真田十勇士
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巻ノ百五十二 迎えに向かう者達その七
「お見事、そして生きておられてです」
「それでか」
「何よりです」
こうも言うのだった。
「そうお話させて頂きます」
「わしが大坂で死ななくてか」
「はい、後藤殿の豪傑を失うことは天下にとって大きな損失でした」
若しあの時後藤が死んでいればというのだ。
「ですから」
「その様に言ってくれるか」
「はい」
その通り返事だった。
「そう言わせて頂きます」
「嬉しい言葉じゃ」106
後藤は神老のその言葉に素直に笑みを向けて答えた。
「わしなぞにな」
「なぞにとは」
「わしは所詮一介の浪人じゃ」
「だからですか」
「それで言ったのじゃ」
「なぞと」
「左様、もう万石取りではない」
黒田家にいた時の様にというのだ、つまり大名だったのだ。
「まことに一介の浪人じゃ」
「そうですか、しかし」
「わしは今でもか」
「見事な御仁、豪傑であります」
例え大名でなくなろうと、というのだ。
「まことに、そして」
「そのわしがあの戦で死ななかったことはか」
「よきことです」
「そうか、しかしな」
後藤は神老の忍者刀と手裏剣を槍で防ぎつつ言った。
「ここで死ねばな」
「大坂で生きておられたにしても」
「同じことじゃな」
「だからですか」
「わしはこの場でも生きる」
強い声での返事だった。
「勝ってな」
「それがしに」
「そうしてこれからも生きていく」
「そうされますか」
「お主にも勝つ」
まさにというのだ。
「必ずな」
「そう言われますか、それは」
「来るか」
「そろそろ決めまするか」
神老は後藤との攻防を一時止めて述べた、後藤も攻防を止めた。
「我等の戦を」
「そうであるな、ではな」
「それがしも秘術を出します」
「そしてじゃな」
「はい、それがしもです」
「勝ってじゃな」
「戦を終えまする。先程生きておられて何よりと申し上げましたが」
しかしというのだ。
「後藤殿には秘術を出させねば勝てませぬし」
「その秘術でじゃな」
「後藤殿がお命を失おうとも」
それでもというのだ。
「覚悟しております」
「それは同じこと、わしもじゃ」
「それがしをですか」
「討つことになろうともな」
後藤は両手に槍を持ち構えつつ述べた。
「それでもじゃ」
「戦にですか」
「勝ちたい」
是非にという言葉だった。
「この度はな」
「だからですか」
「うむ」
それこそというのだ。
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