戦国異伝供書
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第十二話 苦闘の中でその五
「織田家の、ひいては天下の憂いをです」
「取り除きましょうぞ」
「是非な」
「ううむ、どの方も何か」
周りの言葉をここまで聞いてだ、羽柴はどうかという顔で述べた。
「小竹もそう言っていあますが」
「だからお主と慶次だけじゃ」
柴田は羽柴にむっとした顔で返した。
「あ奴にそう言うのはな」
「安心してよいと」
「そう言っておるのはじゃ」
「ですからそれがしがお会いしてお話したところ」
「悪しき者ではないとか」
「思いまするので」
「そう言ってだぞ」
滝川は羽柴に眉を顰めさせて言った。
「茶に毒なぞな」
「してくるとですか」
「そうした奴じゃ、蠍と言われておるのじゃ」
「蠍、毒針のある尾を持っておるそうですな」
「その針で油断した時にじゃ」
もっと言えば油断させてそうしてというのだ。
「ぶすりと刺してじゃ」
「仕留める」
「そうして主家の三好家を枯れさせ公方様も弑逆したではないか」
「それはそれがしも知っておりますが」
「あの様な剣呑な奴はおらんぞ」
「そう言われてもどうにもです」
「お主にはか」
「とてもそうしたことをする様な」
全く、というのだ。
「悪しき御仁には思えませぬ」
「お主は人を見る目は随一であるがのう」
不破も言ってきた。
「それでもあ奴にだけはおかしいと思うが」
「そうでしょうか」
「小竹も言っておるであろう」
「はい、あ奴も松永殿は何かあればです」
秀長、彼も言っているというのだ。
「切り捨てるとです」
「当然じゃな」
「ううむ、ですがこれまでです」
「当家ではか」
「何もです」
まさにというのだ。
「何もしておられませんしむしろ」
「当家の為にじゃな」
「務めておられますが」
「だからそれはな」
「仮面であると」
「そうじゃ、まさにここぞという時にじゃ」
不破は羽柴にも剣呑な顔で述べた。
「背中からな」
「ぶすりときますか」
「その時を狙っておるのじゃ」
「金ヶ崎の時はじゃ」
柴田はこの時のことを話した。
「傍に与三殿と小平太、九右衛門達がおってな」
「殿をお護りしていたので」
「何も出来なかったのじゃ」
それに過ぎないというのだ。
「あくまでな」
「そう思われますか」
「わしはそう思う」
森や毛利、服部の護衛がよくてというのだ。
「あ奴でもな」
「殿をお助けになってのことと聞いていますが」
「芝居に決まっておるわ」
柴田はこう言い切った。
「その様なことは」
「やはりそう言われますか」
「わしが今こう言うとわかっておったか」
「はい、それは」
「お主のその人がわかる冴えがのう」
柴田は羽柴のこのことを思いまた言った。
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