勇者のメイド
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思惑
帰宅した勇者様を私は「お帰りなさいませ、お疲れ様でした」と深々と頭を下げて出迎える。
ここまで慇懃な出迎えを勇者様が私に求めている訳がない。
では何故そんな事をするか?
勇者様と私のやり取りをロッテさんが監視しているからだ。
「ロッテさん、あなたは国王付きのメイドでしょ?
国王は放っておいてここにいて良いの?」勇者様が居心地が悪そうに言った。
「カオルはメイドになって間もありません。
カオルを放っておいて世界の救世主様に粗相があったとしたら、それこそ国王様を悲しませてしまいます。
それに国王様付きのメイドは私以外にも4名います。
私はその中でも責任者を任されておりますが、誰か一人がいなくなった程度で奉仕に影響が出ないように教育はしている、と自負しております。
今日私はカオルが勇者様に粗相がないように、カオルを監視・教育させていただきます」ロッテさんの言葉には有無を言わさない響きがあった。
パワーバランスというか、国王様が勇者様への発言権を持っている事を示すのは大切な事だ。
いつでも勇者様の所へ国王様の息のかかった者を送り込む事が出来る事を示す行為は別に善意ではない。
勇者様はロッテを邪魔に思っても追い払えない理由がある。
自分の訓練の間もそうだが、これから魔族討伐の遠征の最中カオルの面倒だけでなく、カオルの身の安全を国王様に保証してもらわねばならないのだ。
言ってみれば勇者様はカオルを人質に取られたようなモノなのだ。
「これではいけない」と勇者様は信用出来る仲間を懸命に作ろうとする。
だがこの時点ではカオルの生死は国王様に握られたようなものだ。
なのでロッテが自分たちの部屋に入るのを拒絶できない。
国王様も勇者様が人を送り込む事を嫌がるのはわかっていたからこそ「勇者は国王には逆らえないんだ」という事を示すためにロッテを勇者様の居室に送り込んだし、ロッテもそれは把握していた。
それに私が粗相をしたら「やっぱりカオル一人に勇者付きのメイドは任せておけない」と国王様の息のかかったメイドが送り込まれて来るだろう。
私が掃除、洗濯などでメイド20人分の働きをしたので、ロッテさんは「やっぱりカオル一人には任せておけない」と言い出し辛くなってしまったのだ。
ロッテさんの愛するご主人様である国王様は「いいかい?難癖つけて勇者様の元にこちらの息のかかったメイドを送り込むんだ」とロッテの頬を撫でながら言った。
ロッテは「仰せのままに、国王様」と顔を蕩けさせながら言った。
「愛する国王様が期待してくれている」それだけでロッテは「死んでも良い」ほど幸せだった。
それなのにカオルにまだ「あなた一人に任せておけない」と言えずにいた。
カオルがメイドとして優秀すぎるのだ。
国王様付きのメイドの中で二人は戦闘メイドだ。
国王様を暗殺から守るために存在し、実際に何人もの暗殺者を葬ってきた。
実質国王様の身の周りの世話をする一般メイドはロッテとその部下メイジとゴディバしかいない。
しかし国王様付きのメイド達五人は国王様にたらしこまれていた。
五人が五人とも「国王様のためなら自分の命なんてどうなっても構わない」と思っていた。
メイドとしてカオルがいくら優秀でも、性的な事は未経験でそこにいくらでも「カオル一人には任せておけない」という場面があるだろう、とロッテは思った。
勇者様は元女性だという。
性技に長けた者であれば、性に不慣れな英雄くらい骨抜きに出来るだろう。
異世界でも女の地位が低いわりに『傾国の美女』や『美女による傀儡』という考え方はあるらしい。
鄒氏や貂蝉やクレオパトラが生まれた時代に女性の地位が高い訳ではなかったのだ。
国王様付きのメイドであるゴディバは性技は国王様に仕込まれたものだったが「国王様以外の殿方に触られるくらいなら舌を噛んで死ぬ」というロッテと異なり「国王様が望むなら別の殿方にも抱かれる」という考えの持ち主だった。
この二人が同じように国王様の事を溺愛していて「国王様に『死ね』と言われれば喜んで死ぬ」というのだから、愛の形は本当に様々だ。
「ホラ、カオル?
勇者様の訓練でついた汗と泥を早く洗い流して差し上げなさい。
勇者様のお召し物を脱がして差し上げて?」ロッテさんは私を急かす。
男の服を脱がすのは特に照れはないはずだが、勇者様の服を脱がすと思うと妙に緊張してしまう。
下着まで脱がして私は固まった。
確かに男性になった勇者様は185センチほどの長身だった。
しかし長身といっても日本では「背は確かに高いけど、珍しいほど背は高くはないよね」という背の高さだ。
しかし、中世程度の文明レベルで栄養状況である異世界では勇者の185センチは巨人であった。
対して私は130センチにようやく届いている身長で江戸時代の女性の平均身長より遥かに低く、異世界でも低身長な方だった。
しかし勇者様の肉体は全てが男性時代の自分とは作りが違った。
身長だけでなく、引き締まって筋肉のついた体も顔も・・・全てのパーツが芸術作品のようだ。
そして男性自身・・・全く興奮して大きくなっていない状態で私が男性時代の大きくなった時の三倍の大きさはあった。
形は似ている。
だがまるで虎と猫のようにスケールが違う。
「ん?何か変なところある?」勇者様が聞く。
何故か私に体の隅々まで見られているのに私より堂々としている。
「いえ、大変逞しい体をしていらっしゃいます」私は素直な感想を言った。
「ホラ裸で勇者様をお待たせしてないで、カオルも服を脱いで勇者様の背中をお流ししなさい」ロッテさんは私を促す。
私はロッテさんにメイド服を脱がされ裸になり勇者様の背中を流す事になった。
私は勇者様の背中をゴシゴシこすった。
「カオル、本当にお背中だけお流してどうするの?
『お背中をお流しする』と言ったら、お腕も前もお流しするべきでしょう?」
「え?前ですか?」
「お体の隅々までお洗いするのは当たり前じゃないの。
まさか勇者様の体で触れないほど汚い場所があると思ってるの?
ご主人様が汚い箇所があるとしたら、我々メイドの不手際なのよ?」ロッテさんは私を責める。
私が勇者様に汚いところがあるなどと思っている訳がない。
ただ恥ずかしくて触れない部分はある。
私は腰を下ろしている勇者様の前に回り込みゴシゴシと洗う。
「勇者様の下半身も洗わせていただきなさい」とロッテさん。
「まるで男性の裸を初めて見るような態度ね?
何でそんなおっかなびっくりなの?
何度も男性だった時に毎日見ていたんじゃないの?」
「こんなに逞しい体ではありませんでしたし、股間についている男性自身は比べる事が失礼なほど別物です。
大きさ、太さなどは比べると私についていた物はミニチュア以下でしたし、勇者様は形状もとても雄々しく皮も余っておられません」私は感じた事を素直に口にした。
「つまり勇者様の男性自身はカオルがついていた物とは別物で扱い方がわからない・・・そういう事ね?」
「申し訳ありません!その通りでございます!」私はガバッと頭を下げた。
「いいのよ、新人で大事な事は『わからない事はわからない』と言う事です。
でもいつまでもわからないままでいてはいけないわよ?
一つ一つ覚えていって、ご主人様に満足していただけるようにならないとね。
ホラ男性自身は洗い布は使わないで、掌でそっと洗うのよ。
手に泡立てた石鹸の泡をそっと男性自身に馴染ませるように洗うの」
「わかりました。
こう・・・ですか?」私は壊れ物を扱うように勇者様の男性自身を洗った。
私が男性だった時「他の男の股間を触るなんて冗談じゃない」と思っていたが、不思議と勇者様の股間を触る事に全く嫌悪感がない。
「わ!何か大きくなりました!」私は驚き軽く叫んだ。
「おかしな事で驚くのね。
『触られると大きくなる』男性としては当たり前の生理現象なのでしょう?」笑いながらロッテさんは言った。
触られると大きくなる、これは予想通りの事だ。
だがこんな大きくなるとは予想外もいいところだ。
「夜伽前は出しておかない事が普通なんですが、勇者様はまだ若くいらっしゃるし、その上今夜の夜伽の相手はカオルの予定なので勇者様に『出したいか、出したくないか』聞くべきでしょう」とロッテさん。
「お、お出しになりたいですか?」私は勇者様に聞いた。
「だ、出したい」勇者様は意外な事を言った。
困った。何をすれば良いのかはわからない。
自分ですることは少しはわかる。
しかし異性に出してもらった事などなかったのだ。
それに形状も何もかも違いすぎるのだ。
「すいません、出してもらった事も人が出すのを手伝った事もありません。
何をすれば良いのでしょうか?」私は困惑しながら言った。
「私が手本を見せれれば良いんですけど、私は国王様以外の殿方を触らないし、触らせないと心に決めております」 ロッテさんは申し訳なさそうに言った。
「昔の彼氏達に仕込まれた技術であれば仕込めるけど?」
勇者様は失言をした。
私に勇者様は今まで昔付き合っていた人の事は話していない。
私も女性時代の勇者様の美しさで誰とも付き合っていない訳がないと思っていた。
勇者様が今までに誰とも付き合っていない訳がないが、その事は勇者様の口からは聞きたくなかった。
私は半べそをかきながら「私が勇者様の記憶を上書きします」と勇者様の男性自身をしごこうとした。
「カオル!落ち着きなさい!
カオルはただのメイドです。
メイドがご主人様に嫉妬する権利はありません!
それにカオルは『何をして良いかわからない』んでしょ?
カオルは勇者様の男性自身をヤケクソでしごこうとしたのですよね?
勇者様を第一に考えて、勇者様を喜ばせる事だけを考えてない者に『勇者様のメイド』である資格すらありません。
私は国王様の元に帰りますが代わりにここに私の部下を派遣します。
カオルが一人前になるまで彼女・・・ゴディバという名前ですが・・・は勇者様を補佐いたします」
「勇者様の性処理は・・・性処理だけは私にやらせてください!」私はそう言いたかったが「カオルは性処理の方法を知らないだろう?
それより他の人が性処理するのがイヤなだけだろう?
カオルは『嫉妬するな』と言われたすぐ後に嫉妬をするのか?」と言われるのは目に見えていたので、何も言えなかった。
私が怒られるのを見た勇者様の男性自身はしぼんでいった。
ロッテさんは「すぐに代わりの者が参ります」と言い退席した。
私は覚束無い手つきながらも勇者様に部屋着を着せた。
私が勇者様にお召し物を着せると同時に部屋の中に一人のメイド服の少女が入ってきた。
メイド服と言っても、私が知っているメイド喫茶のメイド達が着ているようなセクシーなメイド服姿の少女だ。
「勇者様、お初にお目にかかります。
私は国王様付きのメイドでゴディバと申します。
短い間ではございますが、勇者様付きのメイドとして勇者様にご奉仕させていただければ・・・と思っております」少女は明るく言った。
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