思議じゃない肢体と相まってまさに美人という言葉が合う。
 白衣姿の若い女科学者と言う部分で一瞬ユイを重ねかけたが、気の強そうな眼差しは、ユイとはまるで正反対に思えた。
 自立して生きようとする自他ともに厳しいタイプといえばいいのか。若い早熟の科学者でこの見た目だから周りから揶揄われることも多かろうはずだからそのせいでそういう風に振る舞っているのかもしれない。
 はっきり言って、ゲンドウには苦手なタイプだ。美人なんだけど(大事なことなので)。
 正義感のある好青年の尾崎と、美しく才気あふれる強気なこの女性が並んだら……。
 そりゃもう、絵になること間違いなしであろう。
 ゲンドウは、想像して机を殴った。

 ブチッ

 机を殴った時に、何かを潰した。
 そこそこ固さがあり、そして潰した時に出て来たネバネバ……。
 拳を上げないといけないのだが上げたくない。見たくない! だがこのまま触っていたくもない。
 震える腕をゆっくりと持ち上げゲンドウが見た物は…。


 加持がゲンドウのところに来た時、ゲンドウは不在で、探したら手洗い所で、狂ったように手洗いしているゲンドウがいたという。





***






 近頃、尾崎は夢見が悪かった。
「……。」
「大丈夫か、尾崎。」
「えっ? あ、いや…。」
「寝不足すか?」
「ああ、ちょっとな。」
「エキサイトっすか? 恋人さんと、アダッ!」
「アホなこと言うな、馬鹿。」
「アホ馬鹿って言うなっす!」
「ハハハっ…。はあ…。」

 奇妙な夢を見る。
 何か巨大なモノが迫ってくるような、それに捕まったらマズイと感じているから逃げようともがく。
 迫って来るモノの正体は分からない。そこだけ黒くぼやけてはっきりと思い出せないのだ。ただ危険だというのは分かって、逃げるために夢から目覚めようと念じるため十分な睡眠がとれなくなってきていた。
 日に日に距離を詰められているのも感じていた。
 ついに最近では、自分を捕まえようとする相手の手の象が見えるようなった。全体像がはっきりと全部見えてしまったら…。
 本能がそうなったらお終いだと囁いていて、ゾッとした。
「そういえば、風間って明日には帰って来るんだよな?」
「ああ、ロシアの基地の復旧の目途が立つからなぁ。」
「帰ってきたら一番に尾崎と手合わせだろうな。どっちに賭ける? って本当に大丈夫か尾崎?」
「顔色悪いっすよ。」
「だ、大丈夫だ。」
「ほんとかよ?」
「尾崎。…今日はもう上がれ。」
「えっ、でも…。」
「命令だ。倒れられたら元も子もない。」
「分かりました…。」
 顔色の悪さで定時前に帰らされることになってしまった。

 自分の部屋に戻った尾崎は、寝不足で重たい頭を押さえて、ベッドにすぐに横になった。
 せめて少しでも熟睡して寝不足を解消しなければと思い、目を閉じた。
 体が睡眠を欲しがっているのか、恐ろしい速さで眠りに落ちた尾崎を、部屋の隅にいる小さな子供の影のようなモノが見ていた。






***






『ネーネーネー。』
「なぁに?」
 機龍フィアが収まっているドッグで、今日もツムグは、ふぃあと話をしていた。
 ツムグは、操縦席でくつろぐ姿勢で座っている。
 会話内容は外に漏れていない。
『外、イイ天気?』
「うん。いい天気。」
『毎日、ナツーっ』
「夏だね~。セカンドインパクトからずっと夏だよ。」
『チキュウの軸ずれちゃったモンね。』
「そーだね。」
『アダ…。』
「ふぃあちゃん。それは内緒。」
『なんで?』
「俺がいいって言うまで内緒。いいね?」
『うん! 分かった! ツムグがイイって言うまで言わない!』
「いい子だ。」
『エヘヘ。ふぃあイイ子。』
「いい子いい子。」
『ワーイ!』
「……。」
 ナツエもそうだが、自分に好意を寄せても無駄な事だからやめた方がいいのにっと常々ツムグは思っている。
 ゴジラがいるから自分がいる。生きている理由はゴジラの存在があるからだ。それ以外にないと思っている。
 細胞だけが必要なら死体で十分であろうし、自我意識がある方が邪魔であるはずだ。地球防衛軍の技術なら体の各部位の細胞をそれぞれ補完すれば事足りる。なのに椎堂ツムグとしてここにいるのは、ゴジラを倒すために他ならない。
 機龍フィアの開発計画は、ツムグの細胞の研究の一環でもあり、放射能の吸収や超再生など持っている能力の割に使い道がほとんどないという利用性の低さを解決するという目的もあった。
 なぜ使い勝手が悪いのかは謎であるが、一時はG細胞の平和利用に最適などと言われてもてはやされたこともあった。
 現在は使徒に有効だと分かったのである意味で平和利用できることは分かった。
 ところで、ふぃあからの好意は、同一の細胞から発生した自我意識だから親子、兄弟感覚から来るものじゃないかと推測している。雛が親を慕う感覚なのではないか。
「ふぃあちゃん。俺のこと好き?」
『スキ。』
「俺はゴジラさんが…。」
『ヤダ!』
「ん? 何がヤダなの?」
『ツムグは、ふぃあの! ゴジラのじゃないもん!』
「ゴジラさんのこと嫌い?」
『キラーイ!』
「そっか。俺にとってゴジラさんは、好きとか嫌いとか越えてるんだよ。ふぃあちゃんには分かんないでしょ?」
『ふぃあ、ワかんない。』
「分かんなくていいと思うよ。俺にもよく分からないから。」
『ツムグもワかんない? ふぃあと同じ~。』
「たぶん違うだろうけど、同じってことにしようか。」
『同じ同じ!』

 こんな感じで会話を続けていた。
 その時。通信音が鳴ったのでスイッチをオンにした。

『椎堂ツムグ!』
「ん?」
『今すぐ出てこい! 緊急事態だ!』
「なになになに?」
『話はあとだ、さっさと出てこい!』
「ん、分かった。」
『ナニナニナニ?』
「ごめんね、ふぃあちゃん。お話はお終い。ちょっと行って来る。」
『いってらっしゃーい。』
 ツムグは、機龍フィアの外へ出た。

 自分を呼びに来た科学者に連れられ、歩きながら話をした。
「で? 何の用?」
「おまえ…、把握してないのか。珍しい…。」
「何もかも分かるわけじゃないから。」
「尾崎少尉が…。」
「尾崎ちゃんが?」
「目を覚まさないんだ。」
「…は?」
 呼ばれた理由を聞いたツムグは、軽く目を見開いた。





***





 M機関の食堂のおばちゃんこと、志水(しみず)は、気になっていた。
 レイの様子がおかしいのである。
 本人は隠しているのだろうが右腕を庇うように動いているのである。
「レイちゃん。右腕どうしたの?」
「…なんでもないです。」
「嘘おっしゃい。さっきからずっと庇ってるでしょ。」
「…なんでもないです。」
「……今日は帰りなさい。時間給とはつけておくから。」
「…平気です。」
「いい加減にしなさい!」
「っ!」
 志水に右手首を掴まれ、レイは顔を一瞬歪めた。
「見せてみなさい!」
「やめ…っ」
 レイが止める間もなく袖をまくられた。
 右腕の半分以上が赤く腫れていた。
「これどうしたの? 火傷?」
「……。」
「悪いけど、今から医務室にこの子連れて行くからよろしくね。」
「あっ…。」
 志水はその場にいた者達にそう言い、レイを引っ張って食堂から出ていった。


 医務室に連れてこられたレイの顔色は悪い。
 なにかに怯えているようなそんな雰囲気がある。
 レイの腕を診察した医者は。
「熱湯でも浴びたのかい?」
「いいえ…。」
「それか劇薬を被ったとか。」
「いいえ…。」
「治り始めていて、この分なら跡も残らないでしょう。」
「それはよかったわ…。」
 傷跡が残らないと聞いて志水はホッとした。
 レイのような若い子に傷が残ったら大変だと心配していたのだ。
「一応薬を出しておくから患部に一日三回塗って様子を見てね。水仕事や重い物を持つ仕事は控えるように。」
「はい…。」
 レイは、少しホッとした様子だった。
 その様子を志水は少し怪訝に思った。



 医務室から戻る途中。二人はシンジと会った。
「医務室に行ったって聞いたけど大丈夫?」
「大丈夫。」
「しばらく水仕事と重い物を持つのは控えなきゃいけないから協力してあげて。」
「分かりました。」
「……。」
「どうしたんだ、綾波?」
「う、ううん。なんでもない。」
 レイが俯いて何か考え事をしていたのでシンジが声をかけるとレイはハッとして首を横に振った。

 っとその時。

 レイは、ギョッとして志水の後ろに隠れた。
「レイちゃん?」
「綾波?」
「っ…。」

 シンジのかなり後方に、レイにとって今一番会いたくない相手であった、椎堂ツムグが通り過ぎたのだった。
 ツムグは、目線だけレイ達の方を見て、そのまま連れの人と一緒に去っていった。
 ツムグがいなくなったことでレイは、ホッと息を吐き、包帯が巻かれた右腕を摩った。






***





 病室に来たツムグは、ベッドの上で意識がない尾崎を見て片眉を吊り上げた。
「こりゃまた…、面倒なことになって…。」
「なんとかなりそうか?」
「やれるだけのことはやるよ。」
 熊坂に聞かれ、ツムグは、肩をすくめた。
 ツムグは、尾崎の傍に近寄ると、片手を伸ばした。
「いっ!」
 しかし触れようとした直後、見えない何かに噛みつかれたように手首に傷ができ出血した。
「なっ!? おい、ツムグ!」
「だいじょうぶだいじょうぶ、傷は浅い。けど…、これ……。」
 熊坂に心配されつつ、ツムグは、尾崎に触れようと噛まれた手を押し出す。
 噛んでいる見えない何かが踏ん張っているのか、傷口がどんどん深くなり、力が入っているので腕が震えた。更にミシミシ、メリメリと見えない歯が食い込んでいく。全然傷は浅くない。
「……ちょっと目ぇつむって。」
「はっ?」
 病室にいる人間達にそう警告すると、ツムグは、放射熱線を放った。
 パンッと弾ける熱線の力が病室に衝撃波をもたらし、部屋のカーテンや布団などがはためいた。
 熱線でツムグの手を噛んでいた何かがいなくなったのか、ツムグの手がようやく尾崎に触れた。
 ツムグは、目をつむり、意識を集中させた。






***





 視界が真っ暗になった。
 何が起こったのか分からない。
 目を開けているはずなのに何も見えない。

 ただ、何かの気配が迫ってきているのを感じた。

 巨大何かだ。
 何かが迫って来るのだが、逃げられない。
 逃げたくても体が動かない。
 このままだと捕まると、分かっても動くことができない。
 もう目の前まできている。
 尾崎は何も見えない中、自分を捕えようとしている何かの衝撃に固く目をつむろうとした。

 その直後、視界が突然破裂するような光で一杯になった。

 視界に映る色が劇的に変化した。
 目の前はどこまでも真っ赤だった。
 果物や野菜のような赤さではなく、生命の中に流れる血のような赤さだ。
 自分がその中を漂っているのが分かる。漂っているということは液体の中にいるということだろう。
 だが不思議なことに息は苦しくなかった。
 ここはどこだろうと思っていると、液体が大きく揺らいだ気がした。
 下の方から何かが浮上してくる。
 浮上してきたモノを見て、尾崎は叫びかけた。

 ゴジラだった。

 ゆっくりと尾崎の目の前を通り過ぎてゴジラが上へ上へと浮上していく。
 すると視界が急に変わった。
 真っ赤な海と思われる場所の中空に変わり、下を見ると、ゴジラがちょうど頭を出したところだった。
 ゴジラは、動く様子がなく、頭の一部を出した状態でじっとしていた。
 どれくらい時間が経っただろうか、ゴジラがゆっくりと目を開いた。
 その目には何の感情もないように見えた。どこか夢心地というか…、意識がはっきりしていないのか。

『夢を見てるんだよ。』
 少年のような声が聞こえた。
『ゴジラさんは今、夢を見ているんだ。この海に溶けた生命の夢を。』
 ……“さん”?
 ゴジラのことをそう呼ぶ奴は尾崎が知る限り一人しかいない。
 しかし知っている人物にしては声が幼い気がする。
『ここは南極。ここでゴジラさんは知ったんだ。』
 なにをっと声に出せないが聞こうとすると。
『セカンドインパクトのことを。あと何がこれから先起るのかを。』

 そう語られた直後、ゴジラの目に怒りと憎悪の火がともり、ゴジラが吠えた。
 尾崎が知るゴジラの鳴き声以上に大きく、殺意に満ちた凄まじい声だった。

『ゴジラさんはね、世界を救いたいわけじゃないんだ。ただ、許せないんだよ。』

 ゴジラが戦うのは世界を救いたいからではないのだと語られる。
 確かにゴジラについての歴史を振り返ると世界のために行動しているとは言い難い。怪獣と戦うのだって敵対するきっかけがあったからそうなったというわけだから、使徒を攻撃するのも何か理由があるのは間違いない。
 これまで現れた使徒が直接ゴジラにちょっかいを出したとかで敵対心を煽ったわけではない。
 南極で眠らされていたゴジラが、使徒アダムから発生したセカンドインパクトの破壊で叩き起こされて、そこから原因とサードインパクトのことを知ってしまったというダブルパンチで現在の状況になったということだった。
 そりゃゴジラが怒り狂うはずだと尾崎は納得した。いや…、怒り狂うなんてもじゃないのかもしれない…。
 尾崎がそう考えていると、ゴジラが海に沈んでいった。
 力尽きて沈んだのではない。泳いでどこかで眠るのだろう。そして15年後の世界で目覚めるのだ。
『こんなことがあったんだから、ゴジラさんが許してくれるわけがないよね。』
 それはそうだ。そうでなくても南極の氷の中に閉じ込められて眠らされているのだ、そこをあんな起こされ方をしたら許す許さないの問題じゃない。死ななかったゴジラがおかしいぐらいだ。
 セカンドインパクトの大破壊でも死ななかったゴジラに、果たして自分達は勝てるのか?
 そんな疑問が浮かんだ時、視界にノイズが走った。
 それとともに意識が遠のいていくような感覚があり…。


『尾崎! 目ぇ覚ませ!』

 その叫び声が聞こえた時、世界が白い光に包まれた。





***






「…うぅ…う……、ハッ!」
 顔を歪めて呻いていた尾崎がカッと目を覚ました。
「こ、ここは?」
「目を覚ましたか!」
「熊坂士官…、俺は? 一体…。」
「……うぅ。」
「! ツムグ!?」
 ベッドの横にツムグが倒れているのに気づいた尾崎は身を乗り出した。
「…ヘーキ。まったくもう…、心配かけて。」
 ツムグがへろへろ状態でベッドの端に手を掛けながら身を起こした。
「俺の身に何が?」
「ただの睡眠障害。」
「えっ?」
「ちょっと体調が悪くて眠れなくなってただけだよ。別に何か変なものに取りつかれたとかじゃない。睡眠不足なうえに自覚症状がなくって幻覚系の超能力が自分に向けて暴発したから悪夢を見てたんだ。」
「前の実験のせいか。」
 幻覚系の超能力の特訓を兼ねた実験を数日前に行っていた。
「まあ、それもあるかもね。色々積み重なってこんなことになっちゃったわけだからそれが原因とは言い難いけど。例えるなら風邪をこじらせて肺炎になりかけたみたいな? 尾崎ちゃんの脳に溜まってった疲労をこっちに移したからしっかり寝れるはずだよ。ミュータント兵士の疲労が超能力の暴発に繋がるから疲労度の診察を義務付けるべきだね。」
「あの声も幻聴だったのか…。」
「……そうだろうね。尾崎ちゃんの超能力は強くてドツボにはまってたから俺じゃなかったら引っ張り戻せなかったぞ。体調が変だと思ったらすぐに言うこと。いい?」
「分かった…。次から気を付ける。」
 ツムグの言葉に妙な含みがあるような気がしたが、気のせいだと思うことにした。
「すまんなツムグ、部下の体調管理を怠った俺の責任だ。」
「助けが必要ならいつでも呼んでくれていいよ。M機関のみんなのことは好きだし。遠慮はいらないから。」
 ツムグはそう言って笑った。

「尾崎!」

「風間?」
 そこへ病室のドアを乱暴に開けて風間が入ってきた。
 風間はズカズカと尾崎のところに来ると、ベッドの上にいる尾崎を見おろし睨む。
「なんで病室にいやがるんだ?」
「えっと、これはその……。」
「体調不良だとさ。」
「はあ?」
 熊坂の言葉に風間はわけが分からんと声を漏らした。
「ツムグ、大丈夫か?」
 尾崎がぐったりしているツムグに声をかけた。
「なんとか…。」
「なんでてめーがいるんだ?」
「さっき、尾崎の体調不良の原因になってた脳の疲労感をこっちに移したとこ。」
「何してやがるんだ…。」
「詳しいことは熊坂に聞いて。俺…、帰る。」
「おお、休んどけ。すまんかったな。」
「いいよ、別に。じゃっ。」
 ツムグは、ヒラヒラと手を振るとフラフラの足取りで病室から出ていった。
「大丈夫なのか?」
「ま、奴のことだから大丈夫だろう。まあ、とにかく休むことだ。いいな。」
「はい、分かりました。」
「残念だったな風間。せっかく尾崎との手合わせを楽しみにして戻ってきたってのに。」
「違います。」
 笑う熊坂に風間はムスッとしてそっぷを向いた。
 素直じゃない風間はよくこういう反応をする。
「すまない、風間。」
「うるせぇ。とっとと寝とけ。」
 そう言って風間は出ていった。
 熊坂も出ていき、残った尾崎は再びベッドに横になった。

 しっかり休めた尾崎は、後日復帰した。
 なおツムグは、弱点と言える脳に負荷をかけてしまったのでフラフラしていた。それを聞いた尾崎が慌ててお見舞品を持って駆けつける小さい騒ぎがあったりした。





***





 音無は、イライラしていた。
 尾崎がまた倒れた。
 心配する身にもなれといつも言っているのにこの様である。
 原因が訓練と実験による脳の疲労だったと聞いたから完全に尾崎の責任とは言えないのだが、今日はどうにも収まりがつかなかった。
 何回倒れた? もはや数えるのも億劫である。
 自分が傷つくことより他人が傷つくのを嫌う性格なのは熟知していたつもりだ。
 しかしこうも倒れてたらいい加減にしろと殴りたくなる。
 いやもう殴ったのだが…、それでも改善されないわけで…。
「あああ、もう!」
 まとめて結んでいた髪の毛をかきむしって音無はイライラを露わにした。
 イライラしながら廊下を歩いていると、台車を押しながら歩いてくるシンジを見つけた。
「あ、音無さん。どうしたんですか?」
 音無の様子がおかしいことにシンジは気付いた。
「…シンジ君!」
「えっ! は、はい、なんですか!?」
「ちょっと付き合って!」
「えっ? え、ええええ!?」
 音無に近寄られて手を掴まれてそう言われ、シンジは混乱した。






***






 ネルフがほとんど機能しなくなったとはいえ、メンテナンスは必要である。
 そこでエヴァンゲリオン参号機を一旦外へ運び出すことになった。
 使徒サキエル襲来以降、エヴァンゲリオンの全体像がほとんど明らかになっていなかったので、初めて本物を見る者が多い。
 機龍フィアや、MOGERAとも全く違う完璧な人型で、独特の見た目ではあるが立派なオーバーテクノロジーである。
「使徒と戦うために制作された兵器とはよく言ったものだな。確かに自信を持つのも分からんでもない。」
「ま、全然使わないけどな。」
「そりゃ言えてる。」
 なんて笑う者達もいた。

「あんた達!」
「よせ葛城!」
 参号機の運び出しに立ち会うことになったミサトが、笑う者達に怒り殴りかからんとしたので加持がそれを止めた。
「離しなさいよ!」
「おや、誰かと思えば、元・作戦部長の女じゃないか。」
「作戦本部? そんなものネルフにあったのか?」
「最初の使徒以来出番なしで終わってるけどな。」
「けどよく知ってたな、おまえ。」
「なーに国連軍にいた頃にちょっと顔を見たってだけさ。」
「エヴァとネルフをなめんじゃないわよ! あのメカゴジラだって使徒に奪われてんじゃない! ゴジラを倒すって大口叩いてて何してんだかね、ハンっ!」
「なんだと!」
「落ち着け、相手にする必要はない。元・作戦部長さん、いいお報せだ。」
「あによ!?」
「参号機は、ゴジラが本当にエヴァンゲリオンを狙って動くのかを検証するために使われるそうだ。どうだ? 実際にエヴァンゲリオンを動かせるんだぞ?」
「なによそれ! 参号機を黒トカゲのエサにするって言うの!? そんなの許さないわよ!」
「残念だが決まったことだ。赤木博士も協力的だ。」
「リツコが!? 嘘でしょ! だってエヴァがなきゃ…。」
「使徒は倒せないとでも言いたいか? これまでの戦歴にエヴァンゲリオンは使われてはいない。残念だったな。」
「こ、これから倒すのよ! 弐号機とアスカがいんだからね! 今にその天狗っぱなをへし折れるわよ!」
「そりゃ楽しみだ。」
 ミサトは、最後に鼻で笑われた。


 参号機は、空輸されている最中、雲を掠った。
 その時、参号機の装甲に錆色のカビのようなものが生じた。 
 

 
後書き
ゼーレとゲンドウにいたずらしたのは、椎堂ツムグです。

夢を通じて、ゴジラが南極の消滅(セカンドインパク)で生き残った光景を見た尾崎。

地球防衛軍側からの雑な扱いに不服を申し立てるも、相手にされないミサト。
参号機には、アイツがつきます。
あと、次回はそいつの捏造戦闘あり。

 
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