戦国異伝供書
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第十一話 退く中でその九
「余計にややこしいことになりました」
「だからよかったな」
「まことに、しかし思うことは」
「寺社か」
「今まで寺社に対する政も上手くいきましたが」
しかしというのだ。
「それでもです」
「他の寺社はあっさりといっておるが」
「延暦寺や本願寺はな」
「これからですので」
「何もなければよいが」
「果たしてそれはどうなるか」
竹中も小寺もこのことに危惧を覚えていた、だが信長は寺社勢力への政も順調に進め彼等の勢力を削ぐと共に己の政の中に入れていっていた。
だが信長自身だ、家臣達に言うのだった。
「ここまで上手くいくとな」
「どうしてもですか」
「不安になる」
「そうなりますか」
「どうにも」
「左様ですか」
「うむ、何かな」
どうにもと言うのだ。
「わしを快く思っておらぬ者達もおる様だが」
「殿、そのことですが」
村井が言ってきた。
「やはりです」
「あの方がか」
「はい、今もです」
「どうしてもか」
「他の家に文を送られている様で」
「朝倉家の後もか」
「そうされています」
まさにというのだ。
「あの方がです」
「そうか、しかもじゃな」
「近頃ですが」
「我等も遠ざけています」
明智と細川も言ってきた、幕臣でもある彼等もだ。
「そしてです」
「崇伝殿や天海殿と親しくされ」
「そのうえで、です」
「我等は殿に従うと敵視さえしておられます」
「では公方様がか」
「それはないかと」
ここで言ったのは雪斎だった。
「公方様に文を送られてもです」
「寺社は動かぬか」
「何処も、殿に権勢を見ておられて」
「それでか」
「武家ならばです」
即ち諸大名達はというと。
「それを大義名分にしたり従わねばならぬと思いますが」
「幕府は武家の権威だからのう」
「もう公方様に寺社への権威はありませぬ」
もう武家の権威でしかなくなっているというのだ。
「ですから」
「それはないか」
「はい、ですから」
「それでじゃな」
「公方様は延暦寺や本願寺には何も出来ませぬ」
「文を送ってもか」
「従われませぬ、既に天下の三分の一近くを制している当家にです」
そうした寺社勢力はというのだ。
「従いましょう、ですが」
「それでもか」
「確かにこうも順調ですと」
雪斎も言うのだった。
「やはりです」
「お主もそう思うな」
「かえって恐ろしいです」
「まさに好事魔多しじゃ」
「それは政も同じで」
「実は寺社を抑えることはじゃ」
彼等を自身の政の中に組み入れて独自の勢力しないことはというのだ。
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