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稀代の投資家、帝国貴族の3男坊に転生

作者:ノーマン
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5話:決意

宇宙歴752年 帝国歴443年 1月6日未明 ヴァルハラ軍病院
ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

何とかローゼの機嫌を取って追い払うことができた。心配してくれるのはありがたいが、まだ眠くないし考えたいことはたくさんある。

話を戻そう。ビジネスマンとしての記憶を持つ俺にとって、叛乱軍以上に注目なのがフェザーンだ。

帝国と叛乱軍の境界には2つの回廊がある。で、この回廊の一つがフェザーン回廊であり、その回廊に存在する居住可能な惑星1つを領域としているのがフェザーン自治領だ。

70年程前に地球出身の商人が、帝国の要人に賄賂をばら撒いて設立させた国家だ。自治領を関してはいるが事実上は国家といえるだろう。帝国も叛乱軍もフェザーンに高等弁務官府なんてものを置いているが、要は大使館だろう。

もっともよほどのことがない限り、帝国と叛乱軍の高等弁務官が会うこともないだろうし、逆に交渉を両国が持とうとする場合、ここが真っ先の候補だ。

つまり両国の高等弁務官府の動きをしっかり把握していればフェザーンに内密に両国が交渉することは無いわけだ。

両国にとってもフェザーン回廊を非武装中立地帯にすることでもう一つの回廊、イゼルローンに軍事的な意識は向けられるのでメリットがないわけではないが、両国の中間貿易を独占できるフェザーンの利益は、そんな軍事的利益の数倍に上るだろう。

ある分析によれば帝国:同盟:フェザーンの国力比は48:40:12とのことだ。
人口比なら25:13:2になることを考えれば、自明の理だ。というより、帝国が低すぎる気がするが、ここは俺の金儲けの種が無数にあると思えば別に気にならない。

むしろフェザーン設立に尽力したラープとかいう商人の商才はすさまじいの一言に尽きる。自治領設立のためにいくら賄賂をばら撒いたのかは知らないが、元手はすぐに回収できただろう。

とはいえ、ラープの後継者たちは2流のようだ。フェザーンが肥え太れるのは帝国と叛乱軍が戦争しているからでもあるが、はっきり言えば戦争は勝とうが負けようが人口衰退を引き起こす。俺ならうまく最低限の戦争ごっこをさせながら、人口と国力の増大を画策する。

そうすれば当然中間貿易の量も増えるし、独占している旨味も増える訳だ。そう考えてみるとフェザーンはリスクに対して最大限配慮しているのかもしれない。

少し考えれば子供でも分かる話だ。登場人物は3人いて、2人の剣闘士が血みどろの闘いをしている最中に両方に水やら食事やらをたまに用意しながら、その闘いを高みの見物をしている豚がいるとする。しかもそいつは、水やら食べ物やら酒やら金やらをもっている訳だ。

俺が剣闘士なら闘いを止めて、高見の見物をしている豚を始末する。そして、もう一人の剣闘士と宴会をするだろう。
で、残った食べ物や金を山分けにする。また闘う可能性はあるが、宴会で仲良くなれるかもしれないし、少なくとも食い物なり金なり欲しいものが手に入るから直近で闘う可能性は少ない。

そう考えると両国の対立をあおり続けるのも悪手ではないのだろう。相争うより、対立を煽っている豚を始末したほうがおいしいことを気づかせてはならないのだから。

当然だが、両国の国策決定に関わる層には今でも賄賂をばら撒いているはずだ。はした金で大金を稼げる可能性をごまかせるのだから投資としてこれほどうまい話もないだろう。
無能なくせに自分が有能だと勘違いしている連中ほど目先の金に飛びつくものだ。

どうせならフェザーンに生まれていれば好きなだけ自由に金儲け出来ただろうが、さすがにいまさらルントシュテット家を捨てることは出来ないだろう。

伯爵家3男としての記憶に引きずられているとは思いたくないがおばあ様には溺愛されているし、乳母のカミラも愛情を注いてくれた。乳兄弟のパトリックにも兄弟のような想いがあるし、領民たちも敬愛してくれていたように思う。

父上と母上はオーディンで忙しくしているらしく、会うことはほとんど無かったか、別に寂しいと感じることも無かったし、2人いるらしい兄たちはそもそも記憶がない。

前世は自分本位に生き過ぎたことが失敗だった。今回は少なくともルントシュテット家とその領民ができるだけ幸せになれるように金儲けしよう。

幸いにも3男だし伯爵家を継ぐわけでもない。また自分本位に金儲けするのも悪くないが、どうせ金儲けはできるのだ。なら、少しくらい縛りがあるほうがむしろやりがいを感じられるだろう。気を付けないといけないのは、金の卵を高みの見物をしている豚どもや血と爵位だけが取り柄の無能どもから守る手配もしなければならない事だ。

それさえできれば、問題なく金儲けはできるだろう。再建屋時代に関わった事でもすぐに出来そうなことがいくつかある。俺はワクワクしていたし領地に戻るのが楽しみだった。

おそらく舞い上がっていたのだろう。自分が守られる存在で、無力で、理不尽を押し付けられる側であることを翌日思い知ることになるのだから。


宇宙歴752年 帝国歴443年 1月6日夕刻 ヴァルハラ軍病院
ザイトリッツ・フォン・ルントシュテット

昨夜は遅くまで起きていたが、特に疲れを感じることもなく俺は入院2日目を過ごしていた。ご機嫌取りが功を奏したのか、ローザが用意してくれた食事は昨日の病院食めいたものからすこしまともなものに変わっていた。

大筋はつかめたつもりだが、再確認を含めて資料を読み直す。フランツには朝の時点で領内のさらに詳しい資料を集める様に指示を出した。細かい部分は確認しなければならないが腹案は固まりつつある。母上には申し訳ないが、オーディンの屋敷での家族団らんは飛ばして早く領地に戻りたい気持ちが強くなっていた。

「コンコン」

ノックされるとともに、扉が開き、おばあ様とパトリックが病室に入ってきた。

「ローゼから話は聞きましたが、かなり回復したようですね。体調はどうですか?」

「おばあ様、パトリック、お見舞いありがとうございます。昨日が嘘のように体調は良くなっております。明日にでも退院したいくらいですが、ローゼ先生からは今少し安静をといわれております。」

おばあ様は安心した表情をしつつ、一瞬パトリックに視線を向けてから、話を進めた。

「ザイトリッツ、あなたもルントシュテット家の男子です。きちんと受け止めるには早いかもしれませんが、話しておかなければならないことがあります。」

それから今回の事故の経緯と落としどころについて話し始めた。

・本来なら死んでもおかしくない事故であった事。
・俺が生きているのはカミラが身を挺してくれたおかげでカミラは事故で亡くなった事。
・事故の相手は次期皇帝の最有力補の取り巻きの嫡男であり、大事にしないように圧力をかけられている事。
・ルントシュテット家を含めた軍部系貴族は未だダメージから回復していない為、門閥貴族とは事を構えるわけにはいかない事。
・事は内密にするが、相場の賠償金を受け取ったうえで、軍部に優先的に糧秣を納入する権利を得た事。
そんな話を視線を合わせない様にしながら話してくれた。

「おばあ様、話しづらいことをお話し頂きありがとうございます。カミラは母同然の存在で、傍にいてくれるのが当たり前の存在でした。本来なら、覚醒した日のパトリックの表情で、カミラに何かあった旨、気づきべきでした。おばあ様に気を使わせてしまい申し訳ありません。」

俺は敢えておばあ様に目線を合わせて答えた。静かにだが経験したことがない強い怒りを感じていた。人はとてつもなく怒ると逆に冷静になるものらしい。

「おばあ様、パトリックと話したいことがあります。2人きりにしていただけますか?」

少し躊躇したが、おばあ様は心配そうな表情をしながら病室をでていった。
俺はパトリックに目線を向ける。

「パトリック、君の父上はおじい様の副官として戦死しカミラは私を身を挺して守り、亡くなった。君の両親は文字通り身命を賭して仕えてくれたと思う。」

こんなことを同い年の子供に言うのは軽率かもしれないが俺は感情を抑えられなかった。

「私が軍人として大成できるかはわからないので君の父上の敵をとるとは言えないが、私たちのカミラ母上に関しては、いつになるかはわからないがきっちりけじめをつける。」

パトリックは驚いたようにこちらを見ている。

「伯爵号をもつ当家にすらここまで傍若無人なのだ。今日、このときも奴らは誰かを踏みにじって泣かしているに違いない。俺たちはまだ子供で、無力で守られる存在だが、いつまでも子供ではない。約束だパトリック。いつかあいつらに報いを受けさせてやろう。」

俺は右手を差し出した。
パトリックは戸惑った表情を浮かべるが、主従ではなく、母を奪われた同志としての対等な誓約なので握手を交わすのだというと、一度うなずいてから強く手を握ってきた。

金儲け以外の目標ができた瞬間だった。 
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