戦国異伝供書
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第十一話 退く中でその五
「戦ならばな」
「それならばですな」
「我等も」
「そうじゃ」
まさにと言う信長だった。
「一切手を抜かずな」
「容赦せず戦い」
「そして勝つ」
「そうしていきますな」
「戦うからにはじゃ」
まさにというのだ。
「勝たねばどうする」
「左様ですな」
「戦はまさに命と命のやり取り」
「それを行う場所ですから」
「ここはです」
「死力を尽くして戦いまするな」
「そして勝ってこそじゃ」
その時こそとだ、信長は言うのだった。
「わかるな」
「はい、浅井家を降せますな」
「一度裏切ろうとも」
「それでも」
「何度も言うが猿夜叉には野心はない」
天下取りの為に信長を裏切る、それは決してないというのだ。
「あると思う者は言ってみよ」
「それは」
「あの方は近江のご領地だけで充分という方」
「そしてそこの民を守りたいという方」
「そういう方ですから」
「ですから」
「そうじゃ、あの者はのう」
決してとだ、こう言うのだった。
「野心はない、そしてな」
「浅井の大殿殿も」
「あの方にしても」
「そうした野心はとてもない」
「あの時確かに我等は軍の背を浅井家に向けておりました」
「まさに天下取りで討つなら恰好の機会でしたが」
「それでもです」
しかしだった、織田家の誰もが思うのだった。信長が見込み用いている者達がだ。
「浅井家にそこまでの野心は有り得ませぬ」
「家臣の方々にしましても」
「唆す御仁はおられるか」
「そう言われると」
「わしも浅井家の主な家臣達は知っておるが」
それでもだった、信長にしても。
「あの津々木の様な者はおらぬ」
「都から崇伝殿や天海殿といった僧が時折出入りしていましたが」
ここでこのことを言ったのは浅野だった。
「しかし」
「それでもじゃな」
「はい、あの二人の御仁に何かあるか」
「唆すなら傍におるのう」
「あのお二人はむしろです」
「上様にじゃな」
義昭の方にとだ、信長は浅野に問うた。
「気になる動きをしておるな」
「はい、ですが」
「それでもじゃな」
「浅井家に関しては」
「それはな」
信長は浅野に言うのだった。
「あまりな」
「これと言って考えられませぬ」
「わからんことばかりじゃな」
「全く以て、では」
「うむ、それではな」
「その浅井家、朝倉家とですな」
「戦じゃ」
こう話してだ、そしてだった。
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