ノーゲーム・ノーライフ・ディファレンシア
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第9話 出鱈目vsデタラメ
フィールドを、無数の弾丸が駆ける。
空と白は、シグの残機を削るべく全方位に弾丸をばら撒いていた。
────シグの居場所が分からないうちは、集中砲火など望むべくもない。故に、全方位に弾丸を撃ち弾が物理に反した瞬間を確認する事でシグの位置を炙りだそうとしているのだ。
撃った弾丸が物理を無視した挙動を取れば、その位置がシグの位置という事になる。幻惑魔法の担当がプラムなら、球が止まってもそれに気付かせない事は出来るだろうが────当然長くは持たない。
つまりシグを炙り出す事自体はそれほど難関でもない。いや、プラムがフィールの血を継続補給していればそれも危ういだろうが────それはありえない。空はそう断じて、全方位への射撃を続けた。
「────へえ、ここでその手は確かに最善だな」
シグは、空の一手を素直に賞賛する呟きを漏らす。
魔法を一方的に使うアドバンテージがあってさえ、必勝の状況を作る事は許してくれないらしい。やはり『 』相手では、勝ち確などという単語は使えない────シグはそう再確認して、笑みを浮かべた。
────と、その時。飛翔した弾丸が跳弾し、乱反射してシグに迫った。
プラムは初めて見る、白の弾幕────その想定外の軌道に、プラムは幻惑魔法を追いつかせる事が出来なかった。
フィールの展開する防御術式が辛くも被弾を防いだが、プラムの幻惑魔法がかかっていないその空間は、止まった弾丸をしっかりと『 』に確認させた。
「にぃ、あそこ、いる……!」
「よしキタ、集中砲火だ!!撃てェ!!」
策を成功させた────空は博打に勝ったギャンブラーのように、意気揚々と叫んだ。そしてその声を皮切りに、空と白は一斉に弾丸を撃ち放った。
白の跳弾による弾幕はシグの移動を封じ、空の集中砲火は正確無比にシグを狙う。一方的に位置を把握しているアドバンテージを、シグは失ったのだ。弾丸がフィールの術式で防げるとはいえ、着実に不利を覆されている。ましてプラムは、体液補給がなければ魔法の連続使用も危ういのだ。
『 』は、確実に魔法を削っていく意図を持っている────そして実際に削って来ている。シグはそれを察して、何度目だろうか────獰猛な笑みに顔を歪めた。
「いいね、『 』────これじゃジリ貧だな、攻めるか」
そう呟いて、シグはエアガンを構え突進した。
空と白が魔法を削り切る事を意図した決戦を仕掛けるなら────こちらは魔法が削られるより先に『 』を仕留める決戦を仕掛けるまで。
空と白の乱射を防御魔法で受け止め、銃を構える。そのままシグは二人に迫り────一発、二発、そして三発と、発砲音を響かせた。
────『 』に近づく事にさしたる意味は無い。ただ接近戦を警戒させる、それ以上の意味は無い。そして、接近戦を警戒した『 』に魔法による出鱈目軌道の弾丸を撃ち込むのが狙いだが────『 』とてその狙いが分からないはずがない。そもそも接近戦だろうと魔法の補助を受けた弾丸だろうととる行動は回避一択で惑わせる意味さえ少ない。だが────
シグはそこで思考を切って、引き金を引いた。銃口から吐き出された弾丸は、やはり異常な軌道を描いて『 』に迫る。
だが────その途中で弾丸が止まり、そして落下した。
「────ようやくMP切らしたみてえだな」
空と白は、勝ちを確信した笑みを浮かべ────シグに銃口を向けた。
────その時だった。
魔法によって再加速した弾が、白に着弾した。
削り切ったはずの魔法、だがシグはそれを再使用して白を一瞬の内に脱落させた。そして、即座に銃口を空へと向ける。
「────ッ」
だが、そこでシグが目にしたのは────冷静に銃口をこちらに向ける、空の姿だった。
「ここまで計算済みだよシグ────お前が三発しか弾を撃たなかった時点でな」
空はつまらないギャグを聞かされたかのような表情で、そう言った。
そう、シグが行った《《油断させた後に仕留める策》》────これは仕留める事が目的なら、絶対に六発撃たなければ効果がないのだ。『 』を削り切るには6発の弾丸が必要で、不意をついて勝つのが目的なら必ず6発撃つハズなのだ。だがそれをしなかった────いや、出来なかったという事は、その一手はミスリードだ。
「まだ魔法が使える」と思わせる為の────ミスリード。
だが、六発の弾丸を操作するだけの余力が残っていなかったからこそ、この策をシグは実行した。だからこそ、3発で白を脱落させそれに動揺した空を狙おうと近づいた。つまり────もうシグに、魔法という手札は無い。
「────いかにエアガンだろうが、この距離じゃ不可避だ。俺らの勝ちだよ────シグ」
空が言葉と同時に弾丸を放つ。吐き出された弾丸は────遂に、シグへと着弾した。
遂に魔法を削り切った────そう確信に笑みを深める空に、だがシグはまだ追随した。
「まだだ!!負けるか、負けられるか!!!!」
────此処だけが唯一の居場所。負けて失うわけには────いかない。
「────ッ!?」
空は、思わず身震いした。天翼種に射竦められることのない空ですら、恐れ戦いたシグの狂気。否、狂気と呼んですら生温い、底知れぬ何かが、空を無条件で一歩退かせた。
その隙を突き、シグが撃った。だが、即座に気を取り戻した空もまた撃ち返す。
だが、空がシグの残機を削り切るより早くシグは物陰へと素早く身を隠した。
辛くも窮地を脱したシグ────だが、彼の残機は残り一つ。依然ピンチは続いていた。
だがそれは空も同じ────彼もまた、その残機を残り一つまで減らしていた。
来たる決戦の瞬間に向け、二人は静かに息を整える。
その静寂は、まさしく嵐の前の静けさだった────。
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