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ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)

作者:蜜柑ブタ
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第十三話  嵐の前の静けさ?

 
前書き
今回は、戦闘無し。

機龍フィアに芽生えた自我は、自らを『ふぃあ』と名乗っています。 

 



 技術開発部と科学研究部の二つの部署は、困っていた。
 理由は。

『ヤだヤだ! 触るな触るな!』

 機龍フィアの自我意識に子供みたいに拒否されていたからだ。
 子供みたい、というよりも、ホントに子供なのかもしれないが、コレは酷いっと技術者達や研究者達は頭をさえざるおえなかった。
 自我意識が芽生えたからには、調べる必要があるので必要な事だからと説明して説得しようとしても聞き入れてもらえない。
 無理やりやろうものなら、巨体を捻って振り落される。死人はギリギリで出なかった…。
 結局ツムグでなければダメだという結論だ。
「いい加減言うこと聞きなさい。」
 椅子に座って足をプラプラさせながら様子を見ていたツムグが、溜息を吐きながら言う。
『ヤだ、ヤだ! くすぐったいんだもん、くすぐったいんだもん!』
 そう駄々をこねる機龍フィアの自我意識、自称“ふぃあ”。
 子供のような高い声で、機械から発せられるせいか男なのか女なのか判別が困難な音程である。
 しかも発音がところどころおかしい。
「同じ言葉を繰り返す癖があるなぁ…。精神年齢は、十歳以下かな?」
「データ量は防衛軍のスパコン並なはずなんだが…。なぜこんなに低いのか謎だよ。」
 ツムグは隣にいた書類を片手に頭を押さえている技術者に話をふるとそういう答えが返ってきた。
「人格の年齢と知能は比例しないということではないのか?」
「しかしこのままでは正確なデータが取れない。なんとかしろ、ツムグ。」
「分かってるって。ふぃあちゃーん、くすぐったくっても我慢しよう。これ以上みんなを困らせないで、ねっ?」
 椅子から立ち上がったツムグが機龍フィアに近寄って顔を指さして言った。
『うゥ~。でもォ。』
「でもじゃない。このままだとふぃあのこと削除とか言われるよ?」
『ヤだ! それ、ヤだ!』
「だったらここにいる人達の言うこと聞きこと。くすぐったいのは慣れるから我慢しなきゃ。」
『う~~、分かった…。ツムグが言うなら言う通りにする。』
「いい子いい子。」
『ワ~い。』

 こうしてなんとかふぃあを大人しくさせることできたのである。
 ふぃあの精神年齢は低いうえに、データ量の割に成長性も晩成型であるというのが現在の見解である。

『ねえねえ、ふぃあイイ子? ふぃあイイ子? イイ子してたら褒めてくれる?』
「うん。いい子だから首をこっちに向けないようにね。人が落ちちゃうから…。」
『ツムグ、見てる、見てる?』
「体こっちに向けちゃダメ! 周りが壊れるから!」
『ツムグ~!』
「あとでいっぱいお喋りしてあげるから、今は静かに動かないように! お願いだから大人しくして!」
『うん! 大人しくする!』
「大人しくしてないー!」

「…あの馬鹿(ツムグ)を困らせるとは、こりゃ相当だぞ。」
 ツムグによく振り回されている技術開発部と科学研究部の者達は、ツムグがふぃあに振り回されている様子を珍しいモノを見るように見ていた。
「しかし…、一応は想定していたとはいえ実際に自我意識が芽生えてしまったわけだが、上層部はどう判断するだろうな?」
「4式の開発のプロジェクトでその辺の資料は見せてるし、渡してるはずだろ?」
「しかもこの人格ですからな…。機龍フィアの運用自体に支障が出る可能性もありますな。」
「そうなったら徹底抗議だ。我が子も同然に育て上げた作品でもあるのだから。」
「我が子…と言う割には、まったく我々に関心がないみたいですけどね。」
「それは言うな。」
 自我意識が突然芽生えたとはいえ、一応は想定していたことだったのもあり技術者達と研究者達の適応は早かった。





***





「……以上が、科学部と技術部からの報告です。」
 会議場が、機龍フィアについての説明を聞いてざわついた。
「こうなることは想定していたというのは間違いないのですか!?」
「4式機龍開発プロジェク発足時から自我意識の発生は予測されていました。3式機龍という前例がある以上、生体コンピュータの運用において独自の思考が発生する可能性は避けられないものとしてプロジェクトは進行していました。」
「機龍フィアの操縦はどうなる!? 今後は自我意識に戦わせるというのですか!?」
「自我が芽生えた直後の出力の記録では、予定出力の半分程度と出ています。」
「つまり現状の戦闘能力を出すには操縦者が必要ということです。」
 機龍フィアについての状態についてや、今後の運用について質問が飛び交う中、一人の男が場の流れを変えることになる。
「メカゴジラの運用以前の問題を忘れてはなりませんよ。」
「問題?」
「この映像をご覧になってください。」
 そう言って合図を出しモニターに映し出したのは、使徒に乗っ取られた機龍フィアが暴走したあとの爪跡だった。
 踏みつぶされた道路その他、車や建物。群馬の都内をまっすぐ通り過ぎた後の惨状であった。
「暴走したメカゴジラは、基地のドッグ目前で運搬船から落下し、そのまま第三新東京までまっすぐ突き進みました。この惨状について、国民にどう言い訳をなさるつもりで? 波川殿。」
「言い訳などしません。ありのままに説明するのみです。」
「馬鹿正直になったところで国民の感情を抑えられるとお思いなのか?」
 モニターの映像が変わり、プラカードや紙などを掲げて集団抗議する団体や、機龍フィアと地球防衛軍を非難するニュースの映像が映し出された。
「我々地球防衛軍の存在を理解せず権利ばかりを主張する馬鹿に油を注いだばかりか、その馬鹿に上辺だけ同調した集団行動が横行しつあるというのに、ここで馬鹿正直に敵にこちらの最強の駒を奪われたことを説明できるわけがない。」
「だから言って弾圧をしても良いわけではありません。」
「世界の命運がかかっているのだ。やむ終えないでは?」
「それこそ火に油を注ぐのではないですか? 和臣(かずおみ)殿。」
「理想論ばかりで組織が守れるとでも? ロシアのことについてもまだ始末がついてない。」
「……。」
「……。」
 波川と和臣の睨み合いが炸裂し、会議場にいる者達は、たらりと汗をかいた。
 その空気を変えたのは、一つの連絡だった。
「な、波川司令。たった今…。」
「来たのね。」
「波川殿?」
「戦うための駒がなければ、増やすまでですわ。」
 モニターの映像がまた変わった。
「! これは!?」
 和臣も、会議場にいる人間達も驚いた。

「ようやく、連れて帰ることができたわ。」





***





 機龍フィアの今後についての会議が行われて間もなく。
「結局、機龍フィアの運用一時凍結か…。傍から見たら事情なんて分からないし。」
 ツムグは、壁に背を預けてそう呟いた。
「これを機に“アレ”を日本に持って帰ってきたし。使徒は、今のところ割と簡単に倒せてるけど、使徒側だって簡単に負けてられないだろうし、どうなるかな? イロウルはあのおじいちゃん達の想像を超えてたみたいだし…、次がどうなるかな?」
 使徒サキエルに始まり、使徒イロウルまで倒れた。
 残るは6体であるが、地球防衛軍側は何体の使徒が存在するのか知らされていない。
 使徒がネルフの最深部に到達すると世界が終わるとされるサードインパクトが起こるという本当なのか否か首を捻りそうになる情報だけが伝わっている。
 それが事実であるように使徒がネルフを目指すという不可解な習性が認められたものの、一部はネルフを目指すことよりもゴジラへの迎撃や地球防衛軍への攻撃を優先したものがいた。
 使徒ラミエルがゴジラをひたすら狙撃したり、使徒ガキエルが第三新東京とは全く関係のない海に出現したり、衛星軌道に出現した使徒サハクィエルがロシアの基地を破壊したり、使徒イロウルが機龍フィアにとりついて機龍フィアをネルフの真上で自爆させようとしたりした。特にサハクィエルは、その後も他の国の基地を狙って攻撃を仕掛けた。途中でゴジラに狙いを変えなかったらそのまま地球防衛軍の基地を攻撃し続けていたであろう。
 6体中、4体が“ネルフの最深部を目指す”と仮定された使徒の習性を無視して動いているのが分かる。
 原形がほぼ残っていた使徒マトリエルの死体を回収し分析を行い、使徒の正体を突き止めようと科学部が頑張っているが、分かっていることは、すべての体機能をコアに依存した生命体であること、遺伝子構造が99.89パーセントまで人間と共通していることである。
 二足歩行ならまだともかく、どう見てもザトウムシな見た目のマトリエルからなぜ100パーセントに限りなく近い遺伝が出てくるのか…、多くの科学者が頭を抱えた。
 構造的に見て怪獣のそれよりも非常に優れた生命体で、イロウルのような微生物型という想像を超えた形態を持つモノすらいる始末である。
「…無理して立て続けに出てくるから間があくだろうな。ゴジラさんも、大怪我してるし…。ああ…、ゴジラさん。」
 その場にズルズルとへたり込んで体を抱くように腕を回してツムグが溜息を吐いた途端…。
 大きな音と建物が揺れる振動が来た。

『ツムグは、ふぃあのーーー!』

 数枚の壁越しでも聞こえる大音量で、そんな子供の叫び声が聞こえてきた。

「……使徒が来ない間にこっちの問題をなんとかするのが吉だな。慕ってくれるのは嬉しいけど、独占欲(?)が強いのがちょっとなぁ。」
 ツムグは、立ち上がり機龍フィアのところに戻ろうとした時、ふと立ち止まった。
「えっ…、嘘でしょ…。う~ん、なんでこう問題って立て続けに起こるのかな? あとで教えとこ。」
 頭に過った未来のビジョンに、ツムグは、額を抑えて唸った。
 ツムグは、超能力系統の力が細胞のエネルギー量により凶悪レベルになっているため本人の意思に関係なく暴発しやすい。それゆえに盗聴、覗きが息をするようにできてしまう。未来予知だってできてしまう。聞きたくて聞いているわけではないし、見たくて見ているわけでもない、そういう誤解が……多少、あるのだが、本人は日常なのでその事実の裏返しでとぼけるのも普通になってしまっていた。
『G細胞完全適応者! どこにいるーーー!?』
 機龍フィアの格納庫からの放送の呼び出しがきた。
「はいはーい、今から行きますよと。」
 呼び出されたツムグは、軽い足取りで向かった。


 このあと、二時間ちょっとほど機龍フィアを大人しくさせるのに苦戦。
「お疲れ様でぇす。」
「ナっちゃん。」
 三十代そこそこの白衣の女性が小走りで近寄ってきたのでツムグが反応した。
 ナっちゃん。ナツエというのだが、彼女はG細胞完全適応者であるツムグの監視役の一人の看護師で、ちょっと(?)マッド。
 なぜかツムグにたいして好意をもってる変わり者である。
「ツムグさん、これどうぞ。うふふっ。」
「わー、ありがとう。」
 ちょっと不気味に笑うナツエから差し入れとしてドーナツを受け取った。
「やっぱ甘いものは脳にいいね。」
 海外からの進出店のとびきり甘くて(歯が溶けそうなと言われる)高カロリーな品のドーナツを食べる。
「うふふ…。よかった。」
 結構可愛いんだけど影が見える不気味な笑い方をするナツエに、ツムグは若干苦笑いを浮かべた。
 人からの好意は嬉しいが、自分なんぞ好きになっても人生無駄にするだろうとツムグは思っているし日頃そう言っているのだが…。
 ナツエがもし普通の人に好意をもったらたちの悪い方向に行っていたんじゃなかろうかというのを、精神感応で精神構造をうっかり読み取ってしまった時は、相手が人間じゃないツムグだったし、合法的にほぼ四六時中見ていられる環境だったのがよかったと思ったのは黙っておく。
 あとツムグは年齢的に恋愛感情が枯れているのでナツエの想いには応えれずにいる。
 さらに付け加えると、ナツエがツムグにたいして向けるモノは好意以外にもあり、それが問題だった。
「どこに行くんですかぁ?」
「波川ちゃんとこ。」
「お仕事の邪魔しちゃだめですよぉ。」
「分かってるよ。」
 そう言ってツムグは、背中を向けた。
 そして動こうとした直後、背中にドンッと衝撃が走った。
「……また?」
「……。」
 ナツエに背中から刺されたのである。
 恒例行事化していることである。ものすごい物騒であるが、ツムグだからできることである。
 嫉妬深いのである。恋愛的な意味でも友愛的な意味でも。なので彼女に好んで近寄る人間はそうそういない。
「嫉妬してくれるのは嬉しいけど、スーツに穴が空くのと、血が出てるとあれこれ言われるから少し控えてって言ったし、言われなかった?」
「でもぉ…。」
「俺も女の人喋るのは控えるように努力するからさ。」
「それならいいですぅ。」
「ハハハ…。」
 メスを抜かれてすぐに塞がった傷口を撫でて確認しながら、ツムグは苦笑いを浮かべた。

「っていうか、コレ何プレイ?」





***





「っということがあってさぁ。」
「急に押しかけてくるのもやめてほしいわね。」
「そう言わないでよ、波川ちゃん。」
 あれからツムグは、波川のところに行っていた。
「休まないと倒れるよ? そろそろ限界なはずだけど。食べれる?」
「…ふふっ。あなたには嘘は付けないわね。」
 ツムグから差し出された駄菓子を波川はひとつ摘まんで口にした。
 駄菓子は、ツムグが基地内で販売されている昔懐かしの品を購入してきた物である。
「この味、久しぶりだわ。」
「今やってる仕事は、秘書さんに任せた方がいいよ。倒れた時の損のがでかいから。大事な仕事は和臣がやってくれてんでしょ? 急ぐ仕事じゃないから少しでも休憩しないと。」
「なんで仕事の内容まで知ってるの?」
「深く考えちゃダメ。こーゆーのは。」
「それもそうね。特にあなたに関しては。」
「ゴードン大佐はまだ出てこれない?」
「それを聞いてどうするつもりかしら?」
「察しがついてるないいや。ちょっと面倒事が…。」
 ツムグは、波川の耳元に口を寄せてヒソヒソと予言したことを伝えた。
 聞いた波川はあからさまに眉間に皺を寄せた。
「嘘でしょう?」
「いや、マジマジ。本当と書いて、マジ。」
「いくらなんでも…、この時代に? どうして?」
「それは、直接聞いてみないと。」
「すぐに令状を発行するわ。」
「あっ。休んでほしいのに不味った。」
 休憩挟めばよかったと後悔したが遅しである。


 この後、地球防衛軍から日本重化学工業共同体、通称日重に対し、調査の令状を発行した。

 その後まもなく、アジアの離島に建設された日重の研究所兼工場に向かう輸送船を海の下から巨大生物が襲い沈没させる事件が起こった。
 巨大生物がゴジラであるとすぐに分かった。
 傷ついているゴジラが輸送船を襲った理由は……。

 ゴジラが核施設に惹かれる性質があると分かってから核開発と原子炉の廃止が強まり世界会議で全面的に禁止された。そしてプラズマ動力によるエネルギープラントが発達し、核に頼る時代は廃れていった。
 ……表面上は。
 しかしいまだに核開発と原子炉を復活を望む声はあり、まさか日重を支援しているのが核融合炉推進派で核融合炉の開発が行われていたなどと考えられただろうか。
 だから波川は、的中率がかなり高いツムグの言葉を聞いても思わず嘘だと声を漏らしたのである。
 日重の工場にある放射能物質と、核融合炉の徴収と、核融合炉推進派が機龍フィアの暴走をあげて核融合炉の必要性を訴えるという事態が発生したりした。


「なーんで人間って悪いと分かってても悪いことの魅力に勝てないんだろ?」
『ツムグ、ツムグ! 暇? お喋りする?』
「あー、はいはい。何喋る?」
『あのねー、あのねー、何かいるよ。』
「何が?」
『あそこあそこ!』
「んん?」
 機龍フィアのモニターに何かが映された。
 それを見たツムグは、あらっと声を漏らした。





***





 一方そのころ。
「幸いにもゴジラが放射能物質を残さず食ってくれたんで流出汚染はないとのことですよ。放射能をまき散らしながら、放射能を食うとはつくづく常識を超えた存在ですね。ゴジラは。」
「それを言いにわざわざ面会か?」
 加持がゴードンが謹慎されている独房に来て、外で起こった事件について語っていた。
「おまえと俺は何の接点もないぞ? 何の用だ? 下らないことなら失せな。」
「接点は受け身で作るだけのもんじゃないと思ってますんで。でかい使徒の時にゴジラを邪魔した奴らのことで少し…。」
 加持の言葉にゴードンは、ぴくりと反応した。
 あれからあの時に捕獲した謎の武装集団のことについて調査は進んでおらず、何より証言できる状態じゃないというのが痛かった。(ツムグのせい)
 狂信的な集団であるのは間違いないが、現在までに確認されている武装組織のどれにも該当していないのだ。
 上層部が何か知っているはずだというのは、使徒にロシア基地を消されたことや、使徒を倒したことや、使徒に機龍フィアを奪われたなどの立て続けのドタバタを片付けたくて調査に消極的な態度であることや直感で気付いているがその尻尾を掴むことができていない。
 ここまで隠れるのがうまい狂信的な武装組織を、ゴードンは知らない。
「なんだ?」
「あっ、聞いてもらえるんですね?」
「いいからとっとと喋りな。面会時間にも限りがあんぞ。」
「それもそーですね。」
 それから加持は、フェイクを交えてであるがあの武装集団が元々はネルフ関連の暗部の組織であることを語った。
 ネルフ実権があった頃の勢力を考えればあれだけの潜水艦や戦闘機に、心身共に鍛えられた人間達を用意するのも容易かったであろう。それぐらいの力はあったことはゴードンも理解している。
 ただその元ネルフ工作員がゴジラの邪魔をしたのは解せない。
 確かにゴジラが復活したことでネルフは実権を失い、ギリギリまで削られ、ほとんどの人間達が切られた。
 切られた復讐のために自爆覚悟で使徒が落下してくる直前にゴジラに攻撃するだろうか?
 彼らがネルフにそこまで忠義を誓っているとは思えない。
「誰だ?」
「はい?」
「奴らは自分の意思であんな馬鹿な真似をしたんじゃねぇ。別に誰かがいんだろ? そいつを教えな。」
「あちゃー、バレバレですか。あんたあの椎堂ツムグって奴ばりにヤバイ人ってマジみたいっすね。」
「俺とあいつを一緒にすんな。」
「面会終了です。」
 そこへ看守が来て面会時間の終了を伝えに来た。
「ま、今回はここまでです。またいつか。」
「…ふんっ。」
 加持が去った後、ゴードンは、ベットに横になった。





***





 レイは、珍しく困っていた。
 段ボール箱を持って歩いてたら、いつの間にか自分の後ろについてくる物体がいた。
 立ち止まって振り向き、目線を下に向けると、それは、『クワーッ』と鳴いて、両の腕をパタパタとさせた。
 再び歩き出せばついてきて、立ち止まると向こうも立ち止まる。その繰り返しだった。
「綾波、何して…、うわぁ!? なにそれ!?」
 倉庫からヒョコッと出て来たシンジは、レイの後ろにいる物体を見て腰を抜かした。

 南極が消滅して、約15年。今や15歳ぐらいの少年少女は一度も見たことがない、超希少生物ペンギンである。
「ついて来るの…。」
「えっ? どういうこと? っていうか、なんの生き物?」
「あっ、そこの君達…。あー! いたいた!」
「クワー、クワー!」

 そこへ白衣を着た男性が走っきて、何か聞きかけてレイの後ろにいるペンギンを見つけると、ペンギンの後ろに回り込んでペンギンを後ろから抱き上げた。
 ペンギンは、鳴きながらジタバタと暴れた。
「こら暴れるな! ごめんねー。うちのペンペンが急にいなくなって探してたんだよ。」
「ぺんぺん?」
「この子の首輪に名前。」
 言われてみると、『PEN2』と掘られた銀色のプレートのついた首輪が首に巻かれていた。
「ペンツー…、あ、だからペンペン? あの、これ、なんの生き物ですか?」
「あぁ、君達見たことないのか。ペンギンだよ、ペンギン。図鑑で見たことないかい? しかもこいつは、新種の温泉ペンギンっていってね、風呂が好きなのさ。ああ、こら!」
 温泉ペンギンこと、ペンペンは、男性の手から逃げると、短い足で走り、レイの後ろに隠れてしまった。
「こら、戻ってきなさい!」
「クワー、クワクワ!」
 ペンペンは、抗議するように片手をパタパタさせて激しく鳴いた。
「そんなにあいつのところに行くのが嫌か! 仕方ないだろ、俺来週には海外に赴任なんだからおまえのこと連れて行けないんだよ! 分かってくれよ!」
「クゥワーー!」
「すごく嫌がってる…。」
「嫌がってるわ。」
「頼むよ~。あー、どうしたら…。」

「その子達に預けるって選択もありだよ?」

「うぎゃぁ! なぜにおまえがここにいるーー!?」
「誰ですか!?」
「!?」
「く、クワァァァァ!?」
 いきなり現れた赤と金色の髪の毛の男に、全員が飛び上がった。
 ペンペンに至ってはバイブのごとくガタガタ震えだした。
「そこの青い髪の子に懐いちゃってるし、無理に連れてっても逃げるよ? っていうか、そんなにビビらなくても。頭からバリバリ食べたりしないから、ね?」
「クワ…。」
「失神した!」
 ペンペンは恐怖が突き抜けて泡を吹いて失神した。
「椎堂ツムグ! おまえは動物のいるところに来るなって上から言われてるのになぜ守らないー!?」
「人馴れしてるからいいかと思ったんだけど。」
 ペンペンを介抱しながら白衣の男性は椎堂ツムグと呼ばれた男に怒鳴った。
「ネズミ100匹卒倒させた奴が何を言う!」
「100匹!?」
 すっかり野生動物が少なくなってしまった今のご時世で、ペンギンを始めとした希少動物は研究所でしか拝めない。
 そうなる前からであるがツムグが接近するとなぜか動物達はペンペンみたいに震えあがり、しまいに気絶するのである。
 ネズミ100匹事件は結構最近やらかしたことである。ちなみにネズミは実験室の実験用マウスである。
「なんでかなー?」
 半分は人間じゃないとは分かっているもののここまで嫌われる理由がいまいち分からんとツムグは腕組して首を傾げた。



「へぇ…、あのファーストがこんなところでうまくやってるなんてねぇ。」
 建物の物陰から、彼らの様子を見ていた加持がいた。
「碇の息子さんもあーんなに表情豊かになって、資料とはまるで別人だな。これも…。」
「尾崎少尉のおかげってか?」
「おおわぁあ!!」
 横に音もなく現れたツムグに加持は飛び上がり、足をもつれさせて倒れた。物陰から出る形で。
「おい、椎堂ツムグ、何やってって…、あんな見ない顔だな、部外者か?」
「あ…、いや、その俺は…。」
「この人迷子だよ。」
 へたり込んでいる加持の後ろにトコトコと歩いてきたツムグが、ニコニコ笑う。心なしか、笑顔が怖い。
「そうそう! なにせ広いもんですから道に迷っちゃって! ハハハ!」
 加持はツムグの言葉に便乗することにした。
「どうなってるんだ? 急に消えたと思ったら別のところに…。」
「テレポート…。」
 急に消えて知らない男性が出てきたところから出てきたツムグに、シンジは、わけが分からないと目を見開き、レイは、驚きつつもツムグが何をやったのか理解した。
 加持はなんとか誤魔化したが、背後にいるツムグに、背筋を指でなぞられ、耳元で。
「ちょっと俺とお話しない?」
 っと囁かれ、背筋がゾワッとした。
 あれだ。夜のお誘いをするような声色だ。幸い加持以外には聞こえていない。
「ま、また今度で…!」
「なーんだ、つまんない。」
「おい…、何を言ったんだ? あまり人を困らすんじゃない。」
「あ、宮宇地(みやうち)さん。」
 宮宇地は、M機関のミュータント兵士で30歳。シンジとレイを何かと気にかけてくれている。
「だって、いい男じゃん。」
 っとツムグがクネクネしながら加持にしなだれかかるようにしてうっとりと言うと、加持は脱兎のごとく逃げていった。
「ありゃ? ジョーダンなのに。」
「何を言ったんだ?」
「お話しない?って聞いただけだよ。なんか変な意味でとられたかな?」
「絶対そうだな…。あの逃げ方は尋常じゃないな。おまえのそういうネタはなぜか知らないが冗談に聞こえねぇんだよ…。」
「俺の演技力の賜物? うれしいねぇ。」
「キモいからやめろと言っているんだ!」
「あの宮宇地さん…。」
「なんだ!」
「ぅ…。あの…、この人、何なんですか?」
 シンジが宮宇地の迫力に怯みながらもツムグを指さして言った。
「G細胞完全適応者って聞いたことないか?」
「えっと、聞いたことがあるようなないような…。」
「生物学的には人間なんだけど、ゴジラさんの細胞を取り込んだ怪獣人間だって思ってくれればいいよ。」
 ツムグがニッコニコ笑ってそう言った。
「ご…!?」
 ゴジラという単語にシンジには過剰反応した。
 ツムグは、ニコニコ笑っている。
 それがなぜか恐ろしく見えてシンジは思わず一歩後ずさった。
「人間じゃ…ないの?」
「遺伝子が人間に依存してるから見た目この通りだけど、ショットガンで頭ぶち抜いても死ななかったから、再生力はゴジラさん並じゃないかな? それ以上とも言われたりするよ? そう言う意味じゃ人間じゃないね。」
 その時、ツムグは、レイが少しずつ後退りしているのを見つけた。
 表情は無表情に近いが、得体のしれない不安による影があった。
「怖い?」
「…分からない。あなたは何?」
「見ての通り。あとさっき言った通り。それ以上でもそれ以下でもないよ。それとも頭からバリバリ食べられたかった?」
「っ!」
「椎堂ツムグ。それが俺の名前ってことになってるよ。よろしくね。シンジ君、レイちゃん。」
 ツムグは、改めてニッコリと笑った。


 ツムグに見られていたことであるが、あの後加持はツムグに言い寄られたショックを抜くためにミサトに縋り、ミサトに蹴られている光景をリツコがたまたま目撃されることになる。
 ツムグは、それを見たのもあり、その日は終始ニッコニコしていたという。
 
 

 
後書き
椎堂ツムグに好意を持つヤンデレさんなナツエ。嫉妬してすぐ刺してきます。

なお、このネタでのペンペンは、ミサトのペットじゃなく、地球防衛軍内の研究者のペットです。
あと、正式にシンジ達の前に現れた椎堂ツムグ。 
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