真田十勇士
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巻ノ百五十二 迎えに向かう者達その四
「それで勝っても勝ったとは思えぬからな」
「だからか」
「左様、今は使わぬ」
決してと言うのだった。
「わしもな」
「そうか」
「霧の術を使ってもな」
「そこに毒は入れぬか」
「そうした類はな、しかしな」
「それでもか」
「わしの霧は只の霧ではない」
霧隠は今は霧を出していない、その前に氷刃をそのまま見ての言葉だ。
「そのことも言おう」
「そうか、ではな」
「その霧と剣術でじゃ」
「わしを倒すか」
「そうさせてもらう」
「よく言った、ではだ」
霧隠のその言葉を受けてだ、氷刃もだった。
その刃を構えつつだ、彼に告げた。
「わしも最大の秘術を以てな」
「そうしてか」
「貴殿を倒す」
まさにというのだ。
「これよりな」
「そうか、ではわしもな」
「秘術の霧と刃でか」
「勝つ」
氷刃に言葉を返した、そうしてだった。
霧隠はまた霧を出しつつ構えた、すると。
氷刃もだった、構えを取り。
その身体から氷を放った、それは只の氷ではなく。
蜘蛛の巣の形をして四方八方に飛んだ、それでその氷を霧隠を襲うと共に居合の要領で刃から鋭い氷の嵐、吹雪の如きそれを放つが。
その氷の蜘蛛の巣も氷の刃も霧の中に消える、これに氷刃は深い霧の中で気付いたが。その彼に対して。
刃が来た、彼は咄嗟にそれを弾き返したが。
弾き返した刀の刃が毀れた、彼はそれを見て目を瞠った。その瞬間に。
「勝負ありじゃな」
「くっ・・・・・・」
霧隠の声だった、氷刃はその言葉に歯噛みした。
だがその歯噛みは一瞬ですぐにこう返した。
「左様」
「そうじゃな、しかしな」
「わしの氷の蜘蛛の巣と気の刃を霧の中に消してもか」
「あまりにも力が大きくてな」
氷刃が出したそれがというのだ。
「それでじゃ」
「その霧もか」
「消える、敵の攻めの全てを出す霧を出したが」
これが霧隠の秘術であった。
「それも間もなくじゃ」
「ふむ、消えてきたな」
「恐ろしい氷であった」
霧隠は氷刃の前にいた、剣の間合いよりもさらに近くに。
「わしの霧もこれが限度」
「それまでの力であった」
「霧で消すにはな」
「そうであったか、そしてか」
「お主の氷を消してな」
蜘蛛の巣も剣から出した吹雪もだ。
「一閃を加えたが」
「弾き返した、しかしな」
「刃は毀れたな」
「刃が毀れた、ではな」
それではというのだった、氷刃は自ら。
「わしの負けじゃ」
「そのことを認めるか」
「わしの剣はこれまで幾ら切っても刃毀れ一つしなかった」
「受けてもか」
「刃毀れするまでの相手、わしがそうするまでの相手にはな」
「会ってこなかったか」
「先程の術を出させた者もな」
そうした者もというのだ。
「おらんかったわ」
「そうか、しかしじゃな」
「わしは秘術も破られ刃毀れもした」
「だからか」
「わしの負けじゃ」
このことをだ、氷刃は自ら認めた。
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