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ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)

作者:蜜柑ブタ
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第一話  再結成・地球防衛軍

 
前書き
地球防衛軍の設定は、ゴジラ・ファイナルウォーズを参考にしています。
ミュターント部隊の尾崎や風間。音無博士などは、ゴジラ・ファイナルウォーズのキャラです。 

 


 第三使徒サキエルがゴジラに成すすべもなく殺され、初陣のシンジが乗る初号機が破壊されかけた。
 初号機と第三新東京とネルフ本部を救ったのが、ネオGフォースという、かつて地球防衛軍の中で対ゴジラ専門の戦闘組織として設立されたものにM機関と機龍フィアを入れてパワーアップした新しい組織だった。
 セカンドインパクトによる南極の消滅を生き延び、セカンドインパクト前より強くなったゴジラを戦意喪失させて海へ退却させることに成功したのだ。
 約35年ぶりのゴジラとの戦いとしては歴史的大勝利といえるだろう。


 国連の議会場で、第三新東京でのゴジラとネオGフォースの戦いがスクリーンに映されていた。
 ゴジラが機龍フィアとネオGフォースの対怪獣戦闘機の集中砲火を受けて、ついに海へと退散していったところで映像は終わった。
「ご覧になっていただいた映像がゴジラが第三新東京に上陸し、そしてネオGフォースの最新兵器4式機龍コードフィアの成果です。」
 女性司令官・波川玲子の声が議会場に響いた。
「波川司令、ゴジラの復活はすでにネオGフォースは知っていたのですか?」
 議員の一人が挙手して質問をした。
「国連の管理下にあるG細胞完全適応者、椎堂ツムグの言葉からゴジラが生きている可能性が非常に高いと見て、ネオGフォースは、数年前からゴジラを探索し続けました。アフリカの対岸に巨大な生物に腹を噛みちぎられた形跡のあるクジラの死体が発見され、歯型を照合したところ、ゴジラのものとほぼ一致したのです。それから太平洋を横断する放射能物資を輸送していたタンカーが海中から浮上してきた巨大何かによって真っ二つに破壊されたという情報が生き残った乗り組み員の証言で得られました。背びれのようなものと太くて長い尾が海面から出たのが見えたと証言しています。ゴジラは、怪獣王の異名の他に水爆大怪獣という異名を持ちます。これはゴジラが水爆実験で突然変異したジュラ紀の恐竜であることからそう呼ばれるようなったのです。ですからゴジラは、常に行く先々で放射能をまき散らし、放射能による熱線を攻撃手段としていて、さらにゴジラは、放射能物資を捕食する習性があります。過去、ゴジラは、原子力発電施設を襲撃した事例も多く報告されており、放射能物資を輸送していたタンカーを襲ったのも放射能物資が目当てだったと考えればゴジラの犯行であることは間違いないでしょう。また同じ海域を潜航していた原子力潜水艦が二隻、消息を絶っています。」
「ゴジラの姿を映像に収めたり、居場所は特定することはできなかったのですか?」
「ゴジラは、深海を常に泳いで移動しており、またその速度も速く捉えるのはゴジラを封印した35年前から困難でした。ゴジラとの戦いはいつもゴジラが上陸してからがほとんどで…、私達は、市街での戦いを余儀なくされ続けてきました。そんな中、G細胞完全適応者の出現が一筋の光をもたらしたのです。彼は、一定の範囲内でならゴジラの居場所、どこを目指して移動しているのかを感じ取ることができたのです。南極でゴジラを封印できたのも、彼の協力があったからこそです。」
 しかしっと波川は、苦しげに表情を歪めた。
「彼は、人間とゴジラの中間という非常に不安定な存在でした。ゴジラが移動する場所が分かると言うことは、ゴジラの気持ちが分かるということなのです。彼がもしゴジラに同調し、ゴジラと同じ人間への怒りに染まってしまったら、彼はゴジラに並ぶ最強最悪の敵となっていたでしょう。ですから、我々は彼をできる限りゴジラと接触させたくなかったというのが本音なのです。彼が今日まで我々人類の味方でいてくれたことに心から感謝しています。」
「では、G細胞完全適応者が今後敵となる可能性はないということですか?」
「それは、彼次第……とした言いようがありません。」
「だが新型メカゴジラには、そのG細胞完全適応者がパイロットだったと聞いているぞ! これは矛盾だ!」
 議会に参加していた軍人の一人が席を立って叫んだ。
 その言葉に同調した者達が口々にそうだそうだと声をあげはじめた。
「そのことについては、今からお見せする映像とお手元にお配りする資料をご覧になっていただきながら説明します。」
 議会に参加している者達に資料が配られ、スクリーンが再び映像を映し出した。
 それは新型メカゴジラである、機龍フィアの解剖図のような画像だ。
「機密上の問題ですべてとはいきませんが、これが新型メカゴジラ、機龍フィアです。」
 波川が席に座り、今度はネオGフォースの技術者が説明を始めた。
 スクリーンに映し出された機龍フィアの資料映像に、機械関係の技術に携わるか、それを好み認識がある者達が驚嘆の声をあげた。
「機龍フィアの前の機体に当たる3式機龍に導入されていた、DNAコンピュータは、3式機龍に利用されていた一代目のゴジラの骨髄幹細胞を使用したため、二代目のゴジラ、つまり現在のゴジラに共鳴してしまい暴走し大惨事となりました。そこで3式のDNAコンピュータをゴジラのものとは別の物に変えることで暴走を防ぎました。しかし3式は、ゴジラとモスラを交えた混戦の際に自我を持ち、モスラの幼虫の糸で拘束されたゴジラを抱えてゴジラと共に日本海溝へ沈むという最後を迎えました…。」
 そこまで説明して、一旦言葉を置いた。目をつむり何か耐えるように。
 技術者は、メカゴジラの開発に携わったベテランの技術者であるため機龍への思い入れがあるのだ。
「おっと話がそれてしまいましたな。で、この新型メカゴジラ・機龍コードフィア型と名付けたメカゴジラは、3式がゴジラの骨を使用したのに対し、G細胞完全適応者・椎堂ツムグの細胞を使って開発したものです。」
「G細胞完全適応者の細胞を!?」
「なぜそんな発想が出るんだ!?」
「それは、今から説明させて頂きます。お手元の資料の5ページ目を開いてください。」
 資料の5ぺーじ目には、3式に使われていたゴジラの骨とG細胞完全適応者の細胞との違いが記されている。
「G細胞完全適応者の細胞は、G細胞を取り込んだ人間の細胞なのです。割合は、見事に半分半分。まさに理想。G細胞の良い部分だけを手にした超人! しかも人間の細胞が混ざっているためゴジラとの共鳴で暴走する率も極めて低く、ゴジラの居場所を割り出すレーダーとしての力もあり、G細胞の特徴であるエネルギーを吸収し変換する能力もあり、ゴジラの熱線を被弾してもエネルギーを吸収、無効、拡散させることができるのです! 第三新東京でのゴジラとの戦闘の映像で見たでしょ! 白い熱線を真っ向から受けて無傷でいたのを!」
 技術者の説明に熱が入っていった。
「けれど機龍フィアは、まだまだ改良中なのです。なにせ第三新東京が初陣だったのですから。ゴジラを海に追い返した後、ドッグに収容してから機体を見て正直自分は眩暈がして倒れそうになりましたよ。アッパーカットをしたせいで指の関節部分の金属が破損し、目も当てられない有様で、尻尾もゴジラに一撃を与えた衝撃で背骨が曲がってしまっていて…。そして一番は! 七つのリミッターの内、ひとつを解除したせいでシステムのあちこちの伝達回路が使い物にならなくなっていたことだ! なんで許可もなくリミッターを解除したんだ、椎堂ツムグ!!」
 技術者は、ここにはいない椎堂ツムグに向って怒りの言葉を吐き散らした。
「あの…、七つのリミッターとはなんですか…?」
 議員のひとりが恐る恐る質問をした。
「…ォホン。で、七つのリミッターとは、機龍フィアに搭載した機龍フィアの力を解放するための蓋です。1つ解除するごとに力、防御、速度などがパワーアップしていきます。」
 正気に戻った技術者が軽く頬を赤く染めて咳払いして説明をした。
「なぜわざわざリミッターなどつける必要が? 力を抑える必要はないのでは? 我々はゴジラを追い払うのではなく、倒すことが、まず第一の目標なのですよ?」
「……機龍フィアのリミッターは、G細胞完全適応者の椎堂ツムグにしか解除できないようにしてるのです。その理由は、椎堂ツムグと機龍フィアのDNAコンピュータが近親間のシンクロで他のパイロット以上の性能を発揮するからです。しかしそのシンクロが問題なのですよ。シンクロ率が上がれば上がるほどにシンクロしている椎堂ツムグに負荷がかかり、最終的に機龍フィアのダメージが椎堂ツムグも感じるようなってしまいます。七つのリミッターをすべて解除した時、それはもうエネルギー暴走です。デストロイアの時のゴジラのようにメルトダウン寸前のゴジラと同じです。数百万度近い灼熱を纏った最強の状態になります。しかしシンクロ率は、100パーセントとなり、灼熱に焼かれ続ける機龍フィアの暑さの苦しみを椎堂ツムグが味わうことになり、長くは持ちません……。そして暴走のあと最悪大爆発を起こす可能性が高いのです。その爆発は日本国を分断できるぐらいの威力はあるとネオGフォースのスーパーコンピュータは割り出しています。ですから機龍フィアがリミッターを解除するのは、極力避けたいのです。機龍フィアに変わる新しい兵器が開発される目途がつくまでは機龍フィアには、ゴジラと戦ってもらわなければなりません。ですから、機龍フィアを一番うまく操縦し、パワーを引き出せるのは…、機龍フィアの素体にした細胞の提供者である椎堂ツムグが一番なのが現状なんですよ。そのために第三新東京での初陣では、あらゆる方法で記録をとり、それを機龍フィアの改良に生かし、椎堂ツムグ以外でもゴジラを相手にできるほどの力で戦えるようにします。もちろん新しい兵器の開発にも生かしていきます。」
「機龍フィアの改良のために、国連の皆様に折り入って頼みたいことがあります。」
 波川が国連の者達に向って言った。
 国連の代表者達は、何を頼まれるか分かっている様子だ。
「波川司令。資金については、ネルフに出資している資金を、ネオGフォースに回します。いや、ネルフの維持費も最低限に抑え、そちらに。」
 即決である。
「ありがとうございます。」
「エヴァンゲリオンをゴジラが狙っている以上、その開発、維持に金を割く必要などこれっぽっちもありませんからな。」
「復活を果たした、あの怪獣王との戦いのため、存分にお使いください。」
 もう言いたい放題である。ネルフの態度(主にゲンドウのせい)に鬱憤がたまっていたのだ。
「話に水を差すようで申し訳ないが、どうやら使徒は、第三新東京に襲撃してきたものだけじゃなく、これから先何体も現れると小耳に挟んだのだが…。」
「つまり今後ネルフに、いや第三新東京に使徒が現れると…、ゴジラが来る口実が第三新東京に集中して現れるのか。これは、使わない手はありませんな。波川司令!」
「はい。追ってネルフには、通達する予定です。彼らは抗議するでしょうが、ゴジラが接近していることを緊急で知らせたにもかかわらず『バカバカしい』っと切ったあげく、通信拒否した彼らにはお灸を据えねばなりません。そしてゴジラをおびき寄せるだけの餌となった彼らご自慢の兵器エヴァンゲリオンの開発のために湯水のごとく使い続けた多額の国債と用途不明の資金繰りについても、彼らに払っていただきましょう。ゴジラをおびき寄せる(マト)として!」
 冷静な指揮をすることで有名な波川だが、よっぽどネルフに恨みでもあるのか珍しく声を荒げ、机をバーンッと叩いた。

「皆さん。お話は、ここまでにして、大事な宣言を忘れてはいませんか?」

 国連の代表の一人が、優雅な声でそう言った。
「おお、大変なことを忘れていましたな。」
 議会に参加している者達がざわざわと囁きあった。
「では、ここは日本の議会場なので、私が代表して宣言を言う大役をさせていだきます。」
 日本の首脳が立ち上がると拍手が起こり、そして静まった。
 日本の首脳の宣言を今か今かと待つ全員の真剣な眼差しが首脳に向けられる。

「今この日、この時をもって! 地球防衛軍の復活を宣言する! 諸君! 35年前の戦いの続きの始まりだ!!」

 首脳の宣言が終わると同時に議会場にいた者達が席を立ちを手を上げて力強い声援上げた。


 2015年。地球防衛軍は、15年の歳月を経て、復活した。




***




 地球防衛軍の復活は、すぐにメディアに発信され、各国の国民達がうれし涙を流したり、意味が分からないと首を傾げたりするなど反応は様々だった。
 そして地球防衛軍の復活の報せと同時に、15年前にセカンドインパクトで死んだと思われていたゴジラが第三新東京に上陸し、ゴジラが完全復活したことを報じた。
 ゴジラの恐怖を知る年代の者達は、最悪最強の悪夢の復活に竦み上がり、ゴジラを本や学校の授業などでしか知らない若い世代はゴジラに純粋な興味を抱くか、無関心だった。その若い世代も間もなくゴジラの恐怖を身を持って味わうこととなる。ゴジラは、現在、使徒とエヴァンゲリオンの破壊に固執しているが、本質である人類への敵意は変わっていない。だから街に、都市に上陸し、破壊の限りを尽くすのだ。
 セカンドインパクトの爪跡がまだ大きく残された地球に、まだセカンドインパクトが起こらなかった頃に殺すことができず封印するのが限界だった最強の怪獣王が降臨した。例え激変した地球の環境であろうとゴジラがやることは変わらない。ただ使徒とエヴァンゲリオンを破壊するのにやたら固執するのを抜けば。
 しかしそれでも人類は戦う。生き残るために戦うのだ。
 ゴジラの復活は、かつて地球防衛軍の誕生の時と同じように、セカンドインパクトでバラバラになっていた人類を一致団結させるきっかけにもなるのだ。

 使徒を倒さなかったら、エヴァンゲリオンが動かなかったら、負けたらサードインパクトという滅亡がどうとかいう話は、ゴジラという存在一つでクラッシュされたのだった。




***




 このことで一番嘆いているのは、恐らく……、人類の歴史を操り、現在は国連を隠れ蓑にしてネルフを裏で操っている秘密結社ゼーレであろう。
 どこかの位部屋の空間にモノリスが浮かび、中央にバイザーを身につけた老人が座って頭を抱えている。周りのモノリスは、11個。
『キール議長……、お気持ちはお察ししします。』
 モノリスの一つが中央にいるキールという老人に向って弱々しい声で慰めの言葉をかけた。
「慰めの言葉などいらぬ!」
 ガバッと顔を上げたキールは、顔を怒りで歪めていた。
「ゴジラだと…、太古に滅んだ種が人類の愚かな行為(核実験)で怪獣となり、人類を断罪するかのように都市の破壊をしているシナリオにない最悪のイレギュラーめ。南極で起こしたセカンドインパクトでエリアGもろともLCLに還元されたと思っていたが、まさかあの状況で生き延びていたとは…、しかも使徒とエヴァを狙っているだと!? そんな馬鹿な話があるか!」
『落ち着いてください!』
『そうです! まだゴジラが使徒とエヴァを狙っていると決まったわけでは…。』
『何を言っておるのだ! G細胞完全適応者が、ゴジラから読み取った感情からゴジラが使徒とエヴァを狙っているからこそ、ゴジラは第三新東京で使徒を殺し、さらに初号機を破壊しようとしたではないか! 初号機を破壊される前にああもタイミング良く地球防衛軍の奴らが駆けつけれたのもすべては地球防衛軍どもがゴジラの行動目的を確かめるために使徒とエヴァを餌にしたからだ! ゴジラは、知恵が高い怪獣だ。何か目的があるのは間違いない!』
『貴様! 地球防衛軍の肩入れをするというのか!』
『そういうことではない! 問題なのは、ゴジラがなぜ使徒とエヴァを狙うかなのだ! 非常に考えたくないことであるが…、ゴジラは、セカンドインパクトの真実と人類補完計画のことを南極消滅の際に知ったのではないか?』
『放射能で突然変異した怪獣王などと大げさな二つ名を持つ畜生がか? バカバカしい。怪獣ごときが我々の崇高なる計画を理解し、それを阻止するために使徒とエヴァを狙っていると言いたいのか?』
『だが…、映像を見る限りでは、ゴジラは、使徒とエヴァを破壊することを最優先してそれ以外は眼中にないという風にも見えなくもないぞ…?』
『しかもゴジラは、ATフィールドを片腕を振っただけで破壊し、使徒の体を一部破壊して戦意を喪失させた後、得意の熱線で跡形もなく焼き尽くしてしまった…。ATフィールドが通用しないとは、一体どういうことなのだ?』
『ゴジラがATフィールドかアンチATフィールドを持っているとは考えられぬ。単純に奴の力が絶対領域を簡単に破壊できるほど強いだけだとしたら……。すべての使徒が束になってゴジラと戦ったとしても勝ち目は、ゼロだ。』
『それは、エヴァシリーズも同様だ。確かメカゴジラといったか。あの兵器は。」
『機龍フィアという、3式機龍の次世代機らしい。』
『そうその機龍フィアというロボット…、あれは使徒が手も足も出なかったゴジラを相手に互角に渡り合っていた…。地球防衛軍が有する対怪獣用兵器、そしてM機関のミュターント部隊、どれをとってもエヴァなど足下に及ばない優れた力を秘めている。武器についてまだ開発段階のエヴァにゴジラに対抗する手段は全くない。』
『さらに第三新東京にゴジラが襲撃した時、初号機にサードチルドレンの碇の息子が乗っていたらしいが、M機関のミュータントどもが初号機のハッチをこじ開けて碇の息子を救出、現在身柄は地球防衛軍に保護されている。』
『なぜネルフは、初号機を戻さなかった?』
『ゴジラの歩みによる地響きと熱線による爆発の衝撃でエヴァを括りつけていた射出機が故障し、初号機を戻すことも解放することも出来なくなっていたそうだ。なんたる失態! 貴重な依代の候補をみすみす地球防衛軍どもの手に渡してしまうとは!』
『ゴジラってそんなに重たかったのか…?』
『ゴジラの復活など裏死海文書にも記されていない。そもそもゴジラが最初に現れた1900年代のあの時からすでにおかしかった…。ゴジラに続き多く怪獣の出現。ゴジラは一匹目は殺せたのに、二匹目が現れた。一部では、ゴジラを人類の犯した罪を断罪する者だと考えている者がおり、中には神と呼ばれることすらあるらしい。確かにあれほどの不死性と巨大な力を前にすれば恐怖のあまり崇拝したくなってしまうのも致し方ないことであろうな。』
『ゴジラのおかげで我々のシナリオは、大幅な修正をせねばならなくなった。ゴジラが南極で我々の目的を知ったと想定したうえでこれがすべて偶然でないとするならば、ゴジラは、我々の神への道に進むための儀式、人類補完計画を阻止するつもりか? だからこそ人類補完計画の要である使徒とエヴァを自らの手で破壊しようと…。』
『怪獣などという畜生に、人類を新たな段階へと導く偉大なるこの計画を理解できるわけがない!』
「そうとは言い切れぬ…・。」
『議長!?』
「人類補完計画がどのような形で遂行されるかを知っているからこそ、ゴジラは、核実験以上の人類の罪と判断し、わざわざ第三使徒が出現した時に姿を現した。そうとしか考えられぬほどタイミングが良すぎる。しかも第三新東京での映像を見る限り、使徒を殺した後、まるで見せつけるようゆっくりと、初号機に向って行った…。セカンドインパクトを生き延びたゴジラがセカンドインパクトが我々のシナリオに沿って行われたことだと知っていたとしたら、あれは我々に見せつけるためでだったのではないか? おかしいと思わぬか諸君?」
『ぎ、議長! 議長までそのようなバカバカしいことを…。』
「黙れ! バカバカしいと切り捨てた結果、我々はゴジラの生存にすら気づくことができず、解散させた地球防衛軍の復活をみすみす許してしまったのだぞ! 人類の歴史を陰から動かしてきた我々が…、我々が表舞台の者共に出し抜かれたのだ!」
『その通りだ! 我々は、M機関が単なるミュータントの社会的奉仕機関だと認識していたが、真実は対怪獣戦闘部隊で、ネオGフォースの新たな戦力を育て上げるための組織だった! それ以前にGフォースが地球防衛軍解散後も密かにゴジラを警戒して我々の目の届かぬところで活動していたことが問題だ!』
『なぜだ! なぜ我々は、奴ら(ゴジラ含む)の行動に気付くことができなかったのだ!? 国連…、いや地球防衛軍は、我々の隠れ蓑としての役目を放棄した! 怪獣どもを一掃するために黙認して、地球防衛軍解散後は再び我々の隠れ蓑に戻ったかと思いきや裏切りおって!』
『おのれゴジラめ! おのれ地球防衛軍め!』

 暗い空間にゼーレ一同の怨む叫び声が木霊し続けた…。
 機械化している彼らに涙を流す機能があったなら、きっと血の涙を流してるに違いない。




***




 もう一方。
 地球防衛軍の復活で嘆いているのは、ゼーレだけではない。
 国連直属非公開組織であるはずのネルフを完全に切り捨てた形で、国連は地球防衛軍と名を変え、一度解散した15年前から地下に潜伏して活動していたGフォースをネオGフォースと改めて対ゴジラ戦の戦力を増強した。
 地球防衛軍の復活の報道とゴジラの復活の報道の後、ネルフは、国連あらため地球防衛軍から、あらゆる予算の供給をほとんど打ち切られた。
 予算を切られた理由は、ただ一つ。
 復活した怪獣王ゴジラと戦うために無駄を省くためである。
 巨額の資金を投じて開発された使徒に対抗するためのネルフの最終兵器の一機である初号機は、第三使徒サキエルとの戦いで一歩も動くこともできず、いきなり現れたゴジラに使徒サキエルを殺され、初号機は射出機に拘束されたままの状態で危うくゴジラの破壊されかけただけに終わったのだ。
 パイロットの少年、碇シンジは、ミュータント部隊が動けない初号機のハッチを無理やり壊して中にいたシンジを保護し、その身柄は現在地球防衛軍にある。
 地球防衛軍の司令官・波川からのメッセージで、今後ネルフは、ゴジラをおびき寄せるための餌として動いてもらうという理不尽な役目を押し付けられることになり、地球防衛軍の戦力として口出しする権限も、それまであった国連から保障されていた権限もすべて剥奪された。
 第三新東京へのゴジラ襲撃後、命令を無視してゴジラが狙っているエヴァシリーズを破棄しなかったのもネルフの立場をここまで墜落させた要因である。
 しかもネルフ本部には、ごく一部の者しか知らないことであるが、ジオフロントに第二使徒リリスが磔になって封印されているのだ。ゴジラがエヴァと使徒の両方を破壊することを目的にしているのであれば、例えエヴァをすべて破壊してもゴジラは、ネルフ本部を襲いにやってくるであろう。エヴァを破棄できないのは、ゲンドウの個人的な理由もあるが、破棄したところでリリスがいる以上、エヴァがなくてもゴジラが来るとなっては地球防衛軍が怪しみ、リリスのことがばれ、芋づる式でセカンドインパクトの真実やサードインパクトと人類補完計画のことがすべて公にされてしまいかねない。だからエヴァシリーズの破棄することができないままなのだ。人類補完計画のの鍵として作られたエヴァは、もはや兵器としてでも人類補完の鍵でもなく、ただネルフが抱える真実を隠すための隠れ蓑に成り下がってしまっていた。ばれるのも時間の問題であるが…。
 ゴジラと機龍フィアの戦闘でメチャクチャになぎ倒された武装ビル群の撤去が急ピッチで行われているのだが、ネルフの武装に関する予算がないため未完成だった武装ビルの完成の道のりは完全に閉ざされた。
 ネルフに与えられる予算は、精々ネルフと第三新東京とネルフ本部を最低限維持するための維持費ぐらいである。しかも用途もきっちり管理・監視された状態であるため、帳簿を誤魔化すことすらできない有様だ。
 エヴァは、初号機及び零号機ともに完全凍結。武装の開発も完全に中止。予算の超大幅カットで職員達の給料もカットされ、ネルフの職員達が一斉にデモを起こし、そこに地球防衛軍の職員が今人材募集中だと囁いたため、ネルフの職員達がそっちに全部流れそうになるのを冬月が必死になって説得して止めようとするという物悲しい事件が起こっている。がんばって止めようとしてるが、ネルフ以上の良い条件のせいで職員の流出は抑えきれず、じわじわと確実にネルフは、内からも外からも弱体化するのであった。そして地球防衛軍が命じた通り、ただのゴジラをおびき寄せるための餌に成り下がっていく…。

 ネルフの弱体化にともない、経費を節減するため、ネルフの管理下にあった病院が閉鎖されることになり、そこに入院していた患者たちは地球防衛軍の管理下にある病院に移されることになった。
 その中には、ファーストチルドレンである、綾波レイもいた。そのことに気付いたのは、1週間ほど前のことで、ゲンドウが荒れたこと荒れたこと…。50歳目前の大人が癇癪持ちの子供みたいだったと目撃者は語る。
 ドイツにいるセカンドチルドレンを抜きにして、すべてのチルドレンを失ったネルフは、本当に本当に無力化してしまった。




***




「精神感応による治療?」
 医療機関に集められたミュータント達。その中に尾崎や風間もいた。
 医療機関の医者の一人が説明を始めた。
「保護した碇シンジ君は、ゴジラに殺されかけたショックで精神に大きなダメージ受けています。肉体的には健康ですが心の治療までは我々の技術をもってしてもできません。そこでミュータントの特殊能力の一つである精神感応で碇シンジ君の精神を正常に、そして正気に戻るよう働きかけ、彼の心を治療することを考えました。」
「皆さんが忙しいのは、分かっていますが…、ミュータントの皆様はセカンドインパクト後の復興の際にその能力で心神喪失状態の被災者の心を癒すこともあると聞いていますので、どうかお力を貸して抱けませんか? どうかお願いします!」
 看護師の一人が悲痛な顔をして頭を下げた。
 わざわざM機関に直接依頼して頼み込んできたのだ。よっぽどシンジの容態は危険な状態ということらしい。
 動けない初号機の中でゴジラに襲われる体験をしたのだ、14歳足らずの子供が耐えられない方がおかしいぐらいの恐怖であっただろう。怪獣と戦うのがあの第三新東京でのゴジラとの戦いが初陣だったミュータント部隊の尾崎達ですら、ゴジラの迫力と圧倒的な力に恐怖で押し潰されそうであったぐらいだ。だがゴジラを倒すなり(これはほぼ不可能に近いが)追い返すなりしなければそれ以上の犠牲が出てしまうという正義感と使命感が彼らを動かし、ゴジラを追い返した後も次の戦いに備えいつでも動けるようになっているのである。
「俺は構いませんよ。なあ、風間?」
 尾崎が風間に話を振ると、風間は、何か考えるように腕組をしていた。
 それを見て、尾崎は、風間はこの手のことは不得意な方だということを思い出した。だが風間は負けず嫌いだし、やろうと思えばできる奴だ。現に被災地で心に傷を負った被災者を不器用ながら励ましながら救助し、その被災者の回復を早めたことだってたくさんある。なのだがそのことを風間は知らないし、教えても照れ臭くて心にもないことを口走ってしまうだけだろう。
「命令なら…、従います。」
 風間は単調な口調でそう言った。
 尾崎、風間と同期のミュータント達は、風間のその不器用さを知ってるため心配そうに風間を見ていた。
 そんなこんなで、手が空いてるミュータント達が交代で医療機関に保護されている碇シンジの治療にあたることになった。
 尾崎に番が回る前、先にシンジの治療にあたった仲間が、それは酷い状態だったと悲しそうな顔をしたり、本気で泣いたり、同調のために顔を青くして疲れ切った様子でシンジの病状を語っていた。
 風間は、残念ながらあまり成果を出せなかったらしく、そのことが悔しいのか終わった後、悔しさを発散するためか訓練でやたら暴れていた。
 やがて尾崎が治療にあたる日になり、シンジがいる病室にノックして入った。
 シンジは、上体を起こせるベットに背を預けたままどこを見ているのか分からない目をして動く気配を感じさせない。死体かと一瞬間違えそうなるほど生気が感じられなかった。
 わずか14年しか生きていない少年がこんな有様になっているのを見てしまっては、正義感が強く他人を守ることを優先する尾崎なら見過ごしてはおけない。
 尾崎は、シンジが寝かされているベッドの横にある椅子に腰かけ、シンジの細い手を握って目をつむった。
「うぅっ!」
 途端に流れ込んでくる壊れてしまったメチャクチャな感情の波が尾崎の脳髄に叩きつけられ、尾崎は思わず呻いた。
 感情の放流はすぐに消え、後には、シンジの心の残骸と思われるものが散らばる暗い暗い精神が視えた。
 これはもはや肉体は生きていても心が死んでしまっているいっても過言ではない状態である。
 しかしそれでも治してやりたい。未来ある子供がこんな惨い最後を迎えていいはずがない。
 尾崎は、シンジの心の中を探索した。シンジの生きようとする意志が少しでもあればそれをすくい上げて壊れた心を繋ぎ合わせて治すことができるはずだと信じて。
 ちなみに、ここまで人の心の中に深く入り込めるのは、尾崎だけである。
 それは、尾崎がミュータントに数百万分の一の確率で生まれる、“カイザー”と呼ばれる超越者であるからだ。
 その気になれば世界を支配、あるいは滅ぼせるほどの力を持つのだが、尾崎はそんな特別な存在である自分に慢心することなく、いたって正義感の強い心優しい青年であることを選んでミュータント部隊の一員として人類のために戦い、守ることを誇りとしている。
 だからこそシンジという一人の少年のために全力を尽くすのだ。
 たった一人を救えなくて、その他大勢の者達を救うことなどできない。尾崎はそう考えている。
 心の欠片が散らばる暗い世界を走っていた尾崎や、やがて小さな、本当に小さな光の粒を見つけた。
 尾崎はこれがシンジの生きようとする意思だと確信し、ソッと優しく、それに手を伸ばした。
 光に手が触れた途端、世界が白く染まった。
 尾崎が目を開くと、そこは知らない施設の中だった。
 白衣を着た、女性がいる。
 顔立ちが、シンジに似ているような気がした。
 言葉は聞こえないが、傍にいる同じく白衣を着た男と話し合っている。尾崎の目から見て、二人の仲はとても良く、恐らく恋人か夫婦という関係のようだ。
 更に場面が変わる、なんか視点が低い。
 そして尾崎は目を見開いた。
 そこにあったのは、エヴァンゲリオン・初号機だったのだ。
 外見は第三新東京で見たものと違うが、外装を付ければちょうど初号機になるだろう。たぶん尾崎が見ているのはエヴァの中身だと思われる。
 なぜこれが初号機だと尾崎が分かったかと言うと、尾崎がシンジを救出するときに初号機に登った時に特殊能力で初号機から無意識に波長というかなんというか、個体を識別する何かを覚えてしまっていたからだ。
 なんか初号機(素体)(断定)の周りで人が大騒ぎしている。
 何があったんだ?っと尾崎が首を傾げていると、景色が消えた。
 次に見た光景は、どこかの駅だろうか、最低限の荷物が入ってそうなそれほど大きくない鞄を隣に置いて大声を上げて泣いている幼い子供と、その子供に背を向けて去っていく男の姿だった。
 子供の顔は、シンジの顔立ちに似ていたので、これは、シンジの幼い時の記憶だと分かった。
 そしてまた景色が変わった。
 夕日に照らされた電車の中に尾崎がいる。
 席には、小さい子供が座っている。顔は、陰になって見えない。
「君は…。」
『お母さんがね…。消えちゃったの。』
 小さい子供が尾崎に言った。今にも泣きそうな声で。
『お母さんがカイブツの中で溶けて消えちゃったの。でも生きてるんだって。父さん達が言ってた。』
「お母さん…、カイブツ…、怪物って、もしかしてエヴァンゲリオンのことかい?」
『お母さんと父さんも、毎日イーケイカクで忙しくって、ボクは、いつも一人だったんだ。』
「いーけいかく?」
『ジンルイは、このままじゃダメになるからって、お母さんが一生懸命考えたことなんだって。』
「お母さんは、一体何をしようとしたんだい?」
『ジンルイ……、ホ…カン……。』
 景色が急にテレビのノイズのようにザラザラとかすみ始めた。
「待ってくれ!」
 尾崎が少年に向って手を伸ばした。
 そして世界は、ガラスが砕けるように砕け散った。


「尾崎…、尾崎!」
 尾崎は、ベットの端に顔を押し付けた状態で突っ伏した状態で揺さぶられていた。
「うっ……。シンジ…く…ん。」
 のろのろと顔を上げた尾崎は、彼を心配する医者達の声を無視して、彼がいまだ手を握っているシンジの方を見た。
 シンジは、随分と安らかな顔で静かに眠っている。最初に見た、死体と間違えそうな様子とはまるで別物だ。
「大丈夫かい? あれからもう3時間以上もダイブしていたんだ。次の人に交代して、君は休みなさい。」
「いいえ。もう一度、もう一度! この子の心に入らせてください!」
 がばっと起き上がった尾崎が医者にそう訴えた。
「どういうことだ? いくら君でもこれ以上は…。」
 尾崎がかなり消耗していることを医者は見抜いている。これ以上精神感応させれば危険なことは目に見えている。
「お願いします! あと少し…、あと少しで、シンジ君を…、それと重大な何かに近づけるはずなんだ。」
「重大ななにか? 君は何を見たんだい?」
「それはあとで…。では、もう一度やります。」
 尾崎は、両手でシンジの手を握り意識を集中させた。
「ぐっ!」
 途端、ビクンッと体を跳ねさせた尾崎がシンジの手を握ったまま横に倒れていった。それを傍にいた医者が支えたので床に体が落下することはなかったが、尾崎はシンジの手を握ったまま意識を失っていた。
「あああ! いわんこっちゃない! 誰か! 誰か、M機関に連絡を!」

「その必要はないよ。」

 どこからともなく現れた若い男。
 その声と顔を、地球防衛軍のあらゆる研究機関の関係者の人間に知らぬ者はいない。
「お、おまえは、G細胞完全適応者! なぜここに!?」
「お気に入り君が大変そうだから、手伝ってやろうと思って~。ちょっとどいて。」
 椎堂ツムグは、尾崎を支えている医者を押しのけて尾崎を抱きしめた。
「“カイザー”だからって限界はあるよ。尾崎真一。驕らないのと、その力を他人のために全部使おうとするのは、おまえの良いところだけど、限度ってものがあるんだよ。きゅ~しゅつ開始。」
 椎堂ツムグの赤と金色の髪が、ほんのりとした青白い光を放ちながらふわっと逆立った。


 再びシンジの心の中に入った尾崎は、自分の意識が凄まじい速度で落下していくのを感じた。
 精神と肉体が離れ離れになる非常事態が起こったかもしれない。
 尾崎は顔を青くしたが、生還を果たすため、そしてシンジの心の中で見て聞いたことを現実に持ち帰るために己を奮い立たせた。
 体制を整え、いつ着地地点に来てもいいように備えた。
 どれくらい落ちていたか分からない。だが着地した。あの夕日の中の電車の中で。
「やあ…、また会ったね?」
 尾崎は流れる汗を拭いながら、席に座っている子ど身に向って笑いかけた。
『お兄ちゃんって、ムチャするんだね。』
 最初に出会った時と違う、泣きそうな声じゃなく、同じ声だがはっきりとした声で子供が喋った。顔は、陰になっていて見えないが、おかしそうに笑っているような気がした。
「君は…、違う…、誰だ、誰なんだ? さっきの子じゃないだろ。」
『分かる? やっぱりお兄ちゃんは特別だから分かる? そうだよ、ボクは、シンジの声と姿を借りてるんだ。』
 シンジではない何者かが、シンジの声と姿を借りて尾崎に語りかける。
「何者だ? おまえはどうしてシンジ君の中にいるんだ?」
『シンジは、心を壊す直前までどこにいたのか、覚えてるでしょ?』
「どこって…、エヴァンゲリオン? まさか、おまえは、エヴァンゲリオンだって言うのか?」
『うん。人間は、ボクのことをエヴァンゲリオンとか初号機って呼んでるよね。ボクには、名前なんてないよ。ボクは、生まれた時からボクだし。勝手に好きな名前で呼べばいいよ。ボクは名前なんてどうでもいい。』
 シンジあらため、シンジの声と姿を借りた初号機が衝撃の事実を尾崎に明かした。
「初号機は、…いや、エヴァンゲリオンは、ただのロボットじゃないのか?」
『人造人間って言われてるよ。本当は、人間が使徒って呼んでるモノからボクは生まれたんだ。ううん、違う。ボクは、ツクラレタんだ。好きで生まれてきたんじゃないよ。』
「エヴァンゲリオンが使徒だって!? だから使徒と戦えるのはエヴァンゲリオンだけって理論があったのか…。使徒は昔からいたってことなのか?」
『そうだよ。お兄ちゃんが見たことがあるのは、三番目の使徒だよ。一番目は、アダム。二番目は、リリスっていうの。それでね、驚かないでね。人間は、18番目の使徒、リリンなんだよ。』
「なっ…」
 尾崎は言葉を失った。全く異なる生物だと思っていた使徒が、人間と同類だったなどと考えもしなかったからだ。
『それだけじゃないよ。他の生物も全部、使徒から生まれたんだよ。だから使徒は、みんなのお父さんでお母さんなの。』
「嘘だって…、思いたいけど、本当なんだろうな。」
 尾崎はこめかみを抑えてここがシンジの心の中であるから、相手が幼いシンジの姿を借りた初号機でも嘘は言っていないのを理解している。だが使徒がすべての生命の起源だという話は受け入れがたい衝撃的な事実だった。
『お兄ちゃん、疲れてるでしょ? 座ったら?』
「ああ…。」
 尾崎は、初号機の向かいの席に座り込んだ。
『ねーねー、お話し、続けていい?』
「…ああ。」
『でね、使徒には、アダムから生まれた命と、リリスから生まれた命がいるの。リリンと他の生き物はね、リリスから生まれたんだよ。使徒は、アダムから生まれたの。ゴジラに殺されちゃった使徒はね、サキエルって言うんだよ。あと使徒はアダムとリリスを入れて全部で17いるの。リリンは別だよ。だってコア退化しちゃってて使徒とは違っちゃったんだもん。』
「それってつまり…、あと14体も使徒が現れるってことだよな?」
『そうだよ。使徒はね。アダムに還りたがってるの。だからアダムを探してるの。でもね、アダムは、南極でバラバラにされちゃったんだ…。でも失敗しちゃったの。だから南極も世界中も壊れちゃったんだ。』
「はあ!? どういうことなんだ!」
 尾崎はそれを聞いて身を乗り出して叫んだ。
「アダムが南極でバラバラになって、それが失敗で南極と世界が壊れたって…、まさかセカンドインパクトのことを言ってるのか!? 隕石の落下が原因っていうのは嘘だったっていうのか!?」
『うん。嘘だよ。アダムをバラバラにした人間達がね、アダムのこと、隠すために嘘ついたんだよ。』
「…南極で一体何が起こったんだ? なぜアダムが南極にいたんだ?」
『アダムとリリスはね、月と一緒に来たんだよ。本当はひとつの星に、月が一つなんだけど、この星には二つ月が来ちゃったんだ。その月に、アダムとリリスがいたの。アダムの白い月は南極に落ちて、黒い月は…、どこだったっけ? 忘れちゃった。あの人達はね、アダムを卵にしたかったの。だからわざとあんなことしたんだよ。でもちょっとだけうまくいかなくって、そのせいで南極はなくなっちゃって…。』
「それでセカンドインパクトが起こった…。自然災害じゃなく、人為的災害だってことなのか。なぜそのことを隠したんだ? 誰が、何の目的で?」
『ジンルイホカンケイカクのためだよ。あのね、あの人達のこと、シンジのお父さん達は、老人達って言ってたけど、どういう意味?』
「老人達? さあ、俺には、ちょっと分からないな。それよりジンルイホカンケイカクっていったい何のことだ? それを教えてくれないか?」
『あのね…。裏死海文書っていう預言書にね書かれてたんだって。人間が…、リリンがもうこれ以上進化できないから、自分達の力で進化しようって、シンジのお母さんが考えたんだよ。』
「シンジ君のお母さんが!? それに人類を進化させるって…、そんなことが可能なのか!?」
『サードインパクトを起こして、みんなを1つにするの。南極がね、真っ赤になったでしょ? あれはね、南極の生き物がみーんな溶けちゃった後なんだよ。みんなああなるの。それでみんなが1つになった後に、真っ赤になった海から進化したリリンと他の生命が復活するの。それがジンルイホカンケイカク。』
「そんな…、そんなのは進化じゃない! ただの滅亡だ!」
『どうして? 進化できるんだよ? みんながお兄ちゃんみたいに特別になるんだよ? お兄ちゃん、ひとりだけ特別だから、寂しいでしょ?』
「寂しくなんかない。俺には、仲間がいる。愛する人がいる。守るべき人達がいる。そんなまがい物の進化なんてさせない! 教えてくれ、一体誰がそんなことをやろうとしているだ!」
 尾崎は立ち上がって初号機に詰め寄ろうとしたができなかった。立ち上がることすらできなかった。
「なっ!?」
『お兄ちゃん…、嘘ついちゃダメだよ。お兄ちゃんは、この世界で一人しかいない、特別なんだよ? だから、みんな一緒になればもう寂しくないよ? 嬉しいでしょ?』
「違う! 俺はそんなこと思ってない! おまえは、俺に何をしたんだ! うっ!?」
 尾崎が首を振って初号機の言葉を否定し叫ぶと、向かいの席に座っていた初号機が尾崎の目と鼻の先にいつの間にか立っていた。
 幼いシンジの姿をした初号機の両手が尾崎の胸に添えられた。
 途端、尾崎が座っている席から、血管のような触手が伸びてきて尾崎の体に絡みつき始めた。
 体に絡みついてきた血管のような触手から流れ込んでくるモノに尾崎は目を大きく見開いた。
「やめろ! 俺は、シンジ君の心を治して現実に帰らなきゃならないんだ!」
『お兄ちゃん、一つになろうよ。そしたらきっととてもとても気持ちいいよ? 一緒に行こうよ、シンジのお母さんみたいに。使徒も怪獣も、みんなみんな一つになった世界に行こう。』
「離せ! 俺はいかない! 俺はまだやらなきゃいけなことがあるんだ! やめろ、離せ、離せぇぇ!」
 初号機の小さな手に押され、尾崎の体が電車の席にズブズブと沈んでいく、尾崎は抵抗できず叫ぶことしかできない。


 一方、ネルフでは。
「初号機に異常発生!」
「電力供給無しで起動しました!」
「コアに高エネルギー反応! これは…、一体……。エントリープラグも刺さってないのに…。」
「何が起きたの!?」
 駆けつけたリツコがモニターを確認した。
「これは…、どういうこと? 誰も乗っていないのに、シンクロ率が急上昇している。しかもこの数値は…。」
「シンクロ率上昇中! 間もなく400%に達します!」
 初号機が収まっているドッグでは、初号機が顎のジョイントを引きちぎり、身をよじって凄まじい雄叫びをあげていた。
 その叫びは、まるで喜んでいるかのように…。


「碇、初号機が突然起動して謎のシンクロ率上昇を始めたらしいぞ。…400%だそうだ。」
「どういうことだ? ユイ……、何をしようとしているんだ?」
 冬月が通信機を片手に今起こっている異常をゲンドウに伝えると、ゲンドウは、眉間に皺を寄せて初号機の中にいまだ眠り続ける妻・ユイに問いかけるのだった。
 彼らは、この異常事体がユイではなく、初号機が自身が起こしていることだということを全く知らない。知る方法がない。



 そしてシンジの心の世界で、尾崎は、初号機に精神(魂)を取り込まれる真っ最中だった。
「ぐぅうう…、やめ…ろ…。」
『ボク、お兄ちゃんのこと気に入ったんだ。だから、一緒に行こうよ。一緒にいよう。一つになってずっと、ずっと一緒に…。』
 尾崎の体はもう、電車の席に半分以上飲み込まれ、唯一の抵抗だった声をもほとんど出せなくなっていた。
 もうだめだと、抵抗する力も使い果たした尾崎が目を閉じかけた時だった。

「はいはいはいはいはい~、そこまでにしろー。」

 緊張感のない声が聞こえ、白い熱線が、尾崎と初号機の間に炸裂し、初号機は向かいの席の方に吹き飛ばされ、尾崎は電車の席と血管のような触手から解放されて床に倒れこんだ。
「尾崎く~ん、見た目子供だからって油断し過ぎだって。」
「ツムグ…?」
 よろよろと顔を上げた尾崎が見上げた先には、椎堂ツムグが仁王立ちしていた。
「相手は、使徒のコピーとはいえ、一応使徒なんだから普通に接しちゃダメ。特に尾崎みたいなお人好しは付け込まれるよ? あと少しで初号機本体の方に魂が取り込まれて、病室にいる尾崎の体がLCLって生命のスープになってたとこだよ? サードインパクトも起こってないのに真っ先にスープになっちゃダメでしょうが。」
 ツムグは、床に倒れている尾崎の傍に腰を落として、その頭に軽く空手チョップを何度もお見舞いした。
 そして尾崎の耳に口を寄せて。
「美雪ちゃんが泣くよ?」
 そう囁かれた途端、尾崎は、ガバッと物凄い速さで起き上がった。
「そうそう、まだ尾崎は死んじゃダメ。かといって使徒に取り込まれちゃうのもダメだから。」
 ツムグは、じろりと初号機の方を見た。
 シンジの姿を借りてる初号機は、向かいの席の傍らで両手両膝をついて蹲っていた。
『どうして?』
 悲しそうに寂しそう言った。
『どうして一つになってくれないの? お兄ちゃん、ボクのこと嫌い? ボク、お兄ちゃんと一緒にいたいだけなのに…。』
「方法がダメ。あかん。嫌がってる相手を無理やり連れて行こうとしたら嫌われるのは当たり前だって。」
 ツムグは、ズバズバと初号機にダメ出しをする。
『だって…、お兄ちゃんは、特別だから、きっと寂しいって思ったから。』
「あのな…。尾崎は、全然そんなこと思ってないから。勝手に自分の思い込みを押し付けるんじゃないって。」
『嘘だ…。』
「いい加減、おまえは本体の方へ帰れ。シンジを媒介にして尾崎に会いに来たまではいいが、このままじゃシンジが起きれない。だから、か・え・れ!」
 ツムグが初号機の頭を掴みそのまま持ち上げ、電車の窓に向って放り投げた。
『わあああ!』
 初号機の悲鳴と共に世界が壊れた。


 そして現実。
「う…。」
「あ、起きた。」
「尾崎! 大丈夫か!?」
「早くベットで寝かせてやってよ。命に別条はないよ。…たぶん。」
「たぶんって…、不安になるようなことを言うな、G細胞完全適応者! 誰か搬送用ストレッチャーを持ってきてくれ!」
 ぐったりしている尾崎は、治療室に搬送されていった。
 残された椎堂ツムグは、尾崎が運ばれていったのを見届けた後、スヤスヤと安らかな寝顔で眠るシンジの方を見た。
 そっと手を伸ばし、柔らかい黒髪を撫で、ツムグは柔らかい笑みを浮かべた。
「もうあんな粗悪なオモチャに乗らなくったっていいんだぞ? おまえのこと捨てた父親にこだわることはもう必要ない。ここにいればみんな優しくしてくれるさ。おまえは、一人じゃない。目が覚めたらたっぷりそのことを教えてやる。教えてもらえる。それまでゆっくりお休み。」
 そう言って、ツムグは、病室から出て行った。


 その頃、ネルフでは。
「…初号機、沈黙。」
「シンクロ率がゼロになりました。」
「一体なんだってんでしょうか? 先輩…。」
「ごめんなさい、私にも分からないわ…。あとで初号機を調べてみましょう。」
 結局、初号機は停止し、謎の暴走は謎のままになるのだった。
 ドッグにある初号機は、拘束具を無理やり外して身を動かしたため、首をだらりと垂らした状態になっていた。
 光のないその目から、一筋の液体が零れたが、外装が破損しただけだろうということで処理され、深い意味があることを知られることはなかった。



 そして後日。
 第三新東京に第四使徒シャムシエルが現れる。
 そして東京湾にゴジラが再び現れる。 
 

 
後書き
いきなり大ネタバレ(人類補完計画)。
初号機の意思は、碇ユイではなく、まったく別の初号機独自のものです。ユイは、まだ寝てます。

レイ、及びシンジが地球防衛軍側に保護されたので、ネルフはエヴァンゲリオンを動かすための駒を失いました。
裏話ですが、ここまで地球防衛軍がネルフを毛嫌いするのは、過去に司令官の波川をゲンドウが怒らせたからという理由もあります。そうじゃなくてもネルフ権限とかで色々とやらかしてるのもありますが。 
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