| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

フルメタル・パニック!On your mark

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二話 不吉な気配と隠された謎

 
前書き
書いてしまった。書き立てほやほやで脱字誤字が多そう。
それでも読んで頂けると嬉しいです。 

 
 朝の目覚めは、とても憂鬱だ。
「────────」
 むくりとベッドから起き上がり、カーテンを開くと鬱陶しいくらい眩しい太陽の日差し。
 まだ眠っていたい…という欲求に苛まれながら立ち上がり────こうして俺、千鳥 蒼太の一日は始まる。

 高校生になってはや数ヶ月。
 中学生気分から高校生としての生活に慣れ始めた頃、いつもの日常は普段通りにやってくる。
「蒼太、おはよう」
 リビングに降りると台所では母さんが朝食の準備をしていた。
 そして、その隣で食器を並べる父さん。
「おはよう」
 母さんが朝食を作り、父さんは食器の準備をする。
 普段通り、いつもの風景だ。
 でも、母さんの話だと昔の父さんはかなりの不器用で箸を手に持って食事するのが苦手だったらしい。なんでも料理の作法というに親しみが湧かないらしく、今でも覚束無いが、今では少し箸の使い方が下手な青年…っと言った所だ。
「………」
 父さんは、日本人だ。
 なのに箸の使い方が下手なのは昔、父さんは海外で暮らしてしたらしく日本に来たばかりの頃は常識知らずで母さんを困らせていたらしい。
 でも、そんな常識知らずの父さんだったからこそ母さんは父さんを好きになった…。そして現在に至るわけだ。
「さて、準備完了!
 さっさと食べて今日も一日頑張っていこーう」
 朝食と昼食の準備を同時に終えた母さんは料理をテーブルに並べていく。
「「「頂きます」」」
 家族三人の朝食が始まった。
「蒼太ぁ、醤油取って」
「はい」
「母さん。醤油付けすぎだと思うが?」
 すりおろしニンニクとすりおろし大根を掛けた卵焼きに醤油を満遍なく降り注ぐ母さんに父さんは驚く。
「いいのいいの。
 今日は休みだし外に出ないから」
「いや、そういう意味で言ったのではなく…」
「気にしない気にしない。この絶妙なバランスが最高なのよ」
 そう言って朝食にがっつく母さん。
 父さんはやれやれっといった表情でお味噌汁を一口。
 さて、俺も早く食べないと学校に遅刻してしまう。
「あ、そういえばお姉ちゃんから手紙来てたよ」
「手紙?」
「そっ。なんでも来週辺りに帰ってくるんだってさ」
「来週辺りって…」
 何とも曖昧な帰宅報告。
 まぁ、姉さんらしいと言えば姉さんらしい。
「そうか。なら、久々の家族全員揃っての団欒だな」
 父さんはとても嬉しそうに笑う。
 普段はいつも無愛想な無表情だが、実は喜怒哀楽はしっかりとしていて緊張してる時は全身から滝のように汗を流すし、嬉しい時はこうやって笑顔を見せる。
「そうねぇ。もっと具体的にいつの何時頃に帰ってきますよぉーって教えてくれれば料理の献立とか楽なんだけど…まぁ、そういう所はお父さんに似たんでしょうね」
「そうか?
 叶瀬は、昔の母さんにそっくりだが…」
「昔とか、そういう若かった頃を強調する言い方はやめなさい」
 ニコッと笑顔だが、笑ってるのに恐い。これは嫌な予感────。
「いや、母さんは今でも綺麗だぞ?」
 父さんの突然の発言に母さんは頬を染める。
 これは予想外の発言。俺もご飯粒を吹き出す所だった。
「え、そ、そう。ありがと…」
 母さんは父さんの視線から目を逸らし、ちまちまとご飯を食べ始めた。流石の母さんも急な不意打ちには動揺を隠せない様子。さて、余所者はさっさと退散しますかね。
「ご馳走、」
 食べ終えた料理の食器は自分で片付けるのが千鳥家のルールだ。
 手早く食器を水に漬けて、食器棚に置かれている弁当箱を取る。
 そして洗面所に向かって顔を洗い、歯を磨く。寝癖は…問題ない。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
「分かってるよ。もう、子供じゃないんだから」
「いや、母さんの言う通りだ。通学中に何らかのテロに巻き壊れ────」
「はいはい。父さんの言ってる事は気にしなくていいから早く行ってらっしゃい」
「う、うん。分かった」
 父さんは…たまに変な事を言う。
 なんでも海外に住んでいた時の癖が未だに残っているとか何とか。
 まぁ、日本は平和な国だからテロとかそういう事に事に対しての対応は覚束無いかも知れない、と心の隅に留めておく
「さて、今日もスタートだ」




 千鳥家の家族構成。
 千鳥 宗介。
 父親である千鳥 宗介は婿入りで母さんと結婚し旧姓は相良 宗介。
 左頬に大きな傷跡が特徴的で、その傷跡は海外に住んでいた時、テロに巻き込まれて負ったらしい。
 らしい…というのも、この話はとても曖昧で本当にテロに巻き込まれて負ったのかすら怪しい。意外とお茶目な父さんの事だから野良猫に引っかかれて負った名誉の負傷かも。
 職業は、なんなんだろ。父さんは家で仕事の話は全くしないから不明。
 スーツで家を出る事もあれば母さんの指定した私服で出掛ける事もあるので余計に特定しずらい。

 千鳥 かなめ。
 俺の母さんであり、怒らせたら世界で最も恐ろしい女性。
 喫茶店のオーナーであり、主婦を兼任する万能人。
 とても器用な人で、料理から家事、運動から勉強まで何でもこなせる。たまに、俺は本当に母さんの子供なのか?と疑問に思う事もあるが、瓜二つである父さんの顔を見て「あぁ…俺って、なんで父さん似なんだろ」と愚痴をこぼすともしばしば。
 それを聞いた時の父さんの反応は「うむ。その点に関しては済まないと思っている」と素直に謝罪してくるのは今でも慣れない。いや、一生慣れないな。
 そして母さんの運営する喫茶店『ソウスケ』は中々の繁盛ぶりでテレビの取材を受けた事もある。確か、その日は人手が足りなかったから父さんが手伝いに来てて色々とハプニングを起こしていたな。アレは放送事故並だったが、その反響か次の日からお客さんの数は増え、謎のブームを巻き起こした。

 千鳥 叶瀬。
 俺の双子の姉であり、超の付く天才。
 正に、母さんの生き写しでそれこそ何でも出来る。
 凡人の俺と違って何事も楽しそうに取り組むその姿は少し…羨ましい。
 現在は海外の高校に留学────いや、飛び級して今は大学生か。とまぁ、そんな具合で日本を離れており、数ヶ月に一回程度の頻度で帰ってくる。なんでも将来の夢はお嫁さんとアーム・スレイブの開発者になる事らしい。なんとも相まった壮大な夢を持つメルヘンな少女だこと。まぁ、姉さんならなんにでも成れるだろうかどうでもいいけどさ。

 そうして俺。千鳥 蒼太は平凡で何の目立った所のない高校生だ。
 優秀な双子の姉と違って無能で、才能も無ければ容姿も平凡。やはりとても母さんの子供とは思えない。
 見て分かる通り、俺は完璧に父さん似で…別に、父さんを卑下している訳ではないが少しは母さんのいい所を受け継ぎたかったと思ってはいる。
 妬み、執着、憧れ。
 あんな出来のいい姉を持ったら比べられるのは当然で、嫌な事も沢山あった。
 まぁ、今は海外留学中で日本に家に居ないからある意味、清々するが…決して嫌いな訳ではない。普通に姉として人間として尊敬しているし誇りに思っている。だが、双子として比べられるのが嫌なだけだ。
「………」
 もし、俺と姉さんが双子でもなく姉兄でもなかった。
 もし、俺に姉さんにはない秘められた才能を持っていたなら。
 そうやってある筈のないもしも『if』の可能性に縋ってしまう。そんな可能性なんてある筈も無いのに…。
 そう。そんな可能性なんて微塵もない。でも、そうなら姉さんはどうなんだろうか?
 こうやって普通の日常を送るだけの弟を見て、姉さんはどう思うのだろうか?
 もしかして、あの時と同じ事を言うのでないのか?
 考えるだけで恐い。
 俺と姉さんは違う。考え方が根本的に違う。
 俺は平凡で、姉さんは天才。その時点で発想が違うんだ。
 だから、あの時の姉さんの表情と発言は凡人で平凡な俺にとっては恐怖でしかない。

 こうして普通に学校に通って授業を受けて友達を作って、普通の日常を生きている俺を多分、姉さんは『嫉妬』してるんだ。




 カタカタカタっ。
 カタカタカタッ。
 カタカタカタッ。
 少しずつキーボードを打つ速度が速くなっていく。
 複数のパソコンの画面と机に広げられた数々の資料。それらを真剣な眼差しで見比べ、蟹瀬は仕事にのめり込んでいた。こんなに真面目になって仕事をする姿を見せるのは相当レアだ。もしかしたらこの生涯、一生見る事は叶わないかも。
「だるい。めんどい。帰りたい」
 時間は限られている。期限までに提出しなければ何を言われるか…愚痴をこぼしながら蟹瀬 康太は必死になっていた。
「ふぁあぁ…眠いですぅ」
 そんな必死な姿を見てLは悠長に欠伸する。
 なんでAIが欠伸するんですかね。と暇なら問い詰めたい所だが、そんな余裕は一切ない。
 これが俗に言う修羅場というやつなのだろ。
「へい。そい、よっと!」
 かんっ。こんっ。かんっ。
 小刻みでリズムのいい音が聴こえる。これは…なんだ。知ってる筈なのに思い出せない。
「せい。はぁっ。とうっ!」
 かんっ。こんっ。かんっ。
 なんだったかな。なんかの音なんだ。
 子供の頃やった事ある。
 確か、アレは…そう、けん玉だ!
 チラ…っとLの映るディスプレイに目をやると画面の中でLは予想通り、けん玉をしていた。それもかなり上手い。
「……?」
 なんで、AIがけん玉なんかしてるの?
「なぁ、L?」
「はい。御用ですか?」
「いや、用ってわけじゃないんだが…そのけん玉は?」
 するとLは「これですか?」と言って何やらけん玉の技を披露してくれた。
「おぉ、上手いな」
「ありがとうございます。でも、私が目指す高みはこんなものじゃないですよ」
 そう言ってLはけん玉世界選手権の動画を表示し再生し始める。
 確かに、さっきしてたLの技より優れているが…この人達は何年も練習してここまで極めた人達であってLはAIで、しかも産まれてまだ一年も経っていない。Lに比べたらこの人達なんて────。
「いかん!今はこっちに集中せねば!」
 けん玉世界選手権の動画に夢中になってる場合じゃない。今はお仕事優先だ!
「大変そうですね」
「あぁ、大変過ぎで死にそうだ」
「過労死寸前ですか。それは困りました。私、パパが死んじゃったら悲しいです…」
 しくしく…っと涙目になるL。
 お前…そんなに俺の事を心配してくれてるのか?
「Lぅ。お前って奴は…」
 本当にいい娘だ。AIだけど本当にいい子だ。
 いかん。俺も貰い泣きしちまいそう────。
「って、こんなドラマの名場面を再現してる場合じゃなくて!」
 嫌でも現実に直面してしまう。
 それくらい今の状況がヤバいという事なのだろう。
「パパ。何か私にお手伝い出来る事はありますか?」
 Lは心配そうに話し掛けてくる。
「大丈夫(多分)なんとかなるよ(多分)」
 ここで手を貸してくれ。と言ったらLは何の迷いもなく俺に手を貸してくれるだろう。
 だが、それは駄目だ。ここは自身の寿命を削ってでも一人で終わらせなければならない。
「大丈夫だよ。そんな顔するなって、」
 これ以上、Lを成長させてはいけない。
 これ以上の進化はAIに必要ない。
 自立行動能力を獲得し、感情を手に入れ掛けているLに未知の経験をこれ以上、体験させ与えてしまったらLは『L』で無くなってしまう。
 もう、それはAIではない。それは────────。
「蟹瀬主任。ちょっといいですか?」
 その男は、部屋のドアをノックもせずいきなり入ってきた。
「あのねぇ。このクソ忙しい時にノックもせずなんの用かな?」
「緊急の要件なんで、すんません」
 その割には何か普通…いや、怠そうにしてるのは気の所為か?
「で、要件は?」
 手短に終わらせて早く本来の業務に戻らなければ。
「これです、どうぞ」
 それは極秘と記された茶色の封筒だった。
 嫌な予感しかしないが、自分宛である以上は中身を確認しなければなるまい。さて、何が入っているのやら…。
 びりびりっと封筒の先を破き、中身の紙切れを取り出す。
「?…?」
 それは、予想外の内容だった。
 とんでもない内容だった。
 予想を遥かに超えた内容だった。
「君!
 これは…?」
「中身の内容までは存じ上げたせんが。先程、『航空自衛隊』から申請が降りたそうです」
 男は、事の重大さを知っているようだが、何ともリアクションの薄い態度だ。
「まさか…ここまで事が大きくなるなんて、」
「何やら偉業を達成されたそうで、おめでとうございます」
「人事だと思って…クソ。なんで、こんな大役────こんなハズレくじを」
 極秘の資料は、それほど厄介な内容で蟹瀬は半ばか混乱していた。
 このままだと本当に過労死しそうだ。
「海・空・陸、三つの自衛隊のAS技術部門総掛かりの一大プロジェクト。
 今年、日本で行われる国際博覧会『アーム・スレイブ部門』で新型機を展示しろだなんて…」
 しかも全世界にお披露目として開発者である蟹瀬 康太を代表に話を進める?
 何それ馬鹿げてるの?
「極秘の文書を、そんな易々と口にしちゃって大丈夫なんですか?
 一応、自分はその中身の内容は知らなかったんですよ。今、知っちゃいましたけど」
「…知るか。こんなの持ってくる方が悪い」
「えぇ。なんて横暴。でも、ご愁傷さまです」
「ご愁傷さま。じゃねぇよ!なんだよ!なんで、こんな面倒な事ばかり俺に押し付けてくんの?誰だよ!こんなの押し付けて来たのは!!」
「さぁ、誰でしょうね」
「その白々しい態度ムカつく!」
「そんなの言われても知らないものは知りませんよぉ」
「鼻ほじりながら言うな!余計にイラつくなもう!」
 来週に控えた模擬戦に、約半年後に行われる国際博覧会…博覧会に比べれば模擬戦なんて対したプレッシャーじゃないかも知れないが、ここ最近は働き詰めで精神的にもナイーブな状態だ。
「もうヤダ。帰りたい。フカフカのベッドで一生眠りたい。朝起きたら勝手に朝御飯出てきて昼起きたら勝手に昼ご飯出てきて夜起きたら勝手に晩御飯が出てくる生活に戻りたい」
「どんな生活してたんですか?」
「もうヤダ。いやいやいやいや!
 好きな事して生きていたいよォ!」
「それは一部の限られた人間しか許されない生き方ですよ」
「なんで、そんなに現実的な事を言うかな君は!」
 あぁ、なんでこんな事に!?




 俺は…ただ、オリジナルのアーム・スレイブを造りたかっただけなんだ。
 自衛隊に入ったのも日本で唯一、ASを取り扱える仕事だからでそれ以外に特に意味は無い。
 あの辛い訓練だってASの制作の為に必死になって乗り切ったんだ。それだけ、それ以外の事なんて考えて無かった。
 ここまで来たのも、ここまで耐えてきたのも全て、俺の俺だけのASを造るためなんだ!
「………………」
 それなのにこの現状はどうだ。
 ASとは全く関係のない仕事ばかり。
 雑用とか面倒事は全部、俺に回ってくる。
 あの時だってそうだ。
 上の奴らの飲み会に誘われて無理難題を押し付けられて…くそっ。
 なんでこんなにも不幸なんだ。俺は、ただ…ASを造りたいだけなんだ。それ以外の事なんてどうでもいい。だから我慢してきたんだ。
 でも、もう我慢の限界だ。もう知らん。全て投げ出して海外に逃げてやる。で、今度こそASだけの仕事に就くんだ。そうだ。そうしよう。そうとなれば早速────。
「あ、言い忘れてましたが。
『今回』は蟹瀬主任の好きな機体を『幾ら』製作してもいいそうです。製作費とか開発費とか気にせず、じゃんじゃん新型機を開発してくれ。との事ですが…」
「やるやるやる。やります。やらせて下さい」
 前言撤回。そんなの全力でやらせて頂きますよ。
「あと、陸将・海将・空将から第三世代アーム・スレイブ『M9』が一機ずつとD.O.M.S社のメリッサマオ社長から第三世代アーム・スレイブ『シャドウ』を二機が支給されました。言伝で、好きに使ってくれて構わない。その代わり分かるな?だそうです」
「はいはいはい。任せて下さ…うん?
 なんでマオ社長から…?」
「なんでも。蟹瀬主任が制作中の新型試作機のベースとして使えるかもとの事です」
 そうして手渡されたタブレット端末には、支給されるASの情報とマオ社長の激励の言葉が綴られていた。
「あの人は…たく、本当にしょうがない人だ」
 ────今回のポンコツを金塊に変えてみない。アンタなら出来るって信じてるから。P.S.この借りは倍にして返しないさよ。で、ついでに完成した新型機をウチにも送ってよね♪
「分かりましたよ。完成して量産化の許可が降りたらすぐにお送りしますよ」
 さて、やる気が出てきた。こんな雑用と雑務はさっさと片付けてじゃんじゃん開発してやる。待ってろよ!まだ見ぬ、俺のイメージ達!すぐに形にしてやるからな!
「さて、早速取り掛からねば!」
「その前に、まだ二つほど別件が御座います。タブレットの画面を右にスライドし確認して下さい」
「まだなんか有るの?
 早く面倒事な事は終わらせて本業に入りたいのに────」
 スライドし表示された画面は、アーム・スレイブの設計図だった。
 確か、これって…溝呂木 克郎の設計したアーム・スレイブ『ブレイズ・レイブン』じゃないか!?
「これは!?」
「溝呂木 克郎博士からのプレゼントだそうです。
 なんでも、蟹瀬主任の試作中のアーム・スレイブにはブレイズ・レイブンに搭載された『アジャイル・スラスター』が必要だとメリッサマオ社長が判断し溝呂木 克郎博士に話を持ち掛けた結果────「ソイツはロックンロールだ。完成したら俺ん所にも回してくれよな」だそうです」
「マジか」
「マジです」
 俺…もしかして、あの頭のネジがぶっ飛んだ(いい意味で)溝呂木 克郎に期待されてる…のか?若くして数々の博士号を獲得し、ASの概念を覆したブレイズ・レイブンの設計者に認められてる…?
「ウォォォォォォ!!」
 こうしちゃいられない。早速、開発しちゃおう。今回は幾らでも造っていいんだ。なら、いつか造ろうと思ってた『アイツ』を先に開発しよう。で、その後すぐに起動テストを行って兄弟機である『アイツ』等も同時に並行して開発を進めれば────。
「テンションMAXの所、申し訳ありません。
 要件はもう一つ御座います」
 そう言って男は別のタブレット端末と複数の写真を取り出し差し出してきた。
「メキシコ南部ポチュトラ市郊外の二ケーロという小さな町で、とあるアーム・スレイブの残骸らしき物が発見されました」
 複数の写真を見ると確かにASらしきものが映し出されているが…所々、破損しているしパーツも欠損している。恐らく、M9をベースにした試作機と思われるが、なんでそんな物がこんな所に?
「その町では十数年前に謎のテロが発生し、その際に瓦礫で埋もれてしまい今頃になって発掘されたそうです」
「成程。だから所々、破損してるのか。
 でもこの機体がどうかしたの?」
 ウチで引き取るという事なのか?
 だが、こんなボロボロの機体を押し付けられても困る。そっちで処分してくれ、と応えようとした瞬間。
「────アァ!!」
 その声は、部屋全体に響き渡った。
「なんです、今の声は?」
 声の主は人間ではない。さっきの声は電子音、Lの声だ。
 なんだ。なんだ?
 俺はLが映し出されているパソコンのディスプレイに目をやるとそこには小さく『そのASは私の身体です。だから私に下さい!』と文書が表示されていた。どういう意味だ?訳が分からん。
「き、気にしないでくれ。
 で、その機体は?」
「これは少々、特殊な案件でして様々な所からたらい回しにされてきてとうとうウチに回ってきた…という経緯が有りまして可能であれば蟹瀬主任の方でこの機体のデータ収集をお願いしたいと要望が来ております」
「誰から?」
「匿名です」
 ???…???
「匿名…って、どういう意味だ?
 その機体は国外のものなのだろう?
 なら、その国の管轄下に置かれてるんじゃないのか?」
「普通ならそうなのですが、この機体に限っては例外でメキシコ大統領も一刻も早く、メキシコから撤去して欲しいとの事で…」
「ならそっちで処分すればいいじゃないか。わざわざ日本…ウチで引き取る理由はなんだ?」
 撤去して欲しいが処分したくはない。
 全く持って意味が分からない。
「私も詳しい事情は知りませんので、その質問には応えかねますが…そちらの写真に映し出されたアーム・スレイブには妙な噂が有りまして、」
「噂?」
「はい。なんでも、現代の科学力では到底不可能なシステムが組み込まれているとか何とか…そして、そのアーム・スレイブに関わった者達は全員、死亡しておりまして────」
「は?」
 それって…つまり呪われた機体って事?
「な、な。なんで、そんな物騒な物を日本に────いやいや、ウチに引き渡そうとしてくるんだよ!?」
 まさか…もしかして。
「もしかして、もしかしてだけど…今回の案件って、コイツをウチで回収する代わりの取引とかじゃないよな?」
 男は黙り込み、少し間を開けた後に溜息をつき。
「その通りです。今回、蟹瀬主任に与えられた任務の真の目的は、この謎のアーム・スレイブのデータ収集です。はっきり言いますと今年に行われる国際博覧会は、それまでに蟹瀬主任が健在ならの話でして…」
 嫌な予感は的中。やはり、俺は神様に嫌われているらしい。
「巫山戯るな!
 なんだよそれ!!」
 怒声を荒げ、俺は男の襟元を掴んだ。
「私からは以上です。その手を離して貰えますか?」
 男は如何にも冷静で面倒くさそうな態度だった。
「この命令を出したのは誰だ?
 まさか…マオ社長────?」
「いえ、D.O.M.S社とは何の関係も有りません。強いて言うなら国の上層部ですかね」
 男は、俺の手を振り払い襟元を直すと。
「それでは失礼します。分かっていると思いますが、この一件はキャンセルする事は出来ませんのでご了承ください」
 そう言い残し、男は去っていった。
 …。
 ……。
 ………。
「────パパ」
 静まり返った部屋にLの声が響き渡る。
 俺を呼んでいる。でも、その呼び掛けに応える余裕は今の俺にはない。
「………」
 無言で立ち尽くし、そして崩れ落ちた。
「………」
 どうすればいい。どうすればいいんだ。
 俺は一体どうすればいいんだ?
「………」
 立ち上がる勇気もない。
 もう、このまま眠りに就きたい。何も考えず眠りたい。心地よい睡眠の世界に逃げ出したい。
 先程まで俺の身体を駆け巡っていたやる気は何処かに消え失せた。
 もう、無理だ。なんで俺ばっかりこんな酷い目に合わなきゃいけないんだ…?
 俺は…ただ、ASを造りたい。造りたいだけなんだ。なのに、なんで神様はいつも邪魔ばかりするんだよ。俺が何が悪い事でもしたか?
「…パパ、」
 ごめん、L。
 心配してくれてるのは分かる。でも、今の俺にそんな慰めは要らないんだ。
 惨めな俺。こんな所で死ぬのか…?
 あぁ…不幸な人生だったなぁ。生まれ変わりとかあるなら今度こそ恵まれた人生を送りたいなぁ。

「馬鹿じゃないですか?」

 それは冷めた言葉だった。
「え?」
 この電子音はLのだ。さっきのはLの発した言葉だ。
「今時、そんな呪われた機体?とか呪われたビデオとか流行りませんよ。そんなの迷信です。ていうか私、幽霊とか呪いとか信じたい質ですから」
「え、L…さん?」
「大体、パパもパパです。自分が世界で一番不幸そうな顔してますけどパパなんてぺえぺえのぺえです。そんなの不幸でも何でも有りません。ただの思い込みです。
 不幸とか幸せとかそんなの人の気の持ちようですよ。
 その人が幸せと感じたら幸せで不幸と感じたら不幸。でも、パパの場合は自分が不幸な人間だと決め付けているだけ論外です。まずはそこから立ち上がり正座して下さい」
「…??」
「いいからさっさと正座して下さい!」
「は、はいぃ~」
 あれ。俺って、なんで怒られてるの?
「今一度よく考えて下さい。これって千載一遇のチャンスですよ?」
「チャンス?」
「そうです。だって、呪われていると曰く付きの機体を引き取ってデータ収集するだけで莫大な研究費と開発費が手に入るんですよ?
 簡単な話じゃないですか!」
「いや、そうは言うが…関わった人間全員死んでるんだぞ?」
「それはきっと偶然ですよ」
 おい。このAI、呪われた機体で死んだ人達の死を偶然とか言い出しましたよ。
「偶然な訳あるか!?」
「偶然ですよ。それか必然です」
「無茶苦茶なこと言うな!
 必然ってなんだよ。まるで、そこで死ぬ事が決められたみたいじゃないか…」
 俺は、まだ死にたくない。死にたくないんだ。
「お前はAIだから、そういうのは疎いかも知れないが、そういうののはガチであるからな。人の呪いとか怨念とか幽霊とか…」
「科学者が呪いとか怨念とか幽霊とか非科学的な事を言うのって変じゃないですか?」
「有るものはある。この世の中にはな、解明できないものとか解明しちゃいけないものとかもあるんだよ!」
「それが、私の半身ですか?」
「そうだよ。お前の半身────?」
 そう言えば、Lは言っていた。
 この写真に映し出されたアーム・スレイブは自分の半身だと。
「どういう意味だ?
 お前の半身って、」
「そのままの意味です。
 その機体は私の半身で、私はその機体のコアです。もっと正確に言えば半身になる予定だった機体でしょうか…」
 何やら訳の分からない展開になってきた。
「お前は、この機体を知ってるんだな?」
「当然です。それは私の半身ですから、」
「じゃあ、呪われた機体────待てよ。てか、それじゃあらお前は呪われたAIって事か?」
「私の半身が、呪われてると言うならそうかも知れませんね」
 突然の展開とLの謎の発言に困惑する。
 状況が読み込めない。取り敢えず、状況を整理すると…この残骸『呪われた機体』は、Lの半身?で…半身になる予定だった…つまり搭載される筈だったという訳か?
「ちょっと色々と混乱してるが一つ質問だ」
「なんでしょうか?」
「この機体、話によると十数年前に建造された機体らしいが、お前って産まれたのは半年前だよな?なら、おかしくないか?」
 それだと辻褄が合わない。だが、Lは。
「当時、その機体は完成間近でとある組織に強奪され、私もAIとして未完成でした。
 本来、私という存在は過去にデリートされ、バグの集合体に成り果てていましたが、とあるAIが私をデータベースからサルベージし、自身に組み込む事で新たな進化を遂げたそうです」
「もしかして、それが『アル』か?」
 まだ完全に状況は読み込めてはいないが、ある程度は飲み込めた。
 このLの半身は、とある組織?…というのは不明だが、その組織に強奪され、強奪後何らかのテロに巻き込まれ機体は大破した。そしてLは完成間近だったが、機体を失われた今、不必要と判断された。で、それからアルにデータベースからサルベージされてアルに組み込まれたと。
「はい。ですが、私にはアルの真意が分かりません」
 AIらしからぬ発言。やはりLは普通のAIではない。
「俺にもさっぱりだ。いきなりお前を押し付けてきて…アルってのは一体何者なんだ?」
 Lと同じAIとは知っていたが、まさかLを救った命の恩人とは知らなかった。
「やはり、ご迷惑でしたか?」
「いや。迷惑とか思った事はないが────」
 その時、忘れかけていたLの正体を思い出した。
「待て、待てよ。
 確か、アルは…Lは自分と千鳥 かなめの人格データをトレースし生成されたと言っていた」
「はい。その通りです」
「でも、お前は十数年前に造られたAIなんだろ?」
 それだとやはり辻褄が合わない。いや、まさか…もしかしたら────。
「その表情からするにお気付きになりましたね、パパ」
「もしかしたら。これは推測だ。間違ってるかも知れない。でも、一応聞いとくぞ」

「L。お前は、十数年前に既に完成してたんだな」

 その答えは的中していたのかLは不敵な笑みを浮かべた。
「そうか。お前は、その時からすでに完成していた。
 でも何故だ?それならなんで今になって俺の所に?」
 それはL自身も知らないだろうが思わず疑問を口にしていた。



 謎が謎を呼び、新たな謎を呼び起こす。
 そしていつか真実に辿り着く事を私は心から願っています。

 
 

 
後書き
読んでくれてありがとナス。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧