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永遠の謎

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11部分:第一話 冬の嵐は過ぎ去りその五


第一話 冬の嵐は過ぎ去りその五

「それはです」
「ですがそれでもです」
「扱いを覚えることはですか」
「心得ておいて下さい」
「わかりました」
 教育は順調な面とそうでない面が如実に表れてしまっていた。ただかなり厳しい。父王は時として二人に体罰を与えることもあった。政務の合間を見てたまに顔を見せればそうなのだった。
 そんな教育を見てだ。ルイトポルドは難しい顔をしていた。そうして親しい者達に対して話すのだった。
「太子もオットーも」
「あの教育はですか」
「駄目なのですか」
「二人にはよくないかも知れない」
 こう話すのである。
「二人共な。特に太子にはだ」
「しかし教育は厳しくていいのでは」
「違いますか」
「厳し過ぎるのもよくないのではないのか」
 これが彼の意見だった。
「あそこまではだ」
「そういえば確かに」
「詰め込みでしかも質素に過ぎるような」
「ハプスブルク家やホーエンツォレルン家よりも厳しいのかも」
「殿下は息をつく間もありません」
「あの子はだ」
 王族でしかも叔父だからだ。彼は太子をこう呼んでも許されるのだった。
「繊細だ。もう少しあの子のことを気遣わないとだ」
「いけませんか」
「そうだと仰るのですね」
「気の毒だ」
 甥にだ。心から心配するものを見せた。
「せめて。少しでも何かを許さないと」
「その何かとは」
「一体何ですか」
「それで」
「愛情か」
 それだというのだった。
「もう少し愛情を注いでもいいのではないだろうか」
「しかし王は孤独なものです」
 所謂帝王学の言葉だ。王は常に一人である、このことが今話された。
「ですから。愛情もまた、です」
「それも諦めるべきではないでしょうか」
「王として」
「王は国家の第一の僕」
 ルイトポルドはこの言葉を出した。
「だからか」
「はい、ですから」
「それもまた、です」
「仕方ないのでは」
「そう思いますが」
 親しい者達はこう話す。だが彼はまだ難しい顔をしていた。
 そうしてだ。こうも話すのだった。
「その考えもいいのだろうか。あの子にそこまで重圧を与えては」
「ですから王ですから」
「仕方ないと思いますが」
「違うのですか」
「やはり少しは」 
 どうしても甥のことを気遣わずにはいられなかった。篭の中の鳥になっている甥をだ。しかし彼への教育はさらに続くのだった。
 そしてだ。その中でだった。
 太子は多くの歌劇も見た。それも教育の一環だったがその中でだ。ドイツの歌劇も観ていた。
 ミュンヘンにある王立劇場は赤と黄金の世界だ。貴賓席の壁のところは黄金でありそこにロイヤルボックスもある。太子はよく王、王妃と共にそこでオペラを観るのだ。
 そこでだ。彼は言う。
「ドイツのオペラも」
「どうだというのだ?」
「何かあるというの?」
「素晴しいものがありますね」
 これが彼の言葉だった。
「実に」
「イタリアのものよりもか」
「いいというのかしら」
「いえ、イタリアのものはイタリアでいいと思います」
 イタリアオペラを否定しなかった。むしろ彼はイタリアは好きだった。だからこそそれは否定せずに肯定してみせたのである。
 しかしだった。ドイツオペラについてもだ。こう述べるのだった。
 
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