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ランス END ~繰り返しの第二次魔人戦争~

作者:笠福京世
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第一部 GI歴末からLP歴の終わりまで
第一章(CP4二周目、結末Bエンド)
  第03話 ヘルマンの故郷を離れて

 GI1015年 ヘルマン共和国 首都ラング・バウ

 僕はヘルマンの首都、ラング・バウにいる。荘厳な建築物が大陸でも有数の偉容を誇っている。
 なにしろGI中期に存在した人類統一国家、聖魔教団及びその前身となる魔教団の都があった場所だ。
 現在ではヘルマンの富と権力の象徴であり、その城下町にはほとんど城の従事者しか住んでいない。
 常駐する軍隊は、首都防衛の任に就くヘルマン皇帝直属の親衛隊たる第三軍だ。

 「なあ、姉貴は本当に此処にいるのかな?」

 初めて来た大都会の雰囲気に呑まれながらマハが不安そうな表情で問いかけてくる。

 ゼナ叔母さんが流行り病で倒れた。なんとか息を吹き返したけど、医者の見立てによると今年いっぱいの命らしい。
 病床のゼナ叔母さんには娘がいるらしい。マハとは二十歳も年が離れた異父姉だ。

 彼女は再婚先の父を嫌ってマハが生まれる前に田舎の村を飛び出し、その後は音信不通だそうだ。
 しかし風のうわさで、出世のために軍に入ったと叔母さんは以前に人伝えに聞いたことがあるそうだ。
 ゼナ叔母さんが亡くなれば、マハに身寄りはない。
 頼れる相手かは分からないけど、マハにとっては残された最後の身内だ。
 だからマハは会ったことが無い姉を、母の病を報せて、その死に目に会わせたいと言った。
 僕は村を勝手に飛び出したマハを追って、彼の姉に会いにヘルマンの首都までやってきた。

 「軍籍はゴーラクの役所で確認したんだ。第三軍にいるのは間違いないよ」

 「そっか。へへへ、親衛隊の第三軍に所属ってだけじゃなくって、小隊長か。姉貴って、すげぇな」

 「そうだね――」

 マハの姉であるミネバ・マーガレットは兵卒からの叩き上げで出世した軍人だ。 
 親衛隊の小隊長ともなると士官にあたる。そこらの兵卒(一般兵)や下士官(熟練兵)とは訳が違う。
 下士官は兵をまとめる分隊長(現場のリーダー)で、軍曹や班長などと呼ばれたりする熟練の軍人だ。
 そして高等教育を受けていない軍人が就くことの出来る最上位の階級が下士官にあたる。

 士官ともなれば上級学校に相当する士官学校を卒業した者がなるのが通例だ。
 下士官からの昇進も制度的にはあるのだが、かなり厳しく難しいものだと聞いている。

 またヘルマンでは士官の官職や役職は大金を払えば買うこともできる。
 この売官は賄賂などといった汚職的なものはなくて古くから続く公的な制度だ。

 軍の士官となると基本的に高等教育にお金をかけることができる貴族などの富裕層の出身者が多数を占める。
 そして当然ながら常備軍の維持や管理には多額の費用がかかる。
 つまりヘルマンでは売官制によって軍事費の一部を養っているわけだ。
 
 基礎学校卒で村を飛び出して兵士となったマハの姉は何一つ後ろ盾がない。
 売官なんて無理だろう。よほどの戦功を何度も挙げて、上からの推薦で士官になったのだろう。
 士官学校卒ならともかく、三十歳で叩き上げの士官となれば出世の速度も遅くはない。
 僕らが住むのは田舎の小さな村だから故郷に錦を飾るような存在ともいえるので少し驚いた。

 「なあ、ビュートンって、やたら軍の細かいことに関して詳しいよな?」

 目的地に向かいながら説明してるとマハが不思議な顔をで訪ねてくる。

 「そういえば……そうだね??」

 言われてみれば、そうだ。確かに本などの文字から知識を得るのは得意だ。
 けど軍制について詳しいことが載ってある本なんて読んだことも見たこともない。
 なぜか軍制に関する「情報」を生まれる前から知っている(・・・・・・・・・・・・)みたいだ――。

 「おいおい。本人が不思議な顔するなよ。おっ、この先が官舎だ。早く行こうぜ!」



 GI1015年  ヘルマン帝国 ゴーラクの南にある小さな村

 「なあ……マハ、一緒にヘルマンを離れて……自由都市でさ、冒険者にならないか?」

 年の暮れにゼナ叔母さんが亡くなった。
 旅をしていて気づいたけど、黒死病と呼ばれる感染病が、東ヘルマンの農村から少しずつ西に広がりつつあった。

 そして叔母が亡くなる少し前に僕の父親の戦死の報が村に届いた。
 第一軍に所属する下士官だった父は「パラパラ砦の攻防」で死んだ。
 母も、姉もいなくて、そして父もいなくなった。
 生活の面倒をみてくれてたゼナ叔母さんも亡くなって。僕も天涯孤独の身となった。

 「……軍人にはならないのか?
  あのオッサンが面倒をみても良いって言ってたんだろ?」

 マハの言うオッサンというのは、父の最後を村まで伝えに来てくれた無精髭を生やした騎士のことだ。
 第一軍に所属する新任の小隊長で、父によって部下の命を救われたそうだ。
 リーザスの有するパラパラ砦を攻めたヘルマン第一軍は、リーザスの精鋭である赤の軍によって撃退された。
 殿を務めた父は味方を逃がすため、ぷちハニー爆弾を抱えて敵軍に突っ込み爆死した。
 だから姉と同じで墓に埋める遺骨さえない。

 「たしかにボドゥさんは一軍で面倒をみてくれるって言ったけど――」

 続けて僕は言葉を濁しながら伝える。

 「もしも僕らが軍で出世していくなら、|あの人【・・・】と……いつか出会うことになる」

 (今のヘルマンは上が腐ってきてる。下手に才能を知られたら危険だ)

 あの時に姉が伝えた言葉が、今になって鮮明に蘇る。 

 「…………」

 マハは無言だ。異父姉のことを思い出しているのだろう。小さな身体が小刻みに震えている。


 ラング・バウで会ったミネバは、異父弟に対する親愛の情など欠片も示さなかった。
 ゼナ叔母さんの病を伝えると、彼女は実母を「ばばあ」と呼び捨てにし――

 「ようやく、くたばるのかい?」 と嘲笑した。

 それどころかマハに対して顔も見たこともない親戚が、薬や金をタカリに来たかのように扱った。

 怒りを露わにしたマハが殴りかかると、それを軽く撥ね除けて、鍛え上げられた拳を振り上げた。
 地面に打ち付けられた、マハは護身用の槌を手に取り挑んだ。
 村からの旅は護衛付きの隊商に付き従ってのものだったが、途中で野盗やモンスターとも戦った。

 「へぇ……なかなか悪くないねぇ」

 ミネバがマハを獲物を見つけた爬虫類のような視線で見つめる。
 そのときの恐怖を思い出して僕も身を震わせる。


 「……たぶんマハには僕の剣と同じで、槌を扱う才能がある。
  他にも何か軍人として生きていく上で役に立つ技能スキルが備わっているかもしれない」

 あのとき僕もマハを守るため剣を抜いてミネバと戦った。
 二人がかりでさえ歯牙にもかけられなかったが――ボロボロに叩き伏せられた僕らに彼女は言った。

 「あんたら、ばばあが死んだら村なんか出て軍に入んな。
  素直に従うんなら二人とも|三軍【ウチ】で飼ってやってもいいよ」


 「もし軍に入って、あの人に血縁や地縁で利用されたらボドゥさんにも迷惑をかける」

 「……そうだな」

 「かといって何の後ろ盾もなくヘルマンの軍に入るのは危険だ」

 僕の父に自爆特攻という無謀な命を下したのは貴族のボンボンだ。
 ヘルマンの売官制では、軍部の地位は最高でも中隊長までしか買うことができない。
 それ以上の地位となると軍務に努め、軍内で昇進を重ねる必要がある。
 寄付やらコネによって出世の速度が早くなることはあるが、不相応に高い地位を簡単に与えることは無い。
 そのようなことを許せば番裏の砦の魔物や他国の軍に対する国防が疎かになるからだ。

 けれどパラパラ砦を攻めたヘルマン第一軍の将は、金銭で将軍の地位を買ったアホ貴族だった。
 后妃パメラの寵愛を得たステッセルが、宰相の地位について十年。ヘルマンでは上層部の腐敗が進んでいる。
 国政を管轄する評議委員のなかで、国防を担当しているケチャックはステッセルの甥だ。

 彼は叔父に取り立ててもらうまで風采の上がらない一兵卒だったそうだ。
 これまで何一つ軍功もなく、コネだけで将軍位を授かり評議委員となった。
 今や貴族たちは彼に相応の金銭さえ払えば、軍のどのような地位にもつけるという。

 今回のリーザスとの戦も第一軍の大将であるレリューコフ将軍は反対した。
 しかしステッセルとケチャックの命により、リーザス侵攻の任を外され後方に配された。
 代わりに第一軍の兵を与えられたアホ貴族たちによって無謀な侵攻が行われたのだ。
 戦争を起こした理由が、金で地位を買って軍功のないクズどもの箔付けだったそうだ。

 こんな話を聞けば、敵国リーザスを恨むより、自国のクズどもに恨みがいく。
 姉がヘルマンを嫌って自由都市を中心に冒険者稼業を行っていた理由がわかった。

 ボドゥさんが僕らを第一軍にと誘ったのは軍の腐敗が広まっているからだ。
 後ろ盾がない兵卒は、アホ貴族の下に配属され、すり潰される可能性がある。
 酷いところでは国軍の兵士を、私兵のように扱っているクズもいるそうだ。
 ボドゥさんはレリューコフ将軍の右腕であるカール副将の下で働いているらしい。
 だから子供二人ぐらいであれば彼の権限で庇護下に置くことができるそうだ。

 「でも一軍で守ってもらえるなら――」

 たしかにレリューコフ将軍といえば、大陸最強の戦士と呼ばれる第三軍のトーマ将軍と並ぶヘルマンの大黒柱だ。
 精鋭である第一軍にあって古き良きヘルマンの騎士道精神を体現するような存在だと聞く。
 ボドゥさんもレリューコフ将軍は現状のヘルマンをなんとかしようと努力していると言っていた。

 「けど、今のままだとヘルマンの未来は――」

 そう。ヘルマンの未来は明らかに暗いんだ。僕が姉と旅をしたリーザスの街はヘルマンの街より栄えてた。
 マハと旅した自由都市は、ヘルマンの都市部より、ずっとずっと活気があって明るかった。
 
 いつかはヘルマンの貧しい片田舎の村を出て一旗あげようと思っていた。
 僕もマハも腕っぷしには自信がある。普通なら道は二つ。軍に入り兵士となるか、冒険者になるか。
 
 そして僕らはマハが基礎学校を終えると同時に荷物を整理し、ヘルマンを離れて冒険者となるため自由都市へと向かった。 
 

 
後書き
*人物補足*

ボドゥ ランス9で登場(第一軍の中隊長)→ランス10では第二軍の将軍となっているが開幕で戦死するキャラ

*設定補足*

軍の階級や売官制などは原作を下に独自解釈(拡大設定)を行っています。
腐敗したヘルマンで売官が行われていたのは明らかですが、制度としてあったかは不明。
ただし歴史的にも近代ヨーロッパ(ナポレオン戦争期)で軍の公的な売官制度がありました。
ファンタジー世界特有の実力主義社会とはいえ、資産や後援者なしに将校の地位に昇るのは難しいだろうと考えました。そういった旧来の制度が崩壊する「ヘルマン革命」は、まさしく革命だったのでしょう。 
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