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永遠の謎

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14部分:第一話 冬の嵐は過ぎ去りその八


第一話 冬の嵐は過ぎ去りその八

「それはわかっておいてくれ」
「わかりました。それでは」
 こう話してであった。太子はその書を借り読みはじめた。そのうえでだった。
 ワーグナーについてだ。周りの者にこう話すのだった。
「どうやらこの国にだ」
「この国にですか」
「何かあったのですか」
「素晴しい音楽家がいるようだ」
 こう話すのだった。
「そう、ベートーベン以来のだ」
「そこまでのですか」
「素晴しい音楽家がですか」
「生まれているのですか」
「そうだ、この書を書いた者だ」
 大叔父に借りたその書を手にしての言葉だった。
「ワーグナーという」
「ワーグナーというと」
 ここでだった。何人かは眉を顰めさせた。
「あの悪名高きですか」
「革命家の」
「しかも山師の」
「あの者ですか」
「山師!?」
 太子はこの言葉に反応を見せた。革命家であるというのは聞いていた。しかし山師という言葉は聞いていなかった。それで言ったのである。
「どういうことだ、それは」
「はい、そのワーグナーという男はです」
 彼等はそのワーグナーについて太子に話した。
「とにかく浪費家でして」
「絹以外のものは身に着けません」
「莫大な借金を抱えていてそれから逃れ続けています」
「そして大言壮語が常でして」
「おまけに異常に女癖が悪いです」
 それもあるというのだ。
「妻がありながら他の女性を次々と誘惑します」
「そうした人間です」
 これはカトリックの世界では重要なことだった。妻だけを愛さねばならないからだ。尚バイエルンはカトリックの国である。
「失言や放言も多いですし」
「人間としましては」
「いや、それはどうでもいい」
 ところがだった。太子はそのことには関心を示さなかった。
 そしてだ。ワーグナーのその人間性には素っ気無く言うだけだった。
「人間ではないのだ」
「といいますと」
「何だというのですか」
「大事なのは」
「音楽だ」
 それだというのである。
「芸術なのだ」
「それですか」
「それだというのですか」
「芸術がですか」
「そうだ、それこそが大事なのだ」
 こう言うのである。
「だからだ。その音楽を聴いてみたいものだ」
「ワーグナーの音楽をですか」
「それをなのですね」
「つまりは」
「そうだ、ワーグナーの考えは素晴しい」
 書は手にしたままだ。そのうえでの言葉だった。
「その芸術への心は確かだ」
「ではやはり」
「ワーグナーをですか」
「認められるのですか」
「一度聴いてみたいものだ」
 また言う太子だった。
「必ずな」
「その時が来ればいいですね」
「それでは」
「その時にですね」
「楽しみにしている」
 太子の言葉はここではしみじみとしたものになっていた。彼はワーグナーを知った。そしてその芸術への考えもだ。彼はここから変わった。
 常にだ。ワーグナーについて考えそして言うのだった。
「音楽を聴きたい」
「はい、それでは」
「早速ピアノを」
「頼む。それでなのだ」
 さらに言うのだった。
 
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