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汝(なれ)の名は。(君の名は。)

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14新世界


 古代冬守、製鉄実験場

 手組み、手積み程度の煉瓦の窯で砂鉄を数時間焼き、磁鉄鉱を脱酸素して焼結するのに成功した。
 冶金技術を上げて行けば、熱して伸ばして鉄板にして、石火矢、鉄砲を作るのも可能になる。
「焼けたな、煉瓦を崩して鉄を取り出してみよ」
「へい」
 竹筒を竹ひご竹紐で巻いて裂けないように強化し、膠で固めてみたり、和紙を巻いて筒を作ってみるが、一番生産が楽で量産できる物を使う。
 火薬の爆発力に耐える剛性だけ担保できれば、石火矢の銃身の材質は何でも良い。
「硫黄は探し出せたか?」
「へい、猟師や山師が知っておりますので、間も無く届くと思います。近隣の村にも、硫黄と砂鉄を持ってくるように伝えてあります」
 山岳地帯でも、黒色火薬の加速材にする硝石の鉱脈まで探すのは難しいが、硫黄と硫酸の化合でも火薬は作成できる。
 爆発、着火速度が音速を超え爆轟するものを火薬、それ以下を爆薬と称する。
 爆薬は出来ても、加速剤の硝石硝酸が不足する。この時代に一瞬で火薬に点火する雷管も無い。
 便所の砂などすぐに枯渇して使い物にならず、台湾の鉱山でも見つけるか、南洋の海鳥が数万年かけて糞を積み上げた島でも見つからないと、とにかく硝石が不足する。
 人の尿、馬の尿からヨモギの窒素固定を利用して硝石を取り出すなど、採取に苦労する。
 火山地帯で匂いを探って硫黄を探す方は比較的簡単だが、黒色火薬の大量生産は難しい。
 それでも硫化物、硝化物からニトロセルロースを抽出できれば、綿などに染ませると無煙火薬、珪藻土と混ぜて多少安定化させればダイナマイトになる。
 ちなみにノーベル賞というのは、扱いが難しかったニトログリセリンを、砂に混ぜて安定させ、着火すれば発破できるように加工した爆薬の売り上げで基金を作り、現代まで残っている賞で「人類に貢献した」発明をした生者に授与される。基本死人には出ない。

「よし、皆の者、鉄ができたぞっ、これで筒を作るのだ」
「「「「「「「仰せのままに」」」」」」」
 元からヨツハは鉄剣や鉄槍など作るつもりは無い。
 すぐに討ち取られる消耗品、一般兵に渡す武器は青銅器のナイフでも、片手剣グラディウスと木の盾で済む。
 竹槍に小さな刃物を取り付けた程度でも良い。
 槍先に敵の体の中で簡単に砕けるガラスを付けて、ガラスに猛毒や伝染病の病原菌を入れてから封をしても代用できる。
 その場合、もちろん致命傷にならないようにして、敵陣に病原菌を持って帰らせる。
 折角鉄が入手できたのだから、運搬が楽で携帯しやすい銃を作り、敵の剣や槍、弓矢が届く遥か彼方、アウトレンジから鉛玉を撃ち込む。
 この時代なので、騎兵大量突撃で弓や鉄砲、大砲の射手を踏み散らす手段は存在しない。
 馬防柵も無いし、大砲の射線を回避して横から回り込む手段も無い。
 問題点は竹の砲身を埋めて運用する場合、どこから敵が来ても一切変更が効かない。
 数を増やして全集防御できるように埋めるしかない。
 竹を強化して破裂しない竹砲、紙砲を作れても、弾丸と装薬重量もあり、結局馬車か台車で運搬して、そのまま設置しなければ運用が不可能。
 青銅で重量砲を作るか、鉄の鋳物を鍛造焼き入れするしかない。
 冬守程度の生産力と工業力、加工できる職人数では、数本作製できれば御の字。

 ここで何故青銅の砲を選ばなかったかと言うと、胴と錫の合金を作るには、銅の融点1083℃、錫の融点875℃が必要になるが、鉄は600℃~800℃でも焼結が可能、そして川や山から簡単に酸化鉄を持って来れる。
 銅鉱脈を見付けるなど古代には不可能で、錫を発見するのはもっと難しい。
 酸化鉄を扱うのは非常に簡単なので、鉄の方が青銅よりも早く活用されていたのでは無いか? と言う説もある。

「この鉄を熱して叩いて、炭を混ぜたり水で冷やしたりして、薄い板を作るのだ」
「「「「「「「ヨツハ様の仰せのままに」」」」」」」
「加工の練習台にするには良いが、刀にする必要は無いぞ、板を丸めて筒を作り、石火矢、銃を作るのだ」
「「「「「「「へい」」」」」」」
 火縄銃やマスケット銃なら、丸い弾をライフリングも無い滑空砲で銃身から打ち出す程度なので射程が100メートル以下。
 下向きに撃とうとすると、先込めの弾丸や火薬が転げ落ち、雨が降れば全部使い物にならなくなる。
 可能なら竹筒に火薬と弾丸を詰めて、先を防水して、後尾に雷管を付ける。
 鉛玉を型に入れる時、後ろを薄くして空洞にし、火薬の起爆力で広げ、銃身のライフリングに沿って回転するように加工すれば、射程が300メートル以上になる。
 冶金技術が低すぎる世界だが、ほんの数丁だけでも精度が良い銃身を作り、ライフリング加工できれば、山道で隠れてアマテラスや建御雷を射殺できる。
 相手側も最初は何故仲間が死んだのか、何をどこから撃ち込まれたのかも分からず、大将首を全部討たれると、部族同士集まっただけの一般兵の集団になり、下士官や族長の指示で撤退する以外に無くなる。
 もし見付かっても山の傾斜地を上方向に駆け上がったりするのは困難で、弾数があればその間に追っ手を射殺できる。
 谷を挟んだ向こうから狙撃すれば、狙撃手を探し回っている間に逃げるのも簡単で、猟師やシモヘイヘのような活動ができれば、アイアンサイトだけで一日数十人をヘッドショットできる。
 何も「まおゆう」のように、マスケット銃を10万人に持たせ、補給が滞るように設定して自滅させる必要は無い。

 クレイモア地雷と石弓(ボウガン)では、国内の内戦に勝利する程度だったが、ライフリングがあるミニエ銃では、歴史の書き変わる方向性が全く変わってくる。
 さらに天然痘のような生物兵器、化学兵器を利用できたなら、歴史を根底から書き換えられる。

 飛騨、職業訓練校

「起きろっ、シヨウッ! 歴史を戻すのに、このまま殺されるつもりかっ?」
 タケルは迫ってくるゾンビ?たちに対抗するため、リーディング中のシヨウを蹴って起こし、引き起こそうとした。
 手に持っている木の棒とか、周囲に転がっている木製の椅子があれば、時間制限を考えなければゾンビ達?を抹殺して、管理員室に逃げ込んでドアを溶接して籠れば、ホームセンターにでも行って「バールのような物」「スレッジハンマー」で武装したり、耐久力が低い木刀、2バイ4の材木などで武装できる。
 日本には銃砲店とか刀剣店はめったに無いので籠れないし、ゾンビが入店してくる。
「何、四葉を殺さないでも、このまま放って置くと良い。また歴史が書き変わる、その瞬間を見ておけ、部員達よ」
 怪奇現象研究会も担任も、タケルが暴れ出さない限り四葉はいつでも殺せるので、もう一度歴史が書き変わる瞬間を楽しみたいと思った。
「休戦よ、山手君」
 仲間ではない部長や軍ヲタも、一旦シヨウで四葉の抹殺によって歴史を戻すのを止め、歴史が再び書き変わるのを待ち望んだ。
「見よ、四葉が呼んだ、出雲の勃興と暴虐、戦乱の数々をっ」
 使い古された卒業生からの貰い物の教科書が光を放ち、プレハブの建物やコンテナハウスが再びクラブハウスへと進化して行く。
 教師の3Gガラケーもスマートフォンに戻り、周囲の装飾から照明器具まで何もかも入れ替わって行く。
 映画「オーロラの彼方に」のように、死ななかった消防士の父親が生き返り、危機的状況の息子の部屋に銃を持って来た時のように、壁紙から部屋の装飾が全部書き変わって行った。

 日本国は国号が「出雲」一色へと書き変わり、朝鮮中国、東南アジアの全てが出雲の領土へと書き変わる。
 当時は狩猟民族程度で空白地帯であった、南北アメリカ大陸、アフリカ大陸、オーストラリアも全部出雲になって行った。
 特に戦争も民族浄化などしないでも、1組のカップルから約8人の子供が生まれ、病死や餓死をしない。
 医療技術と農耕技術で爆発的に増え続ける人口で、日本本土全てと北海道、サハリンを埋め尽くして行き、その先へ先へと領土が広がる。
 明治以降、西洋医学で死ななくなってしまい、棄民され続けた農家の次男坊以降のように、種芋と麦と米を持ち、海と山を超えて行けば地の果てまでも、地球の裏側まで出雲人だけで埋め尽くすこともできた。
 航海技術さえあれば、ベーリング海峡を越えて北米に、アジア伝いに移動すれば砂漠だけで構成された不毛のオーストラリアに移動できた。
「こんなっ、今度は逆に、地球の大半が出雲にっ?」

 北米と言うのは、比較的最近隕石が落ちて滅びた場所で、それ以外にもイエローストーン、ラ・ガリータカルデラなど、終局噴火を起こす巨大火山があるので、小規模噴火しただけで全人口が滅びる場所でもある。
 阿蘇カルデラが富士山の約600倍の破壊力で、地球最大のカルデラの上位二つ、イエローストーンが2400倍、ラ・ガリータが3000倍であり、桁が一つ上の火山でカルデラが存在する土地。
 7万年前に、人類を1000組のカップル以下に減らしたトバ火山が2500倍、北米とは終局噴火を起こすスーパーボルケーノが2か所もある地獄である。
 毎回30万年ごとに終局噴火をしているが、イエローストーンは現在60万年噴火していない、今すぐ終局噴火しても何の不思議もない。
 小規模噴火で北米全土に噴石と火山弾が落下したのを、隕石による気候変化の滅亡だと局所的に見ているだけかもしれない。
 南米には隕石の落下か南極の終局噴火により破局洪水が起こり、千メートル以上に住んでいる集落以外はすべて洗い流されたので、居住する事が許されなかった禁忌の土地は、自由に出雲人で満たせる。

「東半球全部と、南北アメリカにアフリカ、オーストラリアも出雲だ……」
 インディアン、アボリジニ、ポリネシアン、南米まで徒歩で移動したモンゴロイド。
 全部日本人の親戚なので排除する必要すらなく、非常に少ない原住民人口に対し、食糧援助、医療援助するだけで、向こうから神とあがめて混血してくれて、数が多い出雲人に吸収される。
 襲撃や盗難で原住民を排除した場所もあるかも知れないが、ほんの数万人なので人口比率から見れば誤差程度、天然痘を撒かないでも、インフルエンザや日常的な風邪程度でも殲滅できる人数で、病原菌に対して何の抵抗力も持っていない純粋培養された隣人。

 ネアンデルタール人、西シベリアで見つかったデニソワ人。それらはホモサピエンスの暴力や戦争で絶滅させられたのではなく、混血して交じり合い、その後劣性遺伝として排除され、現生人類に吸収されただけである。
 言語を使用しないネアンデルタール人は、いわゆるコミュ障として現在も残り、ホモサピエンスの中に4%ほど遺伝子として残存している。
 他は白人のアルピノ、青い目、金髪として残っていて、西欧人と過去3回にわたって交雑した遺伝子記録が残っている。

「ほぼ世界征服してるじゃないかっ」
 トバ火山噴火後、極寒の地で生き残ったデニソワ人は、死に絶えた地上の動物と樹木に代わり、海の幸を求めて海に潜り、貝と海藻を食べて貝殻を積み上げた人類。
 温暖期でも同じ生活をして来た海の生き物であり、10~20℃程度の冷水の中でも狩をして、まるで海イグアナのように地上の人類を圧倒して大量に増え、人類水棲進化論的な世界で脳にタンパク質を供給し続けて脳を進化させた水棲人でもある。
 手足が短く氷結にも強く、鼻も低く目も細いが、マイナス50℃の世界で生きることもできる、血中のグリコーゲン量を不凍液のレベルまで高められる生体。
 温暖な場所で炭水化物中心の農耕生活をすると、一瞬で糖尿病を発する水棲生物で、海水に近い塩水とミネラル豊富な水を飲んでいないと、血中から電解質を失い続ける生き物で、体も水冷なので熱い場所では生きられない。
 今の地上生活に適合するよう、激烈な反応をしない物だけが適者生存しているが、再び極寒の世界や、温暖過ぎて海面が100メートルも上昇した世界で生きられるのは、この水棲人類だけである。

「中国とインド、東南アジアに自治区がある。ヨーロッパにも小さい自治区が…… でもロシアが無い」
 農耕が可能な場所に移動した出雲人も、中国と戦争をしたが、ボウガンしか持っていない敵と、大砲とライフルを持った出雲では相手にならなかった。
 朝鮮任那日本府を建設した頃には、現在の中国全土を制覇していた。
 象や毒剣毒矢を振るうインドでも、アレクサンダー大王でもモンゴル帝国でも追い払ったマハラジャたちも、自動小銃や航空機を持った敵には一切抵抗できなかった。
 北欧のバイキングが進出して、現在のロシアに白人の国を建設していったが、それ以前に空白地帯を制圧され、ポーランド重装騎士団もフビライハーンの軍勢ではなく、増え続けた出雲人に踏みにじられ、砲とライフルと航空機に、成す術もなく国ごと解散させられていた。
 イスラム圏もキリスト教圏内も、預言者(メシア)による宗教が蔓延する前に制圧され、出雲の神が世界で信仰されていて、バチカンもエルサレムもメッカも聖地ではない。
 ある意味タカマガハラから落ち延びた失われた十氏族の末裔が、逆侵攻してエルサレムとユダヤの地を奪還していたが、制覇したのは邪馬台国や大和朝廷ではない。

「あれ、何?」
 今度の歴史では、オカルト研究部員でも知らない物が空を飛んでいた。
 空飛ぶ円盤だとか葉巻型母船、オーラバトラーとかヴァルキリーみたいなロボ。
「そんな馬鹿な?」
 動力源不明のオーラシップとか飛空船が交通機関として空を埋め尽くしていて空中渋滞、その上にラーゼフォンのムーの世界みたいに島が空に浮かんでいる。
 ある意味、世界から戦争が消えて平和な世界。
 通貨とか資本とか企業の競争に、蹴鞠(サッカー)とか野球(ベースボール)とか北米投玉(アメリカンフットボール)の競争は沢山ある。
 資本の移動も、労働力の移動も自由、金利も地域の誤差程度で、イタリア北部で稼いだ金を、南部のトマト畑どころか、アフリカに投資しても誰も文句を言わない。
 世界人類が医療と教育を受ける権利を持ち、既に有色人種と白人が混血してしまい、アルピノ以外に真っ白な肌と青い目をした人類がいない世界。
 黄色人種に近い顔をした、一重瞼の真麻珍瑠宇佐亜王(マーチンルーサキング)「神職」は、別の自由解放を成し遂げた英雄として今も世界で尊敬されている。
「「「「「「「「「「うそ~~~~~~~ん」」」」」」」」」」
 オカルト研究部員は、また違った意味ですっ転んで腰を抜かして、アヘ顔ダブルピースをした。
 シヨウはまだリーディング中である。
 
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