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真田十勇士

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巻ノ百五十三 戦の終わりその三

「もうわしはじゃ」
「それだけはですか」
「うむ、戦うだけの力はな」
 最早というのだ。
「残っておらぬわ、あと少しすればな」
「この世からもですか」
「去ることになる」
 だからだというのだ。
「それでじゃ」
「もう戦はですか」
「出来ぬ、刀を持とうと思ってもな」
 かつては相当な腕を持っていたがだ、家康は剣術も見事なものがあったのだ。
「それでも持ってもじゃ」
「お力がですか」
「ない」
 全く、というのだ。
「まことにな。だからな」
「それで、ですか」
「うむ」
 まさにと言うのだった。
「これでな」
「それでは」
「お主が勝てばと思っておった」
 まさにというのだ。
「その時にはとな」
「御首をですか」
「お主にやろうとな」
「そうでしたか」
「それでじゃ。これよりな」
「御首を取って」
「そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「帰るのじゃ、そしてな」
「服部殿のことを」
「うむ」
 その通りという返事だった。
「褒美の話は頼むぞ」
「左様ですか」
「それではな、早くじゃ」
 幸村を見ての言葉だった、これも。
「わしの首を取ってな」
「そのうえで」
「薩摩に戻るがいい」
 このこともだ、家康は知っていた。
「そしてな」
「右大臣様にですか」
「勝ちを告げるのじゃ」
 秀頼にというのだ。
「その様にな」
「では」
 幸村も頷いた、そしてだった。
 家康の前に来た、そうして刀を抜いて一閃したが。
 切ったのは家康の髪の毛だった、それだけを切って手にして言った。
「確かにこれで」
「首はあるぞ」
「それはもういいです」
 こう家康に話した。
「最早」
「それはよいのか」
「はい」
 家康に微笑んで答えたのだった。
「最早」
「それは何故じゃ」
「それがしは戦に勝ちました」
 だからだというのだ。
「ですから」
「それはその通りであるが」
「ですから」
「わしの首を取らずともか」
「いいと考えています」
「そうか、わしの首はよいのか」
「それに大御所様はまだ天下泰平の為にやるべきことがおありです」
「あと僅かな命の中でか」
 家康は座したまま幸村の目を見て言った。 
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