竜に捧げる歌
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第一章
竜に捧げる歌
その森の奥深く、それこそ冒険者はおろか森の生きもの達も踏み入れない様な場所に一匹のドラゴンがいた。年老いたグリーンドラゴンだ。
森の主と言われて二千年以上経つ、食事は森の霊力を糧とする様になってから摂ることはなくこれまで貯め込んだ財宝を自分の巣の一番奥に置いたうえでただ一匹森の奥にいる。
ドラゴンはそのまま何千年も今自分がいる森の奥で眠った様に生きていくつもりだった、誰もドラゴンであり強大な力を持つ自分を恐れて森の奥にすら踏み込まないことはわかっているし翼で空を飛んでの移動をする気にもならなかった。
それでひたすら眠った様に生きていくつもりだった、だがある日のことだ。
その彼のところにだ、ふと気配がした。ドラゴンはその気配に気付いて前を見るとそこに一人の妖精がいた。
竜に似た足と角を持っている小柄で白い服を着た楚々とした外見の妖精だ。その彼女を見てだった。
ドラゴンは妖精に起き抜けの様な声で尋ねた。
「誰だ」
「エターニャです」
妖精はドラゴンに名前を名乗って答えた。
「この森に住んでいる妖精です」
「そうか、妖精か」
「はい、そうです」
「わしはこの森に住んでいるドラゴンだ」
「そう聞いています」
「わしのことを知っていて来たか」
ドラゴンは首を起こしそのうえでエターニャに応えた。
「そうか」
「それが何か」
「わしが怖くないのか」
ドラゴンはエターニャにこうも問うた。
「そうではないのか」
「どうして怖いの?」
「どうしてか」
「貴方はこれまで誰かを無意味に殺めたことはありますか」
「その様な趣味は持ち合わせておらん」
ドラゴンはエターニャに年老いているが率直な声で答えた。
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